9話 金属スライム
私達はとある大樹の上で、星が輝く夜空を無言で眺めていた。(ちなみに私達の右手は無事に元に戻りました)
「ロイワさん、セレセルさん、授業が終わったよ。洞窟に居た魔族全員、元の住処に帰っていったよ」
センチが大樹を登って私達に声を掛けて来た。
「センチさん、報告ありがとう」
私はセンチにお礼を言いながら立ち上がった。
「では、とりあえずさっきの洞窟に戻りましょうか…」
そう言うとセレセルは
私とセンチを掴んで大樹のてっぺんから地面に向かって思い切り飛び降りた。
「「!?」」
セレセルは私達を掴んだまま綺麗に着地し、洞窟に向かって物凄い速さで走り出した。
「待って!私首もげそう!!」
「セレセルさん待って!一旦止まってぇ!!」
私とセンチの悲鳴はセレセルに届く事は無かった。
「ヘルさんただいま…」
「大精霊様方、お帰りなさ…どうしたんですか?」
私達はセレセルに首根っこを掴まれたまま、ヘルが待つ洞窟に到着したのだった…
洞窟に到着した後、セレセルはセンチとヘルが生きていける様に色々と援助をしていた。
「セレセル様、寝る場所から食事まで提供して頂き本当にありがとうございます」
ヘルは果物や野菜を抱えながら、洞窟の前に作られた立派なツリーハウスの前でセレセルにお礼を言っていた。
「まさか寝具に寝巻きまで作ってくれるなんて思わなかったよ、ありがとう!」
センチも両手に大きな風呂敷を抱えながらセレセルにお礼を言っていた。
「いいのですよ。この辺りの魔族達に魔法を教えてくれたお礼ですから」
セレセルは笑顔でセンチとヘルに返事をしていた。
自然の大精霊って凄いなぁ…家作ったり食べれる物作ったり…
「セレセル様、ロイワ様、今日はゆっくりお休みください」
「ロイワさんおやすみ!また明日ね!」
ヘルとセンチが私にお休みの挨拶をしていたので
「あ、うん!2人ともお休み!」
2人に挨拶をして、私は洞窟に潜って休む事にしたのだった。
「あれっ?スライムがまだ洞窟の中に…」
洞窟内の地面には、手足を引っ込めた姿で地面に横になるスライムが沢山居た。
これは…寝てるのかな?目が小さくてよく分からないけど…
……このまま洞窟の奥に進んだら周りのスライム達を起こしてしまいそうだ。
「……特に眠くならないし、外の星でも眺めてようかな」
私は洞窟から再び外に出ると、赤い金属でロッキングチェアを作り、ロッキングチェアにゆっくり座って沢山の星が輝く綺麗な夜空を静かに見上げた。
「ロイワさんおはよう!」
「!?」
まだ星が見える真夜中なのに、センチがツリーハウスから出て来て私に元気よく挨拶をしてきた。
センチは植物の繊維で作られた若草色のシンプルなシャツとズボンを身につけていた。
「あれ?!もう朝!?」
驚く私にセンチは
「違うよ、私は他の子と違ってあまり寝なくても活動し続ける事が出来るんだよ」
「へぇ〜、センチさん凄いね!」
「いや〜それ程でも……そうだ!ロイワさん今暇?少し相談したい事があって…」
「暇だよ〜、センチさんが相談したい事って何?」
私はもう一つロッキングチェアを作って私の隣に置いた。センチは作ったロッキングチェアを興味深そうに見つめながら座った。
「おおっ揺れる!……じゃ無かった、実は魔族達について少し心配事があってさ」
センチは椅子に揺られながら話を続ける。
「心配事?」
「うん、実はね…
防御魔法だけじゃ魔族達の身は完全に守れないかもっていう心配」
「えっ防御魔法だけじゃ不十分って事?」
「うん、今日見た冒険者達の武器を見て思ったんだ…あの武器に耐えられる防具が無ければ此処の魔族は減り続ける一方かもってさ…」
「そっか…」
「ですが防具を作って渡すだけでは意味がありません」
「うわぁ!びっくりした!!」
何と私の隣に自然の大精霊セレセルさんが!!
私達が座っているロッキングチェアに似た椅子を植物で作り出して座っているようだ…
「そうだね…ただ与えるだけってのは何か違うよね…」
センチはセレセルに驚く事無く普通に会話を続けている…
うーん…ただ防具を作るだけじゃ駄目なんだね…
確かに、私が居なくなった後で防具が壊れて無くなったら…作り直す人も修理する人も居ないから二度と防具は使えなくなるんだよね…
「……ねえ、新しい生き物1匹作ってもいいかな?」
「ロイワさんここで新しい生き物作るの!?」
センチは驚きながら立ち上がって私を見た。
「うん。硬くて丈夫なやつ作れば魔族達を守れるんじゃないかなってさ」
「わざわざ此処で暮らす魔族達の為に…?宜しいのですか?」
セレセルも椅子から立ち上がって私を見ていた。
「いいんですよ、私も何か魔族達に出来る事をしてあげたい…って思ってたから…」
そう言うと私は椅子から立ち上がり両手を広げて集中を……
(……セレセルさん、スライムってどうやって作るのか分かりますか?普通に作ると何かおかしくなるみたいで…)
私は自然の大精霊に静かに助けを求めた。
(スライムはですね…身体を作らないようにして、ただ大きい生き物を作るイメージをして…)
私はセレセルの言う通りにイメージをして生き物を作った…
「スライムが出来た!」
私の手元にメタリックな灰色の大きなスライムが現れた。金属で出来ているのに何故かぷよぷよと揺れている。
「ほら、この硬さならみんなを守れるんじゃない?」
私は金属製のスライムを軽く叩いてみる。
コン!コン!
「凄い!こんな硬そうなスライム始めて…重い!!」
センチは私から金属スライムを受け取ろうとしたが…
あまりにも重過ぎたのか、金属スライムを地面に落としてしまった。
ゴン!!
地面に落ちた金属スライムは無傷な上に、何事も無かったかのように地面を動き回っている。
「ひぇ〜…これ頭に当たったら大変そう…」
センチは落ちたスライムを見ながら顔を青ざめた。
「これくらい硬いなら魔族達を守れるよね?」
私はそう言いながら金属スライムを作り続ける。
「ええ、きっと此処に住む魔族達を守ってくれますね…」
セレセルはそう言いながら私に手を差し出して来た。
私は無言で人工魔石を作り出し、セレセルに渡した。
セレセルは無言で金属スライムに人工魔石を渡す。
私は無言で金属スライムと人工魔石を作り出しては無言で人工魔石をセレセルに渡す。
セレセルは人工魔石を受け取っては金属スライムに渡していき…
「おはようございま…す?」
朝日が昇り、ヘルが洞窟の中に入って来た。
「あ…ヘルさんおはようございます…」
ただひたすら機械のようにスライムを作り続けた結果、洞窟内は薄緑とメタリックな灰色のスライムで地面が埋め尽くされてしまったのだった…
「大精霊様…作り過ぎです…」




