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旅に危険は付きものです

おや?(<●>д<●>)の様子が・・・


((<●>д<●>))


(<●>д(<●>д<●>)д<●>)


((<●>д<●>))


(<●>д(<●>д<●>)д<●>)


((<●>д<●>))


(<●>д<●>)の進化は止まった


いつもよりめっさ長いです


人物表

メリーさん

幽霊 特に意味も無いですが幽霊です 立場的な力関係ではたぶん一番強い


(カナエ) (ユメ)

ちびっこメイドさん メイドさんらしいことしてたのももう昔の話・・・


ルカ

魔法使い 恋人は女の子 別に男性に興味がないとかじゃないよ! 浮気性でもないよ!


※本作品は全話読み終えた後に、嫌な味が残るといいなーという目標の元に作られています

 周りが明る過ぎるせいかさほど綺麗に見えない星空の下、買い物袋をぶら下げて歩く。もう日が落ちると肌寒くて、秋の終わりを告げられている気がする。コートを着てなかったら少し辛いかも。

 それでも月は綺麗ね・・・。

 満月から少しだけ欠けている月は何処か愛嬌を感じる。完璧じゃない辺りとか。

 そういえば、月が出ていると星空がよく見えないって聞いたことがあるのだけれど、本当かしらね?


「止まれ」


 空を見上げながら町外れの宿へ向かってふらふらと歩いていると、聞きなれた声がしたので立ち止まる。

 見ればそこには手に棒を持っている黒い制服を着た殿方二人。全く、今日も検問ご苦労様と言いたい。言わないけど。


「ここから先に何の用だ?」

「この先の宿に泊まっているものです」

「どうしてこの先の宿なんだ?」

「旅をしていまして、なるべく安いところを選んでます・・・通ってもよろしいでしょうか?」

「・・・荷物を確認してからだ」


 もはや定番となった受け答えをすると、簡易式のテントへと連れてかれる。ここに連れてかれるのは今日で何度目だっけな?


「済みません、何度も確認して・・・」


 一人が買い物袋をがさがさと開ける中、もう一人の男性が申し訳無さそうにお茶を出しながら言った。それにしても買い物袋しか確認しない辺り、かなり雑よね。


「お気になさらないでください。ですが・・・近頃は寒くなってきましたし、体調は崩さない様にしてくださいね?」

「い、いえ!自分は健康だけが取り得なので!」


 本心はともかくとして、私がそういって笑いかけると、彼は少し赤い顔をしながら胸を張った。そのまま二人で笑いあう。


「今日は買出しですか?」

「はい、少しずつでも準備はしないといけませんので・・・あ、申し訳ございませんが、ビニール紐は解かないでいただけますか?」

「・・・だそうだ。ビニール紐なんて旅に使うんですね?」

「あると便利ですので」


 もしもの時の止血とか・・・とは口には出さずに黙って微笑んでおく。触らぬ神に祟りなしね。近頃の神さんは触らなくてもあるらしいけど。

 視線の端では買い物袋から出された小瓶やビニール、水なんかがテーブルの上に置かれている。あの様子ならもうすぐ確認は終わるでしょう。


「異常なしです。ご協力ありがとうございます」

「いえいえ、お勤めがんばってくださいね」


 きっちりと戻された買い物袋を再びぶら下げると、彼にだけ見える様に小さく手を振ってからまた歩き出す。


「あ・・・少し待ってください!」

「・・・はい?」


 数歩歩いたところで呼び止められたので振り返る。この時間帯、あまり長居はしたくないのだけれど・・・。


「その・・・和食と洋食ではどちらが好みでしょうか?」

「和食と洋食・・・ですか?」


 鸚鵡返しに答えて時間を稼いでから、私の嗜好に何の意図があるのかと少しだけ考える。・・・素敵な差し入れでもしてくれるのかな?


