96話 いよいよ長期休暇
シーくんとガレッドが仲間になって数日が経過した。
シーくんはよくゴーくんと真似をして身振り手振りで意思の疎通を図ったり、私の技術の作業の手伝いをしたいのか、技術室の周辺をうろうろしたりミニゴーレムの真似をしてガラクタ掃除をしようとしたりする姿を見かける。可愛い。
(だけど、裏では分身を使って草人の駆除をしてるんだよね……)
ガレッドは精霊石無しで召喚出来るようにし、私の技術を手伝わせている。
暇さえあれば競馬番組やスポーツ番組を見せたり、タブレット内にいる光妖精やミュラーと戦わせて経験を積ませている。
そして、今日からついに……
「いよっしゃーーー!!授業終わったぁーーーー!!!」
1学期最後の授業が無事に終わった。明日から長期休暇、つまり日本で言う所の『夏休み』が始まる!!
「明日からかぁ……休みの間は何して過ごそうかなぁ……」
隣の席のルーサは、明日からどう過ごそうかのんびり考えているようだ。
この世界、と言うよりこの学園では日頃から宿題が出ない上に、夏休みの課題も殆ど無い。
故に、最初は遊びまくっていた生徒も次第に手持ち無沙汰になり、結果、自主的に授業の復習や気になった課題を見つけて勉強するようになるらしい。
宿題無しは生徒たちに意外と良い影響を与えているようである。(光妖精調べ)
(因みに課題は『何処でもいいから出掛けてみよう』と言う課題のみ。近所の森でも少し遠いスーパーでも、何処でもいいらしい)
「ねえ、みんなは休みをどうやって過ごす予定なの?」
休憩室にいつものメンバー(ルーサ、リオ、カター、ユリコ、私の5名)で集まった。
折角なので、私は興味本位で皆んなに『長期休暇中の過ごし方』について尋ねてみた。
「私は上にある実家に戻り、静かに休みを過ごす予定です」
「やっぱユリコは上に戻るんだね。アタシは父さんが所有している山で家族と一緒にキャンプするんだ」
「カターのお父さん山持ってるんだ!キャンプ、凄く楽しそうだね!」
「楽しいよ。毎年長期休暇になる度に行ってるけど、毎回トラブルが発生するから中々退屈しないよ。去年は山に住み着いた山賊を駆除して回ったりしたし」
「それ大丈夫なの?」
「まだ山賊ってこの世に存在するんだな……そうそう、俺はロイヤル遊園地に行ったり隣町のグリーンタウンに出掛けたりするぜ!!」
「リオはあちこち回る予定なんだ!いいね!」
「僕は『未知の惑星』って言う映画を見に行くよ」
「『未知の惑星』って確か、最近流行りのオカルトを題材にした映画ですよね?」
確かその映画って『魔法が無い、人間が数種類しか存在しない惑星』に不時着した猿人の話なんだっけ?
……舞台になっている惑星、まさか地球だったりしないよね?
「ルーサはオカルト好きだもんな!で、ロイワは何処に出かけるんだ?」
「私は上行ったり、お父さんにくっ付いてあちこち出掛けたり……そうそう!友達と温泉行ったりするよ!」
「温泉!?」
「最近風呂がブームになった影響で温泉のある宿泊施設の予約が取り辛いってのに!?すげぇ!羨ましいぜ!!」
「いいなぁ……」
まさかこの世界でお風呂がブームになるとは思わなかったなぁ……確かテレボで『お風呂に入るメリット』とか、とある有名人がよくお風呂に入ると言う話をしていたのがきっかけでブームになったんだったかな?
「あっ、そう言えば……アタシ、先輩から校内で使える商品券貰ってたんだった。ほら」
そう言うとカターはポケットから一枚のチケットを取り出して机の上に置いた。
「校内でしか使えない商品券とかあったんだな……」
「急だね」
「いや、明日から学校に行けなくなるからその前に使っちゃおうかと思ってさ。これで皆んなでジュース買わない?」
「いいの!?」
「いいよ、今此処で使わなかったら多分一生使わなそうだしさ」
「それなら皆んなで買い出し勝負しようぜ!!今テレボで流れてる空中総合レースで誰が勝つかを予想し、1番を当てた奴が皆んなのジュース買いに行くって事で!!」
「いいね、それやろうよ。皆んなはどう?」
「楽しそうですし、私も参加します」
「確か近くの購買部にもジュース置いてたよね。ならやってもいいかな」
「勿論私もやるよ!」
「よし!じゃあ今から始まるレースで勝負するか!」
そして……
「まさか私が大負けするとはね……」
私はカターから受け取った商品券を握りしめたまま、ゴーくんとシーくんと一緒に購買部に向かっていた。
ゴーくんは腕をブンブンと振りながら楽しそうに歩き、シーくんはゴーくんの真似をして腕を振り回している。
いや、厳密に言うと勝ったんだけどさ……ガレッドと一緒に競馬番組やら色々見たのが原因かな?
(まあいいか、どうせ購買部は物凄く近いし……)
「おや、こんな場所で会うとは奇遇だね」
「レスト!」
何と購買部の手前にレストの姿が!まさかこんな所で会うとは……
「ロイワ、ようやく僕から逃げるのを諦めたようだね」
またコレかぁ……
「あ、ごめん。今買い出し勝負に勝ったから皆んなのジュース買いに行かなくちゃいけないんだよね」
「勝負に勝ったのにジュースを……?ふん、訳の分からない言い訳はよした方がいいよ」
まだ引き下がらないんだ。それなら少し嘘泣きしてみようかな。
「さあ、素直に僕の……」
「ああ、あそこで4番を選んでいたら買い出しに行かなくて済んだのに……うぅ……」
「……」
「何で私は15番を選んでしまったんだ……しくしく……」
「…………今日の所は見逃すとしよう。こんな状態の君に勝った所で意味は無いからね」
あ、嘘泣きしたら引いてくれた。ラッキー。
「じゃ、そういう事で……」
私は落ち込んだ振りをしながらレストを避けて購買部に……
……レスト、いつまで私を追い続けるんだろう。
多分レストの気が済むまで勝負をしてあげないと気が済まないんだろうなぁ……
(あっ!それならいっその事、レストがうんざりする位に構い倒してみれば良いのでは!?)
ある事を思いついた私は、急いで商品券で皆んなのジュースと、私のポケットマネーでジュースをプラス1本購入すると、この場から歩き去ろうとするレストに思い切って声を掛けた。
「レスト!明後日暇!?」
「……えっ?」
「私、明後日なら一日中暇だからさ!その日に勝負しようよ!」
「急に何を……」
「集合場所はロイヤル駅前!あそこなら勝負出来そうなレジャー施設が沢山あるでしょ?あっ、もし都合が合わなかったら此処に連絡して!これ私の念話番号!後お詫びのジュースあげる!!じゃあね!!」
私はレスト相手に捲し立てた後、念話番号が書かれた紙とジュースを押し付け、レストに何か言われる前にこの場から素早く去った。
(あっ、そうだ。これから長い休みに入るんだし、友達にも念話番号わたしておこっと)
ロイワが去った後、廊下に1人取り残されたレストは……
「何なんだ一体……」
突然の提案に困惑しながら、ロイワから押し付けられたジュースと念話番号の紙を只々見つめていた。




