第一章 17)魔法使いという種族
「プラーヌスに弟子入りしたいって言っているけど、君は本気で魔法なんかを学びたいのかい?」
プラーヌスに口利きしてやるのだから、こちらからの質問に答えてくれ。
別にそのような交換条件を出すわけでもないが、私はアリューシアにそう質問をした。
若い女性、しかもボーアホーブ家という名家の娘が、魔法使いになりたいなんて、そんな話し、にわかに信じられないのだ。
魔法使いになるにはかなり厳しい訓練が必要だ。
ストイックで、ハングリーで、向上心が旺盛で、忍耐強くて、しかも類まれなる知性が要求されるはず。
何不自由なく育った貴族の娘に向いている仕事だとは思えない。むしろ貴族の少女など、魔法使いと最も遠い世界に位置している。
「本気よ、本気も本気。本気の中の本気。確かに少しでも長い時間、プラーヌス様と一緒にいたいっていう下心もあるんだけど。でも魔法使いになるのは私のちっちゃいころからの夢で。って言うか、もう既に、私だって一応、魔法使いなんですけど」
「え? そうなんだ」
「そうよ。ガルディアンとも契約を結んでいる。使える魔法だってたくさんあるわ。まあ、まだまだ未熟だってことは認めるけど。・・・でもね、私、天才らしいから」
「はあ?」
「生まれつき、魔法の才能に満ち溢れているのよ。プラーヌス様と出会って以来、あの人みたいになりたくて、魔法使いの家庭教師を雇ってもらってずっと勉強しているんだけど。その教師は私の飲み込みの早さには舌を巻いている。きっとプラーヌス様だって、私の実力を知れば弟子入りを許してくれるはず」
「そうか、なら頑張ればいいけど」
魔法の天才なんて話しを信じることは出来ないけれど、それ以外の言葉に嘘はないだろう。
彼女くらいの身分なら、魔法使いの家庭教師の一人か二人、簡単に雇うことが出来るはず。
そんな環境で、それなりに時間をかければ、魔法使いの端くれに加わることくらいは難しいことではないのかもしれない。
「ああ、本当に楽しみだわ。ようやくあのプラーヌス様とお話し出来るなんて! 私はこの日をどれだけ夢見たことか!」
アリューシアは謁見の間の、はるか高みの天井に向かって、半ば叫ぶように言った。「でもとても緊張する。心臓が張り裂けそうなくらい」
そう言ったかと思うと、今度は大理石の床に目を落として、自分の胸をグッと両手で押さえる。
「ねえ、私のこの興奮はあなたにはまるで伝わってないでしょうね。きっと私のこと、意外とクールで冷静だって思っているのかもしれない」
アリューシアは私に向かって言ってくる。
「いや、別に思っていないけど・・・」
「でも、私の心の中は、真冬の夜の海のように荒れ狂ってるのよ! 本当に本当に。もう無理、息が出来ないくらい!」
外から見ても十分に興奮しているのは伝わってくる。しかしアリューシアが言いたいのは、その興奮以上に、もうとんでもないくらいに自分は興奮していると言うことかもしれない。
「プラーヌスがこの塔にいるってわかったのは、いつのことだい?」
彼女を少し落ち着かせるためというわけではないが、私はまた別の質問をする。
「数日前よ、魔界にその情報が流れたの。プラーヌス様がカプリスの森の塔の主になったって。それで私はすぐに飛んできたのよ! でもいつかこの日が来るっていうのがわかっていたから、準備に時間はかからなかったわ」
「ふーん」
最初はただ元気が取り得の、我儘な貴族の小娘にしか思えなかったが、今日一日でその印象はいくらか変わった。
自分に仕える執事や召使いには思いやりがあるようだし、プラーヌスへの想いもどうやら嘘ではないようだ。
それに魔法の勉強だって本気らしい。
もちろんその動機は魔法を学びたいというよりも、出来るだけプラーヌスと一緒に居たいことが目的のようであるが。
魔法使いという種族に多くの知り合いはいないけど、彼ら彼女たちには共通の何かがあると思う。
それは何となく仄暗い雰囲気が漂っているところ。
更に言うと、実はどこか生真面目で、熱心で、ひたむきな情熱や忍耐強さを持っている雰囲気が感じられるところも。
一見するところ、ただ元気でかわいらしい女の子にしか見えなかったアリューシアにも、そのような部分が伺えなくもないのだ。
魔法使い独特の神経質な感じ。少なくとも普通のお嬢様ではないことは間違いないと思う。
「わかった。プラーヌスの弟子になることが出来ればいいね。僕も出来るだけ協力するよ」
私は改めて協力を申し出てやった。今度はそれなりに気持ちを込めて。




