掃除中も嫌がらせは止まらない
毎回3000字くらいは書けるようになってきました。
執筆スピードが遅いのが今の悩みです。
俺はなんで超科学能力者に生まれてきたんだろう。
さっきからそればかりぐるぐる考えている。
言い換えると、
超科学力使わない掃除楽しくてしょうがない。
生い立ちのせいか何かはわからないが、昔から俺はちまちました仕事が好きだった。
掃除もその1つ。
普段の掃除は超科学力を使わないといけないような空気の中でやらなければいけないので、とても居心地が悪い。
しかし今は特殊な実習中。
超科学力を使ってはいけないという(うれしい)縛りつき!!!
一番楽しい方法でのんびりと掃除することができる。
唯一の不満は、班の連中が柚木以外全員サボっていること。ま、当然なのかもしれないが。
こいつらがもう少し真面目にやってたら、ここ(演習場)の掃除はもう終わっていたはずだ。
中ビルのおばちゃん、田中さんは、こうなることがわかっていたかのように淡々と掃除を続けている。あ、例年やってるから知ってるのか。
「田中さん、こっち終わりました」
「ありがとね、じゃあこれ運んでくれる?」
そう言われて示されたのは、さっきまでかき集めていた枯れ葉の山。袋には入れていないので、何かに入れて運ぶ必要があるだろう。
「あのー、これって入れられるような袋とかあります?」
「ないねえ。倉庫裏に落ち葉が山にしてあるから、そこにあるリヤカーで持っていってちょうだい」
わかりました、と答えてリヤカーを探す。そうか山崎くんは動能力者じゃないんだねえ、という田中さんのつぶやきは聞かなかったことにする。
そこって言うならそう離れた場所にはないはずだが。
……リヤカーが見当たらない。
ここはさっさと田中さんに聞いてみよう。
「すみません、リヤカーがあるのって倉庫ですか?」
「ええ?」
怪訝な顔をされたのでリヤカーが見当たらないのだ、と説明すると、そんなはずはないと返ってきた。田中さん自ら中ビルの備品をこの近くまで持ってきたらしい。
これは……
「またやられたね翔弥」
柚木がぼそっと声をかけてきた。
ああもう、考えたくないことをさらっと口に出すなって。
「なんで俺が……」
「狙われたか? それは自明でしょ?」
「違う。 何で俺がリヤカー必要になるってわかったんだ?」
首をひねっていると、なんだそんなこと、と柚木。
「隠せばほぼ確実に翔弥に被害が行くからでしょ」
あ。
確かに、使うのが俺になろうが別のやつになろうが、ごちゃごちゃ文句をつけて俺が探さないといけないような状況に持っていかれるだろう。そんなことも気づかなかったなんて、と歯噛みしていると頭をはたかれた。
「いてっ」
「そんなことで凹んでる場合じゃないでしょ。ほら、探しに行くよ」
「え、柚木、持ち場は……」
「終わった」
ずっと非能力者と暮らしてる人間舐めるな、とにらまれた。すんません。
んじゃあ心遣いに甘えて、と二手に分かれて探しに行く。
あんなでかくて重いもん、そう遠くには隠してないだろう。
……と思っていると。
いきなり落ち葉がいっぱい、つまり掃除が全くされていないエリアが出てきた。
あーここ怪しいな。
奥の茂みの方から忍び笑いも聞こえる。
ため息をつきたくなるのをぐっとこらえる。
ほぼ同時にスマホがメッセージアプリの通知音を鳴らす。柚木がリヤカーを見つけたようだ。ご丁寧に写真までついている。リヤカーの周りには…… 落ち葉がたくさん。
[田中さんのところまで持っていくね!]という柚木に[やめとけ]とだけ返信して元来た道を戻り始める。既読がつかないのが少し心配だ。
……人の声がするってことは、これ何か罠だろ。面倒だから今は回避。普段なら売られたケンカを見逃してやるほど俺はお人好しではないが、今は構っている場合じゃない。
なぜなら。
スマホが鳴る。今度は電話だ。着信は柚木から。あーあ、と今度は本気でため息をつく。
「やっぱり引っかかったか……」
な。すぐこうやって柚木を探さないといけなくなるから。
あ、そうだ。
