第三章 24)憐れな魔法使いの末路
確かにその男は笑っていた。
誰かを笑っているのではなくて、どうやら自分を笑っているようだ。そのような笑い方なのである。
すなわち爽快な笑いではなくて、苦くて重い笑い。
私が医務室に入ったときには男はベッドに横たわってはおらず、半分身体を起こして壁に背中をつけていた。
誰かが用意したコップの水をちびちびと飲んでいる。
まるで水を飲むのが不馴れであるかのように、喉や襟の周りが濡れている。
「やあ、えーと、僕はこの塔に住んでいるシャグランという者。とりあえずこのナンバー2ってことになっている」
私はその男にそろりと近づきながら、声を掛けた。
「俺はカルファルだ」
「私はアリューシア」
当然のようにして、アリューシアとカルファルも医務室までついてきた。そしてその男に自己紹介までする始末。
「俺はまだ生きているのか?」
男が弱々しい視線を投げかけながら問うてきた。
「まあ、そうだね。ここは冥府でも天国でもない」
「なぜ俺は生きている?」
私は肩をすくめる。その問いに答えるのが面倒だったのだ。その中年の男の自己憐憫に付き合ってやる気になれなかったから。
「多分、お前など、殺す価値もない魔法使いだってことさ。ここの塔の主はお前を虫けらほどにも思っていない」
その代わり、カルファルが私の代わりに言った。その口ぶりは私よりはるかに辛辣であるが、私も同じ意見である。
「名前は?」
私は尋ねた。
「さあな。忘れた。死人とでも呼んでくれ」
私は溜息を吐く。何とも面倒なタイプだ。
「歩けるようになったら、ここから出て行って欲しい。あなたから取り上げた宝石はそのときに返す。もう二度とこの塔に近づくなというのが、塔の主からのメッセージだ」
「そうか」
もはやどうでもいいことのようだ。またもや男は水をボロボロこぼしながら、コップを口に傾ける。
この男がこのような態度を取るならば、彼との会話はこれで終わりだ。
こちらからも聞きたいことも特にない。ここに長居をしても仕方がない。
「塔が欲しかったのか、え?」
私が男の前を辞そうとすると、カルファルは私をグッと引き止めるようにして、その男に語りかけた。
男が鋭い眼差しでカルファルを睨む。
死人のように精気のなかった男に、パッと命の光が灯ったかのようになった。
「そうだ、塔が欲しかった。さもなくば死。死にたくもあった」
しかしそれも一瞬だけだ。
男はまた投げやりな口調になる。
その男、我々よりもずっと年上だ。とはいえ、まだ老人と言えるほどではない。
ベッドから起き上がり、無精髭を整えれば、むしろ年齢のわりには若い印象を受けるのかもしれない。
「どっちかの足が義足なんだって?」
「ああ」
自分の足が話題になったからといって、男は自分の足を動かしたり、そっちに視線を向けたりはしなかった。
弱い瞳の輝きで、カルファルのほうを見つめるだけ。
「アリューシア、ちょうど良い見本だ、よく見ろ、これが中途半端な魔法使いの末路さ。自ら足を切り取ってまで、上位の魔族とガルディアンの契約を取り交わそうとしたにもかかわらず、思ったほどの魔法使いにはなれなかった。それなのに、相変わらず塔の主への野望は捨て切れず、一か八かの捨て鉢な襲撃に出た」
その結果は哀れ。惨めに敗北して、敵の情けを受け、ベッドに横たわっている。お前もこんな人生が歩みたいのかい?
「い、嫌だけど・・・」
アリューシアがカルファルの辛辣な言葉を聞いて、不快感をあらわにする。
それは面と向かって男を痛罵しているカルファルを軽蔑している表情なのか、あるいは、もしかしたら自分がそのような人生を歩むかもしれないことへの恐怖なのか、どちらかわからない。
しかしとにかく、アリューシアは不愉快そうに唇を歪める。




