第一章 24)料理の力
「では、次は俺の料理を」
アバンドンがミリューの肩をさりげなく押しのけ、次の皿を並べ始める。「メインディッシュの七面鳥の料理です。それとポテト、手製のパンです」
焼かれた七面鳥は食べ飽きた料理だが、それもこれまで食べてきたものとレベルが違っていた。
火の通り具合、表面の革のジューシーさ、その味付け、全てが完璧なのである。
先程の料理が優しい味だとすると、この料理は豪快な料理だ。
口に入れた途端、まるでガツンと殴りつけられたように、強烈で刺激的な味が舌に押し寄せてくる。一つ一つの味が際立っていて、鋭角に切り込んでくるような勢い。
「うん、これも美味しい。全てが完璧だ」
ゼロから作られているらしいパンも格別だった。これまで食べてきたパンと、柔らかさが全然違う。
全ての料理に言えるのだけど、どれもこれも生まれて初めて食べたものではない。
そして味に関しても、初めて味わうものではなかった。むしろどこか馴染みの味なのだ。
しかしそのレベルが格段に高かった。知っている味付けなのだけど、その味付けのレベルが違うということ。だからこれは、美味しいとしか表現のしようがない。
プラーヌスは一瞬たりともスプーンとフォークを持つ手を止めることなく、前に出された料理を口に運び続けた。
「では、デザートもお持ちします。しばしお待ちを」
そう言って、ミリューとアバンドンは応接の間を後にした。心なしか、その背中は自信で満ち溢れていた。プラーヌスに気に入られたことを確信したのだろう。
「うむ、とてつもない料理だったな、シャグラン」
こんなに感動しているプラーヌスを見たのは初めてかもしれない。「やはり料理は食材よりも、料理人の腕なのさ。どのような料理人と共に暮らすかで、人生の幸福の半分は決まるのかもしれない」
「ああ、僕も驚いた。想像以上だった」
私はこの塔に来て良かったと、初めて心の底から思ったかもしれない。だってこんなに美味しい料理が食べられたのだから。郷里で過ごしていたら、このようなものを味わう機会は訪れなかったであろう。
「彼らをここの専属の料理人にしよう」
プラーヌスが言った。
「何だって?」
私は思わず聞き返した。
「あの二人を僕の専属の料理人にするんだよ」
「し、しかし二人はアリューシアの家に仕えている。こんなに優秀な料理人を手放すとは思えないけど」
私はプラーヌスの相変わらず自分勝手な性格をたしなめる。
「いくらで雇われているのか調べておいてくれ。二倍、三倍出しても惜しくない」
「お金で動くかな・・・」
「それが無理なら、何か弱みを握って」
「え?」
「いや、独り言さ。気にしないでくれ」
「そんなことをしなくても、しばらくの間なら、彼らの料理を食べる方法はあると思うけど」
私は言った。当然、プラーヌスもわかっていたようだ。
「ああ、そうだね。あの二人の料理が食べられるのなら、アリューシアの弟子入りを認めてやってもいい」
「え? ほ、本当かい?」
さっきまでは頑固な老人のように、頑ななまでに受け付ける気配は見せなかったプラーヌスが、まるで反対のことをサラリと言ってのけた。
「弟子入りくらい、安いことだ。どうということもない」
名残惜しげに最後の一切れを食べて、彼はフォークを置いた。この料理で、彼の気分はすっかり変わったようだ。
「でも貴族は嫌いなんだろ?」
私は尋ねた。
「大嫌いだ」
「しかも彼女はどうやら、君に惚れている」
「最悪だね。しかしこの料理を食べられるのなら、我慢しよう。彼女は僕の初めての弟子になる」
余りにもあっさりとしているので、本当にこれでいいのかって思わなくもないが、しかしアリューシアの大願はとりあえず聞き入れられたようだ。
「しかし僕の塔で、貴族面されるのは不愉快だ。彼女の付き人を取り上げて、君の下で働かせるがいい。それも交換条件の一つだ」
「え? どういうことさ?」
「彼女が連れてきた執事と侍女たちに、この塔の仕事をさせるんだよ。料理人たちの腕前から判断するに、彼らもきっと優秀だろう。何かの役に立つはずだ」
プラーヌスはそう言って、椅子から立ち上がった。
「全ては僕から話す。すぐに彼女たちを謁見の間に集めてくれ」
「わかった。しかしプラーヌス、食事はもう終わりかい? まだデザートがまだだけど?」
「そうだった、大事なものを忘れていたよ」
プラーヌスは慌てて椅子に座り直す。それと同時に扉のノックの音がする。
二人の料理がデザートを持ってやってきたようだ。




