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作者: ノイジョン

 多分、ホラー。

 見上げた先には、何もなかった。気味が悪いほどの真っ白な地平と、透き通るような水色の空がただただ広がるばかりである。

「ちょっと。どこ見てるの?」

 彼女の声が聞こえた。まさかと思ったが、この耳にはっきりと聞こえた 。

 続くかすかな音に振り返ると、すぐ目の前に彼女の顔があった。驚いたが、その心の動きはひどく緩慢なものだった。

 彼女は柔らかな笑みを浮かべたまま、僕の瞳を覗き込む。

「会いに来てくれたのね。うれしい」

 彼女はそう言って、相好を崩した。心の底から嬉しそうに。しかし、そんなはずはない。僕が彼女にしたことはそう簡単に赦されるようなことではない。

「どうしたの?」

 彼女は不思議そうに小首を傾げる。茶と言うよりはオレンジに近い髪の毛がふわりと揺れる。彼女に惹かれた要因の一つでもある。

 単純にかわいいと思ってしまった。緊張しきっていた心が少しだけ緩んだのがわかった。

「僕を恨んでないの?」

「ふふ、どうして?」

「だって……君にひどいことした」

 彼女は微笑んだまま、ゆっくりと目を閉じた。立ち上がり、くるりと背を向ける。

「そんなことないよ。あるわけない。諒はいつだって優しかった。迷っていた私の背中を押してくれたのも諒だったじゃない」

 彼女の声音は明るい。しかし、その言葉に、僕は彼女の背中を見つめたまま押し黙るしかなかった。

 ――違うんだ。あれは優しさなんかじゃない。だって、僕はあの時、君のことなんて一つも考えてはいなかったのだから。



   ◆◆◆


 ――目が覚めると、頭上にあったのは青い空などではなく、染みだらけの天井だった。見慣れた自室の天井だ。

「……綾」

 彼女の夢を見るのは初めてのことだった。付き合っていた頃にも一度も見たことがない。それなのに、なぜ今更になって――。


 彼女と出会ったのは一年前、まだ新しい学校に慣れていない頃だった。

 特別誰かと親しくなることもなく、休憩時間はいつも屋上でタバコをふかしていた。幸運なことに、この学校の屋上は基本的に立ち入り禁止とされており、そこそこ真面目な校風もあってか、誰かに見られる心配はほとんどなかった。

 そんなある日。

 いつものように屋上に上がってタバコに火をつけた僕は、壁に背を預けて座り込んだ。ふと見ると、足元のコンクリートに影が差している。

「ん?」

 見上げると、一人の少女がこちらを覗き込むようにして立っていた。

 やばい、と思ったが、今更隠せるものでもない。半ば開き直ってタバコをふかし続けた。

「ここ、全校生徒立入禁止だろ? それに今授業中のはずだけど?」

 少女はくすりと笑った。

「自分だって、サボってるじゃない」

「僕はいいんだよ。五時限目は休憩」

「何それ、ズルい。じゃあ、私も休憩」

 そう言って、彼女はまた笑った。よく笑う娘だな、と思った。肩まで伸びた髪が、風が吹くたびさらさら揺れた。

「タバコ、だめなんじゃないの?」

「校内は禁煙だな。でも、屋上は校内じゃない」

「うっわ、すっごい屁理屈」

 そう言って呆れ顔をつくりながら、隣に座ってくる。

「……なにか用?」

「ううん。ただ、せっかくだし、おしゃべりしたいなぁ、なんて」

 言いながら、微笑む。

「私、あなたのこと知ってるよ。一年二組だよね」

「へえ、よく知ってるね」

「有名だもの、三拍子揃ってるって。無表情・無感動・無関心」

 そんな風に言われてるのか。なるほど、外れてはいない。無ではないが、そういったものが薄いことは自覚していた。思い返してみても、何かに興味を持ったことはほとんどないように思われた。

「ショック?」

「いいや、別に」

「そうよね、言いたい奴には言わせておけばいい。それに、私にはそんな風に見えないし」

 なら、どんな風に見えるのか、と尋ねようとして、やめた。ろくな返事が返ってきそうにないし、聞いたところで何の意味もない。どうせ、この一瞬だけの付き合いだ。これから先、こんな風に話をすることもない。たまに廊下で擦れ違って、会釈するかしないか、その程度の関係にしかならない。その時はそう思っていた。


 その予想が完全に外れていたことを知ったのは、次の日の昼休みだった。

 いつものようにタバコを吸いに屋上に上がると、見覚えのあるオレンジの髪の女がそこにいた。柵の上に腰掛けて遠くを眺めているように見えた。

「そこからだと何が見えるの?」

 彼女は振り向きもしない。

「何も――。ただ……」

「ただ?」

「どうしようかな、と思って」

 太陽が雲に隠れると、辺りがほんの少し薄暗くなった。僕と彼女の間を不吉な風が吹きぬける。

「どうしよう……って?」

 なんだか不穏な空気が漂っているように思われた。それが単なる杞憂だったことはすぐに知れたが。

「実はさ、私、空飛べるんだ、って言ったらどうする?」

 振り向いた彼女は昨日のように笑顔だった。花が咲くように笑った。

「へえ、すごいね」

「えー、何その反応、傷つくなぁ」

 不満そうな顔をこちらに向けながら柵を下りる。

「でも、空飛べたらいいな。気持ちよさそうだ。自由な感じがするよ」

 我ながら何を言っているのだろうと思いながらも彼女の様子を見ると、彼女は口許をおさえて、必死に笑いを堪えているところだった。

「いや、自分でも馬鹿なこと口走ったと思ってるよ」

 それは自分でもわかるくらい、明らかに不機嫌な声だった。

「あっはは、ごめんごめん。そっか、自由かぁ。でもね、空飛ぶのってけっこう大変なんだよ。上昇するにはすっごい羽ばたかなきゃだし、バランス崩したらすぐ落っこちるし。こないだなんかね……」

 そんな、彼女の妄想話を僕は毎日聞くようになった。矛盾だらけの、簡単に嘘だとわかるようなものばかりだったが、彼女の話を聞いていると、自然に口許が綻んだ。学校のある日にはほとんど毎日、昼休みや放課後に屋上で会った。休日なんかに二人で出かけるようになるまでに、そう時間はかからなかった。


   ◆◆◆


 夢に出てくる彼女とは、もっぱらその頃のことばかり話していた。一番楽しかった頃のことだった。出来ればそれ以外の話なんてしたくはなかった。

 あれ以来、夢を見るたびに彼女が現れた。いつだって、空は青く澄み切り、地平は白かった。

 最初のうちは怖かった。彼女が自分を恨んでいるのではないかという疑念が常に頭の中を渦巻いていた。しかし、あの頃と同じ笑顔で話す彼女を見るうちに、その考えはいつしか薄らいでいった。夢とはいえ、彼女との時間はただただ楽しかった。ずっと夢の中にいられたら、とまで思うようになっていた。

