小休止:いつもより疲れる放課後 古谷Side
思ったよりも更新が遅くなってしまいました……
今回は古谷視点です。
思ったよりも本筋に影響がない内容になってしまったので、予定変更して小休止扱いにしました。
次回は先に進みます。
気に食わない。
腑に落ちない勝ち方をした演武の日からずっと。
超科学力を持たないただの人間、山崎に、超科学力の名家出身の俺と互角に戦える才能があることが本当に気に食わない。
2年生の始め、この間の演武で俺は初めて山崎と対戦した。
山崎の評判は当然聞いていた。
超科学力が全く使えないにも関わらず、最高クラスに居座り続ける落ちこぼれ。
最高クラスの人間からだけでなく、学年中、学校中からバカにされ、哀れに思われている。
悪評しかない山崎があそこまで勝ち進んで来るなどあり得ない。相当運がよかったんだろう。対戦相手を聞いたとき、俺は楽勝だと考えていた。
……見くびりすぎていた、と今なら言える。
近接攻撃を仕掛けると全て避けられた。避けるついでに蹴りや突きや何かも飛んできた。うかつに近づけない。
仕方なく空中からの遠距離攻撃に切り替えたが、隠したつもりの居場所をあっさり見破られた。
あの瞬間、俺は負けを確信した。
小石で山崎が倒れていなかったら、確実に負けていたはずだ。
超科学力が使えないから空中戦に弱いのはわかる。
ただ、あれだけ強力な突きや蹴りを放てる人間があんなに弱い石ころで気絶する訳がない。
あいつはあそこまで全力で戦っていたのに、そこまで来てわざと負けたのか?
しかもあいつは超科学力を持たない落ちこぼれ。
本当に気に食わない。
気に食わない奴ではあるが、現状俺に見合った戦闘の才能を持っているのは山崎だけ。接近戦で俺と互角に戦えるやつは今までいたことがなかったのだから。
そう思っているときに演習であいつとペアを組まされた。
超科学力を持たないあいつを叩きのめすいい機会だ、と思っていた。
俺は山崎に勝って試合には負けるつもりであの演習に臨んだ。
それをあいつは完璧に読み切った。
俺の行動だけでなく、敵の行動、周囲の状況も全て計算し、利用して試合に勝った。
もしもこいつに超科学力が備わっていたら、俺はこいつに敵わない、とあのときはっきり認識した。
古谷家に伝わる根付けの片割れを渡したのは、ほとんど無意識だった。
差し出した瞬間に我に返った。が、好敵手と認めた人間に渡すという決まりのあるこの根付け。今こいつに渡さないと一生後悔する、と強く感じた。
根拠なんかない。
強いて言うなら「血が騒いだ」という状態かもしれない。
俺の直感がこいつだ、と告げていたんだ。
それからというもの、俺は山崎によく絡みに行った。
なぜって?
生きてる世界が違う奴と仲良くなれたら楽しいだろ?
ずっと嫌いだったのにいきなりくっつくのはおかしい?
上等だ、こちとらワガママで傲慢な坊っちゃんを生まれたときからずっとやってるんだ。突然の変わり身は得意技だ。
閑話休題。
ある日、山崎の様子がおかしかった。
普段は遅くとも5分前には教室に着いているのに、遅刻厳禁の実習前に遅刻すれすれでやって来たり。
まっすぐ帰るだけのはずなのに校内のどこかに向かって行ったり。
何か面倒に巻き込まれてないだろうな。
心配になって、次の日は朝から様子見に行った。
やって来たコウに阻まれたのは意外だったけれど。愛されてるな、山崎。
それにしても、本当に嫌がらせをされているとは思わなかった。
顔色1つ変えずに処理していたけれど、まさかあいつ前からあんなの受け続けていたのか?
もし俺があんなことされていたら。考えただけで寒気がする。
帰りも山崎についていこう、あいつに何かされちゃたまらない。
……どうも俺は山崎のことが気に入ってしまったらしい。
今あいつにいなくなられると、今後の目標というか張り合いがなくなる。
山崎が軽く嫌がらせされたくらいでダメになる奴だとは思えないけれど。
でもリスクはできるだけ減らしておきたい。
実習終了後。
教室湯から出る道中で、山崎を見かけた。
思わず声をかけようとしたが、遠すぎたのでやめる。
向かっているのは建物の裏手。
実習は終わった時間だから、何か別の用事ってことになる。
まさか呼び出し?
