4. レール川 開発計画
共通暦5605年 王国暦3255年黄月14日
「レール川開発計画を報告します。」 サトウが2件目の開発計画を持ってきた。
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1. レール川護岸工事
領内の護岸工事を完了させる
2. 開拓村との街道の完成
橋を架け、街道を完成させる
3. 開拓村に役所支所を設置
支所と役所間に伝書バトによる連絡手段の確保
3. 宿場町の整備
橋の両岸に新規に宿場町を設立し利便性の向上を図る
4. レール川両岸の地形再調査
領地北部 レール川上流部沿岸に町を作る為の調査を行う。
新規に設置する町は、製粉と造船を行う為に川を使った水車と掘り込み港と小規模な乾ドッグを持つ。
レール川を使用した交易拠点とする予定。
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「護岸工事と架橋は理解できる。宿場町の整備もまだ分かるが、伝書バトとはなんだ?」 サトウに問う。
「この世界にも私たちの世界で『鳩』と呼ばれる鳥と同じ特徴を持つ鳥を見つけたので、同じように使えないか研究を進めた所、私たちの世界と同様な使い方ができる事が分かりましたので、利用する事にします。私たちの世界での『鳩』は帰巣本能、遠隔地からでも巣に帰える能力があり、かなり離れた場所で放しても、自分の巣に帰ります。これを利用して、『鳩』の足に小さな筒を括り付けて、簡単な書簡を運ばせる仕組みです。それを見越して、領都の役所屋上で『鳩』を飼育しています。」
役所の屋上でなにやら鳥が飼われていたのはその為だったのか…。どのくらいで開拓村から帰って来るのかと聞くと3時間程度だそうだ。馬でも4日かかると言うのに…。
「ただし、あくまで巣に帰るだけなので、領都から開拓村へ書簡・連絡は従来通り人手で運ぶ必要があります。開拓村の支所でも『鳩』を育てる予定ですので、いずれ解決すると思いますが。」 サトウが申し訳なさそうに言う。
「2箇所で『鳩』を飼って、お互い『鳩』を交換する。その『鳩』を放して巣に返す事で書簡や連絡を短時間で可能にすると言う事か。」 サトウに問うと「その通りでございます。」と返ってきた。
「次に掘り込み港について聞こう。なぜわざわざ掘り込んで港を作るのだ? 」
「掘り込み港にするのは、スペースの問題です。レール川沿岸にそのまま港湾設備を作っても、沢山の船を係留するスペースを確保するのが難しいと考えています。その為の掘り込み港です。新設する港はクライド領最大の貿易港として、北のカッツ子爵領、南のバルタ男爵領との交易拠点にする予定です。その為にも係留スペースの確保は重要です。また、掘り込み港とする事で倉庫等の用地確保も容易になります。」 サトウが掘り込み港について答える。
「交易港を作る事には問題ない。問題は無いのだが、交易で売り込む商品はあるのか? 船が来てくれないと交易にもならないと思うが?」 サトウに尋ねる。
「領内で過剰と言えるほど生産されている砂糖。クライド領の名産となりつつあるゴム製品を考えています。また、カッツ子爵領とバルタ男爵領間の交易船の補給基地としても有用だと考えますので、船の往来は初めからある程度は確保できると考えています。また、補修用の乾ドックを多数用意し、船の整備も請け負う事で、無視できない港にする予定です。」
「今回の開発案に関し、許可を与える。雨期が明けたら護岸工事から始めるといい。」 サトウに開発許可を与える。
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共通暦5605年 王国暦3255年黄月34日
役所にサトウが新たな転生者を連れて現れた。
「彼はハセガワと言います。今回の謁見の目的は、領内での窯業事業設立の許可をいただきに参りました。」
「窯業とは?」 聞きなれない言葉を確認する。
「窯業とは、陶磁器の作成、ガラス製品の作成を指します。まず、陶磁器を領内で製造し、供給が安定した所でガラス製品の製造も始める予定です。」 ハセガワが答える。
「クライド領の領民を見ると、生活食器は木製の物が主です。これを全て陶磁器に置き換えるつもりでいます。ガラス製品は、まず様々な種類の瓶を作る予定です。これらの製品は次の天晶堂の主力製品になると思います。」 サトウが補足する。
「窯業事業設立に関しての許可を与える。可能であれば開拓村で窯業を開始してもらえると助かる。」 天晶堂に許可をあたえるとサトウは「開拓村の方が燃料に関して便利ですしね」と言って、下がって行った。
