95話 ガレッドとシーくん
「失礼します!」
私は目的のブツを片手にもちながら理事長室の扉を開けた。
「30分振り。ロイワ、どうしたの?」
「リュユ理事長!ついに頼まれていた人工精霊が完成しました!」
「…………ロイワ、もう一回言って」
「リュユ理事長!ついに頼まれていた人工精霊が完成しました!」
「…………ロイワ、もう一回言って」
「リュユ理事長!ついに頼まれていた人工精霊が完成しました!」
「…………ロイワ「リュユ、理解し難いヨうだが本当の話だヨ。ロイワは1年以内に人工精霊を完成させたんだヨ」
「はい!後は軽く調整と名前を考えるだけだったので……」
技術の方も大変だったが、名前を考えるのも物凄く大変だったかもしれない……
「本当に完成したの?」
「勿論です!リュユ理事長から見ればかなり見劣りするかと思いますが……これです!」
私は手に持っていた『人工精霊』が入っているカードをリュユ理事長に差し出した。
「…………」
リュユ理事長は無表情のままカードを眺めている……多分だが、リュユ理事長が指にはめている指輪でカードの中身を確認しているようだ。
「……悪くない」
「ホントですか!?」
「逆に悪くないから少し悪い」
それどう言う事ですか!?
「どうやら初めて人工精霊作ったにも関わらず、悪い点が見つからないからロイワに嫉妬してるみたいだヨ〜」
「こら」
「えっ!?リュユ理事長が……私に……?」
聞き間違いじゃないよね?あの技術関連の社長であるあのリュユ理事長が私に嫉妬したって……えっ!?
「……うん。ロイワ、もっと図に乗ってもいい」
「そんな事しませんよ!!」
リュユ理事長相手に図に乗るとか滅相もないよ!!
「はい、人工精霊のコピー終わったから返す」
「あれ?返してくれるんですか?」
「うん。コピーすれば大丈夫だから。それに、折角初めて作った人工精霊と離れ離れになるのは悲しいと思う、だから返す」
「あっ、ありがとうございます!!」
リュユ理事長の言う通り、この人工精霊を作っていく内に愛着湧いて来てたんだよね……帰って来て良かった〜!
「そうだ、折角だしその人工精霊出して見せて欲しいんだヨ!!」
「いいよ!では少し失礼して……ガレッド、おいで!」
私は精霊石を取り出すと、人工精霊が入ったカードを精霊石に差し込んだ。
スッ……
私の目の前に、渦巻き状の角が生えた長身で長髪の、肌が異様に青白くて白目の部分が黒い悪魔のような見た目の男が現れた。
「彼の名前はガルドと言うの?」
「ガレッドです!」
『マスター、お呼びでしょうか』
「お前自分の事をマスターだなんて呼ばせてんのかヨ」
「だって、自分の名前を呼ばせるの少しはずかしかったから……あのですね!ガレッドは学習機能を搭載していて、集めた情報を元に戦闘をする賢い人工精霊なんです!
データを集めて先読みをする力を付ける為にテレボの競馬番組を見せて一等から三等までを当てさせる練習もさせたりしました!」
「何で競馬?」
「いやぁ、勝負強さについてダンデに相談したら競馬を勧められまして……ですが、競馬も馬の情報や騎手の情報、距離や芝、天気、等々……以外と複雑な要素が絡んでいて、意外とデータ集めの練習になったんですよ。しかも……
ガレッド、ロイヤルタウンのロイヤル大通りにあるレストランを教えて!」
『ロイヤル通りのレストランの結果が36件見つかりました。1番評価の高いレストランから表示します』
「このように、ガレッドはネットに繋ぐ事も出来るんですよ!」
「へぇ〜!かなり便利だヨ!」
「スマホみたい……」
今は光妖精の情報網と言う名のネットを使用しているが、いつかこの世界にも本物のネットが現れたらそこにも繋げたりしてみたいかな?
「そう言えば、その人工精霊は何に使うんですか?」
「まだ詳しくは言えない。でも、カードゲームのキャラクターになるのは確定してる」
「カードゲーム!?」
「そう、ガルドはきっと人気が出る。ロイワ、ありがとう」
私が依頼された仕事、『カードゲームのキャラクター作り』だったんだ……
でも、わざわざカードゲームの為に人工精霊を使うとは、中々手が込んだゲームになりそうだね!もし発売されたら購入して遊んでみようかな?
「さて、用も済んだので、そろそろお暇させて……ん?」
私はこの場から退散する為に回れ右をすると、理事長室の出入り口付近の隅に先程私が創造した死神が佇んでいるのが見えた。あれは……分身……では無いよね……
「アレは死神の本体だヨ」
もしかして仕事に何か異常があったから戻ってきた……とかかな?
「違うヨ、逆に仕事に余裕が出来たからロイワに会いに来たんだとヨ」
「余裕?」
「オウ、草人の処分は分身だけでどうにか出来るってヨ。で、死神本人はロイワと一緒に居たいんだとヨ」
「えっ?死神、それ本当……あれ?」
ミュラーの話を聞き、私は半信半疑で死神の方を向いた。
だが、そこに居た死神は……
赤いローブを深々と被ったゴーレム…いや、ゴーくんとそっくりの姿に変わっていた。
だが、ローブの所為で暗くなった顔の部分は赤い瞳が怪しく輝いており、大きな両手の指先が尖っている等、ゴーくんと多少違いはあるようだ。
『……!?』
死神の新しい姿を見たゴーくんは、驚きつつも死神へと恐る恐る近付いていく。どうやらゴーくんは死神に多少興味があるようだ。
「アハハ、死神はロイワがお気に入りのゴーくんにそっくりな姿になれば一緒に居られると思っているみたいだヨ」
「……死神、本当に私の元に来てくれるの?」
死神は無言のまま、私に向かってコクンと頷いてくれた。
「ありがとう!じゃあ……シーくん、これから宜しくね!」
死神……もといシーくんは私の足元に近付くと、片手をそっと上げて私に返事を返してくれた。かわいい。
「では我はこれにてオサラバするヨ〜。ロイワ、家を出すんだヨ」
「はい」
帽子の中からタブレットを取り出すと、ミュラーに向かってタブレットを構えた。
「では我は家に戻るヨ〜!リュユ、アバヨ!」
ミュラーはリュユ理事長に向かって両手をブンブンと振りながら、私が持つタブレットの中へと吸い込まれていった。
「では私達もこれで……失礼しました!」
「ありがとう、報酬は後で通帳に振り込んでおくから」
「分かりました!ガレッド、私について来て!」
『畏まりました』
私はガレッドと共に理事長室から退散した。
(まさか依頼された仕事がカードゲーム関連だとは思わなかったなぁ……)
でもリュユ理事長、人工精霊の出来を物凄く褒めてくれたし、大好きなゲームに関わる事が出来て良かったかも!
「……ガレッド、カード化おめでとう!」
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