第一章 6)魔法使いの弟子
魔法の手解きをしてもらうため、この塔に来た。それがアリューシアという少女の返答。
ということは、弟子入り志望ということなのであろうか。
プラーヌスが弟子を募集しているなんて話しは聞いたことがない。
いや、彼の性格上、弟子を欲しがるわけもない。プラーヌスが誰かを熱心に指導するなんて!
しかもこれほどに無礼な態度で、夕食を邪魔した一行を、プラーヌスが快く迎えるわけがないだろう。
「もちろん、教えてもらったお礼に、それなりの見返りは払うけど。だって我々は、ボーアホーブ家なので」
アリューシアという少女は私の心を読んだかのように、そう付け足してきた。「それに私とプラーヌス様は知らぬ仲じゃないしね」
「知らぬ仲じゃない?」
「そう、忘れはしない、あれは二年前のことよ。ボーアホーブ家が隣国のギャラック家と争いになって。敵は卑怯な手を使ってボーアホーブ家を陥れようとしてきた。でもそのとき助けてくれたのがプラーヌス様だったの。あのときのプラーヌス様の魔法の凄さ! あの感動はまだ私の胸から消えない・・・。それ以来、絶対にプラーヌス様から魔法のご指導賜りたいと思っていたわけ」
「はあ」
「で、こないだ、プラーヌス様がこの塔の新しい主になったことを知って、それで急いでこの塔にやってきたってことよ」
なるほど、とりあえずアリューシアは、私の質問に全て答えてくれたようだ。いったい君たちは何者で、どうしてこの塔に来たのか? その質問に。
彼女の言葉を信じるのならば、プラーヌスは彼女たちと見ず知らずの他人というわけでもないようだ。
「まあ、時間の無駄だと思うけどね」
しかし私ははっきりと告げた。「プラーヌスは弟子を望んでいない。君と彼が知り合いであっても、無理だと思う」
「そんなこと、あんたが決めることじゃないでしょ? それはプラーヌス様ご自身が決めること。だからさっさとプラーヌス様に会わせてよ」
アリューシアは力強い口調で言ってくる。
「ああ、わかったよ、プラーヌスと会えるように取り計らうけど」
私が何を言っても納得しそうにない。だったらプラーヌスに直接言ってもらえばいいだけである。彼がどんな返事をするのかわかりきっている。
「でも今夜はもう遅い。明日の夕方まで待ってもらう」
「そのくらいなら待ってあげるわ。プラーヌス様と一緒にいられるのなら、私はどんなことにも耐えるから。ようやく居どころがわかったんだもん。一日や二日くらいなら余裕よ。でも、それ以上、待たせるようでは、いくらプラーヌス様でも許さないけど。そのときは、それなりの対処はさせてもらう」
かなり気が強そうな少女である。いや、それ以上に、何だか執念深そうだ。
ただ単に、我儘な貴族のお嬢様って感じではない。内心からエネルギーが溢れ出るようで、自分に絶大なる自信を持っている感じ。
プラーヌスはまたもや、面倒な相手に見込まれてしまったようだ。
「では、私たちはどこに泊まればいいのかしら。長旅でもうクタクタよ。すぐに部屋に案内して!」
彼女はそう言って、むしろ私を先導するように、さっさと部屋を出ていく。
私とアビュはやれやれと言った表情で顔を見合わせる。
いや、もしかしたら、面倒な相手に見込まれたのはプラーヌスではないかもしれない。
プラーヌスのことだ。気に入らない相手は平気で無視し続けるだろう。
ということは、彼女たちが長居する気ならば、アリューシアの面倒を看なければいけないのは、私の役目になってしまうのではないか。