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共通暦5605年 王国暦3255年緑月6日
今日は、キタムラがやって来た。
「領内での養蜂事業開始の許可をいただきに参りました。」 次は養蜂らしい。
「砂糖の価格が大幅に下落した現在、領内を含め菓子の需要が高まっています。これをチャンスと捉え、蜂蜜を作りたいと考えています。」 キタムラが意図を説明する。
確かに天晶堂の価格破壊を伴う市場独占で、砂糖価格は大幅に下がり、高級品であった砂糖も庶民でも気軽に使える商品となっている。その結果、これまで手が出なかった層でも甘い菓子に手が届くようになり、菓子の種類が爆発的に増えているらしい。そこに蜂蜜を大量投入しようと言う魂胆らしい。
「養蜂の件、許可を出すとする。」 キタムラは「蜂蜜ができ次第、献上いたします。」と言って下がって行った。
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共通暦5605年 王国暦3255年緑月26日
今年も雨期が明けた。明日は新生祭を開催する予定だ。
「領内の治安維持について、具申したい事があります。」 サトウが新たな転生者を連れてやって来た。
「現在、領内はレール川の護岸工事準備に伴い出稼ぎ労働者が増え、一部で治安が悪化しつつあります。それらの対策として、警察機構を領内に整備したいと考えています。」
確かに、大規模な工事の為、天晶堂が労働者を大量に集めている。一部の労働者が良からぬ事を行う為、治安の悪化が問題になり始めていた。
「こちらのササキに警察機構設立の準備と運営を任せていただけませんでしょうか? 彼は警察機構運営の技能を持った転生者になります。」 サトウがササキを紹介する。
「領民の農家の次男、三男らを集めて、警察機構を立ち上げたいと思います。彼らには天晶堂から賃金を与え領都や開拓村の治安維持を行ってもらう予定です。」 ササキが概要を説明する。
確かに、農民の次男、三男あたりは相続できる物が少なく、職にあぶれやすい。彼らに職を与える事にもなり、良い考えだと感じる。
「次に、もう一つ具申したい件があります。」 サトウが次の提案について説明を始めた。
「領都には消防設備としての防火水槽や防火水路が整備されていますし、開拓村も同様の設備を持っています。次はこれを保守、運用する組織を立ち上げたいと思っています。これも領民の農家の次男、三男らを集めて、天晶堂から賃金を与える事にします。」
「2件の具申の件、了解した。明日の新生祭に合わせて領民に告知しよう。」
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共通暦5605年 王国暦3255年緑月32日
今年も無事に新生祭を終える事ができた。天候に恵まれ、豊作になると良いが。
領民に「警察機構と消防機構の人員募集の告知」を出した。反応は良いようだ。このまま農民を続けて、兄に使われるよりは多少危険でも安定した収入が保証される仕事の方がと考える次男、三男が多かったようだ。募集は青月いっぱいやる予定なので、どれくらい集まるだろうか。
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共通暦5605年 王国暦3255年青月19日
天候は今の所、良好。例年通りの収穫になると予想される。
レール川の護岸工事は順調に進んでいる。今月には開拓村への橋より下流部は完了する見込みだ。そこから上流部に遡っていくが、交易港の場所がまだ決まっていないため、上流部の完了予定日が決まらないと報告を受けている。
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共通暦5605年 王国暦3255年青月30日
開拓村と領都を結ぶ街道にかかる橋が完成した。
これまで川を越えるのに渡し舟を利用していたので、輸送量に制限がかかっていたが、今回の橋の開通で開拓村への物資の輸送や開拓村からの木炭・製材の輸送の大幅な増加が見込める。開拓村の正式な命名式をいつにするか検討しなければ。
天候も問題なし。今年も例年通りの収穫になると思う。
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共通暦5605年 王国暦3255年紫月1日
