3. 領都再開発の完了と次の話
共通暦5604年 王国暦3254年 灰月10日
今年の収穫が始まった。天候も良かったため、例年通りの収穫ができた。
明日は今年の収穫を祝う収穫祭だ。この収穫祭を境に冬籠りの準備と、農地の開拓が始まる。
今年は、転生者が指導し開拓と農地整理を行うようなので、少々忙しくなりそうだ。
「先日、報告した馬車が完成しましたので、献上いたします。」 サトウがやって来た。
「ありがたくいただこう。 さて、領館と役所の建設の進捗について確認したいのだが?」
「はい。新領館は今月中には引越していただけると思います。役所の方は黒月には稼働できると考えています。」
新領館は二階建てで、これまでの領館より広めに作ってある。これまでなかった個室の控室が増えて、従士たちも楽しみにしているようだ。役所の方は四階建てだが、黒月の稼働時には一階部分を使い切れるかどうかの範囲しか使用しないらしい。転生者曰く「後で増築するぐらいなら、最初から広めに作っておいた方が良いです」との事。共に再開発計画では都市の中心に位置し、ここを起点に領都内の道路や水路が整備されて行っている。
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共通暦5604年 王国暦3254年 灰月11日
今年の収穫祭が始まった。
従士長であるフェン、フェンの息子で従士であるジャン、同じく従士のルークとノーブを連れ立って、収穫祭に参加する。
「今年も無事に収穫を迎えられてよかった。」 フェンが言う。
「転生者が持ってきてくれた、『千歯こぎ』と『唐箕』は凄く便利でした。毎年面倒な作業だったのが、あっという間ですよ」と笑いながらジャンが言う。
「これから開発が進めば、もうちょっと贅沢ができるかもな。」 従士たちを前にこれからの事を思うと頬が緩む。
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共通暦5604年 王国暦3254年 灰月30日
新領館が完成した。
今日、旧領館から引っ越して、新居での生活が始まる。旧領館は役所が完成するまでの間、役所として使われて、解体されるらしい。この建屋の設備は転生者が用意する建屋設備の基本となるらしい。これまでとの違いは下水道がついている。近くに手押しポンプ付きの井戸があるくらいか。手押しポンプを試させてもらったが、これまでの水汲みとは比較にならないほど簡単に大量の水を汲み出す事が出来た。領民の元へ広がって行けばよいが…。
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共通暦5604年 王国暦3254年 白月1日
白月に入った。納税の為に領地から集めた小麦を乗せた馬車が経由地であるサーク伯爵領へ出発した。
転生者が新たに荷馬車を用意してくれたおかげで、1台で運べる量が大幅に増加し、これまで5往復は必要だった納税が1度の往復で済むようになったようだ。荷馬車を運ぶためにジャンとルークを御者として派遣したが、彼らも新しい荷馬車の性能に驚いていた。ゴムとはこんなに便利だったのか。この荷馬車の製法も機密指定して囲い込むべきなのだろうか。
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共通暦5604年 王国暦3254年 白月31日
サーク伯爵領に納税へ行ったジャンとルークが帰ってきた。
やはりあの荷馬車は注目を集めたらしい、サーク伯爵も荷馬車が欲しいと言っていたそうだ。彼らは天晶堂を紹介して帰ってきたようなので、近いうちにサーク伯爵も荷馬車を手に入れると思われる。まぁ、所持する数と領地の面積が違うから、うちのように贅沢な使い方はできないだろうが。
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共通暦5604年 王国暦3254年 白月34日
王国暦3254年も残りが少なくなった。赤月に転生者が来た時はどうなるかと思ったが、現在領都の再開発が進んでいる。来月からは領都周辺の開墾も始めるようだ。サトウが見せてくれた計画では、耕作地は従来の1.8倍になるらしい。新規の開拓地はジャガイモとゴムの木畑、甜菜と呼ばれる蕪のようなものを育てるそうだ。ジャガイモは救荒作物として、ゴムの木は商品作物として、甜菜に関しては考えがあるとしか答えてくれなかった。
役所の工事も終わり、建物も完成した。内覧に行ったが、うちの領内で一番大きな建物には違いない。彼らが役所をどう使うかが見ものだ。
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共通暦5605年 王国暦3255年 黒月3日
