鉛筆や消しゴムをなくしたりせずに最後まで使い切ることができた人間は0人説
その消しゴムは落下した。NOMOと書かれた紙のケースに入ったごく普通の消しゴムだ。
床に接触しても音の1つもならず、ただつけたい床に横たえられていた。
持ち主の少年は全く気づく様子を見せないのを見たその消しゴムは、不満そうな声を出した。
「やれやれ、また使われないのか。全く、なんでこうも人間はまるでマジシャンのようにものをなくすのか」
と、NOMO消しゴムは、ぶつぶつと文句を垂れ始めた。
だがもしかしたらしばらくして発見するかもしれない。そう思い待つことにした。
だが発見されることはなかった。少年が一人手に取る。だが自分のじゃないと分かるとぽい、と何処に投げてしまった。
「はあ、やっぱりだめかあ....」
再びため息をつき、そう呟く。
そして、少年がそして誰もいなくなった頃。持ち主は全く気づかずどこかに行ってしまった。
それを見届けると、「はあ」吐息を漏らし立ち上がりとある場所に歩きだした。そこは歩いて数分程度の距離だった。
「よく来たね」
そこには沢山の鉛筆や消しゴムが集まっていた。
ここは秘密の場所。鉛筆や消しゴムたちはこの場所にいく。いつのまにか鉛筆や消しゴムが無くなっているのは落ちた鉛筆達がここに来るからだ。
「君もかい?」
「ええ、まあ」
「なぜ人間は最後まで使うことができないのか、これは我々に対する冒涜である!」
その発言に鉛筆や消しゴムたちは「そーだ!」「その通りだ!!」と共感の意見を飛ばした。
「君はまだ少ししか使われていなくて新品そのものじゃないか」
「ええ、買った時には4個セットでした。ですがもうすでに皆行方不明に...」
「そうか...」
この持ち主、物なくしがおおく、自分と同じパッケージに入っていたものは全部無くされていた。
奥から一本の鉛筆が現れ台に登る。そして大きな声で、「注目!!」と言った。
「皆の者よく聞け!、我らにはまだ希望はある!忘れ物箱だ!」
「忘れ物箱...?」
忘れ物箱は、その名の通り忘れたりした道具を置いておく場所だ。そも箱を覗いた人間が自分のものを発見次第、取り戻すというシステムになっている。
「でも、我々鉛筆や消しゴムは引き取ってくれませんよ!コンパスさんや定規さん、挙げ句の果てに赤ペンさんですら持っていくというのに」
そう、彼のいう通り鉛筆や消しゴムは別のもの使えばよく、回収されにくいのだ。逆にコンパスや分度器など、複数個入れないものが、どうしても優先されてしまう。
「そうだよ」
「きっととってはくれないよ」
「そんなものが、もしかしたら拾ってくれるかもしれない」
そう口々に言う中、NOMO消しゴムはそう確信できた。
NOMO消しゴムにはそう言える自信があった。持ち主の親が几帳面だったのか、全てのものに名前を書いていたのだ。もちろんNOMOも例外ではなく、しっかりと「たなか しょう」名前が書いてあった。
さっそく落し物箱に向かって行った。机に登ることができないが、落し物箱は階段状の棚にあるためそこまでいくことが可能なのだ。
「ふうーここかあ」
たどり着いたそこには、のりや定規など企業の必需品たちが所狭しとおいてある。
「ここにいるということは、あなたも?」
隣のスティックのりが話しかけてきた。
「ええ、そうですね」
「なんでこうも皆落とすんでしょうね。ほんと、不思議ですよ」
「確かに、そうですね」
そこに手が伸びてきて、スティクのりが掴まれ上にあげられた。
「お迎えです。今度はなくされないようにしますね。あなたも持ち主に見つけてもらえるよう頑張ってください」
「はい」
よし、きっと自分も...お!早速きた。持ち主だ。友達と一緒だからなお都合がいい。
落し物箱をのぞいて、「これお前のじゃね」と友達が言うことでさらに発見してもらえる確率が増えるからだ。
「あれ?」
何も見ずに行ってしまった。いや、まだだ、まだチャンスは...!
しばらく待ち、ついにその時がきた。
「あれ?これお前の名前が書いてあるぞ?」
「あ、ほんとだ。落し物箱に入ってたのか」
友人の指摘で田中という持ち主はすぐに気づいた。やっと取ってくれたのか。のだが、持って行ってはくれなかった。
「取らないのか?」
「んーまいいや。もっといいのかってくれたから
そう言って何処かに行ってしまった。まさか取らないとは。少し拍子抜けしたのと、落胆の表情を浮かべた。
もっといい消しゴムがあるために拾ってすらくれなかった。人間とはなんて身勝手なのか。
「もうダメそうねー。全然減らないし」
そこに先生がやってきて、そう言いながら落としもの箱を持ち上げる。何をするのかと思えば、中に入ったものをざーっとゴミ箱へと捨ててしまった。
これで消しゴム人生はもう終わりか...短かったな。生まれ変わるなら、もっと良い文房具になりたい。そう願った。
「でねー、その時にねー」
消しゴムはその女子生徒の机に置いてあった。生まれ変わったのだが、また消しゴムというわけだ。だが選り好みできる立場ではないのはわかっている。また、消しゴムとして、いや、人間のパートナーとして生きていくのだ。
「よーし、また消しゴムとなったことだし、使い終わるまでどんどんと文字を消していくぞぉー!!!」
そう心の奥で決心しながら、ワクワクした気持ちでその時を待った。
「それでさー!!」
人間の肘があたり、机の外に押し出されてしまう。そして、再び音もなく床に落ちる。消しゴムは、全く落ちたことに気付きもせず、楽しそうに友達とおしゃべりしている女子生徒を、ただ見上げた。