2、3歩歩いて見つけた大きめの石を拾い、振り返ってさっきの落ち葉たっぷりゾーンに投げ込む。
ずぼっ、と音がして石が消える。
正確には、落ち葉ごと落下して穴が現れる。要するに古典的な落とし穴だ。
「俺がそんなのに引っかかるかっての」
茂みがわあわあうるさくなり始めたので、急いでその場を離れる。目指すは柚木のいる場所だ。
写真のおかげでだいたいあのあたりだろう、という見当はついていたが、スマホがしつこく着信を知らせ続けるので仕方なく応答する。
「あ、翔弥! やっと出た! あのね___」
「……落とし穴にはまったんだろ?」
「すごい! 何も言ってないのによくわかったね」
やっぱりか。
「俺やめとけって送ったよな?」
「え?」
唐突にぶつっと電話が切れる。
どうせすぐかかってくるな、と思いつつ足は止めない。
目的のあたりに着いたタイミングでまた電話がかかってきた。
「ほんとだ! 翔弥ごめん!」
……電話の中と目の前の穴の中から同時に声が聞こえてくる。
無言で電話を切ると、穴の中で慌てている声が聞こえた。
「柚木、うるさい」
穴の上から柚木に声をかける。
とたん、半泣きだった柚木の顔がぱっと明るくなる。
「来てくれたんだ!」
「いいからほれ、出てこいよ」
穴はそこまで深くない。せいぜい俺の背丈くらいか。これくらいなら自力で出られるだろう、と思ってそう言ったのだが___
「私の腕力じゃ無理」
……そうですか。
しょうがない引っ張りあげるか、と手を柚木の方に伸ばしてから気がついた。
「……柚木お前、超科学力で浮かべるんじゃ」
あ、そっか! と今気づいた様子の柚木。あきれた。幸い足もくじいていなさそうだし、放っておいて大丈夫だろう。
浮かぼうとしている柚木を置いて、俺は田中さんのところに戻り、熊手を持ってくる。
あーやっぱり。
落ち葉をどかすとぼこぼこと穴が出てきた。田中さんに報告し、俺は穴から脱出した柚木と共に落ち葉を運ぶ作業に移る。地面が穴だらけなので、リヤカーを安全な場所に運び出すだけで一苦労だ。
このあとは予定通り落ち葉を運ぶことになった。念のためネットを貸してください、と言うと怪訝な顔をされたが貸してくれた。ダメ元で頼んだんだが、しっかり出てくるあたり中ビルすごいな。
穴の復旧を田中さんに一任してしまったので、早く戻って手伝うために急いで倉庫裏へ向かう。さっき借りたネットがもう既に役立っている。走っても落ち葉が飛ばない、すげえ。
すると。
いきなりリヤカーの制御が効かなくなる。横から突風が吹いてきたのだ。
前を歩く柚木は何ともない。長い髪の毛が乱れるってことも全然ないので、この風は俺の辺りにしか吹いていないことになる。
……これは確実に嫌がらせだな。
やっぱりネット借りておいてよかった。これで手間が減る。
隠れている連中はネットのことが見えていないのか、ずっと同じように風を吹かせている。今のところ強くはなっていないが、どれだけ強くしても無駄だって。ネットがある状態で落ち葉をばらまくのは無理だし、俺をこけさせるのも無理。俺の足腰甘く見るなよ。
俺は柚木をひかないように注意しながら、できる限り急いで歩を進めた。
無事に落ち葉を運び切り、田中さんの元に戻ると既に復旧は終わっていた。さすがプロ、仕事が早い。
持ち場の掃除を終えた俺たちは、今日はもう帰っていいらしい。「真面目にやってたってちゃんと報告しておくから」とのこと。優しい。
柚木は帰り、田中さんがサボり捕獲のために応援を呼びに行ったあと。
俺は先ほど石を投げ込んだ穴の辺りに来ていた。
ここで待っていればきっと嫌がらせ要員たちがやってくる。罠に獲物が自らかかりに来るチャンス、いくらバカでも逃すはずがない。
すぐに奴らが駆けつけてくれるよう、「うおっ」と声をあげながら落とし穴の1つにはまる。メキッバキバキッと穴を塞いでいた枝も折れる。おいおい、音だけ妙に派手にしてあるな。
しばらくすると、予想通り同じ班のサボり組が現れた。お前らわあわあうるさいよ、まったく。
さあ、本格的な掃除を始めようか。