 夢から覚めると、無味乾燥な現実が待っていた。ただ学校と自宅を往復する毎日。そこに彼女の姿はない。そう。僕の傍らに、彼女はもういないのだ。


「ねぇ、諒の親ってどんな人たち?」

 彼女と喫茶店へ入ったときのことだった。突然、親のことが話題に上った。まさかこの歳ですでに結婚とか意識しているのか、と思いながらも当たり障りのない答えを口にした。

「別に、普通だよ。普通の会社員と専業主婦」

 嘘ではなかった。どこにでもある普通の家庭。初めて会ったときからそんな印象だった。当時四歳だったが覚えている。普通の家庭のように適度に優しく、適度に厳しくされてきた。しかし、それでも彼らのことを本当の親のように思えたことはなかった。僕が小学校に上がる頃、両親の間に子供ができた。とっくに諦めていたからこその養子だったわけだが、こうなると僕はきっと邪魔者でしかない。そんな僕の考えを知ってか知らずか、両親は血の繋がらない子供と生まれてきた子を平等に扱った。しかし、それでも彼らのことを家族だと感じられるような瞬間はとうとう来なかった。

 もちろん彼女にそんな話はしなかった。飽くまで当たり障りのないところだけを話した。

 僕の答えに彼女はただ「ふうん」と頷いただけだった。そもそも僕の親のことに興味があったわけではないらしい。

「私の親はね、二人とも仕事が大好きなの。実はお互いのことなんてなんとも思っていないんじゃないかってぐらい。その上、娘にはああしろこうしろって言うだけ言って、あとは放っておくの。それで結果だけ見て、どうしてお前はこうなんだって。……自由にさせてもらったことなんてなかったなあ」

 よくある家庭。よくある話。そんな印象しか受けなかった。話してどうなるものでもないが、誰かに聞いてもらうことで、溜飲を下げたい、そんなところだろう。

「勉強しなきゃ成績が下がる。成績が下がれば怒られる。でも逆にどれだけ頑張っても、褒めてくれたことなんて一度もなかった」

 彼女に兄弟はなかった。友達の話も聞いたことがない。彼女は孤独だったのだ。そもそも孤独でないものが、立入禁止の屋上に一人でなんて来るはずがなかった。僕らは、或いはお互いの孤独に惹かれあったのかもしれない。

「うちに来ないか?」

 気づいたら、そんなことを口走っていた。言ってから、自分が思っていた以上に彼女に入れ込んでいることを理解した。まさか自分から他人を家に上げようとするなんて夢にも思わなかった。

 彼女はというと、はじめは驚きに目を見開いていたが、次の瞬間には笑顔になっていた。僕の提案が何の解決にもならないどころか悪い結果しか生まないことぐらい、彼女もわかっていただろう。それでも、彼女は僕の言葉に涙を浮かべて喜んだ。

 それからしばらくして、彼女は家を出た。何着かの着替えと身の回りのものだけを持って――。特になにか打ち合わせめいたものがあったわけではなかった。ある夜、突然、呼び鈴が鳴ったのだ。

 玄関のドアを開けるとリュックサックを背負った彼女が安アパートの切れかけの電灯の下に佇んでいた。

「お世話になります」

 そう言って、彼女は丁寧にお辞儀をした。


   ◆◆◆


 また、彼女の夢を見た。

 いや、正確には彼女の夢ではない。彼女の夢の延長とでも言おうか。

 気が付くと、僕はいつも彼女と会うあの世界に来ていた。どこまでもどこまでも青と白だけが広がる空間。しかし、その日は様子が違っていた。頭上に広がる黒い空は夜空などとはまったく異なるものだった。星や月の姿はなく、雲ひとつなく、そこに広がりなどは感じられない。そこにあるのは闇だった。すべての光を呑み込み、なお膨れ上がろうとする巨大な闇。そこからとめどなく降り続く赤い雨はどろりとした感触とともに僕と白かった地平を汚す。赤い雨は僕の両腕を伝い、まるで僕自身が傷ついたようにも、或いは僕自身がこの手を汚したようにも見えた。

 どれだけ待っても彼女は現れなかった。僕は彼女の身に何かあったのだと感じた。それはとても恐ろしいことのように思えた。しかし、すぐにその考えを振り払った。所詮、夢なのだ。現実的に考えて、彼女の身に何かが起こることなどあり得ない。


 ――彼女が家出をしてから数日後。

 彼女が外出することはなかった。学校にも行かず、買い物なんかはすべて僕がした。その代わり、家のことはほとんど彼女がやってくれた。幸い僕の借りているアパートは各部屋に風呂もトイレもついていたので、誰かに見られる心配もなかった。

 しかし、このままでいいはずはなかった。

 当然、学校でも彼女の話題が出ることはあったが、僕は知らぬふりを貫いた。まさか自分の家に泊めているなんてこと、誰にも知られるわけにはいかない。

 彼女はもう自分の家に帰るつもりはないようだった。しかし、今の生活には不自由を感じているようで、しきりに遠い街の話をしていた。どこか遠い、自分達のことを誰も知らない街、そこなら何の気兼ねもなく、暮らしていける。そんな夢物語を何度となく聞かされた。

 彼女にとって家出は自由への第一歩のはずだった。しかし、そこに待っていたのは更なる不自由だったのだ。彼女は自由を求めた。

 僕はといえば、そんな彼女を少し疎ましく思うようになっていた。引越しと言われたってそんな金はどこにもない。それに自分から言ったこととはいえ、彼女の家出によって、不自由な生活を強いられているのは僕なのだ。文句を言われたくはない。

 僕も自由を求めているのかもしれなかった。しかし、その自由は彼女の思い描くものとは違う。それはそのまま心の距離となって現れた。ベッドの中、毎晩のように体を重ねても、その心の距離が縮まることはなかった。


   ◆◆◆


 ――黒と赤に染められた空間で、僕はただただ震えていた。寒いからなのか、それともなにかが怖いのか、理由もわからないまま震えていた。

 ふいに、子供の笑い声が聞こえた。顔を上げると、小さな子供が目の前に立っていた。裸の少年の肌は死人のように白く、毛髪もない。指の間には水かきのようなものが見えた。顔の筋肉に何か異常でもあるのか、歪な笑顔でこちらを見ている。どこか、誰かに似ている気がした。

「君は……? 綾を知らないか。ここに女の子がいただろう」

 そう尋ねるが、少年の表情は少しも変わらない。口を動かそうとしているようだが、よく見ると唇の上と下とがうっすら繋がっているようだった。その隙間から声が洩れる。

「殺した」

 それは言葉ではなかった。あー、だか、うー、だか、そんな、音でしかないようなものだったが、不思議とその意味は理解できた。少年は、彼女を殺したのだと確かにそう言った。


 警察による綾の捜索は続いていた。

 ある日、買い物リストに妙なものを発見した。それについて、綾を問い質すと彼女は俯いたまま、

「……こないの」

 とだけ言った。たった一言だが、僕が事態を理解するのには十分だった。つまり――

「……出来ちゃった、かもしれない」

 言葉が出なかった。いつも通りの無表情を通しているつもりだったが、内心かなり焦っていた。正直、綾一人でも手に余っているというのに、この上、子供なんて生まれたら――。

