負った傷。
人は好きな人と出会った時、それを運命、偶然という。
人は嫌いな人と出会った時、それを運命、偶然という。
「あ。」
少し秋に近づいてきた今日、俺、横田悠斗はその運命が待ち受けていた。
高梨春人。
俺を殺した人物が今目の前にいる。
目を合わせて数秒がたつ。
俺はまだこいつを許していない。
そもそも許す、という理屈がわからない。
この関係に許す許さないがあるのかもわからない。
「えっと、はじめまして。」
春人が一言、言った。
「はじめまして。」
はじめましてではない。
「俺といるの、嫌?」
「別に。」
「じゃあ、少しでいいから話そう。」
「…わかった。」
あの時に感じた恐怖はもうない。
ただまた違った恐怖はある。
辿り着いたのはマック。
…マックだ。
こんな殺人野郎でもマックに行くのか…。
「あれ、もしかしてロッテリア派だった?」
「モスバーガー派だ。」
な、なんなんだこの会話。
向かい合う形で席に座る。
こいつ、何も気にしてないのだろうか。
そう思うと腹がたってくる。
先に手をうってやろう。
「お前」
「ダブルチーズバーガー二つお持ちしましたー。」
店員が笑顔で俺の話そうとしたところを遮る。
「ありがとうございます。」
ありがとうございます!?人を殺す奴がありがとうございます!?
春人はハンバーガーを食べる前に俺の方を見た。
「ごめん。」
「え?」
「人を殺してごめん。」
真顔だ。
ただただごめんと言ってきた。
これで許すなんていったら負けな気がしてしょうがない。
「そんな事ここで話すものかよ…」
「俺…マック派だから…」
「その話はもういいっつうの!」
ハンバーガーを一口食べる。
モスバーガー派だがマックもありかもしれない。
なんだか緊張していたのに、なんなんだ。
「人に恨まれる事に慣れ過ぎてるんだ、許してくれ。」
眉があがる。
こいつはきっとあのゲーム以外でも人を殺しているんだろう。
「正直さ…俺は怒ってねぇから。」
「モスバーガーじゃなかったから…?」
「だからちげぇよ!」
一つ咳払いをする。
落ち着け、何故こいつはこんなにもマックかモスバーガーかの話を引きずってくるんだ。
そうだ、それは俺に気をつかったりしているからだ、話しづらいからだ。
ここは話にのろう。
「まぁ…モスバーガーの方が美味しいよな。」
「いやもうその話はいいよ」
「いいのかよ!!」
ようやく春人もハンバーガーを食べはじめる。
「許す許さないとかどうでもいい、ただ言わないままは嫌だったから。」
何故食いはじめてから真面目な話をする…
「…殺された時ってどんな感じだった?」
目を合わせないまま話す。
きっと、これが本当に聞きたかった事なんだろう。
ここで本当の事を言った時、こいつはどんな反応をするのだろう。
引け目を感じて殺しをやめる?
…いや。
きっとやめないだろう。
「覚えてない。」
「…そう。」
会話がやむ。
ハンバーガーは食べ終わり、話も終わりここにいる理由はなくなった。
俺は席を立つ事にした。
少し、言いづらいけど。
「次の時はモスバーガーだから。」
「いや、モスよりはロッテリアの方が…」
「素直に受け止めろよ!」
また、偶然が重なった時にでも。