8話 魔族達の教育
「可愛いですね…」
ヘルは表情を緩めながらあちこちで自由に動き回るスライムを眺めている。
「見てください!このスライム達遊んでいます!」
ヘルが指差した先に居たのは、地面に転がっている丸い石を蹴って遊ぶスライム達だった。
「可愛いね…何時間でも眺め続けられるかもしれない…いや、今は魔族の強化を優先しないと!
セレセルさん、次の生き物は!?」
「はい?」
自然の大精霊セレセルは、周りにいるスライムを持ち上げては高い高いして遊んでいた。
よく見るとスライムが列を作って順番待ちをしている…自然の大精霊の高い高いはスライムにとってもの凄い人気のようだ。
てかセレセルさんもの凄い笑顔でスライムと戯れている…
「申し訳ございません…危うく目的を見失う所でした。さてお次は…ゴブリンですね」
セレセルは申し訳なさそうしながら、洞窟内に居たゴブリンを近くに呼び寄せた。
「俺達もあのスライムみたいに進化できるのか!?」
「凄い力貰えるのか!?」
ゴブリン達は側まで駆け寄ると期待に満ちた目で私達を見た。
「確かゴブリンは…悪戯好きでそれなりに賢い生き物ですね」
ヘルは私にゴブリンの説明をしてくれた。
「武器や魔法も普通に使えるので、自衛の方は大丈夫だとは思うのですが…身体が小さいので攻撃が届く範囲が狭い上に、足の速さもイマイチな為…」
「小さくて悪かったな!!」
ヘルの説明に少し機嫌を悪くするゴブリン達。
「それよりもよぉ!あの人間達が使う魔法を何とか出来ないのかよ!あの魔法のせいで身体は焼かれるし家は焼かれるし、とにかく散々な目に遭ってるんだよ!!」
ゴブリン達は特に冒険者達が使う魔法に苦労しているようだ…
「あの冒険者達は、杖を使って周りに漂う魔力を操り、魔法を繰り出す事が出来るのです」
セレセルが冒険者の魔法について説明してくれた。
「冒険者の魔法ですか…さっきまで此処で飛び回っていた白い妖精達なら何とか出来るかも知れませんね…」
ヘルは洞窟内をキョロキョロと見回しながら呟いた。
「マジで!?あの妖精そんな事出来るの!?」
作った本人にも知らない機能があったなんて…
「はい、丁度このウルファグーンの体内で寝ている妖精に少し協力して貰いましょうか」
ヘルはウルフくんの運転席辺りで眠る妖精を指差した。
ウルファグーン……?もしかして「くん」の部分も名前として認識された?
いや、それよりも…
「妖精さん、少しいいかな?」
私はウルフくんに近付き、運転席側から妖精に声を掛けた。
「なーに……?」
妖精は目を擦りながら起き上がり、ウルフくんの運転席側のドアからゆっくり出て来た。
「妖精さんを呼び出したよ。で、この子に何をして貰うの?」
私は妖精の手を引いてヘルの近くまで連れて行った。
「少し失礼します…はっ!」
ヘルは右手を妖精に近づけると、掌からオレンジ色の火の玉を出した。
「すいません、この魔法を吸い込んでくれますか?」
ヘルは妖精にそうお願いすると…
スーッ……
火の玉がゆっくりと萎み、謎のオレンジ色の煙となって妖精に吸い込まれていった。
「おーっ…これ妖精がヘルさんの魔法を吸ったの?」
「あの妖精達の身体は光水晶で出来ています。なので妖精が周りの魔力を吸い込もうと思えば、周りに漂う魔力も魔法に変わった魔力も全て体内に取り込む事が出来るのでは…と思ったのです」
「成る程!これで冒険者の魔法も怖くないね!」
魔法の方はこれで大丈夫だね!
「後はゴブリンの強化についてですが…
「今ここで魔族達全員にしっかりした防御魔法を教えたらいいんじゃないかな?」
「センチ!」
声のした方を向くと、なんとセンチがいつの間にかヘルの隣に居たのだ。
「みんなごめんね。倒された魔族達を思うとどうしても許せなくてつい…」
センチは耳や尻尾をだらんと下げながら謝ってきた。
「センチ…」
「でも、ただ何もせず考えるより今生きる魔族達を守る為に行動するのが一番だと思ったから出て来たんだよ」
「そうか…ありがとうセンチ…」
そう言うとヘルはセンチとハグをした。
良かった…センチと無事に仲直りできて良かった…
「さて、これからこの場に居る全員に防御魔法を教えたいと思います」
ヘルは洞窟内に集まっている魔族達に声を掛け、防御魔法を教え始めた。
折角なので私も魔族達と一緒に勉強してみる事にした。
「まずはですね…何も考えずに目を閉じてみて下さい」
ヘルの言葉を聞き、周りでざわざわしていた魔族達が静かになる。
私も頭を空っぽにして目を閉じ……視界が暗くならない…まあいいや。
「多分身体の胸辺りに集まっている魔力の様なものが感じられるかと思います。
その魔力に意識を集中させて下さい」
うーん…この胸の中心にあるやつかな…?
「次は、その魔力を右手に動かして……」
私は身体の中にある力を全て右手に動かした。
「魔力を集めた右手を思い切り握りしめます。それができたら右手に集まった魔力を身体全体に回す様に動かしてみて下さい」
右手に集めた魔力を思い切り握りしめて…
ボン!!
「!?」
何故か私の右手が中途半端に大きくなってしまった…
「何あれ…」
「すげぇ…」
洞窟内に居る魔族達が私を見て驚いている…
てか私がこんな状態じゃあ魔族のみんなが授業に集中出来ないよね…
「なんか授業の邪魔してごめんね、私授業が終わるまで外で待ってるから!」
私はそう言うと急いで洞窟から外に飛び出そうとしたが…
「 私も一緒に行ってもよろしいでしょうか?」
何と自然の大精霊セレセルの右手から大きな木が生えていた…木から林檎のような果物まで付いている…
「大丈夫ですよ、一緒に行きましょうか…」
こうして私とセレセルは、静かに洞窟から外に出て行ったのだった…