 僕が今後のことに思考を巡らせていると、彼女は俯いたまま溜め息を零した。

「わかってる。私だって生むつもりなんかないよ。だって、子供なんて……」

 ハッとなった。それに続く言葉を彼女はなんとか飲み込んだ。それがどれだけ酷いものだったかは想像に難くない。それを言えなかったのは、自分の中に生まれてしまった生命に対して申し訳なく思ったからか、それとも、それを言おうとした自分の心の内を醜いと思ったからか。今となっては、確かめる術もない。


   ◆◆◆


 また、この夢か。そう思ったとき、前回との明らかな差異に気づいて、僕は飛び起きた。

 空が青かった。地平はどこまでも、どこまでも白く続いていた。

「元に……戻っている」

 これはどう解釈すればいいのだろう。この前の夢とこの夢とはまったく関係のないものだったのだろうか。いや、きっとそうだ。そうに違いない。彼女のおなかに子供がいたかもしれないことを思い出してしまったから、僕の頭があんな夢を作りだしてしまったのだ。あれはただの夢だったのだ。

 ――いや、これだって、ただの夢か。

 そんなことを考えているうちに、彼女がいつものように笑顔で現れるに違いない。そう、思っていた。

「……諒?」

 微かな声に振り向くと、すぐそこに彼女が立っていた。しかし、いつものような明るさはない。

 彼女の顔は恐怖に歪んでいる。

「どうしたの?」

 僕の問いに答える代わりに、彼女は僕の胸に飛び込み、そのまま啜り泣きはじめた。ひどく怯えた様子だ。何があったのか尋ねてみるも、子供のように泣き喚いている彼女とは会話にもならない。困り果てた僕はとにかく彼女の気を鎮めなくては、と宥め続けた。

「あうー」

 その声は、殺してやる、と言っていた。

 心臓がビクンと跳ねる。驚いて顔を上げると、彼女の肩越しに少年の顔が間近に見えた。少年が一歩後ろに下がる間、僕は呆然としたまま、その顔をじっと見つめていた。以前、誰かに似ていると思ったが、それもそのはず。彼の顔はどことなく彼女に似ている。

 彼の歪な笑顔が赤く染まった。その飛来した先を目で追うと、彼女の背中だった。穴が空いていた。彼女の白いワンピースが赤く染まっていくのと同時に、空に闇が広がっていくのがわかった。赤い雨が降る。

 彼女の横顔を覗き込むと、口からも赤い液体が一筋流れている。僕はそれをそっと拭ったが、絶え間なく降り注ぐ雨が彼女のオレンジの髪を赤く濡らす様を見て、それを諦めた。彼女は目を閉じたままガクガクと震え……しばらくすると動かなくなった。

「殺してやる。何度でも何度でも」

 少年はあー、うー、呻いている。僕が、なぜだ、と問うと、

「この女は僕を二度も殺した」

 そう呻いた後、今度は僕の喉元を貫いた。


 それからというもの、夢を見る度に少年は現れた。

 いつも僕の目の前で彼女を殺し、そして、慟哭する僕を満足そうに見下ろした後、僕をも殺すのだ。夢の中の出来事だというのに、その痛みも苦しみも現実のものとなんら変わりない。そんな毎日を過ごすうちに、少年の笑い声が頭から離れなくなっていった。

 眠るのが怖い。最近はもう、眠るたびに必ずあの夢を見るようになっていた。しかし、もう彼女の死を見たくはない。それ以上に、自分自身、殺されたくはなかった。あの痛みと苦しみはとても耐えられるものではない。僕は出来るかぎり眠りに落ちないように努力した。眠らなければ夢を見ることもない。そうすれば、あのような恐ろしい目に遭わずにすむ。

 しかし、そんな生活を続けていると、精神的にも肉体的にもみるみる衰えていく。学校へ行く度に、具合が悪いのでは、と心配された。実際、仕事などとてもじゃないができる状態でははく、学校を頻繁に休むようになるまでにそう時間はかからなかった。

 家で休んでいるとふいに眠りそうになるので、町中を歩き回るようになった。その様子は他人から見れば、おそらく夢遊病者かなにかのようであっただろう。

 どう見られようとかまわない。この現実で起こることならば、あの子供に会うよりは遥かにマシだ。


 眠ることをやめてから何日が経っただろう。いつものように、あてもなくふらふらと歩いていた。駅前に差し掛かったとき、足が縺れて転んだ。色々と限界がきているようだった。痛みどころか、倒れゆく感覚さえなかった。気づいた時には天地がひっくり返っていた。近くにいた高校生二、三人が悲鳴を上げながら、後退さる。よく見ると、うちの高校の制服だったが、それももうどうでもよくなっていた。

「え? あれ、寺田じゃね?」

「うっそ、ずっと病欠のくせに。何? 副担のくせにサボり?」

「マジ? すっげムカつく」

 そのような言葉が耳に入った。どうやらうちのクラスのやつらだったらしい。なんだかんだと遠巻きに罵声を浴びせてきているようだ。何を言われているかなど最早、どうでもよかった。

 とにかくただ眠らない。生きる上で、目的と呼べるものはそれだけになっていた。まるで、使命かなにかのように僕に取り付いて離れない。

 あと数回、あの光景を見るだけで、夢の中での死を体験するだけで、僕の心は容易に壊れてしまうだろう。それがわかっているからこそ、僕は睡魔の甘い誘惑を頑なに拒み続けているのだ。

 しかし、それももう長くはもたない。人間の身体は元来そこまで頑強には出来ていない。肉体、精神を維持する上で、睡眠は必要不可欠な要素の一つだ。だからこそ、人は睡眠を摂らずにいられない。その誘惑に抗い続けるのにも限度があった。

 消え行く意識の中で、路傍で突然倒れた汚い風体の男を抱き上げ揺り動かす腕があるのに気づいた。細く柔らかい女性の手だ。もしかしたら彼女だろうか、と思ったが、そんなことはありえないのだと、僕自身が一番よく知っていた。


   ◆◆◆


 また、綾が殺された。

 少年の嗜虐性は夢を見る度増していく。どうすればもっと苦しむか、それだけを追求しているようにさえ感じられた。少年が僕を先に殺さないのは、その方が――彼女の死を見せつける方がより僕を苦しめることになると知っているからだ。

 少年は僕らを憎んでいる。そして、一際僕のことを憎んでいるようだった。

 夢の世界において、彼は僕らに対して絶対的優位に立っていた。その華奢な身体のどこにそんな力があるのか、彼は素手で僕らの身体を容易く貫くことが出来た。これは僕の勝手な想像に過ぎないが、夢の世界はいわばイメージの世界だ。そこにおける強さというのは、ひとえに心の強さである。心の強さとは、感情の強さだ。少年の憎悪の念は恐ろしく強いものだった。そして、僕らは彼に対して負い目がある。この力関係が変わることなどおそらくないだろう。だからこそ、僕はこの夢の世界から逃げ続けることを選んだのだ。

 彼に謝ることも、彼女を守ることも頭になかった。僕はただこの血塗れの世界から逃げ出したかった。


 ――目が覚めると、見知らぬ天井が視界を満たした。蛍光灯が古いのか、白いはずの天井は病人のように蒼白に見える。病的な清潔感が漂うなか、僕はベッドから起き上がろうと身じろぎした。

