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相談係の受難

告白したら実妹を愛しているから無理だとフられ、挙げ句の果てにはその妹にLOVE的な意味で好きだと言われた私はどうすれば良いのでしょうか。

作者: 柚篠やっこ

「____ 篠宮先輩のことが好きです。付き合って下さい」

「………… ごめん」


ああ、これが失恋ってやつなのか。


篠宮夕斗(しのみやゆうと)。容姿端麗、頭脳明晰、性格良し。

色素が薄いキャラメル色の髪に、アッシュブラウンの瞳。

非公式にだが、多数のファンクラブが存在し、まさに学園の王子様である。


“僕も好きだよ”


フられることは、覚悟していた。

でも、心の中でそんな言葉を期待していた私がどこかにいる。


「あはは…… そうですよね。先輩の貴重なお時間とらせてごめんなさい」

「………… ごめん」


涙をこらえながら、せいいっぱいの笑顔を作る。

先輩は気まずそうにうつむくと、また、さっきと同じ言葉をつぶやく。


「__ あの。最後に1つだけお聞きしてもよろしいでしょうか」

「うん」


せめて、理由だけは聞いておきたい。

それで、私の気持ちにけじめをつける。


「理由を、教えてくれませんか」

「………… それは」


言いにくいことだったのだろうか。

またもやうつむきがちになり、口ごもった。


「すみません。デリカシーにかける質問でしたね。今のはナシということで」


今、先輩と一緒にいても苦しいだけだ。

呼び出してすみません、と深く頭を下げると先輩に背を向け、校舎に戻ろうと歩き出す。

その時だった。


「____ 誰にも言わない?」

「え?」


後ろから、大きめの声が聞こえ、私は思わず振り返る。

すると、先輩が私を見て確かめるように次の言葉を言う。


桜海(おうみ)さんは、なんか、他の子と違うから」

「は、はい! 絶対に誰にも言いません! 約束します!」


必死でかけよって来た私に若干引きながらも、先輩はごくりと唾を呑み込む。

よっぽど言いにくいことなのだろうか。

私もそれに釣られて、覚悟を決める。


「好きな人がいるんだ」

「好きな人、ですか……」


もうフられたんだと思いながらも、その言葉を聞くとやはり落ち込む。

それを悟られないように自然な顔を作り、聞き返す。


「でも、そこまで隠すことでも…… あ、ご、ごめんなさい!」


普通、他人に自分に好きな人がいるかどうかなんて、なかなか言えないだろう。

ごめんなさいごめんなさいと、何度も頭を下げ、先輩は戸惑ったように両手をぶんぶんと振った。


「いや、そういうことじゃないんだ…… 僕と彼女の恋は、世間的にはあまり良くない禁断の恋なんだよ」


現代版、ロミオとジュリエットのようなものだろうか。

その女の人を語る先輩の目はキラキラしていて、思わず見惚れそうになる。

………… 本当に、好きなんだろうなぁ。

私も、そんな風に彼に愛されてほしかった。


「____ もう、我慢出来ない」

「………… はい?」


先輩の何かが沸点に達したのか。

彼は、拳を握りしめながら、こう叫んだ。




「僕は妹を愛してるんだ!」




…… 愛してるんだ! 愛してるんだ! 愛してるんだ!

その言葉だけが、私の頭の中でエコーし続ける。


「え、ちょ、ちょっと待って下さい。妹って、百合様のことですか!?」


聞き間違いだ。絶対に、聞き間違いだ!

この、完璧超人な彼が、そんなわけない。


「うん、そうだよ」

「血が繋がっていない義理の妹、とかですよね?」


篠宮百合(しのみやゆり)

私と同じ1年生で、篠宮夕斗先輩の妹。

兄と同じく色素が薄い、ゆるくカールした長い髪に大きな白いリボンが特徴の、美少女。

これまた兄と同じように頭が良く、入試トップだと聞いた。

そのお嬢様口調と、毅然とした容姿から、陰では“百合様”とか“百合姫”とか呼ばれている。

兄妹合わせて優秀なため、2人合わせて呼ぶ時は学園の美形兄妹だ。


「血? 繋がってるよ? れっきとした実妹。それだからこそ、禁断なんじゃないか」


百年の恋も一瞬で冷める、っていう言葉が身に染みて分かった状況だった。

え? 私、今さっきまでこの人のこと好きだったんだよね?