「和食・・・ですね」

「そ、そうですか!その・・・美味しい和食の店があるんですが・・・もしよろしければ今度どうです・・・か?」


 差し入れじゃなくて食事の誘いだった。少しだけ気が抜けるけれども、微笑は作ったままで答える。というより最後に自信なさげになっちゃいかんでしょう。


「それは素敵ですね。では何時にしましょう?」


 その後、何処何処に待ち合わせという簡単なやり取りをしてから、再び宿に戻るべくテクテクと歩き始める。

 さてさて・・・、

 この事実をあの二人に言ったら何ていわれるかわかったものじゃないけれど・・・言わない訳にはいかないのが切ない・・・。

 それにしてもここに来てから1週間か・・・そろそろ急ぎたいなのだけれど・・・まぁ、なるようになるわね。



□ □ □ □



「どうやら魔術と科学で対立してるそうよ」

「それはまた在り来りな・・・どっちが優勢です?」

「言わずもがな、ね」

「・・・科学ですか」

「それにしても、大々的な魔女狩りって・・・何時の時代よ」

「ソレはソレはー、うかつに外を歩けないですねー」

「それでも行くの?」

「居るんでしょう?」


 静かな車内にちびっ子の寝息が聞こえてくる中、ギルドの情報屋から掻っ攫った資料をがさがさと漁って目的の項目を探す。


「入ったのは・・・一昨日?それから先は中で探すしか無いわね。てか堂々と正面突破したみたいよ」

「・・・」

「・・・本当ですか?」

「・・・ホントに」


 正規では無いとは言え、軍隊相手に、正面突破。


「まぁ・・・楓さんに色々教えた人らしいですからね」

「・・・ホントに?」

「・・・本当です」


 アレの先生か・・・。もしかして私たちはむちゃくちゃな奴を追ってるんじゃないかと、今更ながら心配になって来た。


「何にしても!少なくとも居る場所はわかったんです!後は出たとこ勝負ですね!」

「ま、まぁ、他に手は無いからね」


 乾いた笑いが響く中も車は進んでいく。



□ □ □ □



 和服を着るとどうも落ち着かない。コートまで剥がれたのだから余計に。気のせいか、軽く頭痛もする。


「ど、どうかした?」

「・・・いえ、少し夜風が冷たく感じまして」

「そっか・・・それじゃ少し急ごうか」


 心配そうに聞いて来た彼へと無難な微笑と答えを返すと、彼は少しだけ歩く速度を上げた。私を気遣っているらしく、ほんの少しだけの微妙な変化。

 それにしても、公私で口調が変わるのは気付いているのか、いないのか・・・まぁどちらでもいいか。

 食事の誘いをメリーさんに告げた時はさほどのリアクションも出なかった。意気揚々と面白がって付いてこようとするのだとばかり思っていたから拍子抜けしたくらい。・・・付いてこさせないけど。

 けれども問題はその後、出かける寸前に起きた。


『せっかくのでーと何ですからおめかししないとダメじゃないですか!』

『コートは置いていってください』

『あなたはでーとに武器を持って行くんですか?』

『ルカさんって和服が似合うと思うんですよねー』


 適当に身支度を済まそうとした私を、待ってましたとばかりにニコニコ顔で口出ししてくるメリーさん。なまじ言ってる事が正しいだけに逆らうことも出来ず、哀れにも私はメリーさんの着せ替え人形となった。一応、ハンドバックの中にお財布と水筒、そしてナイフを1本入れることだけは許してくれた。

 ・・・救いがあるとしたら、ちびっ子が寝てて気付かれなかったことね。

 それにしても待ち合わせ場所へと着いた時、彼が少しぼーっとしたのが少し・・・いやかなり気になる。・・・そんなに変な格好なのかねぇ?

 寒さのせいか、それとも他に理由でもあるのか、お互いに無言で夜の街をテクテクと歩いていると、やがて目的地らしいお店が見えた。

 むちゃくちゃ高級でも無いけれど、むちゃくちゃ安いわけでもないという適度なお値段のお店と見た。


「ここだね」


 ガラガラと扉を開けると、そのまま私を待ってくれる彼。意外と気が利くみたい?


