第九話 初陣
王宮は蜂の巣をつついたような慌ただしさだった。
バルツバイン王国の進軍に、多数の兵士たちが緊張感をもって動き回っている。
フィルの手を引き、兵たちをかき分けながらキリングス将軍のいる執務室へと向かう。
部屋に入ると、鎧を身に纏ったキリングス将軍とライエル将軍がいた。
文官たちは刻一刻と集まる情報を分析しており、他にも多数の将官たちが集まっている。
「フィルシアーナ王!コウ殿!」
「キリングス…」
フィルの目には涙が浮かんでいた。
バルツバイン王国の侵略の目的は、デュッセル王国の農作物であり獣人だ。
この一瞬にも国民の命が奪われ、囚われている人も存在するのだ。
「フィルシアーナ王、ご下賜を」
フィルはコクリと頷くと、腰に差していた短刀をキリングス将軍に授けた。
片膝をついて恭しくキリングス将軍は短刀を受け取る。
これは軍権がキリングス将軍に委ねられたことを現している。
「コウ殿も軍議に参加してくれ」
キリングス将軍は机の上に大きな地図を広げた。
机の周りにはライエル将軍を始め数人の将官らしき人たちが頭を並べた。
どの顔にも戦場でついたと思われる傷がついており、数多の戦場をくぐり抜けていることが容易に想像できる。
当然だが皆の頭には獣の耳がついており、背も高く腕も太い。
俺は皆の迫力に押され、少し離れた場所から地図を覗きこんでいると
「コウ殿。もう少し近く来い」
キリングス将軍に促され地図の前に出る。
キリングス将軍の右隣にはライエル将軍、左側にはフィルと俺が並ぶ。
残りの場所を獣人の将官たちが埋めていた。
「現在バルツバイン王国軍はラハルサの森の北に陣を張っている」
机に広げられた大きな地図の一点に、キリングス将軍はマーカーを置く。
このデュッセルの町に半日でたどり着ける位置だが、幸いにして農耕地域で人口の少ない地域だ。
「バルツバイン軍王国軍の今回の目的は、農作物の略奪及び領民の捕獲であると推測される」
「昨年と同じですか」
ライエル将軍の問いかけに、キリングス将軍は頷いた。
「偵察の者によるとバルツバイン軍は昨年と同様、兵と農民を引き連れて進軍しておる。農民が農作物を略奪している姿も報告されている」
聞けばバルツバイン王国では今年はかなりの凶作らしい。
元々バルツバイン王国は軍事国家として有名であり、凶作になれば他国から奪えばいいと言う考え方らしい。
そこで標的になるのが、バルツバイン王国から見れば下等な獣人の国家であるデュッセル王国なんだそうだ。
「敵軍本隊は名将として名高いバーゼル将軍率いる軍総勢5,000。だがそのうち半分は略奪用の農民と思われる。ライエル、我が軍の状況は?」
「現在我が軍は兵4,000を動員可能です。30分もいただければ全軍出撃可能です」
ライエル将軍は淀みなく答える。
獣人は計算は苦手でも、腕力や敏捷性に関しては人間以上の能力を発揮する。
4,000対2,500が真っ向から戦えば勝利は固そうに思えるのだが…。
「昨年通りであれば儂とライエルが2,000ずつ率いるのだが…」
「何かまずい点がありますでしょうか」
「バルツバイン王国軍は昨年同様、谷を通って侵攻してきた。おそらく我らの姿を見れば撤収する腹積もりだろう」
「昨年は手も足も出せず見送るしかありませんでしたな」
デュッセル王国軍の動きを察知して、早々に撤退したということなのか。
しかし、大量の農作物を運びながらの行軍には時間がかかると推測される。
キリングス将軍ほどの戦上手が、そんな状況を見過ごすだろうか。
「質問よろしいですか?昨年の状況がわからないものでして」
「コウ殿か。言ってみろ」
「バルツバイン軍は大量の農作物を輸送せねばならず、行軍が遅くなると予想できます。昨年はなぜ見逃したのでしょうか?キリングス将軍ほどの軍人が容易に撤退を許すとは思えないのですが」
