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私の邪悪な魔法使いの友人2  作者: ロキ
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
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第五章 26)ダイヤモンドの数

 その魔法を使えば、どんなに遠く離れたところでも一瞬で移動することが出来る。

 薄暗い塔から、陽光が青い海にキラキラ反射している常夏の南国にも、あるいは真昼でもほとんど太陽が昇らない極寒の最果ての村にも、私たちの知らない言語を操る行商人たちが、珍しい形の銀食器など商っている砂漠の国でもどこでも。

 魔法使いたちは無限に自由な存在。彼らには馬車も船も必要がない。


 いや、それは事実なのであるが、しかしその移動の魔法も、現実の世界の距離感が反映しているようである。

 すなわち、遠いところに行くには、それだけたくさんの宝石を消費してしまうということ。

 遥か遠く離れた南の国に行こうとすれば、両手で挟まらないほどのダイヤモンドが必要なのである。そんな無駄な奢侈はない。


 というわけで私たちは、最も近くて、それなりに大きな街に行くことにする。

 この塔から最も近い大きな街、傭兵たちが屯している酒場が数件あるのは、やはりエリュエールの街である。

 その街ならば、少し前にプラーヌスと訪れたことがある。知らない街に行くよりもずっと気が楽だ。


 「で、では、出発します」


 シュショテが緊張した面持ちで言ってくる。

 私とアリューシア、そしてシュショテは既に魔法陣の前にスタンバイしている。


 「いいよ、準備は万端だ」


 私もシュショテと同じくらい緊張した表情で答える。


 「知ってる、シャグラン? この魔法が失敗した場合のこと、私たちの身にいったいどんな悲劇が起きるのか」


 アリューシアが言ってきた。

 彼女はいつもの華美なドレスではなくて、動きやすい服装に着替えている。

 だからといって街の普通の女性たちの群れの中に埋もれたりはしそうにない。どこか人目を惹く、華やかな感じは漲っている。


 「知っているよ。身体が半分に切れたりするんだろ? 実際にこの目で見たことあるさ」


 そうなのである。シュショテと私がこれほど緊張している理由はこれだ。この魔法が失敗したときに起こる最悪の事態。


 「見たことがあるの?」


 「プラーヌスが宝石をケチって失敗したのさ。それで馬が一匹ね」


 あれは悲惨な光景だった。馬の身体が半分に切れて、そこから骨やら贓物やらがドロリと・・・。


 「プラーヌス様でもそんなことがあるんだ」


 「ああ、宝石の量をケチったらしい」


 「ダイヤモンド一つとエメラルド二つを使って飛ぶつもりですが、い、いいですよね?」


 私とアリューシアの話しを横で聞いていて、更に不安そうな表情になったシュショテが尋ねてきた。


 「え? ちょっと少な過ぎない? それはもしかして?」


 「はい、プラーヌス様から教えていただきました。エリュエールの街だったら、それくらいでギリギリ大丈夫だろうって」


 「ちょ、ちょっと待ってよ、ギリギリ大丈夫ってどういうことよ。失敗したら、この中の誰かが死ぬのよ。それなのにギリギリ大丈夫とかやめてよ」


 「そ、そうですよね。もう少し余裕を持ったほうがいいですよね」


 「プラーヌスからそのアドバイスを聞いたのはいつかな?」


 「昨夜です」


 「ということは、その時点では僕とシュショテだけが行く予定だったはず。そのプラーヌスの見積もりは、二人で行く場合の宝石量では?」


 「え! は、はい、そういうことになりますね・・・」


 シュショテが目をパチパチさせながら言ってきた。


 「ちょっと! 私の分は計算に入れなかったの!」


 「そう、かもしれません・・・」


 「シャグラン! こんな馬鹿に命なんて預けられないわ!」


 アリューシアが魔法陣の外に出る。「私はまだ死にたくないもの!」


 私も同じ意見だ。シュショテという少年、魔法の力は卓越しているのかもしれないが、どこか恍けたところがある。

 浮世離れしているというか、世知に長けていないというか。

 まあ、彼はまだ子供。ただ単に年齢相応ということなのかもしれないが、私たちはこの幼い少年に命を預けなければいけないということ。


 プラーヌスが起きてくるのを待とうか。改めて彼と話し合うのだ。

 それともカルファルに頼るべきだろうか。彼だって魔法使いの端くれ。

 いや、それは失礼な言い方。むしろ経験豊かな魔法使いだ。カルファルならば、この程度の魔法は簡単に操ることが出来るはず。


 しかし私は首を振る。プラーヌスを待っていると日が暮れてしまう。カルファルを連れて旅に行くのは嫌だ。

 私は覚悟を決めた。この少年に命を預けようと。

 失敗すれば最悪なことが起きることは事実であるが、失敗するリスクが高い魔法でもないはず。


 「なあ、シュショテ! 別にこの魔法を初めて使うわけじゃないよな?」


 「は、はい。何度か飛んでいます」


 その言葉を受けて、私は言った。


 「アリューシア、君は留守番しておくんだ。僕たちだけで行く」


 「はあ? あなたは行くの? この馬鹿を信用するの?」


 「信用する。宝石の量さえ間違えなければ上手くいくはずだ。なあ、シュショテ?」


 「は、はい」


 シュショテは相変わらず自信なさげである。しかし彼が頷いたことは事実。

 謙虚な彼が頷いたのだから、それは絶対に大丈夫だという意味に違いない。


 「だったら私も行く。この馬鹿は信用出来ないけど・・・」


 アリューシアがまた魔法陣の中に入ってくる。


 「ダイヤモンドをもう一つ増やしなさいよ。何なら、私のダイヤモンドを貸してあげる」


 「大丈夫、宝石は余裕をもって用意している。帰りは三十人ほどの傭兵たちも連れて帰る予定だから」


 「わ、わかりました、ダイヤモンドを増やします」


 「よし、それで行こう、アリューシア、もしこの中の誰かが怪我したり、死んだりしても、シュショテを責めるのはなしだ」


 「わかった、だったら先に」


 アリューシアがシュショテの頬を思い切り叩いた。

 それは控えめな音であったが、シュショテの頬の最も敏感なところにでも直撃したのか、彼は本当に痛そうによめいた。


 「もし失敗しても、これで許してあげる」


 アリューシアが悪びれた様子もなく言い放つ。奇妙な理屈であるが、シュショテも私も何となく納得してしまう。


 「は、・・・では、出発します」


 シュショテが手に持った宝石を掲げながら魔法の言葉を唱える。

 さっきのビンタでシュショテの緊張感は良い方向に研ぎ澄ましたのかもしれない。

 彼はきりっとした表情で言った。


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