第三章 14)最上のジョーク
プラーヌスとカルファルは、しばらく笑い続けた。
まるで二人だけにしか理解出来ない、最上のジョークを共有しているよう。そんなふうに見えなくもない。
しかし違う。プラーヌスはカルファルの無礼を笑っている。
カルファルはそのような無礼を言われたプラーヌスを笑っている。
二人はお互いを嘲笑している感じ。
「そのような冗談をわざわざ言うために、ここまで来たのだとしたら、君の試みは大成功だね。本当に笑わしてもらったよ」
先にその攻撃な笑いを鞘に収めて、プラーヌスが言った。
「本気だぜ、プラーヌス。色好い返事を期待している」
カルファルも真顔に戻った。
「まだジョークが続いていたとはね」
「まあ、俺の人生そのものがジョークのようなものかもしれない。お前の深刻な人生に比べるとな」
再び二人は睨み合う。先に目を逸らしたのはプラーヌスだ。
「さらばだ、カルファル。君の旅の前途を祈るよ」
「いや、しばらくこの塔に厄介になるぜ。資金がなければ、旅は前に進まないからね」
カルファルはそう言い切るや否や、プラーヌスの応答を待たず、くるりと背を向け、颯爽と手を振りながら、我々の前から立ち去って歩いていく。
またあの踊るような歩き方。彼の歩き方には独特の美しいリズムがある。
私とプラーヌスは彼の背中を見送った。カルファルは一度もこっちを振り向くこともなく、階段の中に消えていった。
「えーと・・・」
プラーヌスに尋ねたいことがたくさんある。彼とはどのような知り合いなのか。過去、二人の間に何かあったのか。
しかしプラーヌスは自分の過去について話したがらない。私が好奇心を示せば示すほど、勿体ぶったように口をつぐむ男。
プラーヌスに尋ねるより、カルファルに訊いたほうが手っ取り早い気がする。
あの男はまだしばらく、この塔に居続けるはずだから。
「彼は魔法使いなのかな?」
しかし何も聞かないわけにもいかないだろう。
「そうみたいだね。しかも僕と知り合いらしい。だけど適当にあしらっておけばいい。金も渡す必要はない」
「あ、ああ、うん」
かなりの厚かましい要求だった。あんなものは金を借りる態度ではない。しかしきっとあれは彼の本音ではないだろう。私にはそんな気もしていた。
あの男はただ、プラーヌスと話しをしたいだけなのではないか。
その口実のための金の無心。あれは一種の照れ隠し。
そんなふうに思えなくもないのだ。
どうしてそんなことが言えるのか?
カルファルという男の、プラーヌスへの視線が、親愛とか懐かしさに満ちていたからだ。
彼は本気で、この再会を喜んでいるように思えた。
と同時に、プラーヌスがつれない態度に出ることも、あの男は充分に予想していたようだ。
それを見越しての建前、それが旅の資金云々という言葉ではないのか?
執務室で会話を交わしたときは、何とも嫌な感じを受けたが、プラーヌスと会話しているカルファルという男を見て、それほど悪い男でもないような気がしてきた。
「思わぬ邪魔が入ったな。ところで今日の予定のことだけど。まずは客たちと会う。それからアリューシアだっけ? 彼女に魔法を教える時間を少し取ろう」
「あ、ああ、わかった」
プラーヌスはさっきのことなどなかったように、さっさと話しを先に進めようとしてくる。その声は冷血そのものだ。
プラーヌスは、あの男のそのような屈折した想いに気づく性格では無さそうなのだ。
きっと、本気で腹を立てている。もう二度と、彼と会う気もないだろう。
まあ、しかしそんなふうに事が運ぶとも思えないが。