そう疑いたくなるほど、私は彼に引いていた。


「そして、僕は彼女の犬になりたい」


ここまで、名曲をコケにする台詞ってないんじゃないだろうか。


「彼女に罵られると興奮するんだ。性的に」


学園の王子様は、実は重度のシスコンでドMの変態だった、と。

……………… 幻聴だ。聞き間違いだ。

私、耳鼻科行った方が良いかもしれない。


いや、仮に、仮に!

今のが本当だったとしても、普通、今さっきフった女の前で言うかそれ!?


「………… は、はあ。それなら仕方ないですね。本当、本当。お、お幸せに!」


引きつった笑顔を浮かべ、一目散にその場から脱出する。

うん、これは言われなくても絶対にバラさない。学園の女子450人の夢は、壊せない!


よし、すぐに忘れよう。

私は、篠宮先輩に告白され、好きな子がいるから断られた。

そう、それだけだ。

決してその好きな子が実妹で、彼女に罵られると性的興奮するなんてこと、聞いてない。


____________________


翌日。

その問題の実妹である、百合様から放課後、校舎裏に呼び出された。


ちょっとお話があるらしい。

やっぱり、昨日の先輩のことの口止めだろうか。


「突然、お呼びだてして申し訳ありませんわ」

「えっ!? あ、いえいえ!」


頭を下げる彼女を必死で止める。

万が一、誰かに見られでもしたら、姫様に無礼をはたらいたとかで絶対しばかれる。うん。


「頭上げて下さい! …… それで、あの、話とは」

「ええ、それなのですの。わたくしも、先月から言うべきかずっと悩んでおりました。けれど、よくやく決心がついたんですわ」


ちょっとうつむきがちに、頬を染める百合様は絵になるくらい、美しかった。



桜海雪音(おうみゆきね)さん、わたくしと付き合ってもらえませんか!?」



…… もらえませんか、もらえませんか、もらえませんか……

付き合ってって、あ、そういうことか。


「え、ええと、どこにですか?」

「そういう意味ではありませんわ! わたくしは、雪音さんを好きです。ですから、彼女彼女の関係になってほしいのです!」


………… 恋愛感情的な意味だった。

え、つまり、あの学園のお姫様は、女の子が好きな百合少女だったの?


「LOVE的な意味で?」

「ええ、そうですわ」


そんな自信満々に言わないでほしい。

百年の憧れも一瞬で冷めるとは、こういうことなのだと思った。


「一目惚れでした。入学式の新入生代表の挨拶の時、雪音さんと目が合い、そこであなたは輝いた瞳でわたくしを見て下さいました。そこで、ビビっときたのです。お慕いしています、雪音さん」

「えーと……」


多分、それは入学式に出席していた生徒の9割がその目だったと思う。

頭が混乱し過ぎている。

まさか、昨日のことといい、たった2日で学園の美形兄妹のイメージが崩れるとは思わなかった。


「ええ、もちろんお返事は今でなくとも構いませんわ。気持ちに整理をつけてからでよろしいです」

「は、はあ……」


学園のお姫様から告白される。

なんて夢に見るようなシチュエーションだろう。

私も、女でなく、男だったら返事は一発で、はい、だ。


「不躾でしたらすみません…… 百合様は、その、女の子が好きなんですか?」

「ええ、わたくし、れっきとしたレズビアンでしてよ。それに、この百合という名前。まさにわたくしは、女性を愛するために生まれてきたような人間ではなくて!?」


ガシッと肩を掴まれ、ゆさゆさと揺さぶられる。

その目は真剣(マジ)だった。


「わ、分かりました。考えます。____ それで、1つお聞きしたいことがあるんですが」

「何なりとですわ! 雪音さんのためなら、火の中水の中ですの!」


百合様ってこんなキャラだったっけ。

確か、私の知っている百合様は、その美貌に羨む先輩たちにも毅然とした態度で接し、誰にも優しいそんな方だった気がする。

こんなに、鼻息荒く熱血みたいな台詞言う人だったっけ!?