「あ、目が覚めました?」

 突然、声を掛けられて驚いた。見ると、見知らぬ女性がドアを開けて入ってくるところだった。ベッドの脇の簡素な椅子に腰掛ける。

 看護師ではない。それは服装を見れば一目瞭然だ。問題は知人でも病院関係者でもない女がなぜ真横に座り、話しかけてくるのか、だが……

 あ、とここに来るまでの経緯を思い出す。町中で倒れたこと。そのとき誰かに肩を揺すられ、しきりに声を掛けられていたこと。

 ひょっとして、あれはこの人ではないだろうか。彼女が自分を助けようと救急を呼んでくれたのではないか。

「大丈夫ですか? ひどくうなされていたようですけど」

 返答に困った。

「……いえ、大丈夫です」

 なんとか言葉を絞り出す。夢の中で殺されていたなどと、言えるはずもない。

「あの……ありがとうございます。あなたが助けてくださった……んですよね?」

「あ、いえ、大したことはしていませんから」

 そう言って、微笑む。屈託なく笑うその貌に綾の顔が重なって見えた。少しも似ていないのに……。

「にしても、原因が過度の睡眠不足だなんて……お仕事お忙しいのかもしれませんけど、体には気をつけないとダメですよ」

 「それじゃ」と言い残すと、椅子を引いて立ち上がる。

「待って」

 彼女の笑顔に綾を重ねてしまったからかもしれない。去ろうとするその背中を咄嗟に呼び止めてしまっていた。

「すみません……あの、何でこんなところまで――」

 当然の疑問だろう。見ず知らずの男に病院まで付き添って、尚且つ目が覚めるまで側にいるなんて、どう考えてもおかしい。しかし、本当はそんなことはどうでもよかったのだ。

 独りになりたくなかった。誰でもいい。そばにいてほしかった。


 

「え? 看護師?」

「ええ。まあ、今日は非番だったんですけど」

 なるほど、人を見た目や服装だけで判断してはいけないの実例だ。

 彼女――看護師の塚原由衣は買い物帰りだったらしい。言われてみれば、病室の隅にスーパーのレジ袋が二つ無造作に置いてある。

 帰宅途中、視界の隅で突然人が倒れた、これは看護師としては放ってはおけないでしょう。というのが彼女の言い分だ。

 自分が教職に就いていることを話すと、意外そうな顔をしていた。元々らしくないほうだが、今の風貌からは教師だとは想像もつかないだろう。しばらく鏡を見ていないのでなんとも言えないが、おそらく髪も髭も伸び放題、死人のような顔色だろうし、夜中に遭遇したらきっと幽霊かなにかに見間違えられるに違いない。

 ――かなり長い時間、彼女と話していたように思う。とにかく一人になるのは嫌だったし、人と話すこと自体がまるで何十年ぶりかのように懐かしく、新鮮だった。彼女がどう思っているのかはわからないが、ただ、嫌な顔ひとつしないでいてくれた。

 彼女との会話の中で、どうやら数日中に退院できそうだということを知った。



 実際、退院したのは二日後のことだった。

 そもそも倒れた原因といえば睡眠不足だけだったのだ。入院が長引かなかったのは当然のことのように思えた。

 家に帰る道すがら、近所の商店街のアーケードをくぐりながら、心に引っかかる物寂しさのような感覚の正体を考えていた。例の子供の夢以外のことを考えるのは久しぶりだった。

 町行く人の話し声が聞こえる。学校帰りの子供たちの笑い声が聞こえる。その中に自分だけが無音の塊として沈んでいるように思えた。誰も僕を見ない。話しかけもしない。もちろん、笑いあうこともない。これまで、なんとも思ってなかったことだが、なぜだかそれが自分の胸にやけに色濃く影を落とす。

 家に着くと、自然と溜め息がこぼれた。

 僕はこれまでの人生において、およそ友人とよべるものを作ったことがない。親や義弟と打ち解けることもできなかった。そして、唯一関係と呼べるものを築いたひととも……あんなことになってしまった。これまでの生き方が間違いだったなどと考えたこともなかったが、実際、現在自分が置かれた状況を見ると、やはりどこかで間違ってしまったのだと思わざるを得ない。そしてその間違いは、あのときあの瞬間に目に見える結果として表れたのだ。

 あのときの僕の行動こそが、その生き方が間違いだったということのその収束点であり、結果だった。


   ◆◆◆


 その日は午後から雨が降っていた。

 その頃にはもう、綾との関係はますます冷えきったものになり、家にいる間も会話などほとんどなく、先行きの不安もあってか、常にもやもやとした息苦しさのようなものを感じていた。

 そんな状態だったこともあり、自然と家からは足が遠のいた。仕事が片づいても学校の傍の喫茶店に寄ることが多かった。

 その日も多分に漏れず、コーヒー一杯で二時間ぐらいは粘っていたと思う。店を出る頃には雨はかなり小降りになっていた。重たい足取りで家路に着く。

 綾のお腹はまだ目立つほどではないが、しかしそこに芽吹いた命は着実に成長を続けている。そのことが、僕にとっては重圧以外のなにものでもなかった。常に胃をきりきりと締め付けるような感覚。そこから逃れたくて仕方がないが、そうするわけにもいかないジレンマ。後になって思えば、そんなものは言い訳に過ぎなかったとわかる。僕は当時の自分を覆う状況を快く思わないものの、とはいえ、ひとり逃げ出すのも怖かっただけなのだ。綾とお腹の子という責任と重圧を棄てるということは、家や仕事まで同時に棄て去ることだ。金もない。そうして、自分の身一つになって生きていくだけの勇気を持ち合わせてはいなかった。

 ようやくアパートに着いたとき、部屋の中はいつものように暗かった。ただ普段と決定的に違うのは、いつもなら「おかえり」と声をかけてくる綾が、その日は声ひとつあげない。

 当然だった。部屋の明かりをつけたとき、そこには誰の姿もなかったのだから。


 ――数分後、僕は走り出していた。

 台所に無造作に置かれていた手紙にはただ、


   ごめんね


とだけ、書かれていた。

 それは僕に宛てたものであると同時に、おそらくお腹の子への言葉でもあったのだろう。実家に帰ったとは到底思えなかった。嫌な予感しかしなかった。

 雨が再び勢いを増していた。ずぶ濡れのまま走り続け、ようやく雨が上がった頃には学校の前にいた。僕の職場であり、彼女の通う学校でもある。綾が最後の場所に選ぶとすれば、ここしか考えつかなかった。

 校門を乗り越え、敷地内に入ると淀みない足取りで屋上を目指す。彼女と初めて会った場所。そういえばあのときも、もしかしたら……。

 余計なことを考えそうになった頭を振って思考を途切れさせる。昔のことなど考えたところで仕方がない。

 階段を上りきると、全校生徒立入禁止、の文字が見えた。錆びついた重い扉を体重を掛けて開ける。この時ばかりは鍵が壊れたままの扉を呪った。開いた扉のその先に、夜闇の中でもはっきりと見える、オレンジがかった髪が見えたから。


   ◆◆◆


 退院してから数日が経ったが、その間、夢を見ることは一度もなかった。

 肉体が健康に近付くと、不思議と精神も安定していくようだった。食欲も出始め、気持ちも明るくなる。学校には明日から出勤できる旨を電話で伝えた。これだけ長い間休んだのにクビにしない校長に感謝の念を抱いた。

