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鐘がなる頃に……  作者: Re:over
別世界線編
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1話 過去


 絶望に押し潰され、辿り着いた先には真っ暗な通路と懐中電灯を持った人が四人いるらしい。しかも、男女二人ずつという綺麗な数。針が体に刺さっている感覚がわずかに残っている。


「あ、これ……」


 男の一人がお札に手を伸ばし、迅速かつ慎重に剥がした。その後、プリンのように甘くて柔らかく、思わず聞き惚れてしまうような声が圭吾の耳に流れてくる。


「圭吾? 圭吾、大丈夫?」


「ぁ……え?」


「少し休もうか?」


 圭吾の顔を真っ直ぐ見つめる人は実乃利であった。そう、さっき死んだはずの、実乃利である。その奥にはお札を手にした蒼と彼に続いて歩く匠と美紅。


 息が荒くなり、自分の記憶にさっきの出来事が夢なのかと何度も問いかける。しかし、期待していた言葉は返ってこない。戸惑いを隠せないまま、実乃利に大丈夫だよと伝える。


 額から、背中から、手から汗が吹き出る。とにかく、今の状況を確認してみると、Y字の分岐点にいた。そして、圭吾の記憶が右に行ってはいけないと叫ぶ。


「とりあえず、右行ってみるか」


「うん。右でいいと思う」


 蒼と匠が右を選ぶ。


「左!」


 思わず叫んでしまった。圭吾は慌てて口を押さえるが遅かった。


「圭吾? 本当に大丈夫? 疲れてるんじゃない?」


 やはり、実乃利は優しいなと感じる余裕と心はまだ生きているようであった。


「あ、いや、大丈夫。左に行きたいなって思って」


 不自然ではあるが、できる限りの態勢を立て直した。しかし、実乃利は疑うことなく、じゃあ左行く? と言う。


 蒼と匠は圭吾の言葉に少し違和感を覚えながらも、わかったと言って左側に体を向ける。そして、蒼を先頭にして奥へと進む。圭吾の隣に実乃利が、匠の隣に美紅がついて後に続く。




 少し歩くと行き止まりと扉が現れた。蒼と圭吾は扉に入ることを躊躇したが、圭吾としてはさっきの分岐点で右に進むことを避けたかった。また、あの悪夢のような光景を、あの地獄のような血溜まりは見たくない。


「俺、中の様子見てくる」


「そうか、じゃあ俺も。匠、またお願いできるか?」


「わかった。こっちは任せておいて」


 圭吾はゆっくりと扉を開き、中の様子を確認する。中は図書館のようで、本棚と机がずらりと並んでいる。そして、本棚の奥にはまた別のドアがある。


「ちょっと、ドアの向こう見てくる」


 圭吾はドアを開け、その奥にさっきと同じような通路が続いていることを確認する。


 その間、蒼は机に置いてあった本に興味が湧いた。白を基調とした真新しい本で、そこまでページ数が多くなかったことを理由に手に取って、ページをめくってみた。




 昔、魔物と人間は共存していた。人間は魚や野菜、動物の肉を食べていたのに対して、魔物は人間の悪夢を食べていた。人間は悪夢を食べてくれているお礼として、死んでしまった人の肉を差し上げていた。それは、魔物が悪夢を食べてくれるように、死んだ人が地獄に落ちないような作用があると考えたからだ。


 しかし、人間と魔物には決定的な違いがあった。それは、『力』であった。人間に比べて魔物の方が、大きいし、力も強い。それを恐れた一部の人が魔物をこの世から排除し、平和な世界を作ろうとした。こうして、魔物の虐殺が始まった。


 もちろん、魔物が黙っているはずがなかった。魔物は人間という存在を憎み、魔物の復讐劇が始まる。人間が無抵抗なはずもなく、戦争が起きた。その時に作られたものが魔術である。魔物との戦力差を埋めるためにつくられたそれは、絶大すぎる力を持っており、術者すらも命を落とす場合もあった。


 そして、この戦争に終止符を打つために、ゼファーと同じくこの地下に魔物たちを封印したのだ。魔物を封印した後、封印した場所を閉鎖するために魔術を使ったトラップを仕掛けた。


 この場所には、翼が描かれたお札があり、そのお札に触れた人は死んだ時、一度だけその触れた時の時間に戻ることができる。一人につき一回までの効果だから気をつけるように。このお札は魔物を解放してしまった時のためのもので、出口を模索する際に、使用するといい。


 私からのアドバイスは以上だ。




 本棚が揺れる。机が揺れる。足場が不安定になる。ものすごい音が部屋に響く。


 蒼は急いで実乃利たちの元へ走る。が、思うように歩けず、本棚が倒れてくるのに危機感を覚える。次々と倒れてくる本棚が道を塞ぐ。


 実乃利たちは圭吾たちの様子を伺うため、扉を開いた。そして、蒼と目が合う。蒼は圭吾が奥にいることを教える。すると、実乃利たちは先に進もうと決断し、蒼、実乃利、匠、美紅の順で手を繋いで揺れに耐えながら図書館を進む。


 一方、圭吾はドアを開いた状態で絶望していた。目の前には数え切れないほどの魔物が通路を塞いでいたからだ。


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