100話 本当の気持ち
あのレストが私との勝負を楽しんでいた……って?
「レスト様は生まれてこの方、歳の近い方々との交友関係を一切持たず、これからも持つ事は無いだろうと考えていました。
しかし、今日のレスト様は今まで見た事が無い程にロイワ様との遊戯を楽しんでおり、本当に友と認められる方を見つけ出したのだと思っておりました。
ですが、レスト様の発した言葉や態度はあまり宜しいものではありませんでした。折角遊んで下さったロイワ様に対し、大変失礼とご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ございません……」
「…………」
今、此処で関係を断ったら、きっとレストは執拗に私の前に姿を表す事は無くなるだろう。
でも、このままレストと関係を断つのもなぁ……
(もし執事の言葉がほんとなら、もしかしたらレストと友達になれるかもしれないって事だし……あの嫌味を聞くのは癪だけども、折角なら友達になってみたい……かな?)
だが、普通に遊びに誘った所でレストは素直に応じてはくれないだろう。それなら……
「……なら、次はレストが決めたフィールドで勝負するのはどうですか?」
「えっ?ロイワ様、またレスト様と会ってくださるのですか……!?」
「向こうが会う気があるなら私も会いに行きます。
今日戦う場所を選んだのはレストですが、レジャー施設で勝負をしようと言ったのは私です。なので次勝負する場所は全てレストに任せます。これでどうですか?」
「成る程……!分かりました!戻りましたらすぐさまこの話をレスト様にご報告致して参ります!本当にありがとうございます!では、これにて失礼いたします!」
執事は大喜びでお礼を述べると、急いで近くに停めていたグリフォンに跨って空を飛び、私達の前からあっという間に姿を消した。
あの執事、随分と古い移動手段を使うなぁ……今の時代はバイクやスポーツバイクが主流なのに。
それにしても……レストはまた私の誘いに応じてくれるのかな?
(いちいちこんな誘いに乗るほど向こうも暇じゃないだろうし……よし、今日起きた事は綺麗さっぱり忘れて魔導具の研究に戻ろっか)
だが、数時間後……
「失礼します。ロイワ様、レスト……様から念話が来ています……」
「えっ?」
私が作業をしていると再びマリーが私の部屋に入って来た。片手に大きな念話器を持ったまま訝しげな表情をしている。
私は急いで作業を中断し、マリーから念話器を受け取った。
「はい、ロイワです」
『ロイワ、君は何が好きなんだ』
「……はい?」
何?急にどうしたの?
『何が好きなのかと聞いているんだ!次の勝負は君の得意分野で勝負するんだ!』
えっ!?
『そして、お前の得意分野で戦って完膚なきまでに叩きのめしてやる!』
やっぱりそれか……もう、何でそんなに……
【レストはね、学校で1番の魔法使いとして有名になりたかったみたいだよ】
レストと会話をしていたら唐突に、過去に聞いたカゲリちゃんの言葉が私の脳内に浮かび上がった。
そうだ、レストは1番になりたかったからずっと私に執着し、私や同級生をやたらと見下すような発言をしていたんだ。何で今の今までずっと忘れていたんだろう……
と、言う事は……多分だがレストは私に勝とうが嫌われようが、自分が優位に立つ為に、ずっと私を下に見続けるだろう。
(……とりあえず、私の本当の気持ちを伝えてみようかな)
「レスト、今そっちに行って大丈夫?」
『……ん?それはどう言う事だ?別に構わないが……』
「大丈夫なんだね!それじゃあ、念話器はそのままつけっぱなしのまま待っててね!」
『?』
私は魔導帽を被ると、すぐさま私の持つ念話器と繋ぎ、中に浮かんだキーボードを叩いて『念話先に侵入』の指示を出した。
グワァ……
一瞬、周りの風景が一回転したかのように歪んだかと思うと、いつの間にか目の前の景色が豪華でだだっ広い室内に変わった。まさしく『金持ちの家』って感じの部屋だ。
