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それでも私は走り続ける

我が家には3匹のペットが居るんですが・・・

アロワナと、ナマズと、にゃんこで、それぞれ

ちびと、ナマズと、毛玉、という名前が付けられてます

ちなみにアロワナはアロワナとも呼ばれてます


こうして見ると・・・なるほど私の作品に名前付きキャラが少ないわけですね・・・



人物表

エウナ

吸血鬼 隠された嗜好が今明かされる・・・!かも さて、どっちがぞっこんでしょう


魔法使い けもみみ巫女さん 全作通しての便利屋さん


アリス・イン・ワンダーランド

魔術師 恋人はルカ ヒロイン?ええ、そんな時期もありました


ミツキ

クラゲ まいふぇいばりっときゃら いつかメインの話を書きたい 今回は基本人型です

 居間に首を突っ込んで誰もいないことを確認してから、抜き足差し足で忍び寄る。電気は付けない。別に付けても付けなくても視界に問題ないし、コレといってやましいことをしようというわけでもない。

 何かが音を立て無いかと耳を澄ましながらも、なるべく素早く、音を立てないようにしてソファに座る。

 アリスはまだ寝てる様子。良く絡んでくる紅白のあの子は肝心なときに居ないし、別に肝心でないときにも居ない。相変わらず何をしてるのかわからない子ね。

 そもそも、居たら絡んでくるからすぐにわかるでしょうし。

 ということで今現在は私の天下とも言える!つまり今なら何をしても何も言われない。

 何かが聞こえてくるたびにピクッと動きの止まる自分へ鼓舞しながら、後ろでに隠しておいた本をテーブルの上へと置く。タイトルは『なめくじとカタツムリの戦い』だけれど、内容は180度を通り越すほど違う。何でもこのなめツムリは大ベストセラーらしく、この本の隣に置いてあった。まぁ、大きさが一緒なら何でも良かったんだけど・・・何らかの意図を感じる気がする。というより嫌がらせ?

 表紙を捲って現れた本当のタイトルは、メイドさんの奮戦。ドジなメイドさんが主人のために日々がんばる話を書いたほのぼのストーリー・・・とか何とか。

 あまりにも人気が無さ過ぎて小売店はもちろんのこと、大型の本屋にも置いていないのという絶滅危惧種状態の本だけれど、本屋に並んでも2冊ほど凹んだままで何時までも放置され続けている様な本だけれど・・・そこには数秒前までべたべたしてたのに突然スイッチが切れた様にして冷たくなる巫女服の少女も、お酒を飲んだだけで意味不明の行動を始める魔術師もいない。ただあるのは夢だけ!そう、夢だけ!桃源郷はここにあり。ただ・・・あまり知人に見せたくないのが欠点ね。

 扉絵をぺらぺらと捲れば、其処には白黒で書かれたメイドさんが見える。普通扉絵といったらカラーなのだけれど、この本は違う。何でもカラーにすると赤字が加速したとかで、初版だけで哀しみを背負ったらしい。まぁ、カラーもモノクロもさほど違いは無いような気がするのだけれど。

 高鳴る己を抑えながら、表情筋に力を入れてゆっくりとページを捲っていく。私は読むのは早くないから・・・読めるときに読み進めたいところ。

 静かな夜の部屋、驚くほど穏やかな時間が流れる。


「へー、エウナさんってこういうの読むんですか」


 私の真後ろで誰かの声がした。

 ぎぎぎと音が鳴りそうなぎこちなさでそちらを向くと、アリスが私の読んでいる本を覗き込んでいる。間の悪いことに開かれたページはちょうど挿絵の部分。もしくは挿絵に入ったから声を掛けたのかしらね?

