理解なんてできるわけない
お久しぶりです。
深夜になってしまいました。
目を覚ましたらまず見えたのは知らない天井……知らない?
いや、どことなくどころかかなり見覚えがある……
「お前の学校の保健室だよこのバカ」
「いって、叩くな……って拓!? なんで」
「柚木に連絡もらって、たまたま近くにいたから」
頭を軽く叩かれてそちらを見ると不機嫌な拓がいた。俺が考えてることまでわかるとかさすが幼馴染。……じゃなくて。
「ここ保健室じゃなくて保健センターなんだけど」
「……お前な、気にするとこそこじゃねえだろ」
落ちてきたため息の数が多かったので周りを見回すと、呆れたような表情のあーちゃん、悟、柚木に加えて佐野先生と鬼教授が立っていた。……そういえば鬼教授、医者だからって保健センターの担当になってるんだった。
教授曰く、今日はもともと当番で保健センターに居ないといけない日だったらしい。来る人なんてほとんどいないので色々なことをして時間を潰していたところ、突然発動した巨大な超科学力の気配に気づいたらしい。外に出ると、何かが爆発したような跡の近くに俺を含めた10以上の人間が倒れていた、と。慌てて佐野先生とその場にいた三人を引きずりだし、全員自分が取り仕切る保健センターまで運んで来たらしい。鬼教授、相変わらずのチートっぷりと人使いの荒さ。
「え、じゃあ他の人たちは?」
「お前より先に目を覚まして全員帰ったわ」
答えてくれたのは教授。余計な仕事を増やすな馬鹿が、という副音声も聞こえてくるようだ。そうは言っても仕掛けてきたのあっちだから、俺だけのせいにはしてほしくないんだけど。
『あのさー翔ー、被害範囲減らすために自分痛めつけるのいい加減やめなー?』
何かスピーカーを通したような声が聞こえる、と思ったら柚木がスマホを構えていた。ビデオ通話らしい。……ハカセだ。
『今回も結構危なかったって聞いたけどー?』
「らしいな」
『そんな他人事みたいに……。我慢とかしなくていいからー、そんなことしてるとそのうち大怪我するよー』
「はいはい、ご忠告どうもー」
『ちょっと待ってそれ絶対聞く気ないときの言いか___』
ハカセが言い終わる前に、柚木からスマホを奪って通話を切る。
それを柚木の手に叩き返すと同時に、胸の奥で沈んでいた暗い感情が零れ落ちた。
「……俺の苦しみなんかわからないくせに」
周りの連中が息をのむ音が聞こえる。
普段の俺ならこんなことは絶対言わない。言っても仕方がないことだとわかっているから。
でも今俺はすごく機嫌が悪い。なんだってみんながみんな俺のせいみたいに言うんだ。
___言葉は何一つ帰って来なかった。
ベッドから体を起こして立ち上がる。歩き出したところで柚木に手を掴まれたが振り払う。一瞬見えた顔が驚くというより傷ついているように見えたので少し気にはなったが、無視することにする。
地面に目を落としたまま、当てもなくのろのろと歩く。踏んだ落ち葉のさくさくという音がどこか悲しい。
しばらく歩くと、ここ最近近くで聞いていなかった声がした。
「久しぶり」
「……古谷」
顔を上げると、笑顔の古谷が立っていた。
「いろんなものがひと段落して一息ついたら、山崎の顔が見たくなってさ」
「うわ気持ち悪い」
俺は見たくなかった、という言葉はすんでのところで飲み込んだ。顔を取り繕うだけの余裕はないので、今俺は相当嫌そうな顔をしているはずだ。
俺の思いを知ってか知らずか、古谷は笑顔のまま言葉を続ける。
「山崎も最近大変なんだろ、今度息抜きにどっか行かないか?」
___それを聞いた瞬間、俺の中で何かがはじけた。
目の前で笑う古谷を殴り飛ばす。
「お前に俺の気持ちはわからない、わかるわけがない。わかったような口きくな」
驚いたような顔のままで地面に崩れ落ちた古谷を置いて走り出す。追いかけてきたらしいみんなが古谷を見つけて騒いでいるのが聞こえる。
___俺の思いを共有できる相手なんていない。
どこか遠くに行こう。誰もいないどこかに。
気づいたらいつもの駅に立っていた。
俺はちょうどホームに滑り込んで来た電車に乗り込んだ。
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柚木side
『そうかー、そっちに行っちゃったかー』
「……サチ?」
『相変わらず一人で全部抱えて行こうとするんだからなー』
今私は、サチに電話をかけ直して状況を伝えている。さっきは翔弥途中で切られちゃったから、様子を気にするメッセージが送られてきてたんだ。
翔弥は古谷を殴っていなくなった、と伝えたら返ってきたのがさっきの言葉。困惑しつつもどこか納得したような言い方に、自然と眉根が寄る。
『私としては被害範囲とか気にせず全部外にぶちまけちゃっていいってつもりだったんだけど、やっぱり伝わってなかったみたいねー』
「……よくわからないけどサチ、それはダメだよ」
『ふうちゃんもわかるでしょ、これが一番翔が傷つかずに済む方法なんだって』
「でも人傷つけるのはダメだってさすがに」
『じゃあフー、これ以上翔が危ない目に遭ってもいいって言うの?』
「……でも、だって」
『___ああもう!』
突然の大声に、スマホを耳から遠ざける。
『翔がここまでどんな思いしてきたか、フーにはわかるの?』
「……物心ついたころからずーっと一緒にいたし、ほぼ全部わかると思う」
『なにそれ、すごい傲慢ね』
舌打ちでもしそうな勢いのサチ。こんな一面を見たのは久しぶりで、私は声を失う。
『一緒にいた時間が長ければ相手のことをより理解できる? そんなものは幻想よ。ある程度は理解できるにしても、結局人間は他人のことなんて完全には理解できない』
もちろん、私もね。そう言ったサチの声は冷たく、突き放すようだった。
___翔弥と同じだ。すべてを拒む、冷たい声だ。
「……でも、自分のせいで他の人がケガしたら、翔弥はもっと傷つくと思う」
どうにか絞り出した私の言葉に返ってきたのは苦笑い。電話越しの空気がふっと緩んだ。
『翔の超科学力ならぶちまけてもそんなに被害出ないよ、絶対』
『あの超科学力だけで他人にケガさせるなんて不可能。翔の超科学力は他の超科学力が干渉して初めて効果があるものだから』
『自分に向けさえしなければ盾にも剣にもなんないのよ、あの超科学力は』
___自分たちが普段使っている超科学力がどんなものかなんて、一回も考えたことがなかった。
私が呆然としている間にも、サチは言葉を続ける。
『私はね、本来生物に不要だったはずの超科学力なんかのために翔が傷ついて欲しくないの』
『超科学力のせいで一生苦しめられることになるなんて___馬鹿げてるわ』
『だから、翔には我慢して欲しくないの』
そうつぶやくサチの言葉は気遣いに満ちていて、それでいて冷たくて。
___私は、何も言うことができなかった。




