5. 交易港建造開始
共通暦5605年 王国暦3255年白月30日
「レール川に交易港を建設する件ですが、予定地が決まりましたので報告いたします。」 サトウが報告に来た。
「レール川上流部、カッツ子爵領との境から2日あたりの場所に港を作る事にしました。」
「随分、北につくるのだな。」 建設予定地はカーク村とカッツ子爵領の領都の中間地点あたりで、領内では北部にあたる。
「領内北部の開発が遅れている事、最終的には領都を越える規模の町を作る為の土地がある事などが、選定の理由です。」
「領都を越える規模になると?」 サトウに確認する。
「はい。私たちは、最終的には領都を今回新設する町に移しても良いのではないかと考えています。」
「領都を移すか。その理由は?」
「一番の理由は水運を利用できる事です。人と物が集まりやすくそれに伴う経済活動も大きくなるでしょう。そうなると代官を立てて統治するより、領主様が直接統治された方が、統治が容易かと考えます。」
サトウの言う事も理解できる。ただ、交易港が領都を越える規模になるのは、少し先の話だろう。
「交易港建設の件、了解した。また、領都を移す事に関しては、次期早々として引き続き検討を続けることにする。」
「了解致しました。では、港の建設工事を開始する事にします。」
◇◇◇◇
共通暦5606年 王国暦3256年黒月1日
交易港の開発が始まった。まずは資材や作業員を送る為の街道整備から始めるとの事。領都から直接交易港への街道を作る計画を報告された。開発は基本的に転生者任せなので、言う事はない。
また、交易港に作る製粉工場に関しての報告書も送られてきた。報告書によると「レール川と並行して運河を掘ります。運河内で高低差を設けて、常時一定の水流が発生するように設計し、水車を安定的に回せるようにします。最初は港より上流側に3連水車5基を最終的には、上流部・下流部に合わせて30基の3連水車を設置する予定です。」との事。そこまで水車が必要なのかと思ったが、彼らの事だから何か考えがあるのだろう。そう思う事にした。
領内での警察・消防機構の本格的な稼働が始まった。
こちらからは従士のルークとノーブを出向させ、領都での活動を行わせる事にした。カーク村にはジャンを代官と兼任で出向させている。天晶堂からの納税金で随分と余裕ができたので、そろそろ新しい従士を増やしてもいいのかもしれない。
◇◇◇◇
共通暦5606年 王国暦3256年黒月32日
従士長フェンに新しい従士を雇おうかと検討していると伝えると、賛成してくれた。
フェンの親類縁者や他の従士たちの親類縁者で採用可能な者がいないかを調べてくれるそうだ。
フェンが見知らる人を連れてやって来た。
「王都から領主様に使者がいらっしゃいました。」王都からの使者とは珍しい。何か不味い事が…。取り敢えず通してもらう。
「国王からの勅命を閣下へお伝えします。」勅命ときたもんだ。これまで王室とは縁のない生活を送っていたので、突然の事態に動揺する。
「国王様は、領内の遺跡を調査しその結果報告を橙月までに報告する事をお望みです。」 使者が言う。
「遺跡調査ですか。」領内には幾つかの遺跡が存在する。その遺跡の調査か…。
使者は勅命を伝えると王都へ戻って行った。
使者が帰った後、フェンと二人になり勅命の意図を探る。
「急に遺跡調査を言い出したのはおそらく、天晶堂からの収入が増えた事に対する御用普請に近いのではないかと思います。」
確かに、一地方の貧乏領主だったはずが、最近は生活にかなりゆとりが出ている。良からぬ事を考える前に力を削いでおこうと言う事だろうか? しかし、期間があまりに短すぎる何かいい案は無いだろうか。
「転生者に遺跡調査に協力してもらえないか打診してみよう。彼らなら短時間で調査する方法を思いつくかもしれない。」
◇◇◇◇
共通暦5606年 王国暦3256年黒月33日
突然の勅命がもたらされた翌日。サトウを役所へ呼び出す。
昨晩改めて調べた所、領内には5箇所の遺跡がある事が分かった。
「領内の5箇所の遺跡調査ですか…」サトウの顔に戸惑いが見える。
「私達転生者の中に、地下に何があるか調べる能力を持った物がいます。彼と測量班の加藤に調査を行わせます。」詳しく話を聞くと、鉱山技師の転生者がいるらしく、彼は地下構造が手に取るようにわかるらしい。それを使用して、遺跡を掘り起こさずに調査するつもりらしい。
