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第十一話 ご飯は剣より強し

レティシアはすぐさま王宮に運ばれ、救護室のベッドに寝かしつけられた。


土壇場で発見したハイヒーリングの魔法のおかげでレティシアの傷は塞がり、血は止まった。

幸いにしてナイフには毒もついていなかったので、あとは体力の問題だと思われたが、意識がなかなか戻らない。

医者では無いので詳しくわからないが、時間が経てば元通りの姿を見せてくれると信じたい。


フィルは命の恩人であるレティシアの手をぎゅっと握っていた。

二人を残し俺は救護室を出る。





救護室を出るとキリングス将軍がいた。

戦争の後始末で忙しいはずなのに、ここで俺達が出てくるのを待っていたようだ。


「コウ殿、レティシア殿の様子はどうだ?」

「キリングス将軍、俺には詳しくはわかりませんが、出血は止まりましたし顔色も良くなってきています。目が覚めれば大丈夫だと思うのですが」

「そうか…レティシア殿には感謝しきれないな」

「すみません、俺が目を離したばっかりに」


あの時俺が目を離していなければ、刺客に襲われても容易に防ぐことが出来ただろう。

しかし現実は一瞬の気の緩みを突いた。

それだけ刺客の腕が立つのだろうが、それは護衛役も兼ねている俺の言い訳にはならない。


「いや、もっと護衛をつけるべきだった。儂がフィル様が喜んでいる事ばかりを考えてしまったのも原因だ」

「………」


キリングス将軍は俺を慰めてくれているのだろう。

しかし、刺客に襲われてしまう隙を作ってしまった俺に一番重い原因はある。

もしあのままフィルが凶刃に倒れていたら、この国は唯一の王族を亡くし路頭に迷っていたかもしれないのだ。


「コウ殿、あまり思いつめるな。今回は最悪の一歩手前で事は済んだ。レティシア殿に感謝するべきだな」

「はぁ…」

「しかし、何故レティシア殿は手枷をはめられた状態で、フィルシアーナ王の盾になったのだろうな」


それは俺も不思議に感じていた事だ。

レティシアからしてみればフィルは敵国の王で、見下していた獣人だ。

フィルが倒れればデュッセル王国は混乱に陥るし、バルツバイン王国の王族なら刺客に気づいたとしても見逃した方が利があるとしか思えない。

俺にはいくら考えてもレティシアが盾になった理由が思いつかなかった。


「目を覚ましたら尋ねてみましょう」

「そうだな、レティシア殿の手枷も外して差し上げろ。デュッセル王国の恩人に対する最大級の礼をって遇しよう」


キリングス将軍は峠を無事越えたと判断したのか、その表情には安堵の色を浮かべ執務室へと戻って行った。





救護室に戻りレティシアの手枷を外す。

これで少しは楽になったのではないだろうか。

寝息も心なしか穏やかなものになった気がする。


「フィル、看病を代わるよ。疲れただろう」

「いえ…、レティシアさんは命の恩人です。このくらいはさせてください」


フィルの気持ちはわかるが、いつレティシアの目が覚めるか想像がつかない。

俺としてもレティシアには恩義を感じているので、二人で看病にあたるべきだ。


「フィル、協力して看病しよう」

「ですが…」

「目に隈が出来てるぞ。フィルまで倒れたらレティシアの献身は無駄になっちゃうじゃないか」

「…わかりました。コウ様、わたくしは寝させていただきます。眠くなったらいつでも起こしてください」


そう言うとフィルは寝室に向かった。

救護室に残されたのは俺とレティシアの二人。


レティシアの美しい顔は瞳を閉じたままだ。

胸のあたりが呼吸とともに、上下していた。





思えば俺とレティシアの出会いは最悪だった。

戦争とはいえ敵味方に分かれた状態で、命のやりとりさえした間柄だ。

レティシアの獣人を見下した態度に俺は腹を立て、明らかに格下のレティシアをバルツバイン軍の士気を下げる作戦に使いもした。

