不思議な少年との出会い
茶色く染めた髪を緩やかになびかせる秋風は、私の心の隙間へと流れ込むように。
添えた手から感じる冷え切った鉄橋が、秋の終わりと共に私の気持ちを現しているかのようで。
見上げた先に広がる果て無き曇り空に、辿り着く宛てのない私の意志が、行き止まりを迎えたように飲み込まれてゆく。
「どこにいるの……。お父さん」
無意識に零れ落ちた小さな呟きは、動きの速い川の流音に混じるように、遠く彼方へと流されてゆく。
成長と共に忘れられた過去の記憶の中にあるのは、幼い頃に父と訪れたこの場所。握った手と手から伝わる父の温もりは、冷めきってしまったこの指先には幻想でしかない。
私は触れる鉄橋から手を離し、橋の出口へと足を向けた。まるで、その場に想いを置き去りにするかのようで、胸を強く締め付ける痛みがとても苦しかった。
橋の出口へと差し掛かった時、川沿いの土手に座り込む少年の姿がふと目に入った。
普段から交通量の少ない橋。なんの変哲もない川に、よもや徒歩で訪れる人などほとんどいない。遊んでいるわけでもなく、一人座り込んではただ川を見つめ続けるその少年に、不思議と私は目を離すことが出来なかった。
真っ直ぐ帰ろうと思っていたのに、少年の姿を捉えた私は、意識とは別に勝手に身体が動いていた。少年の横へと同じように膝を抱えて座り込み、目下に流れる川の景色が、ただ視界に映り込んでいる。
その場を包み込むのは川の音。声をかける訳でもない私は、なぜこの少年の横に寄り添っているのだろうか。私の存在に気が付いているはずの少年も又、その口を堅く閉ざしていた。
少年がここで何をしているのかも、何を求めているのかも分からない。だけど私は、川を見つめる少年のその小さな瞳が、まるで光を失っているように感じていた。
「君、名前は?」
視界は川を捉えたまま、私は静かに少年へと問いかけた。
「……」
聞こえなかった訳ではないだろうが、少年はすぐには答えなかった。何かを考えているのだろうか、表情一つ変えずに、ただ川を見つめ続けていた。
橋の下からは一つ大きな風が吹き、土手に座る私と少年の周囲の草が騒ぎ出す。私は揺れる髪を耳にかけるようにかき上げると、過ぎ去る風の後には一面を彩る白い綿毛が舞い踊っていた。ゆっくりと流れる無数の綿毛が包み込む中、少年が小さく言葉を零した。
「僕は……緑。星空 緑」