「では、よろしく頼む。国王からの勅命で断りようがないのだ。」
◇◇◇◇
共通暦5606年 王国暦3256年茶月10日
今日はサトウに呼ばれて領内の遺跡に来ている。
「どうも地下に人の手によって作られたと考えられる大型の建造物があるようです。」鉱山技師の転生者であるカジワラが言う。
「大型の建造物?」カジワラに聞き返す。
「私たちの世界で、展示場や大型の倉庫に使われていた規模の建物です。こちらの単位で言うと200メール四方の建物と言った所でしょう。」
「そんなに大きなものが地下にあるのか?」カジワラに確認する。
「はい、先日から発掘を進め、これから地下建造物に入ろうと考えています。よろしければご同行願います。」
地下に眠る大型建造物に興味が無い訳では無い。カジワラ達と一緒に向かう事にする。
掘り出された入り口は施錠されておらず、簡単に中に入る事が出来た。
建造物の中に土砂は入っておらず、移動には何の問題も無いようだ。
地下建造物は、中央に廊下があり左右に幾つかの小部屋があるようだ。
「うーん、何か文字のようなものが書いてあるが…」小部屋の入り口には何か文字のようなものが書かれているが、読めなかった。
「これは私たちがいた世界とも違う文字のようです。」カジワラが言う。
「一部屋ずつ確認していきましょう。」同行したフェンが先頭に立ち、各部屋を確認していく。
「これはカレンダーのようなものと思われますね。」壁に貼られたものを見てサトウが言う。
「この建物が建てられた頃のカレンダーでしょうか?」フェンがカレンダーと思われる物を見ながら言う。
小部屋を出て、廊下を進むと下の階に進む階段が見つかる。
長い階段を下りると、そこには高い天井を備えた何もない巨大な部屋が見つかった。
「これは…」あまりの広さに息をのむ。
「私たちの世界では、体育館と呼ばれている建物に近いようですね。」サトウが言う。
「このフロアに何かないか探してみましょう。 」フェンの一声に反応し、全員で探索を始める。
1時間ほどフロアを探索したが、これと言ったものも見つからず、その日は遺跡から引き上げる事にした。
◇◇◇◇
共通暦5606年 王国暦3256年茶月25日
「先日の遺跡調査へのご協力ありがとうございました。今回もよろしければご同行願います。」先日の遺跡とは異なる場所に呼び出され、また遺跡探索を行う事になった。
「今回の遺跡は、前回のものより規模が小さい建造物が複数見つかっています。今日はそのうちの1つに向かいます。」サトウから今日の調査概要を聞く。
「確かに前回の建造物より小さいな。」地下建造物に入り、そう呟く。
「ここは、恐らく集合住宅だったと思われます。事前の調査で同じ間取りの部屋が沢山ある事が分かっています。」とカジワラが言う。
「集合住宅か。随分と堅牢なつくりになっているのだな。」
「私たちがいた世界と同じような作りになっていますので、この古代文明は、もしかすると相当高度な文明レベルだったのではないかと思われます。」
「それは、この世界よりも『高度』と言う事か?」 サトウに確認する。
「恐らく、先日の大型建造物にせよ、この建物にせよ『この世界』より『高度』な文明があった事は確実だと考えています。残り3ヶ所の遺跡も同じように調査し、纏めた上で後日報告させていただきます。」
サトウからの提案を聞き、遺跡を後にした。
◇◇◇◇
共通暦5606年 王国暦3256年茶月26日
ここ最近の遺跡探索を受けて、改めてこの世界の創世神話を調べてみる。
大まかに言うと「創世神『アトラ』が、数人の従者と『神が創造したこの世界』に降りて街を作り生活を始めた」のがこの世界の始まりとされている。「『アトラ』が畑に種を蒔くと多くの食物が、牧場を作ると多くの動物が生まれ人々の生活を豊かにしていった」と続いている。我々が使っている共通暦は『アトラ』が最初の街を作った年を0年とし起点としている。
先日見た遺跡が『アトラ』神話の時代の建物だとすると、我々は先祖から継承されずに失伝してしまった技術があるのだろうか。
◇◇◇◇
共通暦5606年 王国暦3256年赤月10日
「残りの遺跡も調査が終わりましたので、まとめた物を献上いたします。」サトウとカジワラがやってきた。
「ありがたくいただくとしよう。お陰で勅命にも応えられそうだ。何か面白い事は分かったか?」サトウに調査結果を確認する。