俺は勝手についていくことに決めた。
見失った。
迷い込んだのは建物の間の木立の中。
そこまで茂っているわけではないが、見通しはとても悪い。
こんなところで人を探すのは俺には無理だ。
あきらめて引き返そうとしたその時。
演習場の中から声が聞こえてきた。
誰の声か確かめるため、俺は演習場をのぞきこんだ。
ああ、あの子たち。同じ学年の女子たちだったか。確か、軽く俺のことストーキングしてる子たちだよね。
実害はないからそんなに気にしていなかった。何となく顔を覚えていたのも奇跡に近い。
何かをきいきい叫んでいるようだけど…?
「山崎、あんたよくも古谷様に恥をかかせたわね」
「落ちこぼれごときが古谷様に抵抗していいとでも思ってるの!?」
「しかも最近は古谷様にべたべたくっついて」
「古谷様に迷惑よ、離れなさい!」
……山崎?
これ、もしかして山崎が囲まれてるとか?
よく見ると、確かに彼女たちの真ん中にいるのは山崎だ。
あの子たちは何かすごい誤解をしている気がするけれど、それはもう気にしていられない。
どうにか助け出したいところだけれど___
しばらくすると、何かがはぜるような音がした。同時に強い光も見えた。
ああ、攻撃か。
俺が名前も認識していないモブの分際で、山崎に攻撃を仕掛けるとはいい度胸してるね。
あまりに無謀なので、怒りよりも先にあきれてしまった。
今度は何度も同じような音が聞こえた。一つ一つの音はさっきよりも小さくなっている。
あー、連射してるのか。でも何で1発の音が小さくなってるんだろう。
そんなこと気にしてる場合じゃないか。
ぼんやり見ている間に、誰かが木の上に登っていた。
……あれ、山崎?
真ん中にいた人いなくなってるし。
いつの間にかあんなところに逃げないといけないほど追い詰められていたのかな?
これはまずい、助けに入らないと___
俺が動こうとした瞬間、山崎が地面に下りた。
不意に何か投げるような動きをする。
「痛っ!」
「ちょっ、何よこれ!?」
急に彼女たちが騒ぎだした。
これはまずいかもしれない。
パニックになった女子は何をしでかすかわからない。
俺は慌ててそちらに駆け寄った。
すると___
「うおっ!?」
何故か古谷にぶつかられた。
どうやら逃げ出そうとしたところだったらしい。
こいつが逃げるほどのことを彼女たちがしたってこと?
ああもう。
「君たち、一体何してくれてるわけ?」
自分の声が硬くなっているのがわかる。
「すまん、命だけは……」
なぜか山崎に土下座されてしまった。違う、山崎じゃないって。
女子たちを見ると、なぜか少し誇らしげな顔をしている。そちらに近づいていくと、俺の顔が相当怖かったのだろう、彼女たちが一歩後ずさる。
それでも彼女たちの、ほめてもらうのを待っている犬のような雰囲気は崩れない。
その顔を見て一気に怒りが爆発する。
「よくも山崎に手ぇ出してくれたな!?」
「ふ、古谷様!?」
「私たちは古谷様を困らせるこいつを引き剥がそうと___」
今まで作ってきた外面をかなぐり捨てて思いきり怒鳴る。女子たちが完全に混乱しているのがわかった。「古谷様が私たちのことを怒鳴るなんてあり得ない」とか思っているのが手に取るようにわかる。
一体その自信はどこから出てくるんだろう。俺だって普通の人間なのに。
誰にでも優しい王子様なんかじゃ絶対ないのに。
彼女たちの顔をもう一度見た瞬間、自分の中の何かが音を立てて弾けた。
ぶちぶちぶちっ。
唐突に、何かが大量にちぎれる音がした。
直後、頭上から大量のドングリが降ってくる。
___ああ、まただ。
俺は我を忘れると超科学力を暴発させてしまう癖がある。
こうなるのは主に大事なものを傷つけられたとき。
半分無意識で発動しているので、手加減は一切できない。
とは言っても、こうなるときはそもそも手加減する気もないときなんだけど。
そうこうしている間に、女子たちは全員逃げて行ってしまった。
後に残ったのは俺と山崎。
「山崎」
「ひゃいっ!?」
声をかけると裏返った返事が返ってきた。
