2. 領都再開発計画
共通暦5604年 王国暦3254年 黄月19日
雨期に入りそうな時期になり、当初の予定通りにサトウが領館へやってきた。
「開発計画が完成しましたので、ご報告申し上げます。」 初対面から2ヶ月ついに計画ができたらしい。
「今回の開発は領都であるミッドを再開発する事にいたします。」 サトウが出してきた開発案は以下の通りだ。
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・領都の再開発案
1.区画整理
1.1 農地の整理
これまでの開拓で飛び地が多くなってしまっていた耕作地を整理する
1.2 都市区画の分離
住宅区・商業区・工業区と区分を分け都市を整備していく。
また、防災の為の防火水槽や防火水路を整備しておく。防火水槽や水路にはコンクリートを使用する
下水道の整備
1.2.1 住宅地の整備
住宅地の中心に教会・役所を移設し、住民の利便性を図る。また、戸数に応じて新規に井戸を用意する。
井戸には手押しポンプを導入する。
1.2.2 商業区の整備
衣服商会・金物屋・木材商の出店依頼を行う。また、そのための店舗用建物を用意する
天晶堂本店の移設
1.2.3 工業区の整備
ゴム工房の移設。また周囲にコムの木畑を新設する
靴職人・革職人・鍛冶職人を呼び寄せ、工房の設置を行う。そのための建物も用意する
2.農地開拓
区画整理に合わせ新規に農地を開拓する。開拓した分は、ジャガイモとゴムの木の栽培にあてる。
3.領館再整備
領館の機能を次の2つに分離する。
公邸:領主家族が生活する館
官邸:領主業務を行う館 以降、役所と称し住宅地区の中心近くに設置する
◇◇◇◇
彼らが作った計画書を見る。
「領館の再整備を行う意味は?」 まずはここから意図を確認しよう。
「現在、領館は領主様の生活空間と執務空間が一つにまとまっております。これから開発が進み領内が繁栄していくと、現状では執務の為のスペースが足りなくなると予想されます。そこで、生活空間と執務空間を分け、執務専用の建屋を用意する事でより多くのスペースを確保し、人員を統治の為に稼働させる事ができます。これにより、何か問題が発生した時に担当者に確認する事も容易になります。また、陳情を受け付ける窓口も設置し、より住民の声を聴きやすくなるように工夫します。」
確かに現状では、陳情に来るためには、領主の館に行かないといけないという心理的な障壁もあるだろう。気軽に陳情できるようになるならば、領民の声も聴きやすくなる。
「それと3つのグループを作り、執務専用の建屋に常駐するようにします。1つ目は陳情を受付け対応するグループ。2つ目は納税に関する処理を行うグループ。3つ目は領地開発に関するグループです。領地開発に関するグループは転生者から常駐者を置きます。他の2つに関しては、領主様に任命していただきたいと思っています。」
「納税に関しては、現状では常駐は不要と考える。納税期にのみ対応しよう。陳情受付に関しては、従士を輪番で対応させる事にする。」 彼らの要望に対し、こちらの都合に合わせて対応する。
「次に都市区画の分離に関して尋ねる。区画を分ける事の利点を知りたい。」
「区画分離に関しては、領都の更なる発展を見越した上で分離を行いたいと思います。現状のままでは、新規に商会を誘致した場合に商会建物を建設する場所が領都の端など不便な場所になってしまいます。それを回避するために、商業施設を建てる区画を定め、建設予定地を空けておきたいと考えています。また、火を使う鍛冶工房や薬品を使う革工房・ゴム工房を住宅地から離し、異臭問題や火事の延焼を防ごうと考えています。さらに、下水道を整備する事で、疫病を防ぐ事が可能になると考えています。」
「最後に対象の領民への補償について尋ねる。農地の整理や都市区画の分離に伴い、農地や住宅を移動する必要がでてくると思われる。それら住民に対し、どう保証するのか?」
「農地の整理に関しては、飛び地を無くし、農地の近くに家と水場を用意する予定です。農地の面積に対しては整理前と同等の面積を補償します。都市区画の分離に関する移動に関しても同様に、移動先の建屋と近くに水場を用意する予定です。商業施設に関しても分離前と同等の広さを持った建屋を準備する予定になっています。」
「補償に関しての考え方は理解した。 こちらとしても、この開発案に関し検討する時間が欲しい。今月中に返答するので、今日はもう下がってよい。」
彼らを帰らせ、開発案に関して検討を行うことした。
◇◇◇◇
共通暦5604年 王国暦3254年 黄月20日
昨日、サトウが持ってきた開発案に対して、従士長のフェン、家督を譲り楽隠居中の先代当主ラルを呼び、一緒に検討して貰う事とした。
「領都の再開発とは意外でした。」 呼び出しに応じたフェンが答える。
「彼らは領都の規模を大きくするつもりらしいが、上手く行くと思いますか?」 父ラルに尋ねる。