 昼食を摂ろうと、近所のスーパーに買出しに行くと、塚原由衣を見かけた。向こうも買出しのようだ。休日だろうか。声を掛けようと思った。髭を剃ったから誰だかわからないかも知れない。そもそも、一度会ったきりの男の顔など覚えていないかも知れない。しかし、どうしても話したかった。会話に、人との触れあいに飢えていた。買い物カートを押しながら、ゆっくりと彼女に近付いていき、その途中で視界の端に妙なものを見た。

 なんだったのかまではわからない。しかし、とても不吉な感じがした。何を見たのかは自分でもわからないのに、身体が竦んで動かない。どっと汗が噴き出す。ようやく動けるようになってから、それがいたと思われる方向を見たが、そこには買い物かごをさげた主婦が品物を選んでいる姿しか見られなかった。

 結局、塚原由衣には声を掛けないままその場を後にした。


 久しぶりに夢を見た。

 どこまでも透き通る水色の空。果ての見えない白い地平。それは、あの子供が現れる前の、綾と自分だけの、二人だけの平穏な世界。

 ふと見ると、綾が楽しそうに踊っている。彼女がくるりと廻るとそれに伴って白いワンピースの裾がふわりとまるで花びらのように広がる。

 幸せそうな様子の彼女に理由を尋ねようとするが、その途端、眼前の光景はぼやけ、霧散し、染みだらけの天井へと変わった。


 数日前から学校に出るようになっていた。

 始めは授業中でも職員室でも廊下を歩いているときでさえ、周りの反応が気になった。実際、ひそひそとなにか噂されている気配は感じていた。しかし、それもすぐに収まっていった。もともと僕に興味のある人間などほとんどいない。今までどおりに振舞うだけで、簡単に噂の対象からは外れていったようだ。

 それよりも気になることがあった。

 スーパーで妙なものを見た気がして以来、時折視界の端に黒い影のようなものを見るようになった。なにか見えたような気がして、しかし、そちらを意識してみても、その時には何もいない。そんなことが何度も何度も続いた。

 気のせいだといわれれば、確かにそうなのかもしれない。しかし、その影のようなものが見える頻度が徐々に増してきている気がするのだ。

 僕は言いようのない不安に襲われていた。


 その黒い影は日を追うごとに近付いてきているように感じた。見え始めた頃は廊下の先の曲がり角の辺りや教室の隅なんかに、ほんの一瞬見えるだけだったのが、最近では、二、三メートル先の柱の陰からこちらを覗いていたり、この前など、授業中最前列の生徒の机の横に立っているのを見て、小さく悲鳴のようなものを上げてしまった。その時も影はすぐには姿を消さず、堂々と、数分間はそこに突っ立ったままだった。そして、そいつがそこにいる間は、僕は金縛りにあったように、ほとんど身動きひとつ取れなくなった。

 それでも、楽観視していたというか、影は別段悪さをするでもなかったし、所詮ただの幻覚、とそのまま放置していた。時間と気持ちに余裕が出来たら心療内科にでも行こう。それぐらいの認識だった。

 そして、あの影をしばらく見ないな、と思っていたある日。

「寺田先生!」

 出勤してきた僕を見るなり、蒼い顔をした皆川が駆け寄ってきた。皆川は僕が副担任を請け負っているクラスの担任教師だ。

「うちのクラスの藤村が……いま、病院で息を引き取ったって」

 一瞬、何を言っているのかわからなかった。教師になって日が浅い僕にとって、教え子が死ぬというのは、考えられない異常事態だ。突然のことに頭がパニックを起こしている。

「交通事故らしい。車に轢かれて……一緒にいた生徒の話だと、誰かに押されたみたいに突然車道に飛び出したって……」

 皆川の話では、事故当時、亡くなった生徒の側には彼の友人二人しかおらず、そして、彼が飛び出したのは、丁度三人が会話していた途中で、友人二人はお互いがその生徒の背中を押していないことをはっきりと見ている、ということだった。しかし、その友人たちが口を揃えて「誰かに押されたような変な飛び出し方だった」と言っているのだという。

 僕は思い出していた。あの影が立っていたのは、その生徒のすぐ隣だったことを。ただの偶然かもしれない。しかし……。

 ふと目線を上げた途端、身体が凍りつく。目の前の皆川の肩越しに黒い影がこちらを覗いていた。影は赤ん坊ぐらいのサイズになっていて、皆川の背におぶさるようにして顔を出している。真っ黒な顔の下方に横一文字にすうっと線が引かれたかと思うと、ゆっくりと口が開いた。血溜まりのような赤い口が緩慢な動作で開閉する。「あー、うー」と、呻きとも喘ぎともつかない声が呪詛めいた響きをもって血溜まりの穴から漏れ出ている。その怨念の塊のような声には覚えがあった。身体中から嫌な汗が噴き出す。

「殺してやる。殺してやる」

 繰り返し繰り返し発する声の意味するところは、正確に僕の恐怖心を貫いた。苦痛と罪悪感と共に吐き気が込み上げてくる。意識が遠のきそうになるが、しかし、身体は固まったままピクリとも動かない。まばたきひとつ出来ずにいると、影がゆっくりと移動するのが見えた。泥が流れるようなねばっこい動きで先生の肩に両腕を掛け、その暗い井戸の底のような顔を皆川の首筋に近づけた。ミチリミチリ、と妙な音を立てて再び赤い口を開くと、一気に先生の首筋にかぶりついた。

「やめろ!」

 叫んだ途端、僕の身体はその場にくずおれた。頭上で皆川が目を丸くしている。職員室がしん、と静まりかえっているのがわかった。影が消えたことと、皆川が無事だったことに安堵した僕の意識は、ゆっくりと暗闇の底に引きずりこまれていった。


   ◆◆◆


 また、あの夢を見ていた。

 白い地平と青い空の間で、綾は幸せそうに歌い、踊っている。この光景が僕の頭が作り出しているものなのか、それとも違うなにか――たとえば死後の世界を垣間見ているだとか――なのかはわからない。ただ、現実非現実に限らず、あの子が僕の肉体と心を蝕んでいるのだけは理解できた。あの子は僕らを憎んでいる。そして、無関係の人間を殺すことでも、僕を恐怖させるには十分だと知ってしまったのだ。


 目が覚めると、真白な天井が見えた。なんだか見覚えがある。しかも、つい最近だ。

「あ、気がつかれました? まぁた倒れられたんですね」

 辛気臭さの漂う室内に不似合いな明るい声がする。そちらに目を遣ると、塚原が点滴のチューブを外しているところだった。

「ご気分いかがですか。もう点滴終ってますから、帰られて大丈夫ですよ」

 相変わらず眩しいくらいの笑顔だ。なぜそんなふうに笑えるのだろう。僕には逆立ちしたって真似できない。

 どうやら半日ほど眠っていたらしい。今の季節なら夕日が沈みかけてる頃合だ。

「また寝不足ですか? お身体、大事になさらないと……」

 塚原は患者を安心させるような柔らかな笑みのまま、心配そうに眉尻を下げた。僕はベッドから上半身を起こすと、つい周囲の様子を見回した。黒い影が見当たらなかったことに安心したが、はっとして塚原を見た。案の定、不思議そうな顔でこちらを見ている。

