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第一話 宮廷魔術師になりますか?

「コウ殿、貴殿を宮廷魔術師としてデュッセル王国に招きたい」


学園長室に呼び出された俺は隻眼の将軍キリングスにそう言われた。

ちなみに俺とキリングス将軍は初対面でデュッセル王国に行ったこともない。


学園長はニコニコと笑っているだけで何も言わない。

まるで俺の出方を待っているかのように感じた。


宮廷魔術師といえばその国で最高の魔術師に与えられる役職で、国によっては大臣と同格な所も多い。

それを一介の学生である俺に?


しかも俺はミストラル帝国の魔法学園に在学している、いわば他国の人材。

そして成績は万年二位。

一位のレイリアならまだしも、なんで二位の俺を国の中核に据えようとするのか。

思い当たる理由はひとつ……俺が平民だからだ。


ミストラル帝国の貴族は、国に奉公しその生命を捧げる宣誓を行う。

特権階級を得る代わりに生殺与奪の権利を国王に握られるのだ。

戦争が起これば真っ先に召喚され、戦地へと赴く。

『貴族は国のために生き、そして国のために死すべし』

今から約300年前、ミストラル帝国初代皇帝デュッケルハインツが定めた憲法の第一条に記載された言葉だ。

実際のところでは平民も同じ扱いなのだが、ミストラル帝国憲法に明文化されているのは貴族のみ。

貴族には亡命の権利も無ければ、下野する権利もない。

それに比べ生活は厳しいものの、平民にはそこそこ自由がある。

他国に亡命も出来るし職業選択の自由もある。


もし目の前にいるキリングス将軍と学園長が懇意であれば、今回のような平民の引き抜き紛いの事も起こってもおかしくはない。

俺が訝しんでいると、その答え合わせをするかのように学園長がようやく口を開いた。


「コウくん。君は何故自分がデュッセル王国に招かれるかを悩んでいるだろう。そしてその理由を平民であることに求めた。違うかね?」

「いえ、違いません。貴族であれば憲法により他国に仕える事は出来ません。だからこそ自分が選ばれたのだと思っております」

「それは正解ではあるが、半分にすぎんよ」

「…残りの半分をお教えいただけますか?」

「残りは儂からお伝えしよう。学園長、よろしいですかな?」




キリングス将軍は学園長に目をやり語り始めた。


「事の発端は5年前に遡る。コウ殿も存じているだろうがミストラル帝国はダカルバージ帝国との戦争に突入した。その際ミストラル帝国の属国であるデュッセル王国もミストラル帝国の援軍として戦争に参加した」


大陸を二分する大国同士の争いは俺も知っている。

当時は孤児の扱いだったが、孤児院では日々戦争の結果を噂していた。

後に学園の図書館にある書物で詳細な結果を見ることになったのだが、当初ミストラル帝国は押されていたものの、属国の軍隊による奇襲で勢いを取り戻し、痛み分けに終わった。

確かその奇襲をかけた属国がデュッセル王国軍だったはず。


「その顔だと知っているようだな。当時のデュッセル王国国王ダカーツ2世はミストラル帝国の要請により、ダカルバージ軍に奇襲をかけ帰らぬ人となられたのだ。儂も戦闘には参加しておったが、ここにいるのが奇跡のような戦闘だったよ」


キリングス将軍は古傷だらけの顔で遠い目をしている。

記録によれば、生還率は3割を切る激戦だったはず。

その奇襲が俺とどう関係するのかと思ったが、線が一つに纏まった。


「奇襲の恩賞…ですか?」

「コウ殿は聡いな。学園長からの評価通りだ。王を失ってまで戦線を取り戻したデュッセル王国が求めたのは金銀ではない。魔術師だよ」

「しかし俺が入学したのは3年前ですよ。戦争は5年前だったはずですが」

「これまでミストラル帝国に何度も要求していたのだが、憲法を盾に貴族は出せんと言われてな。3年ほど前にしびれを切らして平民の魔術師をと要求したら、魔法学園を受験したコウ殿がいると言う話になった」


魔法学校は本来貴族だけが入学を許された学校だ。

そして基本的に全ての魔術の素質を持つものが入学する。

つまりミストラル帝国において、基本的に魔法師は貴族以外に存在しないはずで、俺はイレギュラーな存在だ。


その理由は魔力は遺伝することと、ミストラル帝国の体制による。

今から約300年前、ミストラル帝国初代皇帝デュッケルハインツは魔術師が今後の国の基盤になると判断し、当時まだ表舞台に立っていなかった魔術師達を全て貴族に登用し魔術を推奨したことから始まる。

その頃はまだ微弱な力しか持たなかった魔術師達に戦闘に特化した教育を施し、魔術師を軍に編入させることで地方の弱小勢力に過ぎなかったミストラル帝国を大陸でも1,2の存在に押し上げたのだ。