 ちょうどいい塩梅に意識は目の前の本に向けられていて、こちらにはあまり気を配ってない様子。

 ・・・よし、消すか。

 結論を出すと右手を叩き込む。けれども、期待していた手ごたえは無く、振りぬいた拳は空しく空だけを叩く。


「い、いきなりはダメだとお姉さん思いますよ!」

「大丈夫、少しばかし違う世界が見えるだけだから」

「それ絶対大丈夫じゃないと思います!」


 ソファの後ろで倒れているアリス目掛けて倒れこみながら入れた肘打ちは、転がって避けられる。しょうがないので、そのまま回転を利用して踵落としを狙う。

 右足が何かをぶち抜く手ごたえと一緒に、数秒前まで床だった何かが辺りに散らばる。


「ひゃぁ!」


 悲鳴を上げながらもコロコロと転がって私と距離を取るアリス。それにしても・・・インドア派だと思っていたけれど、意外としぶといわね。

 なら、もう少しだけ本気で動いていいかな?


「ちょ、ちょっと待ってください!本がどうなってもいいんですか!」

「・・・」


 アリスの言葉で動きそうになった体を強引に止める。ちらりと後ろを見れば、細長い竜が本の近くに居るのが見える。

 先に・・・あっちか。


「ま、まずは話し合いをですね・・・ひっ!」


 何かを言っているアリスを無視して後ろに跳ぶと、邪魔な竜の首を握りつぶす。断面から赤い何かが溢れ出て、暗かった部屋の中に鮮明な色を付けていく。


「・・・で、本がどうしたって?」

「そ、そのですねー」


 アリスへとにっこりと微笑みかけると、彼女は乾いたような笑いを浮かべて固まっている。特に利用価値も思いつかないので手の中にあるものを床に投げ捨てると、べしゃっと湿った音を立てた。


「と、とりあえず落ち着きません?」

「あら、私は冷静よ?」


 頭で問題ないかしら?当たり所が悪くない限り死ぬことは無いでしょうし。後遺症が残ったら・・・まぁそのときはそのときで。

 狙いを定めながら一歩、また一歩とアリスへと近づけば彼女もまた一歩ずつ後ろへと下がる。永遠に縮まらないかと思えた二人の距離は、アリスの背中が壁に当たることで終わりを告げた。


「覚悟はいい?大丈夫、たぶん死ぬことは無いと思うから」

「思うんじゃ嫌です!」


 そう・・・それは残念ね。


「あ、楓さんだ」

「っ!?」


 アリスがそう言った瞬間に振りかぶっていた腕を戻すと、出来る限りの速度で本へと駆け寄る。そのまま本をソファの下に隠すと、出来る限りの笑顔を作って後ろを振り向く。


「お帰りなさい楓、早かったのね」


 私の視線の先には、窓から差し込む月明かりが優しく降り注いでいた。


「と、思いましたけど・・・気のせいだったみたいですね」


 背中の方から、とぼけたアリスの声が聞こえる。こ、こいつ・・・。

 とはいえ、今の一言で冷静になってしまったのも事実。見られてしまったものはしょうがないし、ここは開き直る・・・しか無いか。


「落ち着きました?」

「・・・一発殴っていい?」

「やめてください死んでしまいます」

「・・・」


 にへら、とした顔を見ていると完全に戦意が無くなった。ついでにやる気も無くなってソファにだらりと座り込む。


「まぁまぁ、そう落ち込まないで・・・想像してみてくださいな」

「・・・何よ」


 ニコニコしながら覗き込んでくるアリスを睨むも、いまいち効果は出ない。


「メイドさん、あなただけのメイドさんをです」


 私だけのメイド?そうね・・・。

 小柄で精一杯だけど少しドジなのがいいわね。うん、決して完璧鉄面皮で黙ってると人形と区別がつかなくなる様な子じゃなくて、表情豊かで喜怒哀楽がはっきりしてる子。

 それでお茶の時間とか何かになるとトテテテテーって走ってきて、私が危ないと思った時には転んでしまう。

 慌てること無いのに、言うと少し涙目になりながら『ご、ごめんなさい・・・』って言うの!