周囲の将官たちの顔が一気に曇る。
まずいことを聞いてしまったのかもしれないが、理由がわからなければ対策の打ちようもない。
キリングス将軍は忌々しげに、口を開いた。
「人質じゃよ。バルツバイン軍は捕虜にした獣人を盾に悠々と撤退したんじゃ」
「それは…」
「国民を盾にされてしまっては我々も手が出せん。たとえそれが死ぬより苦しい奴隷になることになってもな。生きておれば奪還の可能性もあるが、殺されてしまってはそれも出来ん」
囚われた人々は奴隷になり、農作物はバルツバインの丸儲け。
その囚われた獣人を盾にバルツバイン軍は安全に撤退する。
汚いやり方だが、これが国家の紛争なんだろう。
「このままでは昨年と同じ轍を踏む。皆、何か良い案はないか」
キリングス将軍の問いかけに将官達は頭を悩ませる。
しかし、時間が流れるだけで妙案は出てこない。
皆が悩んでいる間にも、略奪は進み獣人達は囚われの身になっているのだ。
キリングス将軍は苛立ちを隠すかのように、拳を握りしめていた。
「発言よろしいですか」
「コウ殿、言ってみろ」
「はい、バルツバイン帝国軍の侵攻ルートはこの谷を通らねばならないと考えてよろしいですか」
「ああ、山は険しく行軍には向かない場所だ。奇襲をかけるならともかく、通常の行軍ではこのルートしかないだろう」
「でしたら、その谷に伏兵を置くのはいかがでしょう」
机に広げられた地図の谷の場所にマーカーを置く。
「簡単に言ってくれるな。バルツバイン帝国の展開範囲は谷からさほど離れていない。伏兵を配置しようにも気づかれてしまうのがオチだ」
普通に考えれば、相手も撤退が容易に行える場所に陣を張る。
こちらが退路を塞ごうとすれば、人質を盾に妨害するだろう。
フィルの方を見ると、俺を潤んだ瞳で見上げていた。
その瞳がなんだか『助けて下さい』と救いを求めている様に見えた。
兄ならば、ここで可愛い妹を助けるべきだよな。
「キリングス将軍、バルツバイン軍に気付かれない方法があります。俺に騎兵20を預けてくださいませんか」
「騎兵20か。構わんがコウ殿の考えを聞かせてもらえるか」
バルツバイン王国軍は恐らくまだ魔術師の存在を知らない。
並みの魔術師なら1人で50人の熟練兵に匹敵する。
しかしそれは真正面から争った時のことだ。
徹底的に魔術師の存在を宣伝してやろうではないか。
キリングス将軍に上申した作戦は、そのまま受け入れられた。
兵士を率いた経験の無い俺を心配してくれたのだろうか、ライエル将軍を副将としてつけてくれた。
ライエル将軍の残りの兵は、キリングス将軍の麾下に入り本隊として行動する。
「コウ様…」
「フィル、行ってくるよ」
すると、フィルが俺の裾を掴んだ。
「……絶対に生きて戻ってきて下さい」
「ああ、約束する」
恐らくフィルの父である前王の出撃の際にも似たようなやりとりをしたのではないだろうか。
フィルは必死に涙を堪えていた。
だが、俺は必ずここに帰ってくる。
フィルの頭を撫で微笑むと、少し安心したのか悲しみに覆い尽くされていた顔が和らいだ。
「ライエル将軍、先導と部隊の指揮をよろしくお願いします」
「かしこまりました」
ライエル将軍は礼をすると、急いで部隊の調整に入った。
ライエル将軍は麾下の精鋭を揃えたらしく、騎馬隊はすさまじい速度でデュッセル平原を駆け進む。
それも作戦の為に使う機材を持った状態でだ。
生半可な精鋭では無いと簡単に想像がついた。
駿馬達は全速で無人の草原を駆け抜ける。
そこには一人の脱落者もいない。
俺は馬の扱いはわからないので、ライエル将軍の部下の一人の背にしがみついている。
ちょっと情けない姿だが、背に腹は変えられない。
魔法で移動しようにも、馬ほど早くは動けないからな。