「転生者が何を考えているか分からないからなんとも答えられないなぁ。」
「そうですよねぇ。しかし商会が出店してくれると商会からの税収入は期待できます。まぁ、鍛治工房あたりは農具の修繕もやりやすくなるので領民も喜んでくれると思いますよ。」
「農地の整理はこちらとしても助かる話だと思っています。彼らの指摘通り開拓地と既存の農地がモザイク模様になってしまっていましたからね。」
「確かに、飛び地が多くなってましたねぇ・・・」 フェンが検地結果を見ながら答える。
「いい機会です。区画整理は彼らの提案に乗りましょう。」
「領館の機能分割はどう思いますか?」
「生活空間と執務空間を分ける話か? 王都では珍しい話では無いが、私たちのような小規模の領地では珍しいだろうなぁ。」ラルが答える。
「確かに、私たちの規模では珍しいでしょうねぇ。彼らは先を見越してと言っていましたが・・・。彼らはここをどこまで大きくするつもりなんでしょう。それが分からないのでなんとも言えませんね」父の答えを受けてフェンが答える。
「陳情受付の人員の常駐化とか、対応できなくは無いが、そこまで陳情が来るとも思えんしなぁ。」ラルが先日の問答のメモを見ながら呟く。
「分かりました。彼らを呼び出し、最終的なゴールを確認することにしましょう。それが分からない事にはこちらも検討できることが少ないですし。」
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共通暦5604年 王国暦3254年 黄月22日
先日の話し合いの結果に従い、サトウを呼び出した。
「今回の再開発に限らず、開発事業の最終的な姿を教えて欲しい。領館の機能分割や領都の都市区分の分離に関して、「先を見据えて」とだけ言われても、予想がつかずに判断がし難い。」 サトウに疑問をぶつける。
「最終的な姿は王都を凌ぐ都市になると考えています。その為の再開発であり、新規開拓になります。」 サトウが答える。
「王都を凌ぐだと?」
「はい。可能だと考えています。実質的な副都、または経済の中心地を狙えるのではないかと考えています。」
思ってもみなかった回答が返ってきて、困惑する。
「何も領都の再開発だけで達成できるとは思っていません。数回に渡る開発を長期にわたって実行する事で、達成可能です。開発については計画を立て次第、順次報告していきますが、私たちはそのつもりで計画を立てている事をご理解いただければ幸いです。」 サトウは更に続ける。
「分かった、この国最大の都市にしようと考えているのだな…。果たしてできるかどうか開発が終わるのを楽しみにする事としよう。」
サトウが帰り、先日呼び出した、フェンとラルを再度呼び出して、今日の話を伝える。
「王都を凌ぐとは大きく出たものだなぁ。」 ラルは呆れた顔でこちらを見てきた。
「実質的な副都、または経済の中心地ですか…」 フェンも呆れている。
仕方がない話ではある。王国内で下から数えた方が早いくらいの規模の面積しかなく、これと言った産物が無い我が領地。それを王都すら凌ぐ規模にしようと言っているのだ。
「転生者は本気のようだ。まぁ王都を凌ぐは言い過ぎだとしても、それなりの規模の開発を考えているのだろう。その試金石として、今回の領都再開発に許可を出そうと思っているのだが、どうでしょうか?」
「まぁ、悪い話ではない。試させてみよう」 父ラルの一言で再開発が決まった。
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共通暦5604年 王国暦3254年 黄月25日
「今回の再開発であるが、この計画で認可する。今年の収穫が終了次第、開発に取り掛かる事。また、一部の事業の前倒しも許可する。」 サトウを前に今回の計画を認可する事を伝える。
「一部の事業とは?」 サトウに問われる。 「領館の機能分割と都市区画の分離の2点だ。」
「また領民に対しては、今年度の新生祭に合わせて、開発を発表する。」
毎年雨期が明け、苗を畑に移す時期に合わせて、「新生祭」と言う祭りを行っている。苗が無事に育ち収穫できる事を祈願する祭りで、また去年の新生祭からの間に生まれた子供の無事の成長を祝う祭りだ。その祭りで都市の再生を住民に告知する事にした。
「了解しました。これから準備に入ります。」
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共通暦5604年 王国暦3254年 緑月5日
「本日はこちらをご覧いただきたく。」 サトウが見慣れない物を持ってきた。
「私たちの世界で『コンクリート』と呼ばれていた物をこちらの世界で再現した物になります。これは、その『コンクリート』で下水道に使用する排水溝と消防用の水路に使用します。」 サトウが説明してくれる。
「見た目は、石のようだな。これは好きな形に加工できるのか?」 サトウが持ってきた物を見ながら質問する。