 けれど笑いながら頭を撫でてあげると、少し照れたような顔でぴとっと抱きついて、小さく『えへへー♪』とか聞こえてくる・・・。

 コレは・・・いいっ!すごくいいっ!それでそれで・・・


「えへへー・・・」

「・・・」


 けれども、私の妄想は目の前のアリスの顔を見て一瞬で冷めた。わ、私もあんな顔してたのかしら・・・?


「アリス、あなた相当締まりの無い顔になってるわよ・・・」

「・・・エウナさんこそ、能面みたいですよ」


 にやけるのを我慢してるんだからしょうがないでしょう。

 その後、二人して深呼吸をして落ち着くと、なんとも居心地の悪い空気が部屋の中を支配する。


「そ、それはともかくですね・・・」


 どうやら自分で振ったくせにこの話は流すことにしたらしい。


「私みたいな人はともかくとして、エウナさんには楓さんがいるじゃないですか」


 今となってはもう見たくも無いほど忌々しい教科書をかき集めながら、不思議そうにアリスが言う。


「彼女ならエウナさんが望めば、メイドさんの1度や2度くらいしてくれると思うんですが・・・違うんですか?」

「それは・・・」


 たぶん、してくれるでしょう。

 けれど私にはわかる。何故かわからないけれどわかるのだ!

 あの子がメイドをするときは、喜怒哀楽が全くわからない鉄面皮で、黙っていると人形かどうかの区別がつかなくなるようなメイドになると!

 それ私の求めてるのと違うから!いや嬉しいけど!もっと・・・こう・・・!


「ふーん・・・贅沢なんですね・・・」


 私が言葉に出来ない魂の叫びをあげていると、何かを察したようで冷めた目線をプレゼントされた。

 哀しみから逃れるべく、無言で立ち上がって窓を開けると、私を優しい月明かりが出迎えてくれる。

 ああ・・・今日は月が綺麗ね。


「何が悪いのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ビシィっと振り向き様にアリスを指差すと、そのまま外へと飛び出す。

 別に行きたい所なんて無いけれど、今は何処へなりとも走りたい気分。



□ □ □ □



 エウナが謎のポーズを決めて走り去ったことを確認してから、少女はソファの下をごそごそと漁り始める。

 そして目的のものが見つかったらしく、1冊の本を手に取るとソファに座り、巻数を確認した。


「あ、これ新刊じゃないですか・・・何処で買ったんでしょう」


 一人呟くと、少女はにやけていく顔を時折引き締めながらページを捲る。



□ □ □ □



 何となく夜中の街を走る。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。とか何とか言った人もいたらしいけど、私の隣にはセリヌンティウスの弟子は居ないし、止められたら素直に止まる自信がある。ところで、私は何で走ってるんだろ?

 夜空にはあの子が好きそうなまん丸なお月様。アレを美味しそうと言ったのは何時だっけ?

 月に近づこう何て思っても無いけれど、強く地面を蹴って空高く跳ぶ。誰かさん家の屋根の上へと不法侵入してみれば、目の前には建設途中のまま放置されてる塔の姿。バベルの塔は届かず壊れたけど、この塔は何処まで伸ばすつもりなんでしょうね。何にしても、私が好きになることはなさそう。

 そこでふと、アリスの家に楓が帰ってきてお土産を見せびらかしている光景が見えた。


『お買い物のとちゅーでケーキ買ってきたんですよー』

『それはそれは、早速食べましょうか』

『んー?エウナさんは?』

『エウナさんは・・・たぶん要らないでしょうし、3人で食べましょう』

『あいあいー』


 気のせいか声まで聞こえてくる。それにしても・・・。


「随分勝手なこと言うわね・・・」


 一人呟いて帰り道を急ぐ。早くしないとケーキが・・・ケーキが!というより、あのクラゲは人として数えていいの!?そんなことより私を呼べよ!呼べるんだから!