目を見開いて固まったままの山崎の肩をつかむ。
「……どうして相談してくれなかった」
「は?」
自分の口から出たのは、予想外の言葉だった。
「え、いや、古谷お前、俺のこと嫌いなはずじゃ」
「お前に何かあったらライバルがいなくなって困る」
俺の頭を置いて、口は勝手に言葉をつむぎ続ける。
こんなことを言うつもりはなかった。
大丈夫か、とひと言声をかけて終わりにするつもりだった。
「俺が認めたお前に、俺が原因のトラブルの処理なんてさせられない」
「え、え、何それ」
それでも言葉が止まらない。
言うつもりではなかったとはいえ、これは紛れもなく俺の本心。
俺は、山崎に俺のことを認めて頼ってもらいたかったんだ。
心配した、大丈夫か、とひと言かけるだけのつもりが、どんどん言葉があふれて止まらない。
「あの、よくわからないけど、ありがとう。すげえ助かった」
「それは何より。山崎なら一人でも平気かとも思ったけど心配で」
「じゃあ俺はこれで」
まだ話している途中だったのに、山崎は俺の話を強引に打ち切ってすごいスピードで走り去ってしまった。
ため息をついて、歩き始める。
演習場から出ようとすると、超科学の教授がやって来た。
「古谷、どうしたんだ」
「少し散歩を」
用もないのにどうしてこんなところに、ととがめる響きが声に含まれていたので、愛想笑いで嘘をつく。
「教授こそどうしてこちらに?」
ためしに聞き返してみると、
「昨日山崎と男子何人かがケンカしていたんだ。その際大きな爆発が起きたんだが、それが超科学力によるものか、それとも何か爆発物によるものかを調べにきた」
意外な言葉が返ってきた。
昨日山崎が演習場に向かっていたのはそんなことがあったからなのか。
そんなことを簡単に話していいのか疑問に思ったけれど、教授の目線から「お前はどう思うか教えろ」という無言の圧力を感じて押し黙る。
こんな一介の男子生徒に意見を求めたところで何も変わらないだろうに。
「……倒れた男子たちは何も覚えていないのですか?」
少し気になったので質問してみる。
彼らは「何か大きな爆発が起きた」ということしか認識できなかったらしい。
つまり事実を知っている人は誰もいない、ということだ。
……正確には山崎は知っていることになるのだろうが、自分に都合の悪い真実も包み隠さず話す保証はない。
ぼんやり考えていると、教授が歩き始めた。
俺もついていくことにした。
「……わからんな」
「……ですね」
乱闘が起きたらしき場所に着いた。
地面が焼け焦げ、大きくえぐれている。教授の言う通り、何かが大規模に爆発したことはわかる。
「教授、攻撃の跡を見てもどっちだかなんてわからないと思います」
「科学技術を利用して火薬反応を見ればわかるが……。今回の件で警察を呼ぶわけにはいかないからな」
こんな些細なこと(怪我人は出ていないのでこれは軽いケンカに入る)で警察を呼んでいたら、警察の仕事が増えすぎて大変なことになる。
それに、この学校は世間の評判をひどく気にする。不祥事を起こすなんてもっての他。隠せるものなら隠し通すだろう。
そういえば。
「ケンカの直後、教授は現場に行かれたんですか?」
「ああ、行ったよ。跡始末に呼ばれてな」
「そのとき何か臭いはしたんですか?」
「臭い?確かそんなに変わったものはなかったな。何か関係あるのか?」
「いえ、何でもないです」
超科学能力者の持つ科学知識はほぼゼロに近い。
科学知識のみならず、物事の関連を見つける作業も苦手な者が多い。
小さい頃、花火をすると妙な臭いがすることに気がついた。それは火薬の臭いだと教わったのはいつだったか。
こんな基本的なことすら、知らなくても教授になれる。俺だって知っている知識はほとんどない。
爆発物を使ったのなら火薬の臭いが残っているはずだと思った。それがなかったのなら、この爆発は超科学力によるもの……?
やめよう。
考えてもわからない。
明日山崎に聞いた方が早い。
俺は教授に挨拶をして、その場をあとにした。




