第三章 11)助手の少年
プラーヌスとの接見を望んでいる客たちは、謁見の間の一つ下の階、十階に設えた客間で、適当に時間を潰しているはずだ。プラーヌスが会ってくれるのを、今か今かと待ち侘びているだろう。
客間でジッとしているのも退屈なのか、このあたりをウロウロしている客の姿も散見出来たが、中央のホールは昨日と比べると幾分静かになっていた。ほとんどの客たちが、私たちが用意したその客間で待機してくれているということだ。
中央のホールと謁見の間をつなぐ階段の前には、槍を持った衛兵が立っている。
基本的に客たちはこの塔の中を自由に歩き回ることが出来るが、謁見の間と、プラーヌスの部屋のある西の塔だけは通行禁止になっていた。
その先に行こうとしても、いかめしい顔立ちの衛兵に厳しく制止される。
当然のこと、この塔のナンバー2という肩書きを持っている私はその限りではない。衛兵に軽く会釈をして、謁見の間への階段を上がる。
謁見の間は夜の教会のように静まり返っていた。私の靴が立てる足音が高らかに響き渡るほどの静寂に包まれている。
プラーヌスはいつもの椅子に、既に座っていた。私は彼の姿を見て、歩みを早める。
彼は私の遅参を詰るかもしれない。何度も説明したとおり、彼は自分には甘いが、他人には厳しい。私の遅刻は絶対に許さない男なのだ。
しかしその日、彼は一人ではなかった。誰かと会話していた。
客だろうか。特に親しげに会話しているわけではないから、そうだろう。私は注意深くその光景に目を凝らす。
プラーヌスの前に居るのは若い男性だった。
いや、男性なんて呼べるような年齢ではない。少年と言ったほうが正確だろう。アビュやアリューシアとほとんど変わらないくらいの年齢の男の子だ。
見たことのない少年だった。謁見の間に通した覚えもない。
こんな客が、プラーヌスを尋ねてきたという連絡も受けていない。どうして彼だけが門番の目を掻い潜り、謁見の間にいるのだろうか。それなりに警備は厳しいはずなのに。
「やっと来たか、シャグラン」
プラーヌスが私に目を止めた。
「遅れてすまない、色々と立て込んでいてね」
私はそう言いながら、プラーヌスの前に居る少年に視線を向ける。
「相変わらず塔の仕事が忙しいようだね。時間に正確なシャグランでも、遅れることはあるだろう。謝ることはないさ」
珍しいことにプラーヌスは私の遅刻を責めなかった。しかしそれはその少年との会話に夢中で、私に注意を払ってないからだろう。
この少年は何者なのだろうかという、私の問い掛けるような眼差しも、プラーヌスはあっさりと無視してくる。
「えーと、彼は?」
仕方なく私から尋ねた。
「うん? ああ、助手を雇ったんだ」
「助手?」
そう言えばプラーヌスは、魔法使いの助手が欲しいとか言っていた気がする。
街に何か用事があるとき、魔法使いならば魔法で瞬間移動出来る。そういう使い走りが必要だとかなんとか。
「昨夜、魔界の掲示板に、助手を募集することを書き込んだのさ。何人かがそれを見て連絡をしてきたけど、この少年に決めた。この年のわりに、確かな魔法の実力を持っている。いずれ僕のライバルになるかもしれない。そういう相手は若いうちに芽を刈り取っておくか、あるいは飼い慣らしておく必要がある」
どこまでが本音で、どこまで冗談なのかわからないが、プラーヌスはそんな軽口を叩いてくる。いずれにしろ彼は上機嫌の様子。「名前は何だっけ?」
「は、はい、シュショテです!」
少年はどこかに突進でもするかのように、前のめりの姿勢で名乗ってきた。
かなり緊張しているのか、とてもオドオドした様子で、何やら挙動不審だ。私に向かっても、丁寧に頭をぺこぺこと下げてくる。
魔法使いぽくない。何とも可愛らしい少年だった。
寝癖のついた金髪。白い肌には、そばかすが見える。表情もあどけないし、クリクリとした目はとても澄んでいる。唇もぷくりと膨らんでいて、頬もふくよかで、まるで女の子のようであった。
羊飼いの少年のように純朴そうだが、貴族のように上品な容姿でもある。
一目見ただけで、私はこの少年に好感を抱いた。
「そういうわけで、彼の部屋を用意してやってくれ。西の塔のどこかがいい。僕の部屋の下の階に適当な部屋があればそこにするんだ」
北の塔と回廊の部屋は召使いたちの居住スペース。
来客が泊まる部屋は東の部屋だ。アリューシアの部屋も、私の部屋もそこにある。
西の塔にはプラーヌスの部屋しかない。
シュショテという少年がどれだけ特別扱いされようとしているのか、それだけでもわかる。彼は他の人間が傍にいるのが気に入らないはずなのに。
「本当に西の塔でいいのかい?」
私は思わず聞き返してしまった。
「ああ、問題ない。彼には手伝ってもらわなければいけないことがある。遠いと不便だからね」