「どうかされました?」

「あ、いや……えっと……は、はは」

 必死で頭を巡らして、言い訳を考える。

「そう! 荷物。僕の鞄どうしたかな、と思いまして」

「ああ、それなら、同僚の方がお宅まで届けるって仰ってましたよ。がっしりした体格のいい……」

「あ、たぶん皆川先生だ。あとで謝っておかないと」

 わざとらしく笑ってごまかした。あの子供のことは無闇に話すべきじゃない。まず信じてはもらえないだろうし、信じてもらえたところで、専門家でもないかぎりおそらくどうすることも出来ないだろう、それが心の病気であれ、心霊現象であれ――。

 待てよ。心の病気ならば何の問題もない。けれど、もし仮にあの子供が現実に存在しているとして、生徒の命を奪ったのも彼ならば、死んだ生徒の傍らに立っていたのはその予告だったということではないか。次はこいつを殺すと僕に訴えているのでは――。

 だとすると、次に狙われるのは……。


 それに思い至った瞬間、僕は脇目もふらず走り出した。治療費は翌日持っていけばいい。今は皆川の無事を確認するのが先だ。病院から家までは大した距離じゃない。まだ本調子じゃない身体に鞭打って、一目散に走った。


「あれ? 寺田先生」

 アパートの目前で力尽きた僕を皆川の拍子抜けするほど安穏とした顔が出迎えた。その表情が道路にしゃがみこむ僕を見た途端、急変する。

「どうしたんですか!」

 駆け寄ってきた皆川に僕は何と言っていいかわからなかった。心配して病院を飛び出してきたのに、逆に自分が心配をかけることになってしまうなんて、馬鹿な話だ。とにかく皆川が無事でよかった。これ以上自分のせいで人が死ぬところなど見たくはない。


 皆川には、病院からの帰り道調子に乗って走ったら気分が悪くなった、ということにしておいた。皆川は僕がそのような行動に出たことに驚いた様子だったが、「今日は寺田先生の意外な一面が見れたよ」と、面白がりこそすれ、疑うような素振りは一切見せなかった。

「じゃあ、鞄はちゃんと届けたからね」

「ご迷惑かけてすみませんでした、皆川先生」

「なぁに。君はキャリアも短いし、こういうことは初めてだろ。無理もないよ」

 そう言って、帰ろうとする皆川を玄関先で引き止めた。

「ん? なんだい?」

「えっと、皆川先生はたしか……独り身でしたよね」

「そうだけど?」

「その……なるべく一人にならないようにしてください」

 皆川は怪訝な表情を浮かべる。

「……ほら、藤村の事件、あれ居合わせた生徒が口々に妙なこと言ってたじゃないですか。まるで、何かに押されたみたいだったって」

 皆川はしばらく目を丸くしていたが、突然、豪快に笑い出した。

「なあんだ、そういうことか。しかし、意外だな。寺田先生、おばけとか信じる人だったんだなあ。大丈夫だよ、おれはああいったものをまったく信じてない。霊だの妖怪だのにあてられるのは、そういうものを信じている人だけだよ。そういう意味では、君のほうが心配だ」

 そんな風に言われると、まだあの子供の影の存在に半信半疑だった僕は何も言えなくなった。

「明日もちゃんと学校出てきてくれよ、寺田先生。事故の件とか、何かと忙しくなるだろうからな」

 帰り際、そう言って微笑った皆川は、翌日、自宅で首を吊った状態で発見された。


   ◆◆◆


 夢の中での綾は幸せそうだった。彼女は、彼女の望む通りの自由を手に入れたのだ。自分を脅かすものは誰もいない。自分を不安にさせるものも――。彼女を最後まで受け入れようとしなかった僕も――。

 彼女に何度声を掛けても、返事は返ってこなかった。青い空の下、響くのはただ彼女の歌と笑い声だけ。彼女は僕を必要としていたわけではなかった。僕だけではない。彼女にとっては、誰も必要ではなかった。親に見放されていると感じた彼女は、自身も両親を見放した。それは、憎しみというほどのものではなかったのかもしれない。けれども、不要なものがそこに存在して、自分を束縛することに彼女は我慢がならなかった。

 彼女は友人を作れなかったのかもしれないが、同時に、必要ともしていなかった。

 広い空。他者のいない空間。なにものにも縛られないこと。目の前に浮かぶこの光景こそ、彼女にとっての自由そのものにほかならなかった。


 ――あれから、僕の周囲では人死にが絶えない。受け持っているクラスの生徒、挨拶を交わした用務員、スーパーのレジのおばさんや、通りですれ違った見知らぬ人間まで。数日置きにどこかで誰かが死んでいる。

 それが自分のせいだとわかるのは、亡くなる数日以内に、彼らの側にあいつが見えるからだった。大体、その背におぶさる形で黒い影がいる。あいつはいつも被害者の顔や首筋に吸い付くような素振りを見せた後、こちらを向いて、にたあ、とその顔に落ちた血の赤を笑みの形に歪めるのだ。

 だんだん感情というものが麻痺してきていた。最初の頃こそ誰かが死ぬたび、自分のせいだという罪悪感から吐き気を催し、嘔吐、嗚咽を繰り返したが、そういったものは徐々に感じなくなっていった。


「あら、こんばんわ。いまお帰りですか」

 そんな時だった。塚原と偶然会うことがあった。聞けばこれから帰宅するところだという。どうやら同じ方向のようなので、途中まで一緒に帰ろうと思ったが、どこまで行っても道が分かれることはなかった。

 近所のスーパーで度々見かけることから、おそらく近所に住んでいるのだろうとは思っていたが、まさか同じアパートだとは思わなかった。むしろ、今まで一度も顔を合わせなかったことのほうが不思議だ。すると、向こうも同じことを感じていたようで、

「同じところに住んでいたなんて、びっくりですね」

なんて、切れかけの電灯に照らされながら破顔する。その仕種がなんだか妙に艶めいて見えた。頬が上気するのを自覚するが、出来るかぎり平静を装った。

「僕もびっくりですよ。塚原さんもお仕事の帰りですか」

「いいえ」

 そう言って、スーパーの袋を持ち上げて見せる。なるほど。缶ビール二本と、乾き物のパックが数種類、うっすらと透けて見える。

「休みの日くらい飲まないとやってられませんよ」

 朗らかに笑う彼女の背中に、あいつがいた。

 心臓を鷲掴みにされたようだった。足の先から頭まで、冷水を浴びせられたように急速に冷えていく。今すぐ彼女の背中から影を払い除けたい。けれど、僕は指先一つ動かせずにいた。彼女も動かない。アパートの電灯に纏わりつく小さな羽虫も空中で静止したまま。ただ黒い影がいつものねっとりとした動きで、徐々に彼女の首筋に頭を近づけていく。その様子を、僕は焦燥に駆られながらも、ただ見ているしかできなかった。