「ありがとうございます」


 譲られたので先に中へと入ると、女中さんらしき人に礼をされたので微笑みを返しておく。とりあえず笑う、色々あって鍛えられた表情筋はこんなときにも役に立つ。

 既に話は通っているのか、彼が名前を言うと和室へと通された。

 中央にはテーブルがあって、座布団は向かい合うようにして2つ。窓からは庭の景色が見える。後は壷とか掛け軸とか云々。

 座布団に座るとすぐに女中さんが来て飲み物を聞きに来た。


「お酒は平気?」

「はい、種類はお任せします」

「そ、そう・・・じゃ、コレを2本・・・」

「お食事の際、何かダメなものなどはございますか?」

「その・・・蛸は少し・・・」

「かしこまりました」


 そう言って深くお辞儀をすると、静かに襖を閉めて行った。・・・メニューは完全にお任せなのかな?


「蛸、ダメなんだ?」

「蛸だけはダメでして・・・」

「へぇ・・・たこ焼きとかも?」

「はい・・・」


 皆あんな気持ち悪いの良く食べれるわよね・・・。内臓とかどうなってるのよ、アレ。

 その後、何が好きだとか何が美味しいとかの世間話をしていると女中さんが現れて冷酒を置いていったので、すすっとお酌をする。


「本日はお誘いいただきありがとうございます」

「そ、そんな・・・こちらこそ・・・それじゃ、乾杯」

「はい、乾杯」


 そういって二人で笑い合うとお猪口を空にする。

 さてさて・・・どうしようか。

 トクトクトク・・・っとお酌をしながら、この先どうするかを考える。まさか世間話だけで帰る訳にも行かないし・・・。


「そういえば、お仕事の方はよろしいのですか?」

「うん、今日は休みなんだ」

「そうなんですか、お休みは大切ですね」

「あんまし取れないのが悩みなんだけどね」


 彼はそういって笑うとぐいっとお酒を呑んだので、また注ぐ。あまり強くは無いほうなのか、顔が少し赤くなっている。


「・・・まだあの宿に泊まってるの?」

「はい、出来る限り出費は抑えたいものですから。何かよろしくない噂でもあるのですか?」

「うーん・・・」

「言い辛い事でしたら、無理に言わなくても結構ですよ」


 聞いてみると何か言い辛そうにしたので、微笑みながらお酌をして身を引くことにする。ちょうど小鉢に入れられた料理も来た頃合。


「いや・・・そういうわけじゃないんだけど・・・ここだけの話、あそこはあまり良くない人たちが集まってるらしいんだ」


 しばし沈黙のままで料理を口に運んでいると、何かを考えていたらしい彼が言い始めた。あ・・・これ意外と美味しい。


「良くない人たち・・・でしょうか?」

「そう、俺も深くは知らないんだけれど、何でもゲリラが隠れ家にしてるとか。ほら、あそこって郊外で安いし・・・」

「そうなんですか・・・ソレは怖いですね・・・」


 魔術師(ゲリラ)・・・か。モノは言い様ね。


「だからあそこに泊まるのはあんましお勧めしない」


 かなり酔いも廻ってきたのか、口調が砕けて舌の廻りが良くなってきた。


「ですが、そういう人たちを抑えるために寒い中、ああやってお仕事なさっているんでしょう?」

「うんまぁ・・・そうともいうね」

「では、いざというときは安心ですね」

「いや・・・まぁ・・・」


