第五章 38)衛兵が来る
「衛兵が来る! 全員が武装しているぞ!」
スザンナは北の方向を指差しながら、切迫した表情で怒鳴ってきた。「状況は予想していたよりも悪い」
「それでも彼を何とか守って欲しい!」
私は声を張り上げて、屋根の上にいるスザンナに怒鳴った。
少しの逡巡もなく、スザンナは応えた。
「いいだろう。約束の報酬、必ず支払ってくれるな! あんた、名前は?」
「え、ああ、うん、もちろん。何が何でも彼を守って欲しい。僕の名前はシャグランだ」
「その言葉を信じる。血が流れる、殺し合いだ」
殺し合い。ああ、何ということだ。何とか話し合いで解決したりはしないだろうか。
しかしこの街の治安のためには、力づくでもシュショテを黙らせる必要があると衛兵たちは思っているのであろう。それもまた正義。
そして私のほうは、誰にもシュショテに手を触れさせるわけにはいかない。だとすると衝突は避けられない。
それにしても、血が流れるなんて・・・。
シュショテは大聖堂の尖塔は壊してしまったが、それ以外に何か壊してわけでもなく、誰かを直接傷つけたわけでもなさそうだ。
しかし宙に浮きながら魔法を放つその姿は、刃物を振り回している大男と同じようなもの。誰の目から見ても、彼は危険人物である。実際、崩れた瓦礫で怪我をしている被害者だって多数。
「本気か、スザンナ、この街の衛兵を殺すのか? ここにはいられないなるぞ!」
背後から酒場の主人の憂慮に満ちた声がした。
「本気さ。この街は故郷だけど、捨てるに惜しいわけでもない。この仕事を終えて報酬を得れば、我々バングルスは街を出るだけだ!」
「苦労することになるぞ」
「そもそも彼の仕事を斡旋したのはあんたじゃないか!」
スザンナは苦笑いしながら言う。酒場の主人も心なしか恨めし気に私を見てくる。
「こんなことになるとは思いもしなかったからな・・・。わしはまだこの街で商売を続ける。仕方ない、ここで縁を切ろう」
酒場の主人は振り返りもしないで、そくそくと立ち去っていった。
無慈悲だとは思わない。酒場の主人の考えは十分に理解出来る。彼の考えを責める者は誰もいないであろう。
今、この街では大変なことが起きようとしているのだ。街の秩序を守る衛兵と、金で雇われた傭兵が戦おうとしている。
酒場から一緒に来た多くの傭兵たちも、主人と一緒に立ち去っていった。残ったのはスザンナの仲間の傭兵たちだけ。
その一方で、街路の向こうから、たくさんの人がこちらに近づいてきている気配を私は感じた。群衆たちの意識も、シュショテから、そちらに移動する。
鉄のプレートが触れ合う、ガチャガチャという音が聞こえてくる。衛兵のまとっている鎧の音だ。重い軍靴の音も響く。彼らが現場に近づいてきているのだ。
本当に戦いが起こってしまう。私は急いでアリューシアのもとに駆け寄った。彼女を守ることをサンチーヌに約束した。それだけは絶対に破るわけにはいかない。
「大丈夫か?」
アリューシアに声を掛けると、彼女は私の腕を力強く掴みながら大声で叫んできた。
「大丈夫じゃないわ! 何なのよ、あの子! こういうことになるの、知ってたの、あんたは?」




