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私の邪悪な魔法使いの友人2  作者: ロキ
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
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第四章 10)アリューシアの章

 ボーアホーブ家に再び暗闇が訪れていた。全てのランプの光が吹き消されたかのように、街は深く沈んでしまっていた。

 また、あの勝利の前に戻ってしまったかのよう。砦の周りを大勢の敵に囲まれかけたときと同じ、存亡の予感に苛まれている。


 (私が恐れていたことは、これか・・・)


 侍女のラダの報告を聞きながら、アランは大きなため息を吐いた。

 彼女はうな垂れている。責任を感じているのか、感じている振りをしているのか、どっちにしろラダの力で、この悲劇を防ぐことが出来るわけなどなかったのであるが。


 (そう、出来るわけがない。相手はあの魔法使い・・・)


 あの魔法使いがボーアホーブ家を脅迫することを見抜いていたアランであったが、このような手段に出ることは想像していなかった。

 責任を痛感しなければいけないのは、このアランだ。

 そして我が父と重臣。あの魔法使いに約束の報酬をすぐに払う決断をしなかった者たち。


 「どこまでも悪辣な男! やはり我々は頼るべき相手を間違えた。これならば」


 これならばギャラック家との戦争に負けたほうがマシだったとでも言うのか? 

 アランは父の背中に視線をやる。しかし父もがっくりとうな垂れて、グッとその言葉を飲み込んだようだ。


 「・・・奴は依頼主の娘を誘拐して、報酬の金額を吊り上げる卑怯な男。その事実を世界中に触れ回ろう」


 その代わり、父はそのような言葉を吐いた。


 「確かに彼は非難されるべきです」


 あの魔法使いは別に報酬の額を吊り上げるようなことはしていない。それは父と重臣たちの勝手な思い込みだ。

 とはいえ、我々が脅迫されていることは事実だった。彼の卑怯さを世間に知らしめるならば、そこに少しくらいの尾鰭がついても問題はない。


 「しかし、そんなことをしてもアリューシアは戻ってはきません」


 そう、問題はそこにはないのだ。どれだけ奴を責めても構わない。しかし何よりも重要なのはアリューシアを救うことにあるはず。


 「わかっている。奴はどこにいるのだ?」


 父の言葉を前に、家臣たちは首を傾げる。アランも首を振る。

 しかしこれは脅迫なのだから、いずれ向こうからコンタクトを取ってくるのは間違いないだろう。ただ腹癒せにアリューシアを殺すような男ではない。


 「あの魔法使いは邪悪にして卑怯、計算高い悪人ではありますが、愚か者ではない。アリューシア様に命の危険はないはず。まだまだ交渉の余地があるということです」


 家臣の一人がそう言った。

 自分の娘の命が危機に曝されているのである。父は彼の言葉に眉を険しく顰めたが、何度か頷き返した。

 確かにアリューシアを殺せば交渉は終わりだ。魔法使いのほうは、報酬の宝石を一粒たりとも受け取ることは出来ない。

 そして世間から責められるのは魔法使いのほう。あの魔法使いに仕事を依頼する者は、もはやいなくなるだろう。


 「奴がこのような手段に打って出たのは、この交渉を少しでも早く終わらせたいと焦っているからです。その焦りにつけ込む隙はあるでしょう」


 しかし、この期に及んでも、このような意見を進言してくる家臣たちにアランは怒りを感じた。彼らは何が何でも自分たちの資産を少しも失いたくないらしい。


 「いや、私には娘が三人いる。アリューシアの他にあと二人・・・」


 父は力なく言った。

 その通りだ。アリューシアは見せしめに殺される可能性だってある。すぐに妹たちの警備を固めたが、あの魔法使いの侵入を止める力はない。更に最悪の事態を迎えることもありえる。


 「父上、決断しましょう」


 アランは言った。父はその言葉にすぐに頷いた。重臣たちの反対の意見に耳を傾けながらも、その実、父の心は既に折れていたようだ。


 「お待ち下さい、我が主!」


 家臣たちはまだ納得していない者もいるようだ。一人や二人ではない。むしろ納得している者のほうが少ない。

 彼らの強い意見を聞いて、また父の心が揺れ始めた。アランは優柔不断な父を責めるよりも、これからこのボーアホーブ家を裁量していく難しさを思った。

 しかしまたもや、この事態を動かす報告が舞い込んだ。


 「森の傍の沼に、女の子の死体が発見されたようです」


 「何だって?」


 父が顔色を変える。アランも天を仰ぐ。

 だがその部下は自分の言葉が多いなる勘違いを引き起こしたことを詫びるように慌てて続けた。


 「服装などから鑑みるに、農夫の娘のようです」


 「そ、そうか・・・」


 父はホッと一息つく。「しかし、これは奴からの警告か? 早く決断しなければ次は娘だぞという」


 「早計は禁物です。これが奴の仕業という証拠は? 山賊の仕業ではないのか?」


 家臣の一人が、その報告を持ってきた部下を責め出した。


 「わ、私にはこれ以上の情報は・・・」


 責められた部下は困惑して、こちらに向かって助けを求める。


 「もういい、たくさんだ!」


 父が大声を張り上げた。「娘を助けたい。当初の約束通り、支払いを済ませよう」


 さすがにその言葉を前にして、不満をあらわにしていた重臣たちも押し黙った。


 「確かに悔しい。このような卑怯な脅しに屈するのは耐え難いことだ。だがアリューシアは我が娘、どうかあの子を救ってやって欲しい・・・。出来るだけ、そなたたちに迷惑は掛けない。これを機会にボーアホーブ家は更なる発展に向けて全力を傾けることを誓う。その前に、全ての負債を清算するのだ。アラン、あとは全て任せる」


 父はそう言って、すぐに部屋を出ていった。家臣たちの言葉を聞いていたら、また決断が揺れる恐れがあるからであろう。


 そして、その決断の瞬間をどこかで覗き見ていたかのように、魔法使いから連絡が来た。

 不吉な黒鴉が、嘴に手紙を咥えて、窓から侵入してきたのである。


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