「宮廷魔術師殿、もう一時間もすればバルツバイン軍の姿が見えるはずです」
ライエル将軍の言葉に遠く先を見るが、バルツバイン軍の姿は見えない。
俺自身、この場所に来たことがないのでライエル将軍の言葉に従う。
「では、作戦通り迂回してください」
「ははっ!」
ライエル将軍が指示を発すると、部隊は即迂回を始めた。
バルツバイン軍に接近を気取られないようにするためだ。
まるで手足を操るように部隊を動かすライエル将軍は、キリングス将軍が目をかけるだけあって、やはり名将の器なのだろう。
***キリングス視点***
「バルツバイン軍、撤退の準備を始めております!」
伝令の声に、キリングスは無言で頷いた。
前方には、略奪用の農民を守るようにバルツバインの正規兵2,500が展開している。
対するこちらは4,000弱。
数の上では優位だが、バルツバイン軍はデュッセル王国の獣人達を人質に取っている。
バルツバイン王国では獣人は下等な生物として扱われており、奴隷としてこき使われる為に囚われたのだ。
もし敵将バーゼルが人質を盾に撤退を始めたら、昨年同様手をだす事も出来ず見送ることしかできなくなってしまうだろう。
目の前で国民を虐殺されてしまっては目も当てられないし、フィルシアーナ王も悲しまれるだろう。
それ故、目前のバルツバイン軍がいても手が出せないのだ。
バルツバイン軍は悠々と農作物を荷台に乗せ、撤退を始めた。
「コウ殿…」
キリングスは先日デュッセル王国にやって来た宮廷魔術師を思い浮かべる。
まだ18歳と若く戦争の経験もないはずなのだが、どこか期待させる男だ。
本当なら今回の戦争も側に置いて勉強させるつもりだった。
しかし、コウ殿は作戦を具申するだけでなく、別働隊を自ら率いるとまで言った。
それもたった20の騎兵で…。
懐刀のライエルをつけたとは言え、心配は収まらない。
騎兵の数が少なすぎるのだ。
しかしコウ殿はこれ以上は目立ってしまうからと、断ってきた。
詳しくは時間が無くて聞けなかったが、理由があるのだろう。
もしコウ殿が万が一戦死でもすれば、ようやく明るくなったフィルシアーナ王は悲しみにくれてしまうだろう。
そんな事態を引き起こすわけにはいかない。
もし、別働隊が劣勢になれば…
「その時は…鬼になろうぞ」
かつてミストラル帝国とダカルバージ帝国の戦争で客将ながら相手に千の兵で奇襲をかけ、その大半を失いながらも10万の敵を蹴散らした猛将はバルツバイン軍を睨み続けていた。
***コウ視点***
姿隠しの魔法で騎兵を隠しながら、バルツバイン軍の後方に進軍させる。
まだレベルの低い今の魔力では20人を隠すのが精一杯なのだ。
「宮廷魔術師殿…これはいったい?」
「詳しくは戦争が終わってから説明します。魔法で姿を見えなくしているのです」
「なるほど…」
遠目にバルツバイン軍を見ながら、ライエル将軍は呟いた。
幸いにもバルツバイン軍は目視による偵察に頼っているようで、俺達別働隊の動きに気づいていない。
目指すは場所は谷、そこでバルツバイン軍を迎え撃つ。
作戦は至ってシンプルなものだ。
バルツバイン軍の退路に伏兵を置き、キリングス将軍率いる本隊と挟撃する。
バルツバイン軍の撤退が約束されているからこそ採れる作戦だ。
「ライエル将軍、準備をお願いします」
「よろしいのですか?」
「ええ、ハッタリも重要なスパイスです。バルツバイン軍には混乱してもらいましょう」
谷を暫く進んだところで、作戦の下ごしらえを始める。
遠見の魔法でバルツバイン軍の動向を窺うと、キリングス将軍の予想通り撤退を始めていた。
「宮廷魔術師殿、準備が整いました」
「ライエル将軍、合図を出したらよろしくお願いします」
「はっ、お任せください」
