第五章 28)明るい木漏れ日の中で
アリューシアは木の幹にもたれかかり、木漏れ日の間から降ってくる太陽の光を眺めている。
のかどうか知らないが、白い首を伸ばし、細い顎を上げ、視線を右に左にきょろきょろと動かしている。
彼女の頬に、まだらな光の模様が落ちている。その光が、アリューシアの頬の金色の産毛を、更に金色に輝かしている。
美しい光景である。木漏れ日の中の少女とでも名付けようか。
私はその横顔を頭の中で線にしていく。
このラインを描いて、このラインは捨てて。子供の柔らかい頬を描くのは本当に難しい。
しかもアリューシアの頬には、何やら特別な肌理の細やかさが感じられる。
これまでの人生でほとんど太陽の光に当たっていない者の肌だ。
その白さを線だけで表現するのは無理である。色も重要だ。この色彩を出すために、絵の具に何を混ぜるべきであろうか。
私たちはとりあえず自分たちが吐いた嘔吐物から離れ、風上の木の下で水筒の水を飲んだりしながら、少し身体を休めていた。
エリューエルの街まで、それなりに長い距離を歩かなければいけない。まだ私たちはそれだけの体力を取り戻してはいない。下手に動くと、また胃の中の物が逆流してきそうである。
「な、なによ、ちょっとジロジロ見ないでよ・・・」
アリューシアが私の視線に気づいて、体をのけぞらせながら言ってきた。
「ち、違う。誤解するなよ、僕は画家なんだ」
アリューシアの声が耳に入ってきて、頭の中で出来上がりつつあった彼女の輪郭線が一瞬にして崩れた。
「はあ?」
「君を絵にするなら、どうやって描くべきか考えていたんだ」
「何それ、あなた本当に画家なの?」
木の幹に背中を預けていたアリューシアが背筋を伸ばして、私にじっと視線を向けて来た。
「本当だよ」
「そんなふうに見えないわ」
「まあ、塔の中では本当の自分を押し殺して生きているんだ、なんてね。そんなことはないけれど、でも塔の仕事は忙し過ぎて、絵のことなんて考えていられない。でもこうやってたまに外に出ると、何を見ても絵にしたくなるんだ。自分の中の画家の血が蘇ってくるっていうかね」
「ふーん、あなたが本当に画家なら、私の絵を描かせてあげてもいいわよ」
「趣味で描いていたわけじゃない。僕に描いて欲しければ報酬が必要だけど?」
「何ですって? 本気で言ってるの?」
「じょ、冗談だよ」
いや、別に冗談ではなかったが、アリューシアの迫力に押されて私は言う。
「でも、画家だなんて本当に意外だわ。シャグラン、あなたはプラーヌス様ともお友達なんでしょ?」
「まあね、画家として静かに生きていたのに、塔を購入した彼に呼び出されたんだ。それで慣れない仕事をさせられている」
「面白い話し」
「どこが?」
「わからないけど。生きるって面白いなって。とても愉快だわ!」
アリューシアは人生の大いなる真実に気づいたとでもいった態度で、頬を少し紅潮させ、興奮した声を出す。
「本当に面白い。天気も良くて、何もかも最高よ! 必ず私を描いてね、約束よ!」
「ああ、約束するよ」
このような約束をこれまでに何度結んできたことであろうか。
プラーヌスにも彼の絵を描くことを約束したことがあるはず。カルファルともだ。
しかしいずれの約束も果たされないままである。この約束もすぐには履行されることはないだろう、そんな気がする。
「あなたが望むなら、私の裸の絵を描かせてあげるわ」
「何だって!」
「何もない」
「・・・じゃあ、そろそろ行くか」
しかと聞こえていたが、聞こえていない振りをして立ち上がった。彼女が私をからかっていることは明らかだからだ。
「どこに行くんだっけ?」
アリューシアはケラケラと笑いながらそう返してくる。
「僕たちはここに日向ぼっこしに来たわけじゃないんだ。街で傭兵たちを雇わなくてはいけない」
「ああ、そうだったわね。私だって魔法の勉強をしないと」