斬っても斬っても剣が魔法障壁に弾かれた事に、レティシアは絶望したに違いない。

そんなレティシアがフィルの命を救ってくれた。

フィルの命の恩人に俺は何が出来るだろう。

俺はただベッドの脇でレティシアの手をぎゅっと握っていた。





クーラー魔法で部屋の温度を保ちながら時折ハイヒーリングをレティシアにかける。

そろそろ夜も明けるだろうかと思った頃


「う…ううん…」


ようやくレティシアは目を覚ました。

まだぼんやりしているのか、目は開ききっていない。


「ここ…は?」

「デュッセル王国の救護室だ。それより体に変調は無いか?」


レティシアの身体に深々と刺さったナイフは、内臓を傷つけていた。

ハイヒーリングにどのくらいの効果があるか不明なので、表面上は癒えているが後遺症が残っていないか心配だったのだ。


レティシアは身体を右手から順に一箇所ずつ動かしていく。

その様子をじっと見つめていると


「どこも異常はなさそうだ。治療はコウ殿がしてくださったのか」


身体を調べ終わったレティシアが問いかけてくる。


「ああ、回復呪文だ」

「これで私は2度コウ殿に命を救われたのだな…」


1度目のことは捕虜になったことを言っているのだろう。

キリングス将軍が言うには、捕虜は殺されても文句は言えない存在だ。

ましてや王族の一員であるレティシアは、外交カードに使われてもおかしくない。

だが俺としてはフィルを身体を張って護ってくれた恩義を強く感じており、捕虜交換さえ成立すれば帰国させては、とキリングス将軍に意見している。

最終決定はキリングス将軍が下すことになるが、俺の意見が通りそうな雰囲気だ。


「手枷も外させてもらった。何か欲しいものがあれば言うと良い」

「私は捕虜の身だぞ」

「獣人は命の恩人を粗末には扱わん。食欲があるならフィルに軽食を作ってもらおうと思うが」


半日以上寝ていたのだから腹も減っているだろう。

フィルも心配していたから、回復したレティシアの姿をすぐにでも見たいはずだ。

俺が部屋を立ち去ろうとすると、レティシアに袖を掴まれていた。


「コウ殿は…」

「なんだ?」


心なしかレティシアの頬が紅潮しているような気がする。

愛の告白か?まさかね。







「私を犯さないんだな」

「ぶはっ!」


確かにレティシアは美しく、引き締まった四肢は健康美と言う言葉がとても似合う。

腰まで伸びた長い赤髪も女性らしく色っぽくて看病をしている間にも、何度ドギマギしたかわからない。

しかし自称紳士としては寝ている女性を襲うのは、ルール違反だ。


小さな声で初めてだから上手く出来ないだろうが…と言っているが気にするまい。

気にしたら顔が真っ赤になってしまいそうだ。


「私では不服か?これでもバルツバイン王国では、縁談が絶えず入ってくるぞ」

「レティシアは美人だもんな」

「こんな剣しか知らない女らしさの欠片も無い私がか?悪い冗談はよしてくれ」


レティシアは薄いシャツを身に纏っており、寝汗をかいたのかシャツは身体に張り付いていた。

胸も形の良さが見て取れるほどだ。

レティシアは自分の魅力を過小評価し過ぎではないだろうか。


ゴクリと喉がなる。

感付かれなかったか心配になったが、レティシアは俯いていた。


「俺には女性を襲う趣味は無いよ。まずは身体を治すことに専念してくれ」


そう言って俺は逃走した。

すまん…俺には無理やりはハードルが高すぎる。

レティシアが誘っていたのかどうかもレベルの低い俺にはよくわからん…。





フィルは既に起きていて、朝食の準備を始めていた。

レティシアが目を覚ましたことを伝えると、嬉しそうにおかゆを作り始めた。


「消化に良い物の方が良いかと思いまして」

「そうだな。内臓に負担がかかっているかもしれないもんな」


手際よくおかゆを作ったフィルは、お盆を持ちレティシアの元へと向かった。

俺もその後をついて行く。

救護室に戻るとレティシアは何だか憑き物が落ちたような顔をしていた。