 色々な事を考えながらも足はフル回転。今、私は風になる。

 家の前でドリフトを決めながらドアへと駆け寄り、勢いを殺さずにそのまま開け放つ。なにやらバキンとか不吉な音がした様な気がしたけれど、全力で見なかったことにする。今は何よりも私も食べるという事を知らせなければ!


「ちょっと!私も食べるわよ!」


 片手が空いてないので、もう片方の手でドアを開け放して叫びながら駆け込むと、それぞれの反応が返ってきた。アリスは驚いたようにして目を丸くしながら固まっているし、楓は私が来るのがわかっていたみたいにくすくすと笑っている。クラゲは何を考えてるのか良くわからないけど。

 そして硬直が溶けていく様に、アリスの視線がゆっくりと私の手のほうへと移っていく。それに釣られて、私の視線も先ほどから何かを握り締めたままの自身の手へと向かう。

 そこにはドアノブと、なにやら見覚えのあるドアだったであろう物体があった。うん、どう見ても玄関のドアね。い、何時の間に外れたのかしら?

 ゴン、と私の手からドアの残骸が落ちる音が静かな居間に響く。


「・・・楓さん」

「んー?」

「ケーキを食べるのなら、紅茶を淹れてきてくれませんか?」

「はいなー」


 硬直している私を気にもせず、楓がクラゲを頭に乗せてトテテテーと居間から出て行く。

 それを確認してから、アリスはにっこりと微笑んだ。

 私は反射的に屈むと、正座をしてアリスへと頭を垂れる。最後に土下座したのって・・・覗きがばれたとき?何にしても、未だ一連の流れに衰えが見れないのは哀しむべきか嬉しく思うべきか。


「あらあら、いきなり土下座なんてして・・・どうしたんですか?」


 心の中で嘆いてると、頭の上でアリスの声がした。気のせいか今ので室温が数度下がった気がするけど・・・もしかして怒ってない?

 けれども頭を上げれば、其処にはとても綺麗に微笑むアリスさんのお姿。全力で地面と向き合うことにする。上を向いて歩けないときも時にはある。


「私ね、言いましたよね?」

「・・・」


 私が何も喋れない間にも、アリスは話を続ける。


「ドアを開ける時は壊さないように注意して・・・ってちゃんと言いましたよね?」

「・・・は、はい」

「今が夏とかなら別にいいんですよ?ドアが無いのは少し見栄えが悪いですが、風通しが良くなったくらいで死ぬことは無いですから。ですけど、今は冬ですよね?」

「・・・」

「真冬になろうというこの時期、どうしてエウナさんはドアをぶち抜いて来るんですか!」


 静かなアリスの声と同時に蹴り上げられると、腰に何かが抱きついてきた。見れば竜が私に熱いハグをしたまま、キリキリと万力の如く力を込めてくる。


「そういえば、エウナさんって吸血鬼でしたよね?なら骨の1本や2本、何の問題も無いですよね?」

「い、1本や2本じゃすまな・・・」


 満足に声も出せないまま、激痛と一緒にゴキッとした音で私の体は崩れ落ちた。


「全く、これからは気を付けてくださいね?」

「・・・」

「あれれ?返事が無いですね?それじゃもうい・・・」

「は、はい・・・気をつけます・・・」


 何とか返事をしようとすると、蚊の鳴くような声しか出なかった。それでも許してもらえたのか、竜が消えたのでやっと安堵する。

 何はともあれ、安静にしてれば勝手に治るでしょ。

 激痛の過ぎ去る時をひたすら大人しく待っていると、ドアを開けて楓とミツキが入ってきた。ミツキのお盆にはティーポットとカップ。楓のお盆には・・・ワインとスポーツドリンク?

 二人とも、倒れたままなるべく動かない様にしている私を不思議そうに見つめながらも、テーブルへとお盆を置く。

 き、気のせいであって欲しいけど、アリスがにっこりと微笑んだような気がした。


「楓さん楓さん」

「んにー?」

「エウナさんが抱きしめて欲しいって言ってましたよ」


 こ、こいつ・・・なんてことを言うんだ!

