第三章 6)執務室
この塔には有り余るほどに部屋がある。誰も使用していない部屋が無数にあるのだ。
色々と検討した結果、中央のホールに面した部屋の一つを執務室にすることにした。
中央のホールは、そもそもアビュや他の召使いたちとの待ち合わせの場所でもあった。
名前の通り、この塔のほぼ中央に位置している。
執務室を作るのならば、ここが打ってつけであろう。
広すぎても執務室としては不適当だろう。とはいえ狭くてもいけない。執務室でする仕事は、机を前に書類を作成したり、サンチーヌたちと会議したり、それくらいのこと。
中央のホールに面した場所に、ちょうど手頃な部屋があった。二間続きになっていて、大きな窓もある。いくつか部屋を見て廻り、最終的にその部屋に決めた。
しかしその部屋には何もなかった。ただ石の床と壁が広がっているだけだ。
家具や調度品を運び込んで、それなりに執務室としての様相を取り繕わなければいけない。
西の塔の納屋には、テーブルや椅子、ベッドなどが雑然と積まれている。
その納屋からならば、簡単に家具を運び出せたが、しかしせっかくなので、地下の倉庫にまで足を運ぶことにした。
地下の倉庫には、納屋にある家具より、一つも二つもグレードの高い品物が揃っているのだ。
何のアポイントメントも取らず倉庫室を訪れたのだけど、倉庫係は嬉しそうに私を迎えてくれた。
欲しい家具のイメージを伝えると、彼は次々にその品物を見せてくれた。
「このテーブルは、さる国の高官が使っていたというテーブルです。数年前、蚤の市で購入しました。どうでしょうか、お気に召しませんか?」
木製だが頑丈な材質で出来ているようで、見るからに高価な代物である。
脚の部分も単純な直線ではなく、丸みを帯びた柱頭のような形態で、そこいらに細かい装飾が施されている。私にはもったいないような素晴らしいテーブルだ。テーブルはそれに決めた。
椅子ばかりが置かれているコーナーもあるようで、そこの品揃えは更に充実していた。
私はいくつか試しに座り、最も座り心地の良かった椅子を選んだ。
「書類を納めておく適当なキャビネットも欲しいね。それと棚もいる」
棚にワインやグラスなどを置いておこう。何の飾りのない部屋が、少しは華やぐだろう。
それとサンチーヌやアビュも、何か書きものをするかもしれない。もうワンセット、今のよりも小さなサイズの椅子とテーブルがいるかもしれない。
ときに会議をすることもあるだろう。それ専用のテーブルも必要なはずである。
私は全ての要望を倉庫係りに申し付けた。彼は私の要望に嬉々として応え、それに適した家具を出してくれた。
以前この倉庫に来たときは、どうにも品物が少ないような気がしたのだけど、こうやって見ると、かなり充実しているようだ。
確かに貴金属や、派手な装飾品は少ない。しかし生活に必要なものに関して、品揃えはかなり豊富だ。
午前の時間は、この作業にだけ費やされた。地下の倉庫から中央のホールまで運ぶのも大変だったのだ。
しかし、さすがサンチーヌだった。私が地下の倉庫でテーブルなどを選んでいる間、その執務室になる予定の部屋をきれいに掃除してくれていたのである。あとはテーブルや椅子を設置するだけであった。
執務室なんて上等なものを持つことになって、嬉しくないといえば嘘になる。先行きは不安だが、この仕事をするのが少し楽しくもなってきた。




