表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ボクとポチの、特殊な関係

ボクと、ポチ

作者: 小林晴幸
掲載日:2014/06/01

一年位前に書いた文なので、今とちょっと書き方が違いますが…


終わりの無い旅(自覚なし)を続ける犬(自称)と、それに拾われた一人称ボクな兎さんのおはなしです。

 ボクをかばって母さんは、狐に食べられて死んだ。


茨の茂みの中で、震えているしかできなかったボク。

ボクは狐の食べ残しから母さんのかけらを一つ一つ、拾い集める。

温かくて優しかった母さんは、もういない。

母さんとボクのお気に入りだったヘビイチゴの原っぱに、ボクは母さんを埋めた。

そうすることで、母さんは土に還り、空に溶け、そばにいてくれる気がしたから。

でもそんなものは、やっぱりそんな気がするだけで。

ボクにとって、世界の全てだった母さん。

ぼろぼろ流れて、止まらない涙。

ボクは母さんを埋めた場所から離れることもできず。

ひたすら、ひたすらに泣き、悲しみ続けた。

ボクはこうして生きているのに、どうして母さんは死んでしまったの――


 何も喉を通らない。

何か食べ物を探すために、動く気にもなれない。

ボクはただ、母さんのそばにいたい。


 ボクの涙は、まだまだ涸れない。


 三日が経つ頃には、ボクはもう動けなくなっていた。

これが緩慢な自殺だって、わかっていたけれど。

生き物としてあるまじきことだって、わかっていたけれど。

最初の一日にはあった力も、とうに使い果たした。

ゆっくりと、ゆっくりと死んでいくボク。

生きる気も、死ぬ気もおきない。


もう食べ物を探すために移動することもできない。

そんな力はもう、どこにも残っていなかった。

それでもひたすら、涙だけが流れる。

ボクはうずくまり、ぐったりとしながらも。

母さんを呼んで泣き続けた。


 三日目のお日様がボクにほほえむ頃。

ボクは優しい誰かの声を聞いた。

柔らかく、柔らかく、母さんみたいに温かい声だった。


「ウサギのお嬢さん、どうして泣いているんですか?」


 ふわっとふくらんだ、羽毛みたいな声。

心地よい声は、でも聞いたことのない声で。

これが狐やオオカミだったら、声なんてかけず、問答無用で襲いかかってくるはず。

茨で囲まれた原っぱには、狐やオオカミは来ない。

誰が話しかけてきたのかと、ボクは後ろを振り向いて・・・


そこにいたのは、大きく立派な蛇だった。


ボクの涙も思わず引っ込んだ。


 どうしよう、外敵だ。外敵だよ。

本能がボクに強く働きかける。そう、逃げろって。

一目散に、何が何でも全力で逃げろって。

でも、無理だよ。

ボクの体には、何の力も残っていない。

ああ、ボクは此処で蛇に食べられてしまうんだね・・・。

そう思うと、何故か不思議と覚悟が決まった。

もとより母さんを失ってから、ボクの生きる気力は危険なほど下がっていたから。

流されるまま投げやりに、緩慢な死を選ぼうとしていたから。

だから、慌てようとする気持ちはすぐに収まった。


 ああ、この蛇に食べられて、ボクは死ぬんだ。

そうしたら、母さんに会えるかな。

母さんと同じところに行けるかな。

ほのかな希望にも似た、危ないささやきが聞こえる。

ボクはそれに抗うだけの気力もなく、危ない魅力にとりつかれそうだった。

ああ、でも。ぼんやりと思う。

でも、これは蛇であって狐じゃないから、母さんと同じところには行けないかな・・・?

そうかな。そうなのかな。

でも、それでもいいや。

だってこの蛇、とってもきれいだもの。

白銀色に光って、きらきらしてる。

ボクの毛皮とおんなじ白い色に、親近感すら感じる。

この銀色に食べられてしまうのなら、それもいいと思えた。

そう思うくらい、きれいな蛇だった。


このときのボクは、本当に危険な状態だった。

精神的にも、肉体的にも。

ぎりぎりの極限状態で、ボクは蛇さんの言葉を聞いた。


「やあ、私はポチ。犬だよ!」


「・・・・・」


 どんな反応をすればいいのか、わからなかった。


「犬?」

「犬だよ」

「・・・犬?」

「うん、犬だよ」


 何を言っているんだろう、この蛇は。

どこからどう見ても犬には見えない、白銀の蛇なのに。

それなのに、どうしたことか自分のことを犬だという。

これは一体、どんな意図があるんだろう。

もしかしてごっこ遊びか何かかな。

ボクは、本気でとまどっていた。


 いっそひと思いにやってくれればいいのに。

赤い口の奥、きらりと光る白い牙。

危険なそれで、早くボクを食べてしまえばいいのに。

でもボクのそんな心の声は、蛇には届かない。


「それで君は、どうしてそんなに泣いているんだい?」

 相手が蛇だと思えば、答えなくてもいいはず。

だけど不思議な蛇に気圧されて、ボクは素直に口を開く。

もう、反発するだけの気力も体力もなかっただけかもしれないけれど。

「ボクの母さんが、死んじゃった・・・」

「そう、それでずっとここにいるんだね」

 しゅるしゅると、なめらかな動きで這い寄る蛇。

いつもだったらおぞましいとか、怖いとか思うんだろうね。

でも今は、そんな些細なことはどうでもいい。

重要なのは、もっと他にあるはず。

 蛇はボクを囲むように一周すると、ボクの顔をのぞき込んだ。

「ああ、こんなに眼を腫らして・・・それにもうずっと、何も食べていないんじゃないかい?