 アリスの言葉を聞くや否や、狐耳を動かして全身で喜びを表す楓。


「ちょ、ちょっと待ちなさ・・・」


 制止の声は届いているのかいないのか、彼女は嬉しそうにぱたぱたとコートを揺らして駆けてくる。・・・悲鳴が出るのだけは何とか堪えるべく、歯を食いしばって来るべき瞬間に備えよう。



□ □ □ □



「早速だけど、王様ゲームをしようと思うの」


 無事骨もくっつき復活すると、ずっと考えていた計画を実行すべく発言する。


「はい?」

「王様ゲームをしようと・・・」

「王様ゲーム・・・ですか?」

「そう、王様ゲーム」

「・・・」


 アリスから何か可哀そうなものを見るような視線が帰ってきたけれど、くじけちゃダメよ私。とりあえず、アリスへと話しかけるのはこわ・・・無駄だと知ったので楓に聞いてみる。


「楓はしたいよねー?」

「嫌です」

「そ、そう・・・」


 即答された・・・。

 楓に即答された・・・。

 嫌ですって楓に即答された・・・。


「ま、まぁまぁ楓さん、そう一言で切り捨てなくても・・・」

「嫌です」


 あまりに見てられなかったのか、アリスがフォローしているのが何処か遠く聞こえてくる。

 けれども、ミツキが私の体をぺしぺしはたいてきた事によって私の意識は復活する。そうだ・・・なにをしているのだ私は!


「ということで、王様ゲームをしましょうか」

「エウナさんは少し黙っててください。いいですか?楓さん、いくらエウナさんが変なことを言ったからと言ってもですね・・・」

「・・・」


 ふ、ふふ、今日は月が綺麗ね。

 窓から月を見上げて思わず現実逃避をすると、ミツキが労わるかのようにドレスを引っ張ってきた。お返しに私も頭の上へと手を伸ばして彼女の頭をなでると、気持ちよさげに目を細める。ああ、今はあなただけが私の癒しね。


「ほら、ちゃんとごめんなさいして」

「ごめんなさい・・・」


 暫らく二人だけの世界に浸っていると、話が済んだらしく楓が頭を下げてきた。しょんぼりとした頭を見ていると、何故か申し訳なく思えてくる。


「私は気にしてないからいいわよ、それよりアリス?」

「はいはい、王様ゲームですね。それじゃ準備してきますから、ちゃんといい子で待っててください」


 呆れた様な顔のままアリスが居間から出て行くと、ぴとーっと楓が引っ付いてきた。ぴょこぴょこと耳が何かを訴えるようにして動く。


「ん?」

「なでなでー?」

「ああはいはい、なでなでー」

「んー♪」


 どうしてか判らないけれど、楓を撫で始めるとミツキは身を引くようにして離れていった。

 けれども私は忘れていたのだ。

 この子とする王様ゲームがどういうことになるのかを。



□ □ □ □



『王様だーれだ』


 気合を入れて目の前の棒を引き抜くと・・・無情にも3の数字。コレで都合6回目、未だに私に当たりは来ない。

 自分が当たりじゃないことがわかると、次に気になるのは王様になったのが誰かということ。

 見れば、アリスが赤色の棒を握り締めているのが見えて、無意識に安堵の息を吐く。


「・・・それじゃ、3番が1番にケーキを食べさせてください」


 あまりの平和さに思わず涙が出そうになりながら、楓の口にケーキを運ぶ。


「はい、あーん」

「あーん・・・んむ・・・」


 その際にきちんと汚れた口周りを拭いてあげるのも忘れない。・・・何か言いたげな視線が私に向けられてる様な気がするのは何でなのかしらね?