俺とライエル将軍は、山の上に立ち谷あいを進むバルツバイン軍を見下ろしている。
バルツバイン軍の先頭は農作物を載せた荷台だ。
多少の兵が護衛についているものの、その数は少ない。
予想通りなら後方のキリングス軍を警戒して、後方に正規兵を配置しているだろう。
「では、作戦開始です」
こうして、デュッセル王国軍とバルツバイン軍との戦端は開かれた。
「あーあー、マイクテスト。聞こえるかな?」
拡声魔法を使い、バルツバイン軍に話しかける。
まさかデュッセル王国に稀有な存在の魔術師がいるとは思っていまい。
それもこの拡声魔法で存在を確認することができるだろう。
「俺はデュッセル王国の宮廷魔術師、コウ・タチバナだ。初めましてだな」
隣ではライエル将軍が苦笑いを浮かべている。
挨拶が丁寧すぎたのだろうか。
拡声魔法をめったに使わないのだから許して欲しい。
獣人を人と思わないバルツバイン軍は許さないけどな。
「俺からの要求はただ一つ、完全降伏だ。それ以外は認めん」
当然だが、バルツバイン軍は納得せず罵声を浴びせかけてくる。
中には石を投げてくる者もいるが、遠すぎて何を言っているのかわからないし、石も届かない。
「アースクエイク!」
バルツバイン軍の進行先にある、崖の壁に土魔法をお見舞いする。
崖は大きく爆発して、雪崩のように道を塞いだ。
「お前ら自分たちの立場がわかっていないんだよ。こんな生き埋めにして下さいと言わんばかりの場所に、なんの警戒も無く来やがって」
俺は小声でライエル将軍に指示を出す。
「全軍軍旗を掲げよ!」
ライエル将軍が右腕を上げると、それに呼応してライエル将軍の軍旗がはためいた。
その数は200。
20の騎兵が立てた、偽りの旗だ。
昔、本で読んだ作戦のパクリだが現状を誤認させるには有効な作戦だろう。
キリングス将軍にも、本隊ではライエル将軍の軍旗は使用しないようにお願いしている。
ライエル将軍はデュッセル王国軍ナンバー2の実力者であり、恐れられた存在でもある。
その将軍が退路にいたら?
ライエル将軍の軍旗にバルツバイン軍はさぞかし肝を冷やすだろう。
ここまで予想通り事は運び、バルツバイン軍の先頭は足が止まり混乱が生じている。
前に進もうにも土砂崩れで進めないしな。
無線も携帯もない異世界だから、後方では前方の状況も確認できまい。
「さて、生き埋めにされて運良く生き残ったとしても、ライエル将軍率いる軍に殲滅されるだろうな」
遠目に見るとキリングス将軍の本隊もバルツバイン軍に、切迫しており威嚇をしている。
剣を掲げ、団結した声を上げるキリングス軍。
その先頭ではキリングス将軍が、腕を組んでバルツバイン軍を睨みつけている。
さすが今代の英雄の圧迫感だ。
遠目で見る俺には頼もしく映る。
「さてバーゼル将軍、前門の魔術師、後門の稀代の猛将。どちらを相手にするかな?」
仕上げで、アースクエイクの魔法を左右の崖に二発かます。
想像どおり動いてくれよ。
崖崩れで前方への進軍は不可能だと判断したのか、バルツバイン軍は後方のキリングス軍に標的を定めたようだ。
想像どおりの行動にニヤリと笑いそうになってしまうが、まだ戦争は続行中だ。
ぐっと堪えて俺も次の作戦に移る。
「ライエル将軍、ここはお願いします」
「はっ!お任せを!」
戦争でジョーカーとなり得る魔術師だが、乱戦ではその力を半減させる。
その理由は、範囲魔法が味方を巻き込んでしまうからだ。
だからこそミストラル帝国の魔術師部隊は遠くからの遠距離魔法を得意とする。
接近戦になれば、魔法の使えない歩兵部隊が全面に出て、魔術師部隊は歩兵部隊の後方から範囲魔法を放つのだ。
……味方の歩兵部隊の犠牲を顧みずに。
無論俺はそんな戦闘を行うつもりはない。
既にキリングス軍と戦端を開いており、交戦まっただ中だ。