「はい。型枠を作る必要がありますが、好きな形に加工できます。また同一の型枠を大量に用意すると同じ形の物を大量生産可能です。」
「石から切り出す手間を考えると、凄いものだな。」 彼らが持ってきた物に感心する。
「次に、木炭の制作と普及に協力をお願いしたく。現在、領都では薪を竈に使用しています。このままでもよいのですが、薪は用意するのが大変で、これが領民の生活時間を圧迫しているのではないかと考えています。そこで、天晶堂で木炭を作成し安価で売り出そうと考えています。」
「どのくらいの量の木炭を用意できるのか?」 サトウに問う。
「現在試作中ですが、東部の山地にて木炭に適した木が見つかり炭焼きを行っております。それによると半年ほどの準備期間があれば領都に安定して木炭を供給する事ができると思います。」
「了解した。木炭の準備ができ次第、領民に木炭の使用を推奨しよう。」
「最後になりますが、サーク伯爵領から鍛冶職人が移住してくれる事になりました。彼らは来月にはこちらにやって来るそうなので、工房の建屋を用意する事にします。彼らは私達天晶堂が雇用した形になっています。」
鍛冶職人がこちらに来てくれるらしい。農具の修理や作成が楽になって、領民が喜んでくれれば良いが…
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共通暦5604年 王国暦3254年 緑月25日
そろそろ雨期が終わり、新生祭の時期になった。
領民に対し、領都の再開発を告知する事にしよう。
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共通暦5604年 王国暦3254年 青月1日
新生祭で領民に領都の再開発を告知したが、反応は様々だ。
土地の移動に関して、確認を含めて陳情に来るもの。飛び地の解消を喜ぶもの。鍛冶工房が来る事に喜ぶもの…
今の所、再開発に対して、反対的な意見は聞かない。まぁ、それと言うのも開発の原資が天晶堂から来ていて、領民に負担が無いと言うのも大きいのだが…。
本日、新領館と執務館の建設が始まった。
領館の方は新築するつもりではなかったのだが、下水道の整備等を考えると、新築して欲しいとサトウに頼まれ、新築する事にした。執務館は転生者が役所と呼んでいたので、役所と呼んでいるのだが、旧領館の4倍程大きく作られている。彼らはここで何をするつもりなのだろうか。
今年の作付けも無事に終了。天気があれない事を祈ろう…
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共通暦5604年 王国暦3254年 青月34日
鍛冶職人がサーク伯爵領からやって来た。
彼らには天晶堂から工房が渡され、領内での活動を開始したらしい。転生者は彼らに作ってもらおうと考えている物があるらしいが、それが何かは教えてくれなかった。
領館と役所の建設は順調だ。
転生者が指揮を執り建設が進んでいるのだが、木枠を作り中にコンクリートを詰めて建物の土台を作っていた。彼ら曰く「しっかりとした土台は堅牢な建物を建てるために必要な事」だそうだ。こちらの世界とは異なった建設手法に興味がわく。
今の所、天候に問題は無し、今年も豊作とは行かないが順調に生育が進んでいるようだ。
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共通暦5604年 王国暦3254年 紫月14日
「今回は、こちらの2種類の荷車を献上いたします。」 久々にサトウがやって来た。
領内に設置された鍛冶工房と転生者が協力して、荷車を作ったらしい。
「これらの荷車は従来領内で使用されていた荷車に比べ、少ない力で動かす事が可能になっております。」 サトウが説明する。
「どのような仕組みになっているのだ?」 献上された荷車を見ながら問う。
「まず、車輪はゴムを用いた『ゴムタイヤ』に変更しました。軸受けは転生者の能力と鍛冶職人の協力で『ボールベアリング』を作成しました。これにより、従来の荷車より少ない力で引く事ができます。収穫物の納入やこれからの開拓作業に利用しようと考えています。」
そばに控えていた従士長に確認させると驚いた顔でこちらを見ている。
「それは助かる。この荷車はどれくらい用意できるか?」
「順次量産していきますが、今年の収穫期にはそれぞれ100台程度かと。以降は必要に応じて製作していきます。」
「また、この車輪と軸受けを使用し、馬車を試作しております。完成次第、献上に伺います。」
「馬車の完成を楽しみに待とう。」 そういうと彼らは館から下がっていった。
天候は問題なし。収穫は例年通りの量が見込まれるだろう。
そろそろ収穫祭の準備と国への納税の準備をしないと。
書き直し2本目です。
色々と設定に元ネタがあるのですが、それはまた別のお話。