 照れた様にしてお酒を呑むのですぐに注ぐ。潰す気は無いけれど、なるべくなら酔いは醒ませたくない。


「そ、そういえば旅をしてるんだっけ?」

「はい、コレまでにも色々なものを見てきました」


 相手にばかり余りにも一方的に話させると違和感が起きるので、こちらのことも話す。嘘は5割ほどで。

 私の話に彼がふんふんと聞き入っている暫らくの間にも、少しだけ焦り始めている内心とは違って穏やかとも言える時間が流れる。


「それじゃこの街にも観光目的で?」

「はい、それもありますが・・・少し、人を探していまして」

「人を?」

「赤色のコートを着た女性なんですが、もしかしたらご存じないでしょうか?」

「赤色のコートを着てる女性ねー・・・ちょっと待って」


 やっと本題に入るも、彼はうーんと唸ったままで動かない。そして何かを思いついたかのようにして携帯を出すと、微かに震える手でボタンを押し始める。


「あの、気分がよろしくないなら無理はなさらなくても・・・」

「大丈夫・・・大丈夫・・・」


 一応形だけでも心配した様子をいていると、彼は笑って電話先と話し始めた。

 うん、うん、という返答をしながらこちらをちらりと見てくる辺り、どうやら状況は芳しく無い様子。

 やがて話も終わると、彼は申し訳無さそうな顔をして私を見た。


「仲間内でもわからないって」

「そうでしたか・・・」

「ごめん・・・」

「いえいえ、探して頂いてありがとうございます」


 軽くお辞儀をすると、お猪口を空ける。たまには呑まないと不自然になるし、呑まないと少しやってられない。


「あ・・・物知り爺さんなら知ってるかも」

「物知り・・・ですか?」


 彼からの酌を受け取りながら鸚鵡返しに聞くと、赤い顔をしたまま誇らしげにいった。


「この街一番の物知りでね。知らないことは無いんじゃないかって言われてるから物知り爺さん」

「まぁ・・・ソレは・・・」


 便利そうな人ね。


「立派な方なんですね」

「あの人なら何か知ってるかも・・・ちょっと待って、今何か書くもの探すから」

「ありがとうございます」


 彼がごそごそと懐や部屋の周りを探し始めたので、ふと窓のほうを見ると見覚えのある顔が見えた。雪の様な白い肌に緋色の瞳、そして銀色の髪をポニーテールにしている彼女は、雰囲気が何処かアリスに似ている。だけどソレよりも何よりも、ここにアリスは居ないし居るはずがない。そして、そいつはメリーさんにそっくりだった。

 メリーさんらしき誰かは私と目が合うと、ゆっくりと窓の下へとフェードアウト。窓からは揺れているポニーテールの先が見えるだけとなった。


「メリーさまメリーさま、ユメもユメもー」

「しーっ、ユメさん静かに・・・」


 少し耳を澄ませば、ちびっ子の声まで聞こえてきた。うん・・・幻聴が聞こえるだなんて・・・私ったら・・・酔ってるのね・・・。

 内から湧き上がるものを抑えるために、自然とお酒へと手が伸びる。


「書けた書けた・・・どうかした?」

「申し訳ございません・・・少し気分が悪くなりまして・・・」

「ああ、うん・・・無理はしないで?」

「はい・・・少し席を外しますね」


 部屋から出る時に彼へと軽くお辞儀をしてから襖を閉める。完全に閉まりきったことを確認すると、静かに素早くダッシュ!