新生祭から募集していた、警察機構・消防機構の人員募集が昨日締め切られ、本日早速結成式が行われた。ササキ曰く「当分は訓練と講習に当てます。本格的な稼働は黒月に入ってからでしょう」との事。
しかし、60人近く集まるとは思いもしなかった…。
天候に問題なし。 収穫予想の変動なし。
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共通暦5605年 王国暦3255年灰月4日
今日はハセガワがやって来た。
「初めての窯だしを行い、陶器が完成しましたので献上いたします。」 大量の器が運ばれてきた。
「陶器に使用する土も良く、丈夫な器を作成する事が出来ました。これから4年後を目途に焼き窯の数を増やし、市場への供給量を大幅に強化した後に、市場を独占する予定です。」
彼らは、陶器市場も独占するつもりらしい。こちらとしては税収が入ってくれば問題ないので、市場独占に関しては聞かなかった事にしよう。
「次に、ガラス瓶も作成しましたので献上いたします。」 王都でも見ないような透明なガラス瓶が大量に運ばれてきた。
「鍛冶職人と共同で、瓶に合う蓋も作成しましたので、併せて献上いたします。」 しかも蓋つきで。
「このガラス瓶は透明で使い勝手がよさそうだな。ここまで透明な物は見たことが無い。」 彼らの献上品を手に感想を述べる。
「このガラス瓶も4年後を目途に市場への供給量を大幅に増加させます。また、この瓶を使って、瓶詰食品の販売を天晶堂で開始します。」 瓶詰で何を売るのかが気になったので聞いてみた。
「現在、王都では菓子やパンの供給が増えています。そこで瓶につめたジャムを売り出そうと計画しています。ジャムに関しては、現在研究中です。」 ここでもかたく儲けに行く彼らの姿勢に感服しかない。
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共通暦5605年 王国暦3255年灰月11日
今年の収穫祭が始まった。
砂糖の大量供給により発生した市場価格の大暴落の影響が領民にも出ているらしく、これまでと違って甘いパンや砂糖が使われた料理が増えていた。領民たちも砂糖価格の大暴落を喜んでおり、こういうのも悪くは無いなと天晶堂の恐ろしさを感じながら、収穫祭を楽しんだ。
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共通暦5605年 王国暦3255年灰月25日
「この日をもって、この開拓村を『カーク村』と命名する。」
茶月から始まった開拓村の建設も一応の形を見たので、命名し村として運営を開始する。
基本的な街並みは領都であるミッドと同様で防火水槽や防火水路を備え、役所の支所、天晶堂の支店が設置されている。この村からは、木炭・陶器・木材が領都に供給される予定である。ミッドから鳩も連れてこられ、一方通行であるが伝書バトも導入された。警察や消防も支所内に拠点を設け、配備される予定らしい。
農民の移住も歓迎し、来年は周辺での小麦栽培も始めるらしい。
この村の運営が上手く行く事を願い、領都に戻る事にした。
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共通暦5605年 王国暦3255年白月8日
「環境が整いつつあるので、製鉄を開始します。」 サトウがまた1人転生者を連れてきた。
「マツダと申します。カーク村での製鉄を検討しています。」 マツダの自己紹介を聞く。
「鉱山担当の転生者が鉄鉱石と石炭の鉱脈を探していますが見つかっておらず、砂鉄を使用した製鉄を行う予定です。」
「砂鉄で鉄塊を作れるのか?」 現在、領内で流通している鉄製品の多くは北接するカッツ子爵領から鉄塊を購入した物を領内で加工しているので、鉄自体の生産は喜ばしい事である。
「私たちが元々住んでいた『ニホン』では、砂鉄から鉄塊を作成していました。先日試作した所、良質な砂鉄が取れる事が分かりましたので、製鉄を開始することにしました。」 マツダが試作したという鉄塊を手渡して来た。
「いずれ、領内の鉄製品の需要を全て賄えるようになると助かる。」 マツダに伝えるとニッコリ笑って、「そのつもりです。」と返してきた。
鉄製品が安くなれば、領民も喜んでくれると思う。製鉄事業の立ち上げが上手く行く事を願おう。
伝書鳩と言うと中世と言うイメージがありますが、第一次世界大戦の頃までは現役の通信手段だったようです。通信妨害の為に鷹を使って鳩狩りをしていたとか・・・。