「うわぁああ!?!?」
そんな豪華な部屋によく合う、細かい刺繍が施された椅子に座っていたレストが私を見た途端、悲鳴を上げながら勢いよく飛び上がった。手には金と赤が基調の綺麗な念話器が握りしめられている。
「よしよし、帽子も服もちゃんと転送出来てるね……」
「なっ……何なんだ一体!?今何をしたんだ!?」
「えへへ、びっくりした?これね、念話器に組み込まれている念話石を少しいじって転送装置に改造したんだよ!凄いでしょ!」
私は満面の笑顔でレストを見つめるが、レストはそんな私を不機嫌そうな表情で睨みつける。
「……で、それを僕に見せてどうするつもり?自作した凄い技術をわざとらしく見せて、僕より優れてると言うつもりなのかな?」
レストは相変わらず嫌味ったらしい言葉を吐き出すが、私はめげずに言葉を続ける。
「いや、違うよ。私はね、技術だったら他の子よりも出来る自信はあるけどね、魔法や運転は全然なんだよ」
「……?」
「魔法を扱う実技はまだまだ初心者に近いし、運転に関しては……ほぼ素人に近い感じかな?でも、レストは既に魔法を上手く扱えるし、運転の技術だって凄いし……私に無いものを沢山持ってるよね」
「……ロイワ、君は僕に勝ちたいのか?負けを認めたいのか?どっちなんだ?」
「どっちも違うよ。私はね、レストと敵同士になりたくないだけなんだよ」
「敵?」
「うん。レストって私の事目の敵にしてるじゃん。でも私はね、レストと色んな勝負をしていく内に、敵として勝負を続けるより、レストと友達になりたいって思うようになったんだよ」
「…………」
「今日のレストとの勝負、凄く楽しかったんだよ」
「…………」
私の話に対し、レストはずっと黙ったままだ。だが、話を遮るような真似もしない。
「レストは学校で1番になりたいって話を噂で聞いた事があるけど、私から見ればレストは私よりも凄い魔法使いだって思ったよ、今回の勝負で分かった。私は技術師とは言われてるけど、魔法は初心者だからね。
私の話は以上だよ。じゃ、私はそろそろ自宅に戻るね」
言いたい事を全て言い終えた私は、再び魔導帽を起動させてレストが手にしている念話器と繋ぎ……
「……楽しかった」
「えっ?」
私はキーボードを叩く手を止めてレストの顔を見つめる。
「……お前との勝負は楽しかった!僕は今までに沢山勝負をしてきたけど、勝った僕に興味を持つ奴なんて今まで居なかった!!」
私は黙ってレストを見つめ、話に耳を傾ける。
「今まで僕に負けた奴らは皆、惨めったらしく負け惜しみを吐いたり、何も言えずただ睨みつけるだけだったり、卑劣な手を使って僕を蹴落とそうとしたり……でも、お前だけは違った。
僕と勝負をしたロイワは本当に楽しそうで、僕に勝つ度に一々大喜びしたり、素直に負けを認めたかと思えば僕の技に目を輝かせたり、こんなに全力で勝負を楽しむ奴を見たのは生まれて初めてだった。それに、僕と張り合えて、僕が知らない事を色々と知っていて……ずっと君と居ても、全然飽きる事は無かった」
「レスト……」
まさかレストからそんな話を聞けるとは想定外だった。そっか、今日の勝負はレストも楽しめていたんだ。
「……この学園……いや、僕と同じ年頃の同級生には碌な奴は居ないなんて思ったけど……君は……君となら……また勝負したり……遊んだりしてもいいかなって……」
えっ!?ホントに!?
「じゃあさ、次は勝負じゃ無くて普通に外に遊びに行こうよ!私、レストと一緒にデパート行ったり博物館行ってみたりしたい!」
「…………君となら、それで構わないよ」
「やったー!それじゃあさ、最近出来た『人間博物館』とかどう!?」
「それもいいけど、『大自然博物館』にも興味が……
こうして私達は一旦争うのを止め、お互いに意見を述べながら次の遊びの予定を立てていったのだった。