 目指すはお手洗いだから別に嘘はついていない。到着と同時に水道の蛇口を全開にすれば下準備は完了。

 目的は・・・ネズミの駆除?それにしても、捻れば水が出るってのは本当に便利。昔の人に伝えたいくらい。


「まぁ・・・純度は良くないけれど・・・」


 流れていく水を眺めながら一人自重めいた哂いをこぼすと、指をぱちんと鳴らした。目立ちたくないので呪文は唱えない。

 すると、水は何かに導かれるかのように宙へと浮くと、トイレの窓から飛んで行く。

 その光景を確認してから蛇口を閉めると、部屋へと戻る。

 私が戻ると彼は何処かそわそわしながらお酒を飲んでいたが、私に気付くと少しだけ身を乗り出した。


「だ、大丈夫?」

「はい、ご心配頂きありがとうございます」


 ちらりと窓の外へと視線を送りながら座布団に座る。


「そうそう、物知り爺さん何だけどね・・・」

「はい」


 ふんふん、ふむふむと彼の書いた地図を一緒に覘きながら頷いていると、顔の真横から視線を感じたので彼を見る。すると、すごい勢いで赤い顔を地図の方へと向ける。


「どうかなさいましたか?」

「な、何でもない!ソレでね・・・」

「・・・そうですか」


 少し気になったけれど、何でもないと言うのだからそうなんでしょうね。再び、ふんふん、ふむふむと続きを聞く。


「お教え頂きありがとうございます」

「いやいや!こちらこそありがとう」

「・・・?」

「い、いや・・・何か良い情報が見つかると良いね」

「・・・そうですね」


 そういえば外のネズミはどうしたのかな?と思って耳を済ませると、小さく『こうなれば合体攻撃です!行きますよユメさん』とか『へ?う、うん・・・』とか聞こえてきた。

 ・・・楽しそうで何よりで。そのまま一緒に逝けばいいのに。


「あの・・・平気?」

「・・・大丈夫です。そういえば、ネズミはお好きですか?」

「ネズミ?」

「はい、ネズミです」


 くすりと笑うと、彼が外のネズミに気付かないようにと世間話を始める。

 無理をしすぎたらしく、そこで私の意識は一旦切れる。



□ □ □ □



 気が付くと、和服とメイド服の二人が夜の街を全力で駆けて行くのが見えた。・・・少しは隠れろ。

 その背中に向かって視線で物体は殺せるか?を実践していたけれど、彼がお店から出てきたので止める。

 そういえばここは何処だろうと振り向けば数時間前に見かけた料理屋。どうやら外に居るみたいね。

 なにやら、素敵な思い出を共有しましたので・・・とか頭が沸いてるのじゃないか?と思われる発言が私の口から漏れた様な気がするけど気のせいでしょう。気のせいよね?・・・なんだか頭が痛い。


「ごめん、待たせたね」

「いえ、夜風は好きですので」


 にっこりと微笑むと、夜の街を歩き始める。既に深夜とも言える時間帯の街はとても静か。

 自然と私の口数も少なくなり、それに合わせたのか彼も静かになった。

 静かな夜道ををのんびりと歩いていると、まるで何処か別の世界へと連れてこられたみたい。けれども、ここに紅白の魔法使いが出ることは無いでしょう。

 検問所のあった辺りを通るけれど、さすがに深夜は労働時間外なのか誰もいない。ザルな警備ともいえるけれど・・・ここは形式だけで本命は別のところに居るんでしょうね。

 やがて、会話も無いまま私たちが泊まっている宿へと着く。

 長方形の箱を縦に4つ重ねたような見た目で、クレーム色の壁が薄闇にぼんやりと見える。宿というよりはただの四角い箱、というのが着いたときの私の感想。

 けれども、正面くらいは外見も気にしているのかところどころ木が生えている。裏には駐車場があってそれ以外はほぼ林。本気で営業する気があったのか気になる立地ね。


「本日は送ってまで頂きありがとうございます」

「いやいや!何事も無くてよかった」

「では、道中お気をつけて。おやすみなさい」

「おやすみ」


 簡単に別れを告げ、お辞儀をしてから中へと入る。

 宿の中身も、1階こそ違えど2階以上は外見を見れば予想できる構造で、通路の両側には部屋が付いている。まぁ、1階も小さなロビーがあるだけで後は一緒なのだけれど。

 トイレもお風呂も部屋付き。食事は自前、サービス皆無という素敵なお値段の宿。きっとここで殺人事件がおきても気に掛ける人は居ないでしょうね。

 たぶん部屋の中も私たちと一緒で、玄関の正面には6畳ほどの広さで最低限の家具しかない和室、両脇にトイレと台所の構造。通路でT字が書けそう。

 そしてここの一番の問題点だけれど、なんと階段が端にある1つしかない。おかげで一番遠い部屋に泊まると、景色もさほど変わらない長い一本道をただひたすら歩かせられる。何を考えてこんな形にしたんだろ・・・というより、非常事態にどうやって逃げろと言うんだろ?

