第三章 2)死体
謁見の間で誰か死んでいる。
アビュのその驚くべき発言を裏付けるように、サンチーヌが厳粛な表情で頷いている。他の連中もだ。
どうやら彼らも、その死体を見てきたようだった。そして、それが原因で彼らの顔色が優れなかった様子。
「そ、そうですか」
私はつぶやく。と同時に、少し心のどこかでホッとしていた。
サンチーヌたちは別に、私と仕事をするのが嫌だから、このような浮かない表情をしていたわけではなかったようだから。
彼らのその憂鬱の原因は謎の死体。
しかしホッとしている場合でもなかった。
人が死んでいるなんて大事件である。
「ところで、いったい誰が死んでるんだよ?」
私はアビュに尋ねた。いや、それよりもまず現場だ。
私はそう尋ねながら、謁見の間に通じる階段のほうに向かう。
アビュや、サンチーヌたちも後をついてくる。
「わからない、誰も知らないおじいさんよ。謁見の間の掃除担当の人が、今朝見つけたみたいなんだけど」
「誰も知らないおじさん? ここの召使いではないってことかい?」
「うん、そうみたい」
「だったら、昨日来た、客の誰かかな?」
「そうかもしれない」
現場には人だかりが出来ていた。召使いたちがその死体を取り囲んでいる。
彼らもここに長く暮らしてきたようだが、このような事件は滅多にないのだろう、大変に驚いている様子が見て取れた。
私たちは野次馬をかき分け、死体の前まで進む。
確かに死んでいる。頭が割れていて、その傷口から流れた黒い血が大理石の床を汚している。
「これって殺人ってやつでしょ?」
アビュが言った。
「あ、ああ、誰かが殺したんだろうな・・・。犯人はまだこの塔の中にいるのかもしれない」
それはとてつもなく恐ろしいことだ。本当に犯人がまだこの塔にいるのならば、再びこのような事件が起こってしまうかもしれないのだから。
そしてもしかしたら、私か私の知り合いの誰かが、その次の毒牙の餌食になってしまうかもしれない。
「どうしよう・・・」
私は力なくつぶやいた。
「この塔では連日、何らかの事件が起こるようですね」
サンチーヌが言った。その声には特に何の感情も含まれていなかったが、私には皮肉にしか聞こえなかった。
とはいえ、否定のしようがない事実ではある。本当に毎日、何らかの事件が勃発している。
いずれサンチーヌたちは、大群でやってくる蛮族にも遭遇することがだろう。あるいは女神の哀しげな泣き声を聞くこともあるかもしれない。
いや、私も予想していなかったような、とんでもないことが起きることだってあり得る。
「しかしさすがに、死体が発見されたのは初めてです」
「これでは仕事どころではありませんね」
「アビュ、とにかくリオンおじさんを呼んできてくれないか」
私は言った。
リオンおじさんというのは、この塔のただ一人の医師である。
死体を医師に見せても無駄かもしれないが、死体を扱うのに馴れているのは医師だろう。
アビュは私の意を受けて、すぐに廊下を駆け出した。




