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太陽の声  作者: 仲村戒斗
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第一章‐8

「モンストラクターはヘリオスの安定のために必要不可欠なものとなっている。肉はあいつらを解体するしかないし、ヘリオスに出回っている道具だってほとんどモンストラクターを使って作られている。ヘリオスでの商いはモンストラクターを中心にして回っているわけだ。自分と、皆が豊かに暮らしていくためにハンターは体と知能を鍛えて森に挑む。いくら狩る方法が確立されたからと言っても体が使い物にならなければ意味がなく、物を覚える頭がなけりゃ狩りなんかできやしない。行動パターンを把握する事が奴らから命を守る最も安全な方法だからな。狩りに慣れていない者は鍛えられていないから、というより予期せぬ動きに訳も分からず死ぬことが多い。慣れたハンターからすれば予期できる動きなのにな」


 狩猟が一番の仕事、というのは現代社会を中心とした知識を保有する俺からすれば考えられないことだ。現代社会では食肉は家畜として人間に管理された敷地内で飼われ、わざわざ野生の動物を苦労して狩る必要はない。しかし、となるとヘリオスでは家畜の文化はないのか。疑問を口にするとそれは否定された。


「かつてはヘリオスでも家畜を育てていた時期はあったらしい。だがそれはモンストラクターが代替わりする前の話。生きているモンストラクターは森の中から出ることはなく、太陽神様も連れ出すことはいけないと厳命している。今日も森を出るときに乗った、移動や荷運びに使っているホイーラーというモンストラクターは森の端までで、荷物はそこから人力で街まで運ぶことになる」


「どうして、モンストラクターを外に出しちゃいけないんだ」


「さて、理由は知らない。森の中でしか生きられないというのであれば話は単純なのだが、どうもそういうわけではないらしくてな。しかし太陽神様が禁止するのであれば従わないわけにはいかないというわけなんだ。確かに家畜として目の届く場所に飼っていた方が効率はいいだろうがどうしようもないんだ。太陽神様が認めない以上の理由は求めても得られない事は数十年同じ生活をしている事から明白だよ。だから狩りの手段が多様化し、効率化していった」


 太陽が沈みきる前に、アテラは机の上に置かれていたランタンに発火装置を用いて火を灯す。アテラが持つ発火装置は大きく、アテラの握り拳が二つ程の大きさだ。現代で広く普及しているライターは握れば覆い隠せる小ささで、他のタイプでもあれ程大きくはない。俺が持つ現代の技術水準と比べてこの街がチグハグで謎が深まるばかりだ。


「世界の生活は、モンストラクターが現れることで厳しくなったと思う。でも人間は追い詰められれば追い詰められる程力を発揮する。おかげで技術はとても発達したし、神様には皆感謝しているのよ」


 食事に戻ったアテラが付け加える。世界、か。どうも、俺が知る現代世界と食い違う世界のように思う。俺の中にモンストラクターという知識は微塵もないのだ。おかしい。だが、そういった違和感を無視すれば、この街はモンストラクターによって苦しめられ、神によって試練を与えられ、そして強くなった。単純に感想を言うならヘリオスに住む人間の逞しさが良くわかる素晴らしい話だ。限られた中でアイデアを出して次々にモンストラクターを倒す術を見つけ出していく。


 しかし彼らの話で一つ、納得できないことがある。モンストラクターに関しては実際目撃したことで疑いようのない事実として受け止められるが、太陽神という存在が少々、余計というか、非現実的でおかしなことになっている。今更何を、とは思うが、二人はあたかも太陽神が実在しているかのような言い回しをしているように感じる。普通、信仰の対象である神は実体として存在せず、目に見えない、概念として存在する。本来はそうだろう。イエス・キリストのように人間として肉体を得ていたとされる者もいるが……。


「どうしても気になることが一つ、太陽神様って言うのは一体どういう存在なんだ。話を聞く限り実在しているように聞こえるのだけれど」


「そうね、太陽神様の事をきちんと知らなければいけないわ、幸せを享受するには必要だから」


「祈りを知らないんだ、知らないのも当然か。始めに話すべきだった、すまない。太陽神様は、美しき幸福と恵みの光で人々に素晴らしき世界を与えてくれる存在だ。大昔、太陽神様はこの世界に顕現した。人間の体を介してな。その後、様々な場所に聖堂を作り、顕現するための場所ができた。太陽神様はただ一つの存在だが複数の人間を使うことで世界中の信仰を集め、神としての立場を確固たるものとしたんだ。以来、人類は崇め続けている。ヘリオスにも聖堂があるんだ。そこではサモスタルコス様がいて、彼の体を使って顕現する。そうやってヘリオスの民は太陽神様を直接崇められるんだ」


 太陽神は実在する。実体があるのかはその説明でははっきりとしないが、少なくとも神に相当する存在と直接対峙できる環境だということが判明した。


「そして本題はここからだな。突然現れたモンストラクターについて。太陽神様に何故現れたのかと尋ねる声が集ったのは想像できるだろう。世界を見守る存在が理由を知らないはずはないと思うのは当然だ。しかし、奴らに神は関与していないと語った。世界が大きな成長を遂げる中で新たな可能性が芽吹いたのだと。神がそう言うのならそれが正しい。であればこの変化をそのまま受け入れる他ない。太陽神様はモンストラクターが出現した初期より森からの連れ出しを禁じていた。元々自発的に森から出ることはないからな、奴らは。ま、結局道具や料理になるのだから皆納得して今に至ってるわけだ。太陽神様は人類の発展の為に未来を見越している。俺達はずっと感謝と祈りを続けていく。……これでモンストラクターと太陽神様については大体わかっただろう」


「ありがとう、スラッグ。説明としては十分過ぎるくらいだよ。その二つについては全く未知の領域だったからね、知ることができて嬉しいよ」


 話が終わる頃には食事もほぼ終えていた。太陽も沈み空が黒く染まり夜が始まっていた。室内にはランタンの火が揺らめいている。

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