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落ちこぼれ能力者に平穏は訪れない  作者: 戸野牧こと
1 山崎翔弥の比較的平穏な日常
6/59

梶本拓という男

今回も新しい内容です。

小休止は次回更新時に書き加えます。

 他人より劣った人間は総じて周囲からバカにされる傾向にある。


 ただ…


 ここまでひどいとバカにもされないんだよ。

 単にいないものとして無視されるだけ。


 そんな俺が唯一存在を認めてもらえるのがここ、山浦空手道場。

 小さい頃から通い続ける道場で、能力者だとか何とかいう面倒なことを気にしない同期たちに救われている。

 この歳まで空手を続ける奇特なやつが多いのもありがたい。


「おーう山崎ー!」

「今日も来てんのかー?暇だなお前も」

「それはお互い様だろー」


 次々にかけられる声に軽く答えながら、手早く道着に着替える。


 練習はキツいけれど楽しい。

 能力が使えない俺が超科学演武でそれなりにやってこられたのは、ここで鍛えられたおかげだ。

 今でも通っているのは、これだけでも鍛えておかないと危ないから、というのが理由の1つであるくらい。

 空手の技を使えば、相手の能力を避けつつ反撃することもできて便利なのだ。


 ……まあ、学校の部活に入れてもらえなくて時間が余っているのも大きい。


 っと、そんなことを考えていたら眼前に脚が迫っている。

 一旦余計なことは忘れて集中しよう。


______________________


 練習が終わるといつも俺は汗だくになる。周りはそうでもない。なんでだ。


「相変わらずだな、翔」

「拓! 大学の方は休みなのか?」

「終わってから来た」


 声をかけてきたのは梶本拓。昔からここに通う仲間の一人だ。

 大学でも空手部に入っていて、確か前に「次期主将に指名された」とか言っていたような。さすがの熱心さだ。

 忙しいようで、道場に籍は置いているものの顔を出すことは少ない。今回は3ヶ月ぶりくらいかもしれない。


「せっかくだし一緒に行こうぜ」

「駅まで? もちろん。ついでに何か食べに行くか?」

「お、それいいな。すまん、ちょっと家に連絡入れるわ」


 お互い地元で進学したので、二人とも未だに実家暮らし。拓の家はそこそこ過保護で、この年にもなって門限が厳しいらしく大変そうだ。女でもあるまいし、と本人はかなり嫌がっている。


 店を決めたらしばらく無言で歩く。こいつとだと話さなくても気まずくならない。気楽だ。


 と、路地裏の方から声が聞こえる。


「ヤンキーか?」

「翔またお前古風な言い方を」

 間違いじゃあないけどな、と拓があきれ顔で言った。


「声の感じからすると単にたむろってるだけだろ」

 ですよねー、と笑って通り過ぎようとしたところで派手にこけた。運悪くゴミ箱に衝突してしまい、物凄く大きな音がした。

 しかも場所は路地の目の前。

 またか、と呟いた拓が天をあおぐ。


 当然ヤンキー(不良と言った方がいいんだろうか)たちが出てくる。


 何だテメエ、とか調子乗ってんのか、とか色々言われたけどテンプレすぎてセリフとして扱ってやる気も起きない。

 いやあさすが。暇なんだね君たち。

 うっかり声に出しかけてやめる。こういう状況も何度目だかわからない。初期は本当に口に出しては隣の拓にボコボコにされていた。そういう点では成長した。


 成長したが、


「オイなめてんのかてめえら」


 二人して「退屈です、面倒です」って顔してたらまあこうなるか。相手から絡んできた。


 と、いきなり3人一斉に殴りかかってきた。ご丁寧に前、右、左の三方に別れて。明らかに体格のいい拓を狙わなかったあたり、そこそこ考えて動いている方ではあるかもしれない。


 面倒だがとりあえず拳を避ける。うーん、狙ったとはいえこうもきれいに相討ちに持っていけると拍子抜けするな。

 何が起きたかわからない、みたいな雰囲気の3人を無視して、他の人間を見回す。

 と、睨んだわけでもないのにだいぶびびった顔をされる。


 ふわーあ、と呑気にあくびをかましたのはもちろん拓。


「ちょっ、拓」

「ああすまん。アホらしすぎて」


 俺は思わずため息をつく。

 周囲を見回すと、向こうが完全に殺気だっている。


「まったく、わざとにしても心臓に悪い」

「この方がてっとり早いだろうが」

 こそこそと言い合う俺たちに向けて、「やっちまえ!」と声が放たれる。


 いつのまにか背には塀。袋小路に追い込まれていたらしい。

 あーあ、と拓がまた大あくび。

「気は進まんが、やるか」「おう」

 たかがでかい音くらいで俺たちに絡んだこと、一生後悔することになると思うぞー。


_________________________


 はい、片付いた。


 こっちの正当防衛を主張できるように何発か殴らせてやったけど、君らボロボロじゃん。


 今、不良たちは全員土下座している。

 命だけはぁ!みたいな勢いで。


 でもね。


 君らがご丁寧に壁際に追い詰めて下さったせいでこうなってんですが。


「こっちは一切殴ってねえのにな」

「下手なことやって捕まるの俺たちだろ、特に拓」

「俺はそうならんように手加減するさ」


 こそこそ言い合っていると、チャンスと見たのか不良たちが脱兎のごとく逃げ出した。

 俺と拓は顔を見合わせて苦笑い。


「あーあーあ、せめて後ろに壁がなければ、ダッシュで振り切ってよけいなケンカ避けてたんだけどなー」

「まあ、あいつらの自業自得だろ」


 よし、これでやっと食事に行ける。


「うん、動いたら腹へった! 翔、急ぐぞ!」

「ええ!?」


 相変わらずだな拓は!

 昔から変わらない拓を見て思わず笑みがこぼれる。

 よし、急いで追いかけよう。

 そうしたら食事だ!


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