第三章 3)おそらく魔法使い
「医師が来るまで、この男の身元を探っておきましょう」
サンチーヌはそう言うと、死体に歩み寄り、その懐を探り始めた。
私が触れるのも嫌だった死体。だからこそ、その仕事をリオンおじさんに押し付けようとしたわけなんだけど、サンチーヌは嫌悪や恐怖を見せず、その作業を淡々と進める。
本来なら私が率先してやらなければならないことだったのかもしれない。まるで出し抜かれたようで、気分は良くなかった。
とはいえ、サンチーヌのほうが、私より年齢も上で、執事としての経験も豊かなのである。
口元のかすかな皺と、落ち着き払った態度を見ていると、彼のような者に対抗意識を抱くのは馬鹿らしい気分になる。
サンチーヌは死者の懐から革袋などを取り出し、それを私に手渡してきた。
ずっしりと重い革袋だった。中からガチャガチャと音がする。
「中には何が?」
死体の懐を更に漁りつつ、サンチーヌが尋ねてきた。
「ちょっと待って下さいね」
私は革袋を恐々と覗き込む。しかし少しも恐れる必要はなかったようだ。入っていたのは宝石だった。
その中の宝石を全て出す。かなりの量だ。片手だけでは零れ落ちてしまいそう。
私の手の平いっぱいの宝石を見た野次馬たちから、感嘆の声が上がった。
隣に立っていたアリューシアの侍女、名前は確かラダ、私は彼女に両手を出すように促す。そして宝石を全て彼女の手の平に移し変えた。
「凄い! 全部、本物ですよね?」
宝石の粒だった煌きを前に、ラダも感動の声を上げた。
「うん、多分ね」
「これだけの宝石を持ち歩いているってことは、商人、宝石商ですかね?」
まあ、その可能性もあるかもしれないが、きっと違うだろう。宝石商が、このように無造作に革袋に宝石を入れておくはずがない。
「いや、この男性、おそらく魔法使い」
私は言った。
「魔法使い? どうしてそれが?」
サンチーヌも振り返り、私を見た。
「宝石商なら、きっとこのように宝石は扱わないはず。大事な商売道具なんだから、もっと大切に保管するでしょう。しかし魔法使いは違う。魔法使いにとって宝石は装飾品ではなく、魔法を使うための道具です。こうやって革袋に放り込んでいるのは、この塔の主であるプラーヌスも同じ」
私は少し得意げに言った。どうやらサンチーヌが知らないのに、私が知っている知識があったようだ。
しかし魔法使いが被害者だということは、彼を殺したのは相当の使い手だということになる。
魔法使いを殺せるような力を持つのは、ほんの一握りの人間であろう。すると犯人は自然に絞られていく。
やったのはプラーヌス?
「他に身元を特定出来るような物は・・・」
サンチーヌはそう言いながら、更にその死体の身体を探ろうとしていたが、その手をはたと止めた。
「彼は生きているようですね」
首を傾げながら、サンチーヌが言った。
その疑問を確かめるよう、彼は死体の胸に耳を当てた。いや、生きているのならば死体ではない。意識を失っている瀕死の重傷者である。
「やはりこの人は死んでいない。鼓動の音が聞こえる」