 そんなことを考えながらかつかつとコンクリむき出しの階段を都合4階分上る。私たちが泊まってるのは一番上の一番奥。つまり、一番逃げれない所。


「ただいま戻りました」


 扉を開けた私を最初に出迎えてくれたのは、驚いた顔のままでこちらを見て固まっているちびっ子の姿。


「・・・?」


 ああ、戻ってなかったか。


「ユメさんが驚くのも無理ないですよー。着替えさせた私も一瞬誰かわかんなくなりましたし」

「・・・それはどういう意味で言ってるわけ?」


 どうやら何時の間にやら私は変装の名人になったらしい。怪盗にでも転職しようか?

 部屋に入って寝巻きに着替えようとすると、どうやら電源が入った様子でユメが起動を始める。


「ちょっと!帯引っ張るのは止めなさい!」

「ルカって和服着ると別人みたいになるのですね!」

「よしちびっ子、今すぐさんを付けろ、さもなくばその頬を伸ばす」

「やー!・・・いひゃいいひゃい!」


 伸ばしたり噛まれたりする激戦を片手でしながら、メリーさんに彼から貰ったメモを渡す。


「コレ、収穫、情報、情報」

「わかりましたけど・・・なんで片言なんですか?」


 噛まれてる手が痛いんだよ!こんちきしょう!


「わかった・・・わかったからちびっ子、噛むのを止めなさい。どうどうどう・・・」

「むー!」


 さて、噛まれた結果唾液でべとべとになった哀れな手はどうしようか?と思うも良い手は浮かばない。しょうがないから、なるべく片手だけで着物を脱ぎ始める。


「・・・脱いじゃうのですか?」

「何よ、悪い?」

「せっかくお嬢様みたいなの・・・いひゃいいひゃい!」


 第2回戦が始まる。口は災いの元よ、ちびっ子。


「ど・・・どうどうどう」

「むー!」


 第2回戦は5秒で終戦。コレ以上続けると私の指の本数がキリの悪い数になって、脳内にエマージェンシーコールが鳴り響いてしまう。人質を取るなんて卑怯だと思わない?


「ル、ルカさん・・・!」

「何?どうかした?」

「このメモ・・・全く意味がわかんないです!」

「・・・言ってなかったっけ?」

「言ってませんでした」

「そう・・・」


 簡単にメリーさんにメモの説明をする。片手しか使えない都合上、手早く脱ぐことが出来ないから着物が肌蹴た姿のままで。肌蹴た姿のままで!

 ・・・私、何やってるんだろう?


「つまり、ここに行けば何かわかるとー?」

「わかるかも・・・ね」

「ひゃにひゃにー?」


 ちびっ子が喋るたびに私の指に生暖かくてぬめぬめしたものが当たる。そりゃ私の指に噛み付いたままで銜えっぱなしだものね・・・。私の指の何が美味しいのか。最悪、そのままぷっちんとするのだけは止めて欲しい。

 それにしても、半裸でちっちゃい子に指を舐められているこの現状。・・・ハハッ、あの子に見られたら殺されそう。

 メリーさんがちびっ子にもわかるように噛み砕いて説明すると、ふんふんふむふむと頷きながら聞き入っている。あれ?コレ指抜いてもいいんじゃないかな?


「・・・っ!」

「どうかしましたか?」

「い、いや何でもない」


 ゆっくりと抜こうとすると、思いっきり噛み付かれた。咄嗟に動きを止めると噛み付いたところを撫でるように小さい舌が這ってくる。何?何がしたいの!?何の意図があって私の指を銜えるわけ!?危なく指がぷっちんするところだったじゃない!