まるでフィルに会えたのが嬉しそうに見えた。


「レティシアさん、おかゆをお持ちしました」

「フィルシアーナ王かたじけない。捕虜である私のためにわざわざお作りいただいたのですな」

「レティシアさんは命の恩人です。このくらいは当然の事です」


他愛のないやりとりだったが、俺は驚いていた。

メタス川のほとりでフィルは、レティシアに素っ気なく振られ続けていた。

今の二人の様子を見ると、レティシアはフィルを受け入れたのだろうか。


「ささ、熱いですから気をつけてお食べください」


レティシアはフィルからおかゆを受け取えり、ふぅふぅと冷ましながら口に運んだ。

どうやら食欲はあるようで、これなら完全回復も時間の問題だろう。


「なぁレティシア、心境の変化があったのか?」

「フィルシアーナ王と接したおかげで、戦闘中にコウ殿が言った事が少しだが理解できた…と思う。それにしてもこのおかゆは美味いな…」


獣人と人族の命の重さに違いはないと言った事だろうか。

それを理解したと言ってくれるなら、フィルとの距離が近づいたと感じたのも間違いではないだろう。

レティシアは身体の調子がいいのか、おかゆをすぐに平らげた。


「フィルシアーナ王、恥を忍んで申しあげる」


レティシアは真っ赤に顔を染めながらフィルの方を向いていた。

真剣な顔で一体何を言うのかと思ったが、




「……おかわりを所望してもよろしいか?」


レティシアはきゅううとお腹を鳴らしながらお椀を差し出していた。

そりゃ武人といえど女の子なら恥ずかしいよな。

微笑ましいレティシアの姿にフィルも最初目をパチクリさせていたが、嬉しそうにキッチンへと駆けて行った。



「おかゆ、美味しかったんだな」

「美味しい…と言うか暖かかったんだ」


ポツポツとレティシアは胸に手をあて、重かったはずの口を開いた。


「私の母が幼いころに亡くなってからは、父が男手一つで育ててくれたんだ。獣人の奴隷を買い、私の面倒を見させると言う選択肢もあったようだが、父はそれをしなかったのだ」

「そうか…」

「父は時折出陣しては家を空け、私は一人家で留守番をしていたよ。ご飯はいつも近所の人が作ってくれた冷めた料理だ」


戦争に出れば一ヶ月や二ヶ月家を空けることもあるはずだ。

王族の家なら大きくお手伝いさんがいるものだと思っていたが、バーゼル将軍には何か思いがあったのだろう。

大きな家にポツンと残された幼い頃のレティシアは、家族の愛情に飢えていたのではなかろうか。

だからこそ、フィルの手料理が暖かく感じたんだと思う。


「父はどう私を育てようか戸惑っていたようだったな。そんな父はある日剣に興味を持った私に、楽しそうに剣術を教えてくれた。私は父が喜んでくれるのが嬉しくて、暇さえあれば剣を振るっていたよ」


おかげで女らしさの欠片もないがなと、レティシアは苦笑いを浮かべていた。

俺から見れば美人だし、レティシアは魅力的に映っている。

フィルの危機に躊躇わずに飛び出した行動力も魅力的だ。


「なぁ…、コウ殿」

「なんだ?」

「側室で構わんから、私を貰ってはくれんか」


そう言えばレティシアの父であるバーゼル将軍が、俺の側に置いてくれなんて言っていたな。

桃色妄想で側室になんて思っていたが、レティシアも勘違いしているのだろうか。


「バルツバイン王国は貴族制度があるだろう?生憎、俺は平民だ」

「構わんよ。どうせ私の王位継承権は剥奪されているだろう」

「どういう事だ?」

「コウ殿は遠くを見渡せると思っていたが、どうやら貴族の権力争いまでは見えんようだな」



詳しく聞こうと思っていたが、救護室のドアがノックされ話は中断される。

扉を開けると、湯気が登っているお盆を手にフィルが立っていた。


「おかゆのおかわりをお持ちいたしました!」

「すまんな、フィルシアーナ王。お手数をおかけした」

「いいえ、どうぞお召し上がりになって下さい」


なんだか聞ける雰囲気でもなくなってきたな。

貴族の権力争い?