「お兄様の好意のというか、それはご存知ですか?」

「兄? あぁ、あのシスコンのマゾヒストのことですわね。家では、適当に足蹴りにして軽く罵ってやれば満足度そうに部屋に戻って行きますわ」


その時の百合様の目は、ゴミムシでも見るかのようで、とても怖かった。

彼女の百合趣味とかは置いておくとして、案外サドの資質あるんじゃないだろうか。

割と、相性良いかもしれない、あの2人。


____________________


さらに翌日。


これからあの兄妹のことは、心の中では美形兄妹ではなく、美形“残念”兄妹と呼ぶことに決めた。

授業中にため息をついていることから、友達には篠宮先輩にフられたことを気にしていると思われたのか、やけに慰められたが違う。

先輩のことはもういいんだ。

むしろ、引いた。

ああ、あの兄妹の性癖のことを暴露してしまいたい。

まさに、王様の耳はロバの耳状態だ。


そんな時。

放課後、今度は兄の方から校舎裏に呼び出された。


「ええと、ご用件は」

「………… 君には、僕の性癖のことを言わないでくれたのは、感謝している。しかし!」


何も言い出さないので、急かしたと思われそうで嫌だったが、先に口を開く。

すると、やけに焦ったように低い声音でそう言い出した。


「昨日、君は百合に告白されたそうじゃないか! 恋愛感情として! 百合が女性が好きだとは聞いていたが、まさか本当とは…… 僕の告白を断わる口実だと思っていたが…… ああ、桜海さん、僕はどうすれば良いのかな!?」

「いや、知りませんよそんな事」


真剣そうな表情だったが、まさかこれとは。

それにそても、饒舌だなぁ、篠宮先輩。

まあ、好きな人のことを話すとなれば、こうなるだろう。

それが妹ということは、問題だけど。



____________________



さらにさらに翌日。

また、百合様に校舎裏に呼び出された。

兄妹ということもあってか、好きですね、ここ。


「あの、ご用件は」


まさか、またこの台詞を言うとは。

でも、告白の返事は、すぐでなくても良かったはずだ。

私にその趣味はないし、しばらくしたら断ろうと思っている。


「雪音さん、先日、バカお兄様にフられたそうですわね!? 許せないですわ、雪音さんをフるなんて! いやですが、2人が両思いになったらわたくしはどうすれば…… ああ、揺れるこの思い! 雪音さん、わたくしはどうすれば良いのでしょうか!」

「いや、知りませんよそんな事」


さらにまた、この台詞を言うとはなあ。



____________________



そのまた翌日。

また、兄の方が呼び出してきた。校舎裏に。


「何ですか……」

「昨日、百合に呼び出されたそうじゃないか!? 何だい、そんなに百合は僕のことが嫌いなんだろうか!?」

「何でそうなるんでしょうか」


疲れてきたので、少しウザそうに答えてみる。

が、百合様のこととなると我を失うのか、そんなことお構い無し聞いてくる。



____________________



そのまたまた翌日。

またまた百合様に校舎裏に呼び出された。



「昨日バカお兄様に呼び出されたのでしょう!? 何ですか、わざわざお前などいらないと言ったのですか!? そうですわね!? 許せないですわ、本当に!」

「だから、そうじゃなくてですね」


あの頃の、憧れていた百合様はどこに行った。



____________________




それからも、兄、妹という風に交互に放課後、校舎裏に呼び出されるようになった。

もういい加減面倒なので、拒否したいのだが、どこで2人のファンクラブの人たちが見ているか分からないので、行くしかない。

まあ、見ていたとしても穏便派なら陰で悪口ぐらいで住むのだが、強行派だとそれこそ呼び出しだ。


それが何日続くとなると、さすがに学園内にもしれ渡るようで、私はあの美形兄妹の悩みを聞く相談係として一目置かれるようになっていた。

何でだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公のツッコミが面白いです笑 [一言] 作品、拝見させていただきました。 主人公がなんども美形"残念"兄妹に呼び出しされるのがとてもツボでした! やっぱり本当は、兄妹仲が良いんじゃない…
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