サトウがキタムラをつれてやって来た。
「新規の開拓地の一部で牧畜を開始したいと思います。まずは農作業に使える牛と馬を増やしていこうと考えています。」
彼らはそう言って、計画書を出してきた。私が所有する2頭の馬をと新規に買い付ける4頭の牛と馬。これらを増やしていく予定らしい。増やした牛馬は荷馬や農作業に使用する予定らしい。
「あと、鶏舎を立てて、鶏を育てていく予定です。鶏は肉と卵を期待しています。」 とキタムラ。
「役所の屋上に小屋を作って、ある特性を持つ鳥を育てる予定です。この鳥に関しては訓練が終わった後に詳細をご報告いたします」 サトウはそう言って下がっていった・
牛馬の件に関しては、2年、3年で2倍、3倍に増える訳ではないので、長い目で見て行こう。将来的に領民に還元できればいい。
役所の屋上に関しては、報告を待つ事にしよう。
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共通暦5605年 王国暦3255年 黒月27日
領都周辺の新規開墾地の視察を行った。
領都再開発で整理された地区と同様に整然と水路が整備され、これまでの新規開墾地とは様子が違っていた。これならば初年度からある程度の収穫は見込めるかもしれない。
視察中に領民に話を聞くと、これまで比較的高価であった鉄を使った農具が領内に工房ができたおかげで入手しやすくなった事、転生者が作成した荷車と一輪車のおかげで楽に大量の土砂を運べる事など、嬉しそうに話してくれた。
白月にサトウから報告された面積以上の開墾が雨期の前に進みそうだ。
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共通暦5605年 王国暦3255年茶月4日
「今期の開墾は予定面積に達しましたので、少し早いですが終了します。」 サトウがやって来てそう宣言した。
「期間いっぱい開墾して、もっと作付け面積を増やしてはどうか?」 サトウに問いただす。
「それでも良いのですが、農業用水の目処が立っていないのです。 水利関係の技能を持つ転生者が現在調査を行っていますが、井戸を用意して、水路を仮整備するだけで、雨期に入ってしまう可能性が高いです。」
「そうか、開墾の件は了解した。それで、今後はどうする予定だ。」
「去年の緑月から開始していた木炭の準備ですが、東部の山地の近くに新しく炭焼き施設を準備する事で、領都で使用する木炭を準備する目処が立ちました。つきましては、この炭焼き施設を中心とした開拓村を作りたいと考えています。」
「開拓村か…」 サトウの言葉に暫し黙考する。
開拓村とは王都に申請を出し、新規に町を作る事を指す。徴税も5年間免除される事になるが、現在領内に開拓村は1つも無い。
「開拓村の申請については了解した。こちらから申請を出す事にする。」 サトウに伝えると少しほっとした顔をした。
「炭焼き施設だけではなく、領内での材木需要にこたえるために製材所も建設する予定です。また、領都と開拓村を街道で結び、仮ではありますが川に橋を架ける予定です。」 サトウが一気に計画を話し出す。
領都にある天晶堂から木炭の製造販売部門と木材取引に関する部門を切り出して、それぞれ商会を作る予定でいるらしい。その為に、各地から10歳~15歳の奴隷を買い集め、更に王都のスラム街から子供を集めた上で、転生者主導で教育を行っているらしい。天晶堂をコングロマリット化すると言う計画を聞いたが、いまいちコングロマリットと言う物の実感が持てなかった。
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共通暦5605年 王国暦3255年茶月11日
「彼はタカハシといいます。街道整備に必要な技能を持った転生者です。」 サトウが初めて会う転生者を連れてきた。
「前回の測量で作成した地形図と、レール川の船舶の運航状況を考えた上で、開拓村から領都までの街道計画を立てましたので、ご確認いただきたく。」 タカハシが説明を始める。
「現在、レール川を運行する船舶は小型船舶が多く、高架が必要ではないと考えています。また、川幅の広さと領都からの直線性を考え、この部分に橋を架けたいと思います。」 タカハシが地形図を指す。
「橋を架けるのは良いが、レール川は数年置きに氾濫を繰り返している。氾濫のたびに架け替えるつもりか?」 タカハシに問う。
「あくまで、河川の治水工事が完了するまでの仮橋と考えています。この橋の両岸を起点に治水工事も行う予定です。領内の治水が完了次第、より強度のある材質で再度橋をかける予定です。」
この開発に関しても、財源は天晶堂だ。彼らが余程の事を言い出さない限りは止める気は無い。
