2話:ようこそ!はるばる異世界へ!
穏やかな風が吹いている。風に乗って運ばれてくる草木の香りが鼻腔をくすぐる。依音の部屋では絶対に匂うことのない香りだ。後頭部には何か寝心地のいい枕のようなものの感触があった。依音はとりあえず目を開けて現状確認をしようとした。瞼を開けるとそこには見知らぬ美少女が眠っていた。
「誰だぁぁぁぁ!?てか、ここはどこだぁぁ!?さらに美少女の顔が上にあることからこ...これは膝枕かぁぁぁ!?」
状況整理が全く追いついておらず、依音にできたのはとりあえず叫ぶことぐらいだった。眠っていた美少女は依音の大声でハッと目を覚まし依音の方を向いた。よく見ると綺麗に顔は整っており、髪は桃のような鮮やかなピンク色で、腰ぐらいまであるロングヘアだ。目は碧眼でとてもこの世の者とは思えないほど美しかった。
「一つずつお答えしましょうか。まず私は、クーリア=アトラスフィア。気軽にクーリアとお呼びください。次に、ここはアトラスフィア王国から南方100kmほど離れた場所ミネア大草原というところです。最後に、これは膝枕です」
クーリアはさっきの依音のとっさに出た質問すべてに答えてくれた。依音は解答を聞いてさらに、たくさんの質問が沸いてきた。
「クーリアさんといったか、見た感じここは日本じゃないな、いったいどこだ?そしてなぜ膝枕をしている」
依音は自室のベッドの上で意識がなくなったはずだ。なのに目が覚めたら、聞いたことのない王国南方の草原だという。絶対にこの状況なら誰もが、どこだと聞くはずだ。あと、膝枕もだ。健全な男子だ興奮してしまう。クーリアは頭の中で文章整理して答えた。
「そうですね。日本という場所は私にはわかりませんが、ここは貴方がもといた世界ではありません。言わばそちら目線でいうと異世界ですね。あと、膝枕は初回限定サービスです」
依音は唐突に告げられた異世界宣言に酷く困惑した。何故俺をこの世界に呼んだのか。そもそもなぜ俺が呼ばれたのか。そして初回限定サービスとは何なのか。一回しかしてくれないのか。あのいたずらメッセの差出人はクーリアなのか。
「なるほどな、異世界か。ということはあのふざけたメッセージの差出人もクーリアなのか。あ、あと膝枕、興奮してきた。ちょっと失礼して」
初回限定なんだ一回だけなんだ、ならその一回を楽しもうと仰向けの体をうつ伏せに変え、クーリアの左右の太ももの間に顔をうずめた。さらには匂いまで吸ってやった。いい匂いがした。
「な、な、なに勝手にうつ伏せになって私の太ももに顔をうずめながら匂い嗅いでるんですか!!変態ですか!」
恐らく彼女の顔は赤面しているんだろう。
「初回限定なんだ堪能させてくれてもいいじゃないか」
依音は太ももの中でモゴモゴと喋った。
「太ももに顔をうずめながら喋らないでください、声の振動ですごいムズムズします!てか、いつまで、うずめてるんですか。いい加減どいてください!」
クーリアは勢い良く立ち上がって、依音を突き放した。クーリアの顔を見るとゆであがったタコのように顔が真っ赤になっていた。衝撃で我に戻った依音は近くにあった木の陰に腰を下ろした。
「それで、さっきの質問に答えてほしい。あのふざけたメッセージは本当にクーリアが出したのか?」
改めて依音はクーリアの方を向き聞き直した。
「メッセージとは何なのかはわかりませんが、この世界に呼んだのは確かに私です。私はこの場所で王家に伝わる召喚の儀式を行いました。貴方が言うメッセージとやらも、儀式が一番伝えやすいと思った方法だったのでしょう。そして、何故貴方なのか。それは、儀式が一番力強大なものとして選んだからです。」
依音は元の世界ではニートだった。勿論、習い事などは何もやったことがないため全くと言っていいほど強くない。でも、ネトゲの世界では、一番といっていいほどに強かった。儀式はネトゲの中の依音を最強とみなし召喚してしまったのだ。
「まて、俺は何も武術や剣術などを知らないぞ。最強だったのもネトゲ...遊びの中での話だ。要するに俺は全く強くなんかないぞ」
そう依音はきっぱりと述べると、クーリアは凄く驚いた顔した。それもそうだ、最強の人として呼び出したはずが、それは娯楽の中での話で本人は全く強くもなかったのだ。
「それは本当なのですか?貴方自身は全く強くないと?...私はなんて方を呼び出してしまったのでしょうか...」
驚愕の次は落胆の顔をした。
「さっきもそう言っただろう。あとさりげに酷いことを言うな。」
「仕方ありません!なんにせよ、貴方にはこのアトラスフィア王国を救ってもらわないといけません。とりあえず、一度王国に行って事情を把握してもらいます。っとそういえば、またお名前を聞いてませんでしたね。」
落胆の次は開き直った顔をした、表情が豊かな奴だなと依音は思いながらも質問に回答した。
「どうせ、そんなことだろうと思ってたよ。新田依音だ。依音とよんでくれ」
「依音さんですね。あと、急に救ってくれと言われたのに驚かないんですね。」
クーリアは依音の名前の「お」にアクセントを置いた。
「『お』のアクセントをおくな『い』にアクセントを置いて依音だ。まぁこういう異世界召喚系のお話の相場は大体決まってるからな。元いた世界では。」
いきなり召喚されて世界を救ってだの、国を救ってだのの物語は依音はよく知っている。ネトゲ「LNO」もそうだった。まさか自分が呼ばれる側になるとは思いもしなかったが。
「よくわからないですが、そうなのですか...とりあえず依音さん。」
今回はちゃんと「い」にアクセントを置いて依音を呼んだ。クーリアは改めてこっちを向いて笑顔で言った。
「ようこそ!はるばる異世界へ!」
どうも、しもつきひうです。ここまで読んでくれてありがとうございます。
新しくクーリアという女の子が登場しましたね。軽くクーリアの設定紹介でもしましょうか。
クーリア=アトラスフィア・16歳・アトラスフィア王の娘になります。外見については本文に出た顔つきに、身長は160cmぐらいと平均的な感じです。性格は王の娘らしくおしとやかな感じで、きれいな言葉遣いをして話すが、たまにてんぱってしまう時もあるような感じです。
まだ2話目なので文章力も低いとは思いますが続けていくにつれてうまくなって行けたらなと思います。
それでは、また3話でお会いしましょう。後書きもここまで読んでいただきありがとうございます!