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私の邪悪な魔法使いの友人2  作者: ロキ
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
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第三章 8)提案

 サンチーヌは塔をひと廻りしただけで、たくさんの改善点を指摘してくれた。

 塔は本当に巨大で、彼の勤めるボーアホーブ家の屋敷とすら比べようもないが、しかし高水準の生活を維持するために必要な仕事はどこも同じはずで、自分のこれまでの経験は充分に通用しそうだと彼は言う。


 「確かに大改革が必要ですね。今の状況は酷いとしか言いようがありません。ぶらぶらしているだけの召使いたちがあまりに多い。塔の主が苛立つのも理解出来ます」


 サンチーヌは無愛想で、表情もほとんど変えないが、お喋りすること自体は大好きなようだ。

 一度話し始めると、一瞬たりとも止まることなく、つらつらと淀みなく喋り続ける。

 しかもかなり的確で簡潔。その声も少し低い声で、聞いていて心地良い。


 「しかし仕事はいくらでも創出出来ると思います。むしろ今の数では少ないくらい」


 「そうですか?」


 この塔の状況が酷いのは、私の怠慢のせいだと誤解してそうなサンチーヌに、適当に言い訳をしておくべきかと思ったが、今は止めておいた。いずれ彼も知ってくれるだろう。私だってまだこの塔に来て間もないことを。


 「手の空いた召使いをクビにして追い出すより、他の仕事に当たらせたほうが生産的です。たとえば塔の周りの農耕地をもっと充実させるのです。そうすれば、毎日新鮮な野菜や果物を食べることが出来る」


 サンチーヌは中庭の見える窓の前で立ち止まり、地上を見下ろしながらそう言った。


 「ああ、なるほど」


 それは私にもプラーヌスにも、なかった発想だと思う。それが上手くいけば、全て自給自足で賄うことが出来るかもしれない。そこまでは無理だとしても買い入れる食料を大幅に減らすことは出来るだろう。


 今でも塔の周りに畑がないわけではなかった。そこを耕している農夫もいる。

 しかし今のところ、門の内側の狭い敷地を耕しているだけ。その程度の農地では、この塔の住人を養うことが出来るわけはない。


 「新たに周りの森を開拓するのです。木々を伐採して、そこを農地にするわけです。ここには土地も水も働き手も充分にある。あとは行動のみでしょう」


 中庭を見下ろしていたサンチーヌの視線が更に遠くに伸びる。広大なあのカプリスの森にまで。


 「本当に良い考えだと思います。すぐにプラーヌスに相談しましょう」 


 しかし問題はある。明日からは畑を耕すように命じたとして、あの怠惰な召使いたちに、このような厳しい労働が務まるのだろうか。

 いや、そもそも喜んでその仕事を受け入れるはずもない。

 私がその不安を話すと、サンチーヌも同意をしてくれた。


 「確かに彼らには受け入れがたいことでしょう。説得にはかなり根気がいるかもしれません」


 「そうですね」

 

 いや、あのプラーヌスが召使いたちと交渉するとは思えない。

 新しい仕事に従事しようとしない奴は、一人残らずこの塔を追い出すのだ。プラーヌスはきっと私にそのように命じてくれるだろう。

 私は多少、そんな召使いたちに同情したくなる。

 プラーヌスの都合だけで、これまでの慣れ親しんできた人生を一変させられるのだ。私も同じように、自分の仕事の変更を余議された身としては、他人事とは思えないのである。


 「もちろん、これまで通りの仕事をしてもらわなければいけない召使いもいます」


 サンチーヌは廊下に落ちていたゴミを拾い上げて言った。


 「掃除は欠かせませんから、それなりの人員を割くべきでしょう。掃除係がどれだけ必要か、それは塔の見取り図が完成してから計算するとして。しかしいずれにしろ、今の仕組みでは無駄が多過ぎることは事実。中央のホールの掃除係はそこしか掃除しない。それを掃除し終えれば、それでこの日の仕事は終わり、そんな感じでは彼らは半日も働いていないことになる。少ない人数で、塔の隅々まで掃除することが出来る仕組みを作る必要があります」


 まだまだサンチーヌが提案してくれたことはある。しかしそれ以上は割愛しよう。とにかく彼が本気になって、この仕事を手伝ってくれていることは間違いないようである。


 「この塔の管理をあなたに任せたい」


 その言葉がすぐそこまで出かかっていた。

 サンチーヌに全てを任せればどんなに楽なことであろうか。

 私のような絵描きではなく、サンチーヌのような経験豊かな者に塔の管理を任せたほうが、プラーヌスだってもっと安心して自分の仕事に打ち込めるはずである。

 

 しかしプラーヌスがそのような決断をするわけがない。

 彼はその生来の性格のせいか、他人をたやすく信用したりしない。金で雇った執事に塔の全てを委ねるはずがないのだ。

 私のような長年の友人にしか心を開かない。

 いや、私にだって本当に心を開いてくれているかわからないが、この塔を任せるには足ると判断出来る程度には信頼してくれている。

 どんなに無能で、その仕事に不適任であろうとも、私がこの塔を守るしかない。

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