「橋に関しては了解した。但し、使用料等の徴収は行わない事を命ずる。」 こちらの負担は無い。従って、領民から金をとる必要もない。自由に使わせよう。
橋の件で用件が済んだのか、彼らは天晶堂へ戻って行った。
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共通暦5605年 王国暦3255年赤月3日
今日で、転生者が現れて、丸1年になる。
この1年で、領都が大きく生まれ変わり、周辺の耕作地も増えた。転生者が作った天晶堂は、『ゴム製品』、『井戸用ポンプ』、『新機構の馬車類』で大きく売り上げを上げており、初年度から結構な額を納めてくれた。
彼らが現れるまで一地方の貧乏領主だったが、それなりの暮らしができるようになった。
「甜菜の収穫と砂糖の試作が完了しましたので、砂糖を献上にあがりました。」 サトウが献上に来た。
「甜菜とは、先ごろ新規開墾地に植えていたあれか?」 サトウに確認する。
「はい。その通りです。搾り汁から砂糖を作る事ができます。今回、まとまった量の砂糖を安定的に製造できる見込みがたったので、市場に流して一気に市場を独占しようと考えています。」
「まとまった量とは?」 サトウに問いただす。
「現在、スタッツ王国で流通している量の5倍程度です。低価格で大量に市場に流し、一気に市場を独占してしまいます。」 涼しい顔で恐ろしい事を言うサトウ。
「了解した。天晶堂が商売としてやるのであれば、止める事は無い。」 サトウに告げるとサトウは天晶堂へ戻って行った。
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共通暦5605年 王国暦3255年赤月34日
サトウが「砂糖市場」の独占を宣言して30日余り。砂糖価格は、以前に比べ1/30程度に下がっているらしい。王都では砂糖余りが起こりつつあり、これまで高級品であった菓子の値段も下がりつつあると聞いた。恐るべき転生者。
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共通暦5605年 王国暦3255年橙月16日
今日はキタムラが一人でやって来た。
「養鶏の進捗について報告します。現在、領都郊外の鶏舎で約1000羽の鶏を育てています。来年には領内に鶏舎を増やし、鶏の数を100倍に増やし、安価な鶏卵を一気に市場に放出する予定でいます。」
どうして、転生者は市場制圧が好きなのかと思いつつ、キタムラに聞く。
「鶏を増やすのは良いが、餌はどうするつもりなのか?」
「製糖で使用した、甜菜の搾りかすがそのまま鶏の餌になります。製糖の規模が拡大すればするほど、鶏の餌には困らなくなります。」 ちゃんと考えているらしい所も転生者の怖さだ。
聞くと、天晶堂は、「砂糖取引」と「鶏卵・鶏肉取引」を切り出して、別商会を作る予定があるとの事。うちの領内の商会からの納税は9割9分、天晶堂と関連がある会社になってしまっている。税収が増える分には良いが、経済支配されているような気がしてならない。
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共通暦5605年 王国暦3255年黄月2日
今年もそろそろ雨期がやって来る。雨期を前に今年の作付けに関しての報告書がキタムラより送られてきた。
「小麦は例年通りの量を作付け。商品作物としての甜菜。救荒作物としてのジャガイモ。今年から新規に菜種とトウモロコシ。ゴムの木は去年の2倍の本数を植え付ける予定のようです。」 報告書をフェンが読み上げる。
「甜菜は天晶堂が買い占める予定だろうから良いとしても、ゴムもそんなに必要なのか?」 フェンに確認する。
「ゴムタイヤを使用した荷車が領民をはじめ、王国内での需要が大きいようです。その為にゴムを量産したいと考えているのでは?」 確かにあの荷車は便利だ。ここまでゴムが売れるとは思っていなかった。
「街道の整備状況に関して報告します。」 タカハシがやって来た。
「東部の炭焼き拠点までの街道整備がほぼ終了しました。後は、雨期が明けた後に架橋すれば完了です。」
タカハシの報告によると、炭焼き拠点自体は徐々に稼働を始めているらしい。今、川越えは舟渡しで木炭を運んでいるらしい。橋が架かれば、領都の竈事情は大きく変わるだろう。
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共通暦5605年 王国暦3255年黄月14日
「レール川開発計画を報告します。」 サトウが2件目の開発計画を持ってきた。
大量放出による市場破壊は怖いですね。
巨大になりつつある転生者による企業体。
転生者がその気になれば、どの市場も独占できると思います。独禁法なんてありはしないし。