バルツバイン王国は一枚岩ではないのだろうか。

なんだかきな臭い匂いがするが、情報が足りない。

後でキリングス将軍に尋ねてみるか。





***バーゼル視点***


「バーゼル将軍、鉱山から奴隷を買い戻しました。詳細は報告書を御覧ください」


バルツバイン王国の執務室で、文官からの報告書を受け取る。

報告書には奴隷達の名前や年齢、健康状態について書かれていた。



デュッセル王国との戦争で捕虜となり、ある日突然帰国したバーゼルへの風当たりは強い。

兄である王こそ信じてくれたものの、重臣の中にもバーゼルをデュッセル王国に寝返った裏切り者だと陰口を叩くものすらいる状況だ。

自分でも、捕虜となった王族が条件はあるものの解放されたら内通を考えるだろうから仕方ないのだが。


「一部貴族が奴隷の差し出しを拒否しておりますが、いかがいたしましょう」

「買取金額を上げろ。財源は儂の私財から出す」

「それでも買い取りに応じなければ?」

「そういう輩は叩けば埃が出る。儂の名前を使ってもかまわん。なんとしてでも獣人達を集めろ!」

「はっ!」


奴隷の買い取りは難航していた。

しかし、ここで諦めてしまえば5,000人近い捕虜たちの命が危うい。

元々デュッセル王国への出兵には反対していたのだが、王の命令を断りきれず総大将として出陣した。

そして自ら全軍に降伏するよう命令を下した責任もある。

兵士たちに死地に赴くよう命令する権利もあれば、命を守る義務も将軍にはある。

未だバーゼルの戦争は終わってはいない。


あの時、絶望的な状況でキリングス将軍の率いる部隊に突撃をかけることも出来たがそれをしなかった。

何故かと言えば長年の戦場での経験からくる勘だ。

このまま突撃し半数以上の兵を帰らぬものにするか、勘に従うか。

今まで直感に従い戦場を生き抜いてきたバーゼルだからこそ、とれた思い切った策とも言える。



バーゼルの勘の根拠はデュッセル王国の宮廷魔術師コウ・タチバナ。

土砂崩れの魔法に、炎の魔法、バーゼルが過去の戦場で見た他国のどの魔術師よりも強大な力だった。

空を飛ぶ魔法や、大きな声が響き渡る魔法に至っては聞いたことすら無い魔法だ。

バルツバイン王国で片手の指に入るほどの剣豪である娘レティシアを寄せ付けもしない強さを持ちながら、甘い言葉を娘にぶつけていた。

共感できる言葉は多々あったが、それが通用するほどこの世界は甘くはない。

魔術の力は強大ではあったが、まだ若く甘い部分に取り入れる隙があるかに思えたのだ。


「ふぅ…」


娘のレティシアの事を思い、ため息をつく。

国家の恥だと表沙汰にされていないが、レティシアは奴隷であった半獣人の妻の忘れ形見…いわゆるクォーターで、流れる血の四分の一が獣人のものだ。


「獣人の事はあの若造よりも儂の方がわかっておるわ」


死ぬ間際の妻のどす黒い顔が思い浮かぶ。

あれは間違いなく毒を飲まされ死にゆく者の顔だった。

無論、バーゼルは愛する妻にそのような事はしない。

恐らく兄であるバルツバイン王、もしくはその側近の仕業だろうと思っている。


幸いにして人族の血の方が濃いレティシアに獣耳は現れなかったので、今は人族として扱われているが歴史に残る大敗北でバーゼルの権勢が地に堕ちた今、いつ半獣人であると公表されてもおかしくない。

