ある日
僕は朝が嫌いだった。
朝は一日の始まりで、まさに僕にとっては悪夢の始まりだった。
でもね、今はとっても心地いい。朝が来るのがこんなに楽しいなんて。
母さんが僕のために、ご飯を作っている。
綺麗だった母さんは、やつれ、目の下のクマは酷く、髪はぼさぼさで以前の面影がない。
あんなに美しかったのに、今はただの醜い女だ。
僕は椅子に座って母さんを眺めた。
前まで僕は椅子に座ることを許されず、ただ、母さんの足元に這いつくばっていた。
母さんが僕のために、ご飯を作ってくれたこともない。
ご飯の代わりに汚物を食べさせられたり、洗剤入りの水を飲まされたり、ごみを食べさせられただけだ。
洗剤入りの水を飲んだ時、僕は危うく死にかけた。
今となっては良い思い出だ。もう二度とそんな事できないだろうね。
ごみを食べたときは、お腹を壊したな。下痢が止まらなくて、母さんに殴られ、歯が折れた。
そうそう、母さんはよく僕を殴った。酷いときには、灰皿受けで殴るから僕は頭から血を流した。
こういう時に限って、母さんは僕を手当てするんだよ。殺さないように。
タバコの火もよく僕に押し付けた。今だ痕は消えないし、ライターの火で焼いた僕の腕の痕なんて酷いよ。
母さんは僕にいつも、ボロボロの服を着せてた。
おかげで、学校でいじめにあった。母さんはそれを知ってて、わざと着せてたんだ。
僕がどんなに恥ずかしかったか、母さん、わかる?
母さんはいつだって、綺麗な服を着て、きらきら光るアクセサリーを付けてた。
でもね、今はお風呂も入れてくれるし、綺麗な洋服を着せてくれる。
母さんが辛かったのはわかるよ。父さんが愛人と一緒に家を出ちゃったもんね。
だから、僕に沢山酷いことしたんでしょ?
母さん、僕は別に母さんのこと恨んでないよ?
苦しんでる母さんを見て、僕は十分楽しいんだから。
僕のこと、世間に知られたくないもんね。
母さんが、ご飯を作り終わり、持ってきた。
ご飯はカレーライスだ。僕にとってはご馳走だ。
前まで、母さんは作ってくれなかったんだから。
でもね、母さん。僕は食べないよ。
「ほら、食べなさい。美味しそうでしょ?」
か細い声で母さんは、僕に言った。そして、スプーンでカレーをすくい僕の口に運ぶ。
けれど、僕の口は堅く閉ざされたままだ。
「お願いだから、元に戻って、ねっ?」
母さんは痺れを切らしたのか、乱暴に僕の口をこじ開ける。
やめてよ、母さん。ほら、顎がとれちゃったじゃん。
母さんは、それを見て悲鳴をあげ、僕に謝る。
だから食べないって言ってるじゃん。あとでちゃんと付けてよね?
僕はもう死んでるんだから。