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落ちこぼれ能力者に平穏は訪れない  作者: 戸野牧こと
1 山崎翔弥の比較的平穏な日常
4/59

校内は地獄の入り口でしたっけ?

第3部分「休み時間に真面目な話はやめて」、初掲載時より内容を増やしています。ぜひご覧ください。

 ううう隣に人がいると落ち着かない。寝れん。

 休み時間は貴重な回復時間なのに。

 目をつぶってもんもんと考える俺の横で、柚木(元凶)は至って能天気。一度地面を見下ろして顔をしかめたが、その後は鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で空を見上げている。


「そういえば、次の授業何だっけ」

「超科学」

「うわ珍しい覚えてる」

「超科の時間忘れるもんか」

「嫌いだもんね」


 超科学力の授業は実技が主。当然だ、それが一番早い。

 座学ならともかく、力を使えない俺には苦痛にしかならない。


「サボりたい」

「そんなこと言わない」

「さらし者はごめんだ」

「最近ないじゃん」

「あーまあ。でも代わりが強制自習、監視つき」

「うわ」



 以前は成績下位者が前に連れていかれ、全員の視線の中で実技をやらされる、という拷問のような時間があった。

 それをやられるとあまりにも俺の出来が悪すぎて授業が進まないので、最近はなくなっている。


 その代わりに授業終了後に呼び出され、二時間の強制実技自習が課せられるようになった。これを毎回教授が監視している。

 教授もご苦労様なことで。


「おっと」


 と、目の前の柚木が立ち上がった。


「時間か」

「うん、あと5分」


 言われて携帯を確認する。確かに授業開始まであと5分の時刻だ。ちなみに今こいつは時計も携帯も何も見ていない。どうなってるんだこいつの時間感覚。


「お前の腹時計めちゃくちゃ正確だよな」

「身につけたら? 便利だよ」

「だから超科学力ないってのに」

「違う、これ力じゃなくて本当の『腹時計』」

「………恐ろしいやつ」

「おほめに預かりどーも」


 ほめてねーよ、という俺の言葉は黙殺された。

 よっ、と勢いをつけて立ち上がり、二人で階段に向かう。

 急ぐか、と無言で合図して階段をかけ下り始めた。


 _____________________



 教室には既にクラスのほぼ全員が揃っていた。

 他の授業は1分前滑り込みが普通だというのに、さすが人気授業。


 教授が到着すると、学生は一斉に荷物をまとめて移動の準備を始めた。この授業は、なぜか一度教室に集合して出席を取り、演習場に向かうシステムになっている。俺がこの学校でムダだと思う時間の1つだ。


 移動の道中、学生のほとんどはとても楽しそうにしている。

 ですよね。コレ、自分の特別な部分を存分に発揮できる唯一の授業だし。

 あくまで普通以上の皆さんについては、だけど。


 演習場に着くとさっそく、といわんばかりに全員が準備体操を始めた。

 終わった頃を見計らって、教授が今日の内容を説明し始める。

 今日は超科学演武翌日ということもあり、演武(バトル)を意識した演習をするらしい。


「個人戦だといつもと変わらないからな。今日は2VS2にしようと思う。グループと言うには小規模だし、強いて言うならバディ戦だな」

「組み方は自由ですか?」

「それだと実力に差が出て面白くない。こっちで決めてある」


 教授が指差す先には名前がずらっと書かれた掲示板が用意されている。


 あーまーそうですよね。(お荷物)がいるもんな。


 技の修練のときはよそに追いやられる俺も、この手の実戦演習だと何故か参加させられる。つらい。

 ため息をつきそうになりながら掲示板を見に行く。

 と、先に着いていた柚木が、人垣の後ろで渋い顔をしている。

 柚木と組まされたんかな俺、と表を覗きこみ、固まる。


「「……嘘だ」」


 自分のつぶやきにもう一人のつぶやきが重なった。


「お前かよ」

「なんで僕がこんな落ちこぼれなんかと」


 俺のバディ、まさかの古谷かい。

 ……さあ、地獄の始まりだ。



 ___________________


 どんな地獄も、本物でなければいつかは過ぎ去る。

 終わった後にも古谷ににらまれたが、そんなことは地獄からの解放の前には些細なことだ。


 さ、ここからは楽しい楽しい補講の時間だ。

 俺は『第2の地獄』とも呼んでいる。


「うし、行くか………」


 教室から人がはけたタイミングを見計らい、荷物をまとめて再び演習場へ。


 まずは初心者向けの準備運動。木の枝を拾い、手のひらにのせて力を流す。この辺りは初歩的すぎて授業では省略されている。


 教本には「体から何か流れ出すのをイメージして」と書かれている。木の枝を使うのは、生命のエネルギーがある程度残っているので少ない力で効果が出るかららしい。


 個々の能力によって、このときに様々なことが起こる。枝が浮き上がったり、細かく崩れたり。


 俺は当然、何も起こらない。


 枝をつまみ上げ、パキッと折って草むらへ投げる。本当は何か起こるまで続けないといけないのだが、一度試したら朝から晩まで何も起こらなかったので途中でやめる許可が出た。


 続いて機械訓練。専用機械に力を流して宙に浮かぶ練習だ。円盤に長い持ち手がついたような機械を近くの倉庫から借りてくる。


 これは能力者用の移動手段。正式な名称はなく、「増幅器」とか「浮行機」とか呼ばれている、宙に浮いて自由自在に進む代物だ。スピードは自転車から車くらい。安全性を高めれば、渋滞も解消できるのではと言われている。

 個々の力を増幅してロケットのように下方向に噴射、推進力としているらしい。


 実際、能力者が力を込めればふわっと浮かぶのだが___


 もちろん、ウンともすんとも反応しない。


 これを一時間続ける。

 …ここまで何も起こらないともはや笑えてくる。


 よっし終わり終わり。

 最後に倉庫を掃除するのまでがお決まりの流れになっている。

 落ちこぼれに貸す道具はない、とばかりに、使える道具は竹ぼうきだけなのがつらい。せめて自在ぼうきを貸してください掃きにくいから。


「しょーやーー」


 この呑気な声は柚木だ。女友達はいいのかお前は。

 掃除の途中だった俺はほうきを持ったまま1秒間迷ったあげく、


 無視を選択した。


 と、後頭部にガツンと衝撃が走る。

 思わずほうきから手を離す。


「いってえ」

「仕返し」


 見るとこぶし大の石が足元に転がっている。報復がえげつない。


「怪我したらどうしてくれんの」

「翔弥なら平気でしょ」


 どこをどうしたらそうなる。こちとら落ちこぼれで補講まで受けさせられてるってのに。

 ニコニコしてる柚木を軽くにらみつつ、立ったままでほうきを再び手に取る。

 ……柚木が何だか妙な顔をしているのは放っておく。


「何しに来たんだよ」

「ん?翔弥の様子見に来たーー」


 相変わらず笑っている柚木を見るとため息をつきそうになる。

 そんな状態でもしっかり掃除はする。決まりは守るの、俺は。


 柚木を横目に掃除を続けること10分。

 一通り掃き終わったのでほうきを片づけ、伸びをしながら倉庫を出る。



 と、また体に衝撃が。

 今度は頭ではなく腕だが、威力が半端じゃなかった。俺は今鍵を閉めたばかりの倉庫の扉にしたたか打ち付けられる。


「いってえ! 何すんだ柚木!」

「え?」


 柚木は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐににっこり笑った。そりゃあもういい笑顔で。悪魔だ。



 うん、こんなやつ放っておいてさっさと帰ろう。

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