第三章 12)旧友との再会
「とにかく、そういうことだ。今日から彼もこの塔の住人になったわけさ」
プラーヌスは私に言う。「まあ、シャグラン、君があの少年に関わることはないと思うけれど」
シュショテという少年はペコペコと頭を下げながら、私たちの前を辞していく。
プラーヌスの座る玉座のような椅子から、階段までかなりの距離がある。少年は何度も我々のほうを振り返りながら、トコトコと歩いていく。
彼の歩く姿は何とも頼りない感じだった。そのせいなのか、少年の雰囲気は年齢よりも更に幼げに見える。
彼のような少年にプラーヌスの助手なんて役目が勤まるのだろうか、そんな疑問も感じてしまう。
しかしプラーヌスがこの少年の実力を認めていることは事実なのだろう。あの少年もまた恐るべき魔法使いの一人。
「さて、今日の僕の予定だけど。王の遣いもまだ到着していないようだね? いったい彼らはいつ来るんだろうか。それはそうと、今日も客たち会わなければいけないのかな」
プラーヌスが欠伸混じりに言った。客との接見にすっかり飽きてきたようだ。
「ああ、王の遣いの姿はまだ見えない。一方、まだまだ客足は絶えないみたいだね。彼らは君に会えるのを心待ちにしている」
「わかっている。豊かな暮らしをするためには、金はどれだけあっても足りはしない。積極的に依頼を請け負って、大いに稼ぐつもりさ」
「それ以外にも、君には今日からやらなければいけないことがある。アリューシアに魔法の指導をするという約束だよ。もちろん忘れてないだろ?」
「アリューシア? ああ、ボーアホーブ家の小娘か。良いだろう、約束は守るさ。魔法の指導なんて無意味なことだけど」
私はホッと一息つく。
彼女のほうはしっかりと約束を守ってくれたのだ。こちら側が破るわけにはいかない。
「それより何より、君に聞きたいことがあるんだけど」
私は安堵のため息をつきながらも、今朝の事件の現場を思い出す。血塗れの男が倒れていたあの事件だ。
このこともプラーヌスに尋ねておかなければいけない。
「今朝、中央のホールに男性が倒れていたのを召使いたちが発見して、朝から大騒ぎだった。何か心当たりはないだろうか?」
「ああ、襲撃者だよ。昨晩、見知らぬ魔法使いが僕の部屋の近くをウロウロしていた」
プラーヌスはさらりとそんなことを言ってくる。
「何だって?」
「そういう魔法使いがいるものなのさ。明確な勝算もないのに、一か八かの勝負に出る魔法使いがね。何かの奇跡が起きて僕に勝てば、この塔が手に入るかもしれない。負けても死ぬだけだ。生きることに飽きた初老の魔法使いが、人生最後の悪あがきとばかり、僕を襲撃しに来たのさ」
「そ、そうだったのかい。最初は死んでいるのかと思ったよ。でも命に別条はないようだ。今、医務室で寝ている」
「奴に死という慈悲を与えはしなかった。更なる死に場所を探して、再度、苦悩の中を彷徨えばいい。しかし医務室だって? 僕を殺しに来た男だよ。そんな人間に親切な治療を施すのかい?」
プラーヌスが私を冷やかすように言ってきた。
「それは知らなかったけど。でも怪我をしている人間を、塔の外に放り出すわけにもいかないだろ?」
「まあ、いいだろう。あの程度の実力ならば、顧慮するに値しない。本当に無害な男だ。たとえ僕が眠りの中にいたとしても、彼に傷つけられることすらない」
プラーヌスは自信満々にそう言う。「とはいえ、彼も一応、魔法の使い手だ。君たちにとっては危険なはず。彼から宝石は奪っておいたほうがいい。身体の隅々まで探っておくんだ。魔法使いは至るところに宝石を隠している。もちろん宝石のついた指輪もしているはずだから、それも外しておくんだ。簡単に取り外せないなら、指を切断してでも」
「あ、ああ、わかった。彼の状態が落ち着けば追い出すことにする。そう言えば指輪で思い出したんだけど。君の旧友と名乗る男がこの塔にやってきたんだけど」
その男も指に指輪をしていた。随分な伊達男だったから、身を飾るための宝石だと思っていたが、もしかしたら彼も魔法使いではないのか? そんな考えが今、私の脳裏を過ぎった。
「僕に旧友なんていない。知り合いの人間は、全て敵だよ」
プラーヌスは冗談なのか本気なのか、そんなことを言ってくる。しかし真顔だから、本気なのかもしれない。
「カルファル、そう名乗っていた」
「カルファル・・・?」
「そうさ、俺だよ、プラーヌス!」
そのとき謁見の間にそんな声が響いてきた。私とプラーヌスは同時に、声のほうに目をやった。
男がこっちに向かって歩いてくる姿が見えた。私の執務室にいた男、あの伊達男が来たのだ。
しかし何という歩き方であろうか、まるで踊りでも踊っているような気障な歩き方。
「久しぶりだな、プラーヌス! お前もそろそろ俺に会いたくなった頃だろ?」
彼は大きな声でそんなことを言いながら、こっちにやってくる。




