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私の邪悪な魔法使いの友人2  作者: ロキ
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
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第三章 29)心が闇に苛まれる

 「それよりもアリューシアのことだけど」


 死んだりとか、殺されたりとか、そのような話題はもう充分だとばかりに、私は話しを切り替えた。

 とはいえ、アリューシアの話題だからといって、血生臭さがなくなるわけではないのだけど。


 「結局のところ、君は彼女をどうしたいんだよ?」


 私はワイングラスを置くと共に、そう問い掛けた。


 「どうしたいかだって? だからさっきから言っているじゃないか。さっさと追い出したいって」


 「彼女は本気で魔法使いになろうとしている。いや、既に彼女は魔法使いの端くれだから、今よりもっと優れた魔法使いになろうとしているということだろうか」


 私はカルファルの言葉を思い出す。

 カルファルの話しを全面的に信じるわけでもないが、プラーヌスはあまりに酷な条件をアリューシアに突きつけているらしい。あえて彼女を不幸に突き落とそうとしているかのような条件。

 もしその試験にクリアーしたとしても、アリューシアは健康や美を失う。今の彼女のまま、この課題をクリアーするのは絶対に不可能だと。


 「君は彼女を破滅させたいのかい?」


 私はプラーヌスの表情を観察するように、彼の瞳をじっと凝視した。

 プラーヌスは別に私を見返すわけでもなく、淡々と話してくる。


 「別に。確かに厳しい試練だろう。厳し過ぎるかもしれない。そして彼女がその試練と向き合った結果、どうなろうが僕の知ったことではない。しかしもし、僕の課題をクリアーすれば、一夜にして優れた魔法使いになるだろう。それも事実だ」


 「はあ」


 「いずれにしろ、魔法使いなんて生半可な心持ちで志すものではないってこそさ。君だってそうだろ? たとえば君の許に画家を志す少年がやってきたとする。君はそれを簡単に受け入れるか? 君ですら、画業で生活していくのは苦しいはずだ。その少年にもそう言って諭すはずだ。覚悟は出来ているのか? この世界はそんなに甘くないぜと」


 「ああ、確かにそうだけど」


 画家で生活するのは大変だ。好きな絵を日中一日描いて暮らせるのは楽しいけれど、その代わり、ありとあらゆる贅沢を我慢しなければいけない。

 もちろん、ありえないくらいの大成功を手にする可能性もあるわけだけど、ほとんど画家は極貧の中で暮らしている。


 「アリューシアなんて上流貴族の少女が、魔法に憧れるのも、魔法使いに憧れるのも、一時の気の迷いに過ぎない。魔法使いは常に魔族と交流し、魔界を行き来しなければいけないんだ。心が闇に苛まれるのは当然のことだ。彼女は健やかさを失うだろう。純粋さを失うだろう。酒や煙草、いや、それどころか阿片なしでは生きられない身体になってしまう可能性もある。あれほど美しい可憐な少女を、そのような陰惨な世界に引き込みたくない。はっきり言おう。僕はわざと過酷な試練を突きつけて、諦めるように仕向けている」


 「そ、そうだったのか、君は」


 けっこう彼女のことを思いやっていたんだね! そう言おうとした私を制するように、プラーヌスが声を挟んできた。


 「とでも言っておけば、君は納得するんだろ? 違うよ。とにかく僕は彼女が嫌いなのさ。貴族という生き物がね! だからさっさと追い出す。しかしもし、彼女が僕の課題をクリアーすれば、彼女は貴族ではなくなって、本物の魔法使いになりえるかもしれない。本物の魔法使いになれば、貴族独特のあの甘え切った態度や、臭みが消えうせる。少しはマシな人間になるだろう。魔法使いにはそれなりの利用価値もある。彼女がもし本物の魔法使いになることが出来れば、この塔においてやってもいい。まあ、無理なことだろうが」


 「は、はあ・・・」


 プラーヌスが貴族を嫌いなことはよくわかった。そして嫌いなものに対しては容赦がないということも改めて実感した。

 私はそんなプラーヌスに圧倒され、返事に窮した。

 しかし彼は別に、アリューシアが嫌いではない、そのこともわかった気もする。


 「わ、わかった、頑張って本物の魔法使いになれば、もしかしたら君はプラーヌスと一緒に仕事が出来るかもしれない。アリューシアにそう言っておこう」


 「シャグラン、君は何を聞いていたんだ?」


 「どうして? 少しも間違っていないはずだ。君はそう言ったさ」


 「なるほど、君は彼女の意志を後押しする側に立つつもりなのか? 魔法使いになったとしても、幸せになれるとは限らない。彼女は多くのものを失うかもしれないのに?」


 「ああ、それでも彼女を後押ししたい」


 プラーヌスの言う通り、その選択がアリューシアを幸福にするかどうかはわからない。

 むしろ彼女の身を案じるのならば、必死で止めるべきなのかもしれない。それこそが、彼女よりも人生経験がある者の務めのような気もする。


 しかしアリューシアが今、それを強く望んでいるのも事実なのだ。

 いずれ迫り来るかもしれない憂慮にばかり目を向けて、何かを成し遂げようとする者の邪魔をする人間に、私はなりたくない。


 「ふーん、君がそんなふうに考えるとは意外だね」


 プラーヌスの表情が少しだけ動いた気がする。


 「そ、そうかな」


 「いいだろう、ならば具体的に課題を定めてやることにしよう。先程、魔界を散策していたのだけど、ちょうど彼女にお誂え向きな魔族を見つけた。こいつだ」


 プラーヌスはフォークを置いて、本当に面倒そうではあるが、小さな水晶玉を懐から取り出した。そして私に向かって水晶玉を指差す。


 「この緑色に光っている魔族、上位のレベルの魔族では決してないが、それなりにまばゆい光を放っている。未熟なアリューシアにとって良い塩梅の魔族だろう。彼女にも言った通り、期限は五日後」


 私は水晶玉ごと、アリューシアへの課題を受け取った。


 「この魔族と契約することに成功すれば、君は彼女を弟子として認めると」


 「うん、約束しよう。しかしもし不可能だったときは、彼女をここから追い払う。料理人たちや執事を残して彼女だけね。君に文句は言わせない」


 何やらプラーヌスは恐ろしいことを言ったようであるが、私はそれほど深く感げずに頷いた。とにかくアリューシアがこの試験に合格さえすればいいいはずだから。


 「わかった、それでいいよ」

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