だからこそ獣人の国の宮廷魔術師に娘を託したのだ。

バルツバイン王国のお偉方たちは、バーゼル親子の排斥に躍起だ。

噂ではレティシアに刺客を放ったとも聞いている。


「不甲斐ない父ですまん…レティシア…」






***コウ視点***




バルツバイン帝国との捕虜交換はつつがなく行われた。

調印式にはデュッセル王国側からは俺とキリングス主席将軍が主立った者として参加し、バルツバイン帝国からはバーゼル将軍が出席した。


デュッセル王国からは先の戦争で囚われた者達が解放され、バルツバイン帝国からは約3,500人の獣人が解放された。

人数の差は金銭によって穴埋めし、それにより受け取った金銭は捕らわれていた獣人達に当座の生活費として配られた。


「バーゼル将軍、獣人の解放にご尽力いただきありがとうございました」

「こちらこそ我が国民への多大な配慮ありがたく思う」


今回解放されるバルツバイン王国の兵達にレティシアは含まれなかった。

当初俺はレティシアを含む事を提案し、キリングス将軍もそれを受け入れてくれていた。

しかし、それをバーゼル将軍が断ってきたのだ。

意外な申し出に困惑したものの、理由を告げられ受諾したのだ。



「バーゼル将軍、私の新しい部下を紹介いたします」


俺の横ではレティシアが兜を目深にかぶっている。

腰まで伸びていた美しい髪は肩までで切られ、髪は遺品としてバーゼル将軍に手渡された。


「レテ…」


バーゼル将軍は名前を呼びそうになるのをぐっと堪えていた。


「この者の名前はシアと申します。剣の腕が立つ半獣人の自慢の部下ですよ」


レティシアが重傷を負ったことは、バルツバイン王国でも広まっていた。

理由はバーゼル将軍から聞いたのだが、納得いかないものだ。


当初フィルを襲ったと思われていた刺客は、レティシアを襲ったものだったのだ。

凶刃は明らかにフィルに向かっていたし、凄腕と思った刺客はただの間抜けだったようだ。

結果としてレティシアに致命傷を負わせた刺客は、雇い主に報告。

それがバーゼル将軍の耳まで届いたのだ。


実際にはレティシアは致命傷を負ったものの、俺の回復魔法で完治した。

医療技術の進んだ日本ならともかく、あれほどの致命傷だとこの世界では治療手段は無いと思われる。

ハイヒーリングの使い手は他にはいないはずだし、死ぬと思われていたレティシアが無事だったと言っても信じては貰えないだろう。

キリングス将軍にも相談したのだが、元々捕虜に対して生殺与奪の権利を持っているのでレティシアが死んでしまったとしても問題はないらしい。

諜報部門がしっかりしている国ならバルツバイン王国で広まっている真実を耳にするだろうしな。


それよりもバーゼル将軍を解放したことが近隣国で噂に登っているらしい。

バルツバイン王国で最も名高き将軍を、対価も貰わず解放したのが信じられないようで、ミハエルが商売先で耳にした話では、デュッセル王国は愚かだという話とバーゼル将軍が内通したのではと言う話で二分しているそうだ。

実際にはバーゼル将軍に獣人の奴隷の解放をやってもらったんだがな。


「バーゼル将軍本当によろしいのですか?」

「コウ殿よろしく頼みます」


公式にはレティシアは暗殺者の手にかかり死亡したことになった。

ここにいるシアはデュッセル王国で産まれた女性として扱われている。

バーゼル将軍は深々と頭を垂れ、優しげな目をシアに向ける。


「コウ殿の部下か。どうだ?コウ殿に良くしてもらっているか?」

「はい、コウ様だけでなくフィルシアーナ王にも良くしていただいております」

「そうか…」


レティシアが半獣人であることはバーゼル将軍から聞いた。

そしてバーゼル将軍が先の戦争で敗北し、権威が地に堕ちレティシアを守りきれない状況であることも聞いた。

刺客はバーゼル将軍の政敵である別な王族が放ったものらしく、半獣人が王族にいることへの口封じと他に子のいないバーゼル将軍の後継者を断つ目的なんだそうだ。


これがレティシアに尋ねかけた貴族の権力争いなのか。

くだらないし馬鹿げている。

王族で半獣人だからバレないように殺す?

俺にはふざけているとしか思えない。


「バーゼル将軍、デュッセル王国への……」

「コウ殿、儂はバルツバインの飯を長く食い過ぎた」


レティシアの話を使者からの手紙で聞いた時、同時にバーゼル将軍もデュッセル王国へ仕官しないか尋ねたのだ。

バーゼル将軍は『儂がデュッセル王国へ仕官すれば、誰がバルツバイン王国での獣人への暴挙を止めれると思うのか。それに儂を殺すためにバルツバイン王国が兵を挙げる事も十二分にありうる』と断られたのだ。

本心ではレティシアを側に置いておきたかったのだろうが、それも叶わない今他国に逃がす絶好の機会と思ったのだろう。


「シアは俺の大事な部下です。大切にします…」

「儂には関係のない話だが、部下は大切にするものじゃよ」

「デュッセル王国は獣人の恩人たるバーゼル将軍をいつでも国賓として扱わせていただきます」

「はは、次会うときは戦場かもしれん。手加減は無用ぞ。無論シア殿もな」


バーゼル将軍はそう言い残すと、捕虜たちの解放を見届けて去っていった。




「シア、いいのか?」

「ああ、不器用な父なりの愛情なんだろう」


レティシア改めシアは、じっと去りゆくバーゼル将軍を見つめていた。


「シアは本当に半獣人なのか?耳もないし人族と同じように見えるぞ」

「今思えば、私の身体能力の高さは獣人の血がもたらしてくれているのだろうな。私が半獣人だと知ったのは私もコウ様と同じ時なんだ、未だに自覚は無いよ」


バーゼル将軍からの使者が来た日、レティシアは呆然と書状を見ていた。

てっきり混乱するかと思ったレティシアは、次の日には半獣人であることを受け入れていた。

デュッセル王国が獣人の国で、半獣人に対しても差別なく接する国だからだろう。

バルツバイン王国にいるままであれば冷たい視線に晒され続けていたはずだが、デュッセル王国にはフィルがいる。

暗殺未遂の一件以来二人の仲は急速に近づいているように感じる。



「それにしてもコウ『様』なんだな」

「今の私は『シア』であり平民だぞ?それに私はコウ様の部下だからな。様付けは当然だ」


目の前にいるシアは強い。

それは武勇ではなく心の強さだ。

満面の笑みで微笑むシアは眩しかった。


シアは俺の手をぎゅっと握り、今すぐ駆け出しそうになりながら






「早く王宮に帰ろう!フィルシアーナ王の美味しいご飯が待っているぞ!」


……フィルのご飯に釣られただけかもしれん。前言撤回しようかな。


日刊ランキング9位すごい!と思っていたら4位ですと!?(@@;

一体何が起こっておるのですか


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