「・・・」

「ん・・・」


 軽く第一関節を曲げてみると、上目遣いにこっちの方を見ながらちろちろと舐めてくる。・・・何この状況。

 誰か助けて・・・本気で。


「メリーさん・・・ちびっ子に何か教えた?」

「ナ、ナンノコトデショウカー?」


 さっきからニヤニヤとしている奴に聞いて見ると、そいつはワザとらしくひゅーひゅーと吹けない口笛の真似をしながら窓の外の方を見た。

 ・・・なんだか突っ込んだら負けな気がしたので、ちびっ子と目を合わせる。


「むー?」

「いい、ユメ?ずっとこのままでも居られないし、もう離してくれない?」

「むー・・・」

「ね?良い子だから」


 頭を撫でながら誠心誠意を込めて言うと、渋々といった感じで私の手を開放する。本気で何を教えたんだこの人は・・・。

 何はともあれ、コレでやっと着替えれる・・・。よだれとか、もういいんじゃないかな?


「ところでちびっ子、メリーさん?聞きたい事があるんだけど」

「はい?何でしょうか?」

「庭で、一体何してたの?」

「・・・」

「・・・」


 二人とも沈黙したままで私と視線を逸らす。


「な、に、し、て、た、の?」

「ひゃ・・・」


 精一杯の笑顔を作って問いかけると、ちびっ子が小さく声を漏らした。


「そ、そんなところ行ってませんよ。ね、ねぇ?ユメさん?」

「う、うん・・・」


 へー、行ってないのかー。


「そう・・・ところで知ってる?カビって湿度の高いところで生えるんだって?」

「「・・・」」

「最近は空気が乾燥してきたけれど・・・この時期でも濡れたまま乾かない服とかあったらどうなると思う?」


 湿ったままの服・・・ちゃんと乾いたらいいよねー?と遠くを見ながら呟くと、二人の顔色が目に見えて悪くなった。


「・・・ごめんなさい謝りますからからカビだけは止めてください」

「何で謝るの?行ってないんでしょ?」

「い、いやー・・・ソレはそうなんですが・・・あははー・・・」


 乾いた笑いをこぼしているメリーさんを同じく乾いた視線で見つめる。

 見つめる。

 見つめる。

 見つめる。


「ごめんなさい見に行きました・・・で、ですが!それもコレもユメさんが見たいって言うからですね!」

「メ、メリーさま!?メリーさまだってもう一度見たいって・・・」

「ユ、ユメさん!ソレを言ったら・・・ひっ」

「へー?そうなの。人が何とか足がかりを掴もうと苦労してる間に・・・それはそれは楽しそうなことして・・・本当、私も混ぜて貰いたいくらい」

「・・・」

「いい?別に見に来たから怒ってるわけじゃないの」


 一つため息を付くと、しょぼんとした様子の二人を見ながら告げる。


「街に入ったときに決めたでしょ?二人とも目立つんだから不用意に動かないって」


 見つかって騒ぎになるとか・・・洒落にならないわよ。今までの努力が全て潰れるじゃない。


「ごめんなさい・・・」

「・・・まぁいっか。何事も無かったし」


 そう告げると布団の中に潜る。

 正直、今日は疲れた。


「あのー・・・ルカさん?」

「んー?」

「服は・・・どうしたら・・・?」

「外にでも干しとけば明日にでも乾くでしょ」


 カビらせるとか、本気でするわけないじゃない。そもそも出来ないし。

 そのとき二人がどんな顔をしていたのかは、溶ける様にして意識がなくなった私にはわからない。



□ □ □ □



 街灯も無い、月明かりだけが頼りとなる深夜の街を三人で並んで歩く。動く時は三人一緒にするのが無言で交わされた約束。

 そうすると、眠り姫を守る人が居ないのだけれど・・・まぁ平気でしょう。

 一昔前は魔術師を名乗っていた人たちが住んでいたと言う地域に今見えるのは、朽ち掛けた住居にコンクリの壁やら、雑草の伸びまくっている庭ばかり。・・・人の住んでいる気配は皆無と言っていいわね。

 私たちの泊まっているところを街外れと呼ぶなら、今歩いているところは・・・廃墟?

 物知り爺さんという名のセクハラ爺は、私が訪れるとすぐに魔法使いのことを連想したらしい。

 そんなコート着てる奴はこの街にはそう居ないとか