第三章 13)旅の資金の無心
「なるほど、カルファルとは、君の名前だったか」
プラーヌスが舌打ちをした。
プラーヌスのその表情を伺う限り、質問するまでもなく、彼がこの客を歓迎していないのはわかった。
案内もされていないのに、勝手に謁見の間に入ってこられたことも不快だったかもしれない。
衛兵たちは何をしていたのか。そう思ったけど、彼が魔法使いならば制止することは不可能であろう。
「で、何かの用かな? カルファル」
「旅の途中に立ち寄っただけさ」
「ほう」
「俺は今、最高の女を探して旅をしている。この世界で最も美しい女をね」
カルファルが言った。何と言う恥ずかしいセリフであろうか。私はその言葉に唖然とさせられた。
しかし本人は少しも恥ずかしくもないようだ。むしろそんな自分を誇るように言ってくる。
「俺と女たちが静かに暮らせる家も探している。案外、この塔で暮らすのも悪くないかもな」
カルファルがピタリと足を止めて、謁見の間を見渡しながら言った。「良い建物じゃないか。お前にはもったいない」
「それは僕から、この塔を奪い取りたいってことか?」
一瞬、プラーヌスの瞳が鋭くきらめいた。
「違う、違うさ。俺はもう魔法は捨てたんだ。どうあがいても、お前のような奴には敵わない。もう努力をするのはやめた。これからの俺は、女に生きる。女はいいぞ、プラーヌス。柔らかくて、触り心地は最高。とびきり優しくて、従順だ。まあ、確かにどいつもこいつも嫉妬深くて、思い込みは激しい。しかも心は狭く、視野が広いとは決していえない。何でも一面的に捉えたがる。しかし、トータルで見ると、この地上で最も美しくて、心地の良い生き物は女だよ。猫よりも数等優れている。呑めば酒よりも上手い」
「ここに女を探しに来たのか?」
「こんな僻地にろくな女はいないだろう。旅の途中に立ち寄っただけだ。宿代わりにな」
「そうか」
プラーヌスはしばらくカルファルの顔を見つめ続けた。カルファルはその視線をニヤニヤしながら受け止めている。
「いいだろう、一夜の宿くらいは提供しよう。しかし明日になれば、すぐに出て行くんだ。それともう二度と、僕の前に姿を現すな」
「何だって? 俺たちはもう二度と会話出来ないのか? こんなにも早く、永遠の別れが訪れてしまうのかよ。まあ、いい。わかったよ、プラーヌス。しかしお前に一つ頼みたいこともある。金を貸してほしいんだ。長旅で資金が尽きかけている」
「金だって?」
「ああ、旅の資金だ」
「旅の資金!」
大袈裟に声を上げて、プラーヌスが笑った。
「そう、旅の資金だよ!」
カルファルも彼に負けないくらい、大声で笑った。