「それじゃ7回目、行きますよー」


 命令が終わると、王様(アリス)の掛け声で次のゲームが始まる。終わりが無いということでゲームは10回戦まで、つまりチャンスはあと3回。


『王様だーれだ』


 それにしても、この掛け声に意味はあるの?とか思いながら抜いた番号は・・・また3番。

 けれど憤るよりも先に確認したいのは王様が誰か。もしもあの子に渡ったら・・・。


「今回はボクみたいですねー」


 嬉しそうににっこにこしながら赤い棒を振り回しているのは、本日4度目の王様となる楓さん。ちなみに、アリスが2回、ミツキか1回、王様になった。私には一度も来てない・・・しかも王様は来ないくせに、当てられる回数はトップという意味不明な状況。


「ではでは、2番さん」


 どうやらアリスが当たったらしく、表情が強張る。


「腹筋100回で」


 コレでアリスが本日の腹筋レースへの参加を飾ることになった。トップとの差は約3倍!果たして追いつけるのか!まぁ、追いつくには残りの王様を全部楓が取って、全部アリスに当てるしかないけれど。

 最後の方は息も絶え絶えになりながら腹筋を続けるアリス。その姿はとても感動的だけれど、ここに居る面子に感動を期待するのは無謀ね。


「ひゃ、ひゃーく・・・」

「うむうむ、ではでは8回目ー」

「す、少し休ませ・・・」

『王様だーれだ』


 敗者の言葉は無情にも無視され、次のゲームがスタートする。

 引いた手元には見慣れた数字、そろそろ赤い子が来てもいいのよ?

 王様はミツキで、紙に書いた文字は「一気飲み」だった。平和・・・に見えるかもしれないこの命令だけど・・・一気飲みする対象がアリスなのよね。それにしても・・・それぞれほぼ同じ命令しか出さないわね。

 ソレはもう、ほとんど気力だけでしているかのような見事な一気飲みを見せてくれるアリスさん。全てが終わったときにはスポーツ飲料をごくごくして、真っ赤な顔が出来上がり。アレ?お酒にスポーツ飲料って平気だったっけ・・・?


『王様だーれだ』


 疑問を持つ間にもゲームは進んで早9回目。コレで残すところ王様ゲームは後1回・・・なのに・・・何で!何で王様が来ないのよ!

 見れば王様は赤い顔のアリスだった。赤色が赤色を呼んだのかしらね?そう考えると、楓の王様が多いのも納得できる。


「わたしが・・・おーさまですねー」

「ちょ、ちょっとアリス・・・大丈夫?」

「だーいじょーぶです!それじゃ1番ー!」


 そう言いながら何故か楓を指差すアリス。どう見ても大丈夫に見えないのだけど・・・。


「犬になってくださいー!」

「・・・」


 その瞬間、確かに室内の時間は凍りついた。確かに楓の頭にあるのは狐の耳だし、狐は犬と言ってもいいかもしれない!でも・・・それはどうなの?色々と。

 一番最初に解凍されたミツキが素早く動くと、楓の首へと首輪を付ける。そしてそのまま首から伸びている紐を・・・な、何で私に渡すのかしら?

 アリスはその光景を満足そうにうむうむと一人頷くと、続ける。


「ではでは、鳴いて貰いましょー!わんわん♪」

「・・・」


 少しの沈黙の後、楓の首がゆっくりと、少しずつ紐の先を辿っていく。やがてその視線は私で止まり、能面の様な笑顔をこちらに向けていらっしゃる。え・・・?私!?私が悪いの?


「・・・わん♪」


 こ、コレは・・・!

 思わず楓から視線を外すと天井を見上げて、溢れ出そうになる何かを堪える。お・・・落ち着け、落ち着くのよ私。冷静になれ。そうよ、いつもの楓に首輪が付いただけじゃない。うん、何も問題は無いわ。背徳的な感じが何ともたまらな・・・オーケー?オーケー。うん、オーケー。首輪一つでココまで変わるのね。それにまだ直接的な接触は無いじゃない。うん、大丈夫、大丈夫よ・・・今日は楓はつけてたっけ?うん、うん・・・?もしつけてないと胸の感触が直に・・・。


