第一章 1)王の遣いの遣い
私の魔法使いの友人、プラーヌスは妙に上機嫌であった。当初の予定が変更になりそうだというのに、彼にしては珍しいことに、その予定変更に怒り狂うこともなく、むしろ鼻唄などを歌い出す始末なのである。
私たちはルーテティアに行くため、今まさに馬車に乗り込もうとしていた。
しかしそのとき、酷く慌てた様子の召使いがやってきて、客が来たことを知らされた。
何と王の遣いが、この塔を訪問しにきたというのである。
いや、正確に言うと、王の遣いの、その遣いが、王の遣いよりも一足先にやってきたようなのだけど。
明日後日、この塔に王の遣いが来るから、そのつもりで待っておけ。そういうことを報せに来たという。
その王の遣いの遣いが言うには、その王の遣いは大変に身分の高い大臣で、このようなお方が自ら、このような片田舎にやってくるのは珍しいとのこと。
「王だろうが、何だろうが、この僕にいったい何の関係があるのさ」
プラーヌスのことだから、どれほどの賓客だろうと無視して、さっさとルーテティアに向かうのかと思っていた。
しかし私の予想と反して、彼はその予定をあっさり中止してしまったのだ。
「シャグラン、ルーテティア行きは延期だ。王の遣いを丁重に迎える準備をしなければ」
プラーヌスは飛び降りるように馬車を降り、塔に戻っていく。
私はそんな彼の態度に呆気に取られながら、慌てて彼を追う。
「まずはその男を客間に案内してくれ。それから謁見の間で会う」
プラーヌスが言った。
「あ、ああ、わかったけれど」
「今夜は食事と酒で、精一杯の歓迎をして欲しい。一切の失礼がないように」
彼はその歩調を更に早めながら、テキパキと私に指示を出していく。
「うん、召使いたちにもちゃんと徹底しておく」
塔に戻ってくる私たちを見て、門番が急いで門を開ける。門楼のある正門だ。そこには常時、数人の門番が待機している。
「王の遣いが来るぞ! いつもよりも念入りに掃除しておくんだ!」
プラーヌスは門番にも指示を出した。プラーヌスの厳しい口調に、門番たちが一斉に返事を返す。
「しかしこんなタイミングで王の使いが来るなんてな。すまないね、シャグラン。君はルーテティア行きをあんなに楽しみにしていたのに」
彼はふと歩調を緩め、申し訳なさそうに言ってきた。
「いや、別に問題ないけど。だってルーテティアはどこにも逃げないからね」
まあ、確かにルーテティアに行くことは私の長年の夢で、楽しみにしてはいたことは事実だったけれど。
しかしむしろ旅を急いでいたのはプラーヌスのほうだろう。彼はルーテティアやフィルグランデなどの遠方の街で、買いたい物がたくさんあるようだった。
それだけじゃない。この塔のために、新たに雇いたい人材もいるよう。それらの用事を一気に片付けてしまおうと思っていた様子である。
一方、私はまだ頭がボーとしていた。ほんのちょっと前まで、気を失って倒れていたのである。
ずっと働き通しで疲れが出たと言われたが、今朝目覚めると自分の私室で、その近辺の記憶がまるでないから、自分でも自分の状態が心配である。
しかし気を失うほど体調が悪かったというのに、頭が何となくはっきりしないだけで、それ以外に異常はなさそうではある。
どこも痛いところはない。長い旅であっても、何も問題はなかったかもしれないが。
「でも王がこの塔に何の用なんだろうね?」
再び歩調を早め出したプラーヌスに何とか追いつきながら、私は尋ねた。
「承認状を持って来たんだよ」
「承認状?」