「どうしました?」

 気がつくと、もう黒い影は消えていた。羽虫が電灯にぶつかる音が繰り返し聞こえる。

 どうしよう。このままでは、近いうちに彼女も殺されてしまう。その結末を予測してしまった瞬間、抗いがたい衝動が全身を駆け巡った。この人は、この人だけは助けたい。彼女がどうということではなかった。もうこれ以上は耐えられないというところまできていた。僕は彼女を救うことで、自分を救いたかったのだ。

「あの、一緒に飲みませんか」

 半ば無意識に口をついた言葉はもう引っ込めることのできないところにあった。

 皆川のときのようなのはごめんだ。黒い影はいつも僕の見ていないところで人を殺す。だったら、まず目を離さないことだと思った。断られるであろうことなどは、まったく頭になかった。

 彼女は目を丸くしていたが、ふっとまなじりを下げた。

「いいですね。どこ行きます?」


 彼女が選んだ店は、大手チェーンのありふれた居酒屋だった。全席個室で、黒い影に狙われやすそうな反面、こちらも彼女の目以外は気にせずにすむ。

「なんか、突然ですみません」

「いいんですよ。一人で飲むより、やっぱり誰かと飲んだ方が楽しいですし」

 とにかく酔い潰れたりしないようにだけ注意しなければ……。それだけを考えていた。なんなら、彼女は寝てくれた方が、見張り役としては都合がいい……のだが。

 彼女はどんどんグラスを空けていくが、一向に酔った素振りを見せない。

「ちょ、ちょっと、ペース早くないですか。僕なんかまだ二杯目なんですけど……」

「ああ、大丈夫ですよ。こう見えて、わたし結構お酒強いんです」

 いや、それは見ればわかりますけど……と、また一つ空のグラスが増えた。

「すみませーん、熱燗もらえますー?」

 いや、どんだけ強いんだよ。酔いつぶれて寝ててくれよ、頼むから。


 その後も彼女はペースを落とすことなく、ドリンクメニューを制覇する勢いで飲み続けた。こちらのほうが先に酔ってしまいそうなぐらいで、途中からはこっそり烏龍茶に切り替えたほどだ。

 明け方まで飲んで、ようやく酔いが回ってきた様子だったが、それでもその所作はしっかりとしたものだった。幸い影が姿を見せることはなく、まだ油断ならないとはいえ、僕の中にはなにか達成感めいたものがあった。

「……実は、突然誘ってくるもんだから、ちょっと警戒していたんです」

 帰る道すがら、彼女がぽつりと呟いた。

 警戒って何を……と思ったが、すぐに思い至る。男と女なのだから、そういうふうにとられても不思議ではない。それに、好意を抱いているのは否定できなかった。

「ま、まさかぁ!」

 慌てて首を振る。

「そうですよね。そういう人じゃないのは今夜話していてわかりました。でも……」

 一息つくと、意を決したようにこちらに向き直る。

「でも、今は……そうなっててもよかったかな、って、そう、思います」

 顔が真っ赤だ。耳まで赤い。おそらく僕も似たようなものだろう。かつて経験したことのないような胸の高鳴りを覚えた。恋愛経験がなかったわけではないが、その中のどれにおいてもこんな感情の昂ぶりを感じたことはなかった。

 その瞬間、彼女の背後に黒い影を見た。にたり、と嗤う。真っ赤な舌がまるで、ただ呆然と立ち尽くすしかない僕を嘲るように蠢いた。

 ふっと、影が姿を消すと、眩い光に視界を奪われた。次に、衝撃。意識が薄れていくなかで最後に聞いたのは、車のブレーキ音のようだった。


   ◆◆◆


 夢を見た。

 最早、辺りには色という色もなく、すべてが黒に塗り潰されたような空間だった。

 その中に、ぼんやりと白い肌が姿を現す。

 そいつはやはり歪な笑顔をこちらに向け、半ば繋がったままの唇を動かす。そこから洩れる声はほとんど呻き声のようであるが、はっきりとした意味を持って僕の耳に届く。

「殺してやった。殺してやった」

「いったい、お前は僕をどうしたいんだ」

 僕は恐怖に慄きながらも言い放った。子供は嗤う。

「死んでよ」

 驚くほど冷たい声だった。一切の容赦もなく、僕の存在そのものを否定するような響きを持っていた。

「僕は生きたかった。生まれたかった。お前は自分勝手に生み出して、自分勝手に殺した。僕はお前を許さない。あの日、お前がしたことを僕は覚えているよ。他の誰も知らなくても、僕だけは覚えている」

 子供は僕に危害を加えようとはしなかった。もう、その必要は無いとでもいうように。そして、それはその通りだった。僕にはもう何の気力も残っていなかった。


 目を覚ました僕は、すぐに病院を抜け出した。

 途中、入院患者たちの噂話が耳に入り、塚原が亡くなったことを知った。不思議と、驚きも悲しみも訪れることはなかった。彼女の死は頭のどこかで分かっていたことだった。

 はじめは学校の屋上で、と思ったが、すぐに思い直した。校長にまた迷惑をかけることになる。

 ……いや、本当の理由はそんなことじゃない。わかっていた。僕はあの屋上に行きたくないのだ。あの場所を二度と見たくなかった。

 あれだけ毎日のように通い続けた場所なのに、あの日以来、一度も足を踏み入れていないのがなによりの証拠だ。


 ――電車に揺られながら、自分の人生を省みた。際立ったところなどない、起伏の少ない平凡なものだった。特別良くもなければ、特別悪くもないはずだった。どうしてこうなってしまったのか。

 窓の外では、見慣れた町が遠ざかり、見覚えのない、しかし、新鮮味などまったくない、どこにでもあるような景色が過ぎてゆく。

 夕陽が沈むにつれ、空は赤く赤く燃えていく。その空を、座席に腰掛けたまま、ぼんやりと眺めていた。

 ああ、夜が来るのだな、と思った。よく、明けない夜はない、というけれど、この夜が明けることはもうないのだ。それが悲しくもあり、寂しくもあったが、しかし、辛くはなかった。このまま、ここにとどまるよりは幾分かマシに思えた。

 ふと、視線を下げると、向かい側の席に黒い影が座っていた。もう……驚きはなかった。恐怖はなく、憎しみも怒りもなく、心のどこかにずしりと重くのしかかっていた罪悪感のようなものも、どこかへ消え失せていた。

「どこへ行く気だい?」

「どこだっていいだろう」

「どこへ逃げたって無駄だよ」

「そんなこと、わかってる。逃げる気なんてない」

「逃げない?」

「そうさ。だから、もう、関係ない人を殺すな。僕は死ぬ。お前の目の前で。僕がお前にしたのと、ちょうど同じように」

 影はどこか憮然とした態度で、ゆっくりと頷いて姿を消した。


 電車は僕の身体を遥か遠くへと運び去った。ここがどこだかは知らない。とにかく遠く。僕のことを誰も知らない街。

 できるだけ高くて古いビルを探した。小一時間ほど街中を彷徨って、当たりをつけた。階段を上りきる頃には、黒い影が隣を歩いていた。

 屋上のドアには鍵が掛かっていたが、持ってきていたカバンからバールを取り出し、それでドアノブごと壊した。ひょっとしたらいまの音を聞いて人が来るかもしれない。僕は急いで屋上のフェンスを登った。