「ひゃぅ!」


 突然やわっこいものが体に抱き付いてきて思わず声が出た。見れば首輪を付け、けもみみを嬉しそうに揺らしている楓さんが私の腕に抱きついているではないか!そしてふにふにと腕に当たる何か。

 思わぬ緊急事態に私が抱きしめるか否かで片手を上げたり下げたりしている間に、楓は少しだけ背伸びをすると、ちゅっと唇に柔らかい感触を残して離れた。

 ふ・・・ふふふ。


「おー!」


 何処か遠くで誰かが歓声を上げている声が聞こえる。


「アラヤダもうコンナ時間じゃない。さ、遊びはココまでにして今日は、ね、寝ましょうか」

「わう♪」


 ぼーっとする頭で何とかそれだけを搾り出して部屋から出ようと歩き出すと、楓はくるくると私の周りを回って付いてくる。ふふ・・・いい子ね・・・。


「そ、ソレジャ私たちはもう寝・・・」


 笑顔でお別れを告げようと振り向くと、素早く駆け寄ってきたミツキの蹴りが私の脛を直撃する。


「べ・・・べんけぇ・・・」


 あまりの痛さに蹲ると口から変な電波が発信される。その間に楓は元居た場所にトテテテテーと戻ってしまった。思わず視線を上げると、とても素敵なミツキさんの冷たい視線を視界の端で捉えたので、大人しく地面と見つめ合って脛の痛みに耐える。さりげなくドレスを上げて脛を確認すると、悲しいことに青白く痣になってる。ヒビ・・・で済んでたらいいな。


「ではではー、第10回ー。王様だーれだー」


 未だ立ち上がれないままでいる私を無視して、能天気なアリスの声が部屋の中に響き渡る。幸か不幸か、痛みで本来の目的を思い出したので、気合で立ち上がると棒へと手を伸ばす。

 その気合が呼び寄せたのか、どうなのか、私の手元へと滑り込む赤い印。ついに・・・ついにこの時が来た!

 意味のわからない腹筋をさせられ・・・他人にケーキを食べさせてあげ・・・さらに脛の骨までやられる・・・そんな私にもついに光が!

 私は王様の印である赤い棒を掲げると、高らかに宣言してゲームセットとなった。


「全員メイド服ね!」



□ □ □ □



 かくして私の願いは叶えられた。けれども、誤算が一つだけ・・・。


「何で私のスカートこんなに短いのよ・・・かなり寒いんだけど・・・」

「しょーがないじゃないですか、エウナさんの大きさに合うメイド服が無かったんですから」

「ですよー、我侭はめー!」


 メイドさん二人に言われて思わず黙り込む。

 全員メイド服・・・悲しい事にこの言葉には当然ながら私も含まれていて、そしてさらに悲しい事に私に合うサイズの服が何故かミニスカートの物しかなく、せっかくだから写真撮影しましょうか!という楓の一言で雪の降る寒空の下にミニスカートという格好で震えることに・・・。

 まぁ・・・それはともかくとして・・・。

 目の前には楓とアリス。二人とも同じメイド服なのだけれど、楓はしっかりとした雰囲気だしアリスは何処かドジな感じがする。ああ・・・眼福。惜しむべきは、楓が赤いコートを着込んだままということかしらね。

