第一章 11)来客名簿の作成
何だ、いったい? 私は呆然とアリューシアの後ろ姿を見送る。
偉そうで、恩着せがましい、その貴族的態度。その一方、気まぐれで、急に親切になったり、急に素っ気無くなるこの年頃の少女特有の態度。私はそれに困惑されている。
しかし彼女はどうやら、この塔の窮状を救ってくれるらしい。本当に助けてくれるというのならば、それにすがりつきたいことは事実。
「では、さっさと仕事に掛かりましょう、私も差し迫った空腹を感じているのでね」
私が呆然と彼女の後ろ姿を見送っていると、サンチーヌが言ってきた。
丁寧な口調であるが、彼の声にも私を蔑むような響きが込められている気がする。
「はあ、それではお願いします」
ムッとしたくなる気持ちもなくはなかったが、私は大人しくサンチーヌに従う。
「彼ら全員、この塔の主、プラーヌス様の客ですね?」
サンチーヌが尋ねてきた。
「はあ、そのようですね」
「では、来客名簿をつけましょう。ペンとインクと、羊皮紙を用意して下さい」
「来客名簿?」
「今更、この塔に到着した順番に名前を書き込むことは出来ませんが、それでも自分の順番が来て、いずれ主が会ってくれるという確証を持つことが出来れば、少しは安心するはずです」
「な、なるほど、良い考えですね」
私は素直に頷いた。
「主はいつ頃、客たちの応対を?」
「早くて夕方、しかし最悪の場合、客たちに会うことを拒否する可能性も・・・」
プラーヌスがいつもの我儘を発揮すれば、これだけ客が来ていようと平気で待ちぼうけを食らわすであろう。
昨夜のプラーヌスは妙に上機嫌であったが、一夜明けると骰子の目のように、気分が一変しているのも珍しいことではない。
「そこを上手く説得するのが執事の務めというもの。あなたも一人前の執事になりたいのなら、それくらいの心構えは必要でしょう」
「ぼ、僕は彼に仕える執事ではありませんよ。確かにこの塔で、そのような役目を担わせられていることは事実だけど」
私としては、はっきりさせておきたい事実である。私はプラーヌスの部下などではなくて、あくまで友人だという事実。
しかしサンチーヌはそんなこと知ったことではないというように、さっさと話しを進めていく。
「とにかく、名簿に名前を書いた順に、このホールから出して、違う部屋で休んでもらいましょう。どこか適当な部屋に、ある限りのテーブルと椅子を用意して下さい。そこで何か飲み物と食事を出します」
「は、はい」
「食事と飲み物は、うちの料理係りに任せてください。どんな苛々しているか客も、ミリューとアバンドンの料理を口にすれば、母親の乳に吸い付く子供のように機嫌を直します。よろしいでしょうか?」
「はあ。お任せます」
ミリューとアバンドンというのは、アリューシアについていった、先程の二人の男だろう。
一見したところ、何だか二人とも料理人らしからぬ容姿であったが、ボーアホーブ家が雇っている料理人のようである。
「アデライド!」
サンチーヌはまたもや知らない名前を口にした。その言葉に、生真面目そうな顔の若い女性が返事する。
「彼女はうちのメイドたちの筆頭です」
サンチーヌは私にそう言ってから、その女性に指示を出した。「話は聞いていたね。手分けして作業を始めてくれ」
「かしこまりました」
「この塔を訪れた客であるが、ボーアホーブ家を訪れた客と同じように扱うのだ。それがアリューシアお嬢様の御意思である。手抜かりなきように」
サンチーヌの言葉を受けて、アリューシアが連れてきたメイドや召使たちが、てきぱきと動き出した。




