第五章 4)水晶玉の中の魔族
アビュは何とも厄介な問題を持ち込んできてくれたことだ。
このような難問、私に解決出来るはずがないではないか。
この問題から目を逸らすためというわけではなかったが、他の仕事に勤しむことにする。
私はアリューシアがいるはずのあの訓練室に赴いた。
そもそも、あの少年のことばかりに関わりあってもいられない。私の仕事は多い。アリューシアの面倒も看なければいけないのである。
彼女に手渡さなければいけないものがある。プラーヌスから預かった水晶玉だ。
アリューシアはプラーヌスの弟子になりたいらしい。この僻地にまで追いかけてきたのだから、その情熱は本物だろう。
しかしプラーヌスにその気はない。彼女の要求を撥ねつけるつもりのようだ。
彼が弟子入りを認める代わりに突きつけた条件、それは本当に困難な課題のようなのである。
魔法使いではない私にはよくわからないことであるが、今のアリューシアのレベルに見合わない魔族と契約を結べという課題。
それが可能だったならば弟子入り希望を認める。しかし無理だったときはすぐに塔から出ていけという条件。
おそらくプラーヌスはわざと困難な課題を突きつけて、彼女をこの塔から追い出すつもりなのだ。
プラーヌスはその水晶玉の中にその課題の魔族を呼び出していた。
私はプラーヌスから預かった水晶玉を、アリューシアに差し出す。
「この魔族ね・・・。わかったわ、やってみる」
水晶玉を受け取るために差し出したアリューシアの手があまりに小さすぎて、私は一瞬それを渡すのを躊躇しそうになる。
しかし小さなその手のほうが、私から水晶玉を乱暴にもぎ取っていった。
「すっきりした、目的が明確になって。あとはただやるだけだもん」
アリューシアは言う。
「ああ、そうだね」
「おいおい、何がやってみせるだよ、こいつはかなり難物だぜ」
とりあえず訓練室ということになっているのだろうか、昨日の部屋に私とアリューシアにいるのだけど、その部屋にまたカルファルがやって来た。
「この魔族、簡単に契約を結べるような相手ではないぜ。プラーヌスはお前に死ねといっているも同然だ」
カルファルは今日も相変わらず派手な出で立ちをしていた。身体のラインが浮き出るタイトな衣服。更に真っ赤なマントを背中にまとっている。
似合っていないわけではないが、あまりにも人目を惹くその姿は尋常ではない。こんな男と一緒に街など歩きたくないものだ。
アリューシアが呆れた表情でカルファルを見ている。しかしその派手な格好については何も言及しなかった。それについて触れると、カルファルの思惑に乗せられたようなものだとの判断だろう。
「勉強の邪魔をしないでよ。この部屋から出て行って欲しいんですけど」
昨日はなかったテーブルも用意してある。椅子もある。
そこに座り、アリューシアはカルファルの存在を無視するように水晶玉に向き合い始めた。
「まあ、やってみろよ、この魔族はお前なんかのこと、見向きもしないはずだ」
「うるさいわね」
アリューシアは自分の石盤を取り出し、それにペンを走らせる。何の文字を書いているのかわからないが、いわゆる魔法言語なのだろう、それで魔族とコンタクトを取ろうとしているのだ。
しかしアリューシアの表情は曇ってゆく。
「ほらな。そんなものさ」
カルファルはほら見たことかといわんばかりの態度。
「・・・い、今は無理かもしれないけど。プラーヌス様に指導してもらえば、こんな魔族との契約なんて簡単なはずだわ。まだ五日あるんだから」
アリューシアが言った。その言葉を聞いて、私の心は重くなる。実は私がプラーヌスから預かったのはこの水晶玉だけではなかった。
「そう、そのことなんだけどさ、アリューシア。実際に僕も誤解していた。そして君も誤解しているようだ。プラーヌスは君がこの課題に合格するまで、指導するつもりはないみたいだ」
「え?」
アリューシアが私を見た。
「この課題を独力でクリアーすれば、弟子として認めて、それで初めて魔法の指導をするってことらしい」
「ちょっと待ってよ」
「それに今日から五日じゃなくて、昨日から五日だから、あと四日しかない・・・」