しかし、基礎能力で上回る獣人は人族で構成されたバルツバイン軍を圧倒している。
俺は混戦では魔法を放つことが難しいので、後方からの威嚇と牽制を行う。
「降伏しろ、と俺は言ったぞ。何を勝手に攻撃してやがる。魔術師と猛将を同士に相手をするとは愚かだな」
拡声魔法で話しかけるが、返答はない。
浮遊の魔法でバルツバイン軍の上空まで来ると、敵陣目掛けて岩を落とす。
バルツバイン軍は、空から降ってくる大きな岩に慌てふためいている。
兵を倒すことよりも、混乱させ士気を減じる狙いだ。
敵兵も空中にある俺の姿に気がついたのか、弓矢を放ってくるが魔法障壁を展開させ弾き飛ばす。
ちなみにこの魔法障壁は俺のゲーム脳で発見したオリジナル魔法だ。
とことんこの世界は攻撃魔法ばかりだからな。
「ファイヤースピア!」
火の柱が立ち登り、火柱は敵陣を縦横無尽に駆け巡る。
学生時代に散々教師に叩きこまれた最も得意な魔法だ。
先ほどの岩と加えて、敵兵は混乱の渦に巻き込まれている。
まぁ初めて見る魔法だろうからな。
何が起こっているのかわからない敵兵がほとんどだろう。
俺は敵陣に降り立つと、バーゼル将軍の姿をとらえた。
豪奢な鎧に身を包み、混乱した軍にあっても堂々とした態度は崩していない。
さすがはキリングス将軍も認める名将だ。
その側には赤髪の美人の女戦士がいた。
目を引く美人で、鎧や兜ではその美しさは隠せないほどの美貌だ。
…まさかバーゼル将軍の愛人か!許すまじ!
「バーゼル将軍これ以上は無益だ。貴軍に勝ち目は無い」
バルツバイン軍は混乱の極みにあり、兵力も劣勢、しかも人族で構成されており獣人の軍と比べ質も劣る。
状況から見て、バルツバイン軍に勝算は無い。
バーゼル将軍を睨みつけていると、女戦士が斬りかかってきた。
鋭い剣先だが、魔法障壁の前には無意味だ。
魔法障壁を破ろうとするなら、魔法障壁に込めた魔力を超える攻撃力を叩きこまねばならない。
だが、それは剣の様な破壊力の低い武器では無理で、攻撃力に勝る魔法でなくては無理なのだ。
しかもレイリアクラスの魔術師を連れて来なければ不可能だ。
「くっ!卑怯者め!」
「女戦士よ、どちらが卑怯者だ。皆が精魂込めて育てた作物を、奪いにやって来た盗人が何を言う。しかも獣人を捕らえて奴隷に落とし、死ぬまで働かせるんだろうが!」
「獣人は下等な生き物だ!何が悪い!」
女戦士は剣を振り続けるが、魔法障壁に阻まれ脅威は感じない。
「………お前を奴隷以下の扱いにしてやろうか?それなら血を流す民の痛みが少しはわかるだろう」
「屈辱を受けるくらいなら舌を噛み切ってやる!」
女戦士は俺に敵わないことを悟ったのだろう、自害しようとするが捕縛の魔法で動きを封じる。
むろん舌など噛み切らせることが出来ないように、舌の動きも封じてある。
「その死ぬような屈辱をお前らは平然と与えているんだぜ。立場が逆になったら名誉の死をくれってか?馬鹿らしくて笑っちまう」
この世界では俺の考えのほうが異端なのは十分承知している。
だが言わずにはいられなかったのだ。
獣人も人族も同じ人間だ。
その命の重さに上下は無い。
女戦士の翻弄される姿を見ていたバーゼル将軍は剣を捨てた。
「コウ殿でしたな。我が娘、レティシアが失礼なことを申しました」
バーゼル将軍は深々と頭を下げた。
もはやその目に戦闘の意思は見られない。
「この女戦士はバーゼル将軍の娘だったか」
「はい、不肖の娘なれど我にとっては唯一の子。何卒ご慈悲を」
目の前で我が子が殺されると思ったのだろうか、それとも別の思惑があるのか、バーゼル将軍は全軍に停戦を指示した。
こうしてバルツバイン王国との戦争は終焉を迎えた。
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