お嬢さん、君、三日前から此処にいるだろう」

「なんで知ってるの?」

「それは三日前にも、私が君を見かけているからさ」

 そうやって穏やかにほほえむ蛇は、ことのほか優しそうに見えた。

「食べなければ、死んでしまうよ」

「死んでしまったとしても、今は食べたくない・・・」

「でも君が食べないでいることを知ったら、君のお母さんはなんて言うかな」

「あ・・・」

 見上げる先、蛇はこちらに顔を寄せて。

「ねえ、君のお母さんは、今の君を見たらどうすると思う?」

「・・・ボクのこと、怒って、叱って、泣いちゃうかな」

「うん。君も本当はわかってるみたいだね。君は死ぬべきじゃないよ」

「なんで?」

「だってそんなに泣けるくらい、愛せるくらい、お母さんは君を大事にしてくれていたんだよね。君を大事に慈しんだお母さんの宝物なんだよ、君は」


 ボクの母さんのことを、何も知らないくせに。

なのに、蛇の言うことは、嫌になるくらいにすっと胸に入り込む。

そうなのかなって、思えてくる。


「君は君のお母さんの宝物を、お母さんから取り上げるのかい? 壊しちゃうのかい?」

「・・・・・」


 知ったようなことを言うと、反論しても良かったけれど。

ボクは蛇の言うことを、否定することができなくて。

ボクは。

ボクは、どうすればいいんだろう・・・。


 今までよりもずっと強く、深く、ボクはとまどった。

まるで深い沼で溺れそうな感覚に、迷い込む。

そんなボクを掴みあげ、溺れないように支えてくれたのは・・・


 何故か、この蛇で。


犬を自称する蛇が、ボクに優しく言うんだ。


「今すぐ死ななくても、どうせいつかは死ぬんだよ。それまで精一杯生きて、幸せになればいいんじゃないかな。その方が、君もお母さんに胸を張れると思うよ」

「でも、ボク・・・」

「暗い気持ちから抜け出せないのは、きっとお腹がすいているからだよ。おいで。

一緒にご飯を食べに行こう?」


「・・・ごはん?」


 蛇と一緒に、ごはん?


・・・ボク、やっぱり食べられるんじゃないかな。

そう思ったけれど、蛇はどうしてか態度を変えないで。

おいしい草がたくさん生えているところまで、ボクを連れて行く。

なんでおいしい草の生えた場所を知っているんだろ。

鈍く疑問に思ったけれど、口には出さずに。

蛇を見上げると、鋭い牙を見せて笑った。

純粋に怖かった。


「どうして生きたらいいのか、わからない」


 蛇に押されてお腹いっぱいに草を食べて。

そうしたらやっぱり、ごはんはおいしくて。

それでも生きることへの積極性は取り戻せない。

ボクはぼんやり、蛇を見上げた。


「わからなくても、生き物はとりあえず生きていくものだよ」

「わからなくて、いいの?」

「いいんだよ」

「じゃあ、ボクは何をしたらいいんだろう・・・」

「そうだね。幸せになったらいいんじゃないかな」

「・・・・・」


 このときには、ボクにもちゃんとわかっていたよ。

この蛇が筋金入りの、変わり者なんだってこと。

こんなに呑気で、こんなに攻撃性の低い蛇、他に見たことないよ。

そのことに、どうしてかボクは興味を引かれている。

さっきまで緩やかに死のうとしていたのに。

ボクは生きていく上で、どれだけ生き物が図太いのかを実感していた。



「ねえ、ウサギのお嬢さん」

「・・・なに?」

「君、私と一緒に来ないかい? 私はちょうど、一人旅を味気なく思っていたんだよ」

「旅? 旅をしているの?」

「そうだよ」

「どこに行くの? なんのための旅?」

「目的かい? それは私の飼い主になってくれるご主人様を探す旅さ」

「・・・・・」


 聞かずともわかった。

それは、蛇を犬として飼ってくれる奇特な人間を探す旅だと。

道のりは果てしなく遠く、早々滅多なことでは終わらない旅だと、ボクでもわかるよ。


「でもどうして、ボクをそれに連れて行くの?」

「お嬢さんが一緒にいてくれれば、楽しそうだと思ったからだよ」

「どうして」

「気まぐれみたいなものだと思って、そこは納得してくれるとうれしいよ。こうして出会ったのも何かの縁だから。私は君のお母さんに・・・いや、亡くなった方の代わりは、誰にもできないね。ましてや君の誰より大切な、お母さんの代わりなんて」


 申し訳なさそうな顔で、蛇がぐりぐりと尻尾をいじる。

どうしたものかと、思案している。

ボクなんて、ただの獲物にしか見えないはずなのに。

この蛇は、ボクの心を傷つけまいと思い悩んでいる。


「そうだね。私は君の、お兄さんになりたい」


ようやっと蛇が結論を出したとき、ボクの中でも結論が出ていた。


どうしてだろうね。この蛇が、とても変わっていたから。

だからボクは、この蛇を警戒しながらも、何故かついて行こうと思えたんだ。

いつ死んだって構わないって、投げやりな気持ちも、消えてはいなかったから。


どう考えてもエサにしか過ぎないはずの、ボク。

そんなボクを掬い上げて、生かそうとする蛇。

ボクと蛇の、長い旅路が始まろうとしていた。



 とりあえず、終わりはどこにも見えていない。




最後まで読んでくださり、有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 意味わかんねーよ! と声に出してしまいました。 (´・ω・`)この蛇はなんなのか、突然お兄さんになりたいとか不審者過ぎる。 とりあえず続き行くか!
[一言] 何故に彼(大蛇)が自身を『犬』と名乗るのか…… 『2』を見れば、その理由が分かるのかな…? ………と、とりあえずは『(蛇の)蒲焼きend』または『(本能に目覚めて兎を)丸飲みend』になら…
[一言] ん? ・・・・・・犬?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