「残された建造物は、この世界ではまだ使われていない工法を使用して建造されている事は確実です。遺留物はありませんでしたが、この地に現在の文明より遥かに高度な文明が存在したのではないかと考えています。」
「遥かに高度か…。これをそのまま王都に報告して良いのだろうか…」サトウの報告に頭を抱える。
「この調査結果は何か不都合があるのでしょうか?」
「王国内の各地に遺跡がある事は分かっていたのだが、地下に建造物がある事は知られていなかった。それも遥かに高度な文明があったであろうと言う証拠のね。これをそのまま王都に出すと各地の遺跡が掘り起こされる大騒動になるだろうし、『アトラ教』も黙っていないだろう。まぁ、古代学の研究が進むとは思うけれども…。王国に報告する内容に関しては、こちらで精査の上で決定する事にする。報告した内容についてはそちらにも連絡しよう」そう言って、サトウ達を下がらせた。
サトウ達が帰った後、フェンと父を呼び出し、調査結果について相談した。
「調査結果を全て王国へ報告した方が良いのでしょうか?」父とフェンに確認する。
「一部とは言えアトラ教徒にも原理主義過激派がいます。彼らを刺激しないためにも地下構造物に関しては隠匿するのが良いと思います。」とフェン。
「一番良いのは全て報告する事だろう。報告した上で内容の公開範囲を王国に決めてもらおう。」と父。
「では、王国には全て報告し、地下構造物に関しては隠匿するか公開するかの判断は王国に任せる事にしましょう。」
今回の調査結果の報告に関し、方針を決め王都に向かう事にする。
◇◇◇◇
共通暦5606年 王国暦3256年橙月10日
ミッドから30日の旅程を経て王都に到着したのが3日前。勅命の件で取次ぎをお願いして、ようやく国王との謁見の日になった。
「勅命をいただき、遺跡の調査を行いましたので、その成果を報告させていただきます。」
「分かった。表を上げて報告をいたせ。」国王ラール=スタッツが続きを促す。
「領内の遺跡を調査したところ、地下に建造物がある事が分かりました。詳細は報告書にまとめていますが、その建造物は私たちが知らない技法で作られた堅牢な物でした。」
「報告書は見せてもらった、そなたはこの建造物をどう思う。」内務卿が問う。
「少なくとも、私たちのご先祖様が作られた建造物では無いと考えています。もしご先祖様が作られたものならば、建造物を建てた技法が今に伝わっていてもおかしく無いと思いますし。」
「確かにその通りだ。こちらからも研究者を派遣して地下建造物を調査させたい。調査に協力してもらうが構わないか?」
「もちろん協力させていただきます。」
「では、王国が開示するまで今回の調査結果を他言せぬように頼む」
「了承致しました。」そう言って、謁見の間から退出した。
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共通暦5606年 王国暦3256年橙月15日
王都滞在を終え、ミッドへの帰路につく。帰りは国王が派遣した研究者と一緒だ。
研究者は考古学者が2人、神学者が2人の計4人。予定では、領地内の遺跡を一ヶ月程度調査して、報告書を纏めるそうだ。
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共通暦5606年 王国暦3256年黄月11日
昨日ミッドに到着。
帰り道で同行した研究者から聞いた話によると、2つの派閥間で論争が繰り広げられているらしい。1つは、「『アトラ』は神の使徒である」と言う派閥。もう1つは「『アトラ』は指導者の名前である」と言う派閥だ。「神の使徒」派の主張は、神話にあるように「神が作った世界」にアトラが仲間と共にやって来たと言う物。「指導者」派の主張は、元々この世界には人が住んでいて、その中から絶大なカリスマを持った指導者「アトラ」が現れたと言う物だ。どちらもこれといった証拠が無く、膠着状態が続いているらしい。
今回の発見が論争にどう影響を与えるのかは、まだ分からないが、どちらにしろ大発見だと研究者の鼻息が荒くなっていた。
感想お待ちしております。
世界各地の創世神話の類似性とか面白いですよねぇ。
(タイトルと違う話が主になった事に関しては、目を瞑って下さい。)




