第三章 10)七人の愛人
香水の香りを漂わせるこの男、プラーヌスの知り合い、旧知の仲らしい。彼が嘘を言っていなければであるが。
しかしアリューシアしかり、そういう客は決まって偉そうで、傲慢な感じを漂わせているのだろうか。
「大きめの部屋を頼む。連れの女性が七人いるんだ。あいつら、どこに行ったかな?」
男は再び伸びをして、ようやく机の上から足を下ろした。「なかなか素敵な机じゃないか。嫌いじゃないぜ、こういう机」
私の険しい眼差しに気づいたのだろう、カルファルと名乗った男は机をパラパラと払い、機嫌を取るように微笑んでくる。
「女性が七人だって?」
私はその言葉に引っ掛かる。
「そうさ。七人とも俺を愛している」
「は、はあ・・・」
「公平を期するため、七人と同じ部屋で寝る。だから大きめの部屋を用意してくれよ」
何という男であろうか。私はこの男が更に嫌いになりそうだった。
しかしどれだけこの男が無礼でも、私がこの男のことを大嫌いであったとしても、プラーヌスの客かもしれない相手を勝手に追い払うわけにはいかない。
「わかった。プラーヌスに君のことを伝えてくる。ところで彼とはどういう知り合いなのだろうか?」
「あいつとどういう知り合いかって? おいおい、まるで女みたいなことを聞く奴だな。ねえ、あの子とどういう関係? ちょっと親しげにしてれば、どんな女性とでも肉体関係があるように見えるらしい」
「はあ?」
何を言っているのだ、彼は。私は愕然として、その男を見つめる。
「女たちは俺にそう言うのさ!」
「僕が聞きたいのは」
「わざわざ遠くから訪ねて来たんだ」
彼は私の言葉を制して言ってくる。「とにかくプラーヌスと逢いたい。まあ、しかしどうせあいつのことだ。まだ寝ているんだろ? いや、ようやく起き出す時間かな」
ああ、確かにその通りだ。この男はプラーヌスの生活のサイクルを理解しているようだ。それなりに親しい付き合いなのかもしれない。
まさにちょうど今頃、謁見の間に現れる時間である。いや、もしかしたら既に到着しているかもしれない。
ということは、いつまでもこの男の相手をしている時間はないということ。
急がなければいけない。プラーヌスは人を待たせることは厭わないが、待つことは大嫌いなのだから。
「わかった。とりあえず部屋くらいは用意しよう」
もう少し話しを聞いて、この男の素性を知っておくべきだと思ったが、この辺りで切り上げることにした。あとはアビュか召使いに、この男の世話を任せよう。
私は執務室から出ようとする。その同じタイミングで扉が開いた。折りよくアビュが入ってきた。
「あれ? ボス、もう帰ってたんだ? 探し回ってたのに。この人、主の知り合いなんだって」
「ちょうどいいところに来た。アビュ、彼に部屋を用意してやってくれ。僕はプラーヌスと会ってくる」
「おお、さっきの可愛いお嬢さんだね。飛びきり大きな部屋にしてくれよ。ベッドも大きなベッドだ」
男がアビュに向かって声を上げた。
「はいはい」
可愛いお嬢さんと言われて、アビュは満更でもないようだ。照れるとムッとした表情になるから、これはアビュが喜んでいるときの顔だ。
どうやらこの男を執務室に通したのはアビュのようだ。
見知らぬ男をいきなり執務室に入れてはいけないことぐらいアビュだって理解しているに違いないが、この男の妙なペースに巻き込まれたのだろう。
口の上手い男だ。女性の扱いにも馴れている。アビュを言い包めるぐらい容易いことだったに違いない。
しかしこれから、こんなことがあってはならない。
きつくアビュに言い渡しておかないと思いながら、私は部屋を出る。
「アビュ、あとは頼む。彼に食料と飲み物も出してやってくれ」
「うん、わかった」
「おい、カルファルだぞ。カルファルが来たと伝えるんだ。プラーヌスはすぐにわかるはずだ」
背後で男の声がする。私はその言葉に返事を返さず、謁見の間に急いで向かう。