今では強大な力を持つ魔術師は、一人の兵で50人の兵士と互角に戦えると言われている。



しかし、魔術師を一国の王と比較するとどうだろう。

たとえ50人の兵士と戦える強者だったとしても、王とは重みが違いすぎる。

王を失ってまでの恩賞の対価として魔術師は、成り立つのだろうか。

俺なら答えをノーと即答するだろう。

いくら魔術師の絶対数が少ないとはいえ、まともな取引ではない。

この辺りにはミストラル帝国とデュッセル王国の力関係があるのだろうか。

ましてや話が持ち上がった頃の俺は学生ですら無い受験生だ。


「ひょっとして俺が入学できた上に奨学生になれたのは?」

「ああ、デュッセル王国がコウ殿の後ろ盾となり魔法学園の学費を負担した」

「そう…だったのですね」


平民の俺が魔法学園に入学できたのは何故か、入学当時その話題で学園は持ちきりになっていたが卒業を控えたこの時期にその答えが明らかになった。

一番人気だったのは俺がどこかの貴族の隠し子だと言う噂だったが、俺自身それを否定していたし入学できた理由は純粋に魔法の実力だと信じていた。

魔法学園卒業後に、跡継ぎのいない貴族への養子縁組でも国から指示されると思っていたので意外な答えに驚いてしまう。


「デュッセル王国には今まで宮廷魔術師はいない。コウ殿の才覚を活かしてデュッセル王国に力を貸して貰えないだろうか」


そう言うとキリングス将軍は頭を深々と下げた。

おそらく50代の歴戦の将軍が、18歳の小僧に対する礼としては最上級のものだろう。

それだけデュッセル王国は困窮しているのだろうか。


俺の中でデュッセル王国に行けば、それなりに重宝されるのではないかと感じていた。

ミストラル帝国にいても平民の俺は出世もままならない。

いいとこ魔法兵団の雑兵として馬車馬のようにこき使われるだけだ。


しかし、判断を下すにはデュッセル王国の情報が少ない。

宮廷魔術師が不在なのはわかった。

だが国の規模は?財政は?主な産業は?敵対する国家は?平民のよそものがひょいひょい現れて、きちんと暮らしていけるのか?

疑問が次々に湧いてくる。

こんな事なら、他国の状況も勉強しておくべきだったな。


「デュッセル王国はいい国だぞ。山河に囲まれた自然あふれる国だ」


学園長の言葉に、それってただの田舎だろう?と思ってしまう。

もっとも日本に比べれば、ミストラル帝国も中世ヨーロッパ程度の文明なのだが、それでも大陸で指折りの大都市だ。

不便ではあるが困窮するほどでもない。


「はぁ…」


俺の間の抜けた声に学園長は呆れ顔だ。


「学園長殿、言葉で飾っても仕方がない。デュッセル王国がミストラル帝国より劣った国なのは事実」

「ですが…」

「ありのままを見てもらい判断してもらおう」

「キリングス将軍、ひょっとして?」

「コウ殿、これを見てもらえるか」


そう言ってキリングス将軍は、目深に被っていた兜を脱いだ。


「動物の…耳?」

「キ、キリングス殿!」


慌てた声で学園長がキリングス将軍を止めようとするが、既にキリングス将軍の頭は顕になっている。

そこには虎の耳がちょこんと乗っていた。

耳以外は人間と見た目の違いは無い。


「獣人だ。デュッセル王国の住人は皆獣人なのだ」

「では女性も!」

「うむ、みな獣人だ」


獣人…なんと厨二心をくすぐる存在なんだ。

目の前のキリングス将軍は、ファンタジー映画に出てきそうな屈強な虎の獣人だし、女性も皆獣人だという。

学園長は呆気に取られているようだが、大事なことを聞かねばなるまい!



「……猫や兎の獣人はいるのですか?」

「それは正式な質問か」

「はい!大事なことです!」


だって、美人の獣人の定番といえば猫や兎の獣人じゃないか!

可愛らしいケモミミの生えた美人。想像するだけでドキドキしてしまう。


キリングス将軍は鞄から一枚の写真を取り出した。

そこには一人の猫耳の生えた女性がメイド服姿で写っていた。


「コウ殿が宮廷魔術師となってくれれば、この御方が世話役になってくれるそうだ。それはもう楽しみにしておられたぞ」

「か、かわええ…」


俺はもう写真に目が釘付けになっていた。

俺より少し年下だろうか、やや幼く見えるがクリっとした目をした美少女だ。

ネコミミがバッチリ似合っていて、穏やかな笑顔で微笑んでいる。

箒を持ったメイド服姿もとにかく可憐だ。

ここまでの美少女にはなかなかお目にかかれない!


「行きます!俺デュッセル王国に行きます!キリングス将軍さぁ向かいましょう!出発は今すぐですよね!」


先ほどまで感じていた疑問や不安は吹き飛んだ。

こんな猫耳美少女にお世話されるなんてこの世の春ではないか!

俺はきっとこの子に会うためにこの世界に転生してきたんだ!


「儂はなんだか心配になってきたぞ…。先ほどまでは聡明な人物だと思っておったのに…」

「俺は働きますよ!猫耳さんの為に!」


学園での友人のミハエルは、この世界の貴族には使用人が必ずと言っていいほど付いていると言っていた。

部屋の掃除や洗濯から料理、着替えを始めれば甲斐甲斐しく服を用意してくれる使用人…。

いや、心を偽るまい!メイドさんバンザイ!


「やる気になってくれているところ申し訳ないが、卒業後と話はついている。学び残したことが無いようにして欲しい」

「え…すぐに会えないんですか…」

「あと数日もすれば卒業だろうが…」


こうして俺の進路は決まった。

ああ、一日でも早くネコミミメイドさんに会いたい…。

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