 ちなみにミツキはゲームが終わるとすぐにクラゲに戻り、私の頭に居座って動かない。


「ではでは、撮りますから並んで下さいな」

「あなたは写らないの?」

「ボクは記憶に残るのはいいですが、記録に残るのは嫌なのです」

「・・・どういうこと?」

「まぁまぁー、雪も降ってますし、早く撮りましょー!」

「おー!」


 まぁ、楓の言ってることがよくわからないのは今に始まった事じゃないし、寒いのは同意なのでアリスの隣に並ぶ。


「さぶさぶ・・・」


 するとこの酔っ払いは何を考えたのか、突然私の腕に抱きついてきた。


「ちょ、ちょっとアリス!離れなさい!」

「ぬくぬくー♪」


 何故か顔に熱が集まっていくのを自覚しながら慌てて引き剥がそうとするも、酔っ払いは至福の表情で離れようとしない。


「・・・動かないで下さいね」


 冷たさを感じる声と一緒にパシャッとフラッシュが点滅すると、カメラから写真が吐き出される。か、カメラからの視線が怖い・・・何はともあれコレで家に戻れ・・・。


「ひっ・・・!」


 アリスをくっつけたままで、意気揚々と開け放されたドアから家へと戻ろうとすると、短刀が私の頭の横を掠めて壁に突き刺さった。


「・・・もう1枚撮りますからこっち向いてください」

「は、はい」


 と、とにかく今は逆らわないほうがいいわね・・・。

 元に戻ると楓のほうをゆっくりと振り向いて固まる。すると今度は無言でカメラのフラッシュが焚かれた。


「はい、こっちがエウナさんの分です」

「んー?」


 難は去ったのか、それとも何か考えているのか、ニコニコと笑顔で差し出された写真には、メイド服を着た赤い顔のアリスが同じくメイド服を着ている私に抱きついている姿が写っている。笑顔のアリスとは対照的に、私の顔が引き攣って見えるのは気のせいじゃないでしょう。


「あれ?もう一枚のは?」

「あっちは寒中見舞いで送ります」


 寒中見舞い・・・?誰か送る相手なんていたっけ?

 送る相手について想いを巡らせていると、楓がそれにしても・・・と続ける。


「お二人とも、仲がよろしいんですね」

「へ・・・?」


 楓はさっきまでの表情とは一転した無表情で言い放つ。その差に頭が追いつかないで固まっていると、今や来るもの拒まずとなった家へと入っていくメイドさん。


「ちょ、ちょっと待って楓!」


 如何にしてあの子の機嫌を回復させるべきか、知恵を総動員させながらも、慌てて楓の後を追った。



□ □ □ □



 今となっては誰も居ない、もう朽ちかけている屋敷のテラスに一人の少女が居た。少女は鮮血を思わせる真っ赤なコートと巫女服に身を包むと、無表情のままで一人空を見上げ歌を歌う。


「とーりゃんせー・・・とーりゃんせー・・・」


 やがて少女は空から視線を落とすと、一枚の写真を手元から取り出す。

 三日月の下、少女はじっと写真を見つめる。しばらくの間無言で見つめていた少女は、その写真を愛おしそうに一撫ですると、手元の赤い封筒へと入れる。

 そしてそのまま封筒を地面へと置くと、ペンダントを一振りして杖へと変えて、封筒をトンと突いた。

 封筒に浮かび上がるピンポン玉ほどの大きさの火。けれどもそのピンポン玉は大きくなり、封筒を飲み込んで灰だけを残す。

 すると、風も無いのに灰が舞い上がっていく。

 灰の行く末を見つめると、無表情のままだった少女はくすくすと笑った。


「行きはよいよい・・・帰りはこわい・・・」

私にしては珍しく月末での投稿!


うんまぁ・・・毎度毎度前書きにいちいちネタなんて思いつかないですよ

(<●>(<●>д<●>)<●>)ドードリオ!とか考えてましたが!


ポケモン楽しいですよねー

私はライトなので固体値とか気にせずに好きな子使って殿堂入りまでがんばってます

ギギギアルが好きでした

それでもダルマなら・・・ダルマなら何とかしてくれる・・・!


さてさて、次回予告でもしようかなーと思った次第ですが・・・予告って難しいね

およそ予定通りなら次回は告白回になります

例によって例の如く、告白回と言っても甘くなる予定ないから!

あくまで基本ほのぼの、たまに殺伐を目指してます


ちなみに二人とも正式な告白はしてないです

つまりまだカップルじゃないんだよ!


次の話は決まってますから中の人のMP次第でそれなりに早く書けるはず?

話に関するメモ書きが0なのが少し気になりますが・・・


ではでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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