 そこから見える景色は信じられないほど高かった。東京タワーにもスカイツリーにも上ったことがあるが、それらより断然高く感じた。実際の高さは大したことないはずだった。しかし、ビルの端に立って下を見ると、そこから見える街も、車も、人も、何もかもが遠く感じられた。自分はもうそこに生きてはいないのだと、直感的に感じた。

「雨、降ってくれないかなぁ」

 隣で影が呟いた。

「雨?」

「降っていただろう? あの日は」

 どうも影はあの日の再現をしたいらしかった。しかし、そんなことは不可能だ。


 僕は、自分で、飛び降りるのだから。


   ◆◆◆


 屋上に出ると、雨が再び降りだしていた。

 風に振り乱されるオレンジの髪は見間違えようがなかった。僕が駆け寄るまでの間、彼女は微動だにしなかった。

「……綾」

 柵ごしに声を掛ける。綾は肩をピクリと震わせただけだった。

「なにしてるんだ、こんなところで」

 それは責めるというより、むしろ許しを請うような響きをもっていた。

「……見て、わからない?」

 彼女の表情は窺えない。俯いて、遠く眼下に広がるアスファルトの地面を見つめている。

 なぜ、と問いかけることはできなかった。原因は間違いなく自分にある、それぐらいのことはわかっていた。

「何も、言ってくれないんだね」

 声が微かに震えていた。或いは、泣いているのかもしれない。彼女の泣き顔が思い浮かんだ瞬間、身体が勝手に動いていた。

 柵の間に腕を無理矢理捩じ込んで彼女の肩を柵越しに抱いた。雨風のせいで彼女の身体は冷え切っていた。抱きしめる腕に力がこもる。

 予想に反して、彼女は一切の抵抗をしなかった。拒絶の意思すら見せなかった。僕の体温を確かめるように、僕の腕に手を添えた。

「本当はね、迷ってたんだ。ここへ来るまではもう何にも考えてなかったのに。こうなったらもう、飛んでやろう、って、ずっと鳥かごの中みたいなのよりはその方がマシだと思ったんだ。でもね、いざここに立ったら、この子がね……」

 そう言って、そっと下腹に触れた。

「嫌がっているような気がして。ふふ、変でしょ。まだお腹を蹴ることもないのに。……正直に言うとね。最初はこの子だけを殺そうと思ってた。だって、この子さえいなければ、きっと、諒とは前みたいに戻れるでしょ? でも……どうしてもできなかった」

 何を言っているのかわからなかった。今になって思えば、あの頃の僕はまだどこかで、お腹の中の子はまだ生き物ではないと考えていたのだろう。ものを考えることもなければ、何かを感じることもない。

「それも、その子のせいだとでも言うのか」

「私の意思じゃないもの。この子は生きようとしている。生まれようとしているんだよ。それを、勝手に終わらせることなんてできないよ」

 何を言っているんだ、この女は。頭に血が上っていくのがわかった。

「じゃあ、生まれた後は? 面倒見れるのか? 君はまた投げ出すんじゃないのか? それじゃあ、誰がその子の世話をするんだ。僕か?」

 僕のその言葉に綾が振り返ろうとしたが、僕が両腕でしっかりと彼女の身体を抱いていたせいで思うように動けない。そのせいで彼女はバランスを崩しかけた。僕は……腕をほどいた。

 小さく悲鳴を上げる。彼女の身体は大きく傾いたが、落ちそうになるのをなんとか堪えて、その場に踏みとどまった。

 僕はその肩を強く掴んだ。苛立ちのせいか、思考はほとんど麻痺していた。とにかく何もかもが煩わしかった。

 「ありがとう」そう呟いた彼女の背中を僕はそっと押した。

 彼女の身体はふわりと宙を舞った。

 それはほんの一瞬のことで、目の錯覚かなにかだろうとは思うが、僕には確かにそう見えた。ああ、綾は本当に空を飛ぶことができたんだな、と思った直後、重々しい大きな音が校庭に鳴り響いた。


 ――――。

「後悔しているよ。本当だ。僕は綾の命を奪ってしまったことを、本当に心の底から悔いている」

 黒い影は口元を苦々しく歪めて、ただ一言「そうかい」とだけ言った。憎悪の念が、その呻き声に益々色濃く浮いている。

「前置きはもういいから、早く飛び降りなよ。人が来るよ。そしたら、僕は今度はそいつを殺すよ」

「わかった。すぐに飛び降りるよ。でも、最後に一つだけ」

 僕はそう言うと、その場に屈んで、赤ん坊のように小さい黒い影を抱きしめた。

 影はなんのつもりだと言うように首を廻らせた。

「もう自由になるべきだよ、僕も、お前も」

 僕は影を抱きかかえたまま、真っ黒な空へと身を躍らせた。


   ◆◆◆


 瞼を開くと、見知らぬ白い天井があった。

 その天井をしばらく、ぼう、と眺めていると、白い衣装に身を包んだ女性が入ってきた。

 僕がそちらに視線を送ると、彼女と目が合った。彼女は驚いたらしく、目を大きく見開いて僕の側へと駆け寄り、僕の頭上へ腕を伸ばした。

「先生、患者さんが目を覚ましました」


 壮年の医者が来て、なにやら続け様に質問してきた。僕は愕然とした。医者にも看護師にもこちらの言っていることが何一つ通じないのだ。しばらくして、自分が言葉を話せないことに気がついた。

 しばらくは首を縦横に振ることでイエス・ノーを答えることしかできなかった。口で伝えようにも、あー、とか、うー、とか、そういう唸り声のようなものしか出なかった。

 僕はどうやら死のうとしたらしい。とある廃ビルの屋上から飛び降りたのだそうだ。植え込みに落ちたことで、もちろん瀕死の重傷ではあるもののなんとか一命を取り留めたらしい。身元を示すようなものは何も持っていなかったのだそうだ。

 僕は言葉も使えず、文字も書けないため、記憶になんらかの障害があるものとされ、しばらくはこのまま病院に置いてもらえることになった。

 長い時間を掛けて、少しずつ、少しずつ言葉を覚えていった。


 意思の疎通がなんとか可能になった頃、医師が再び質問してきた。

「あなたのお名前はなんですか?」

と。

 僕はまだたどたどしい口調で答えた。

「て、らだ、です」

「下の名前は、わかりますか?」

 しばらく考え込んだが、思い当たらない。

「しりま、せん」

 僕は正直に答えた。僕は僕の名前を知らない。或いは、最初から名前など無いのかもしれないとさえ思えた。

「我々のことは、わかりますか?」

 医師は、自分と後ろに立っている看護師の女性を指した。

「やまもと、せんせー。と、はしぐち、さん」

 医師は大仰に頷くと手元の紙に何やら書き込んでいる。

「両親の名前は? 思い出せますか?」

「りょう、と、あや、です」

 

リハビリ四作目。

ちょっと読みにくいことになってしまいました。申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホラー、ということでしたがただ幽霊が出てくるだけでなく、キャラの行動理由や関係性などがはっきりしているので入り込みやすかったです。特に最後のどんでん返しは魅力的で、見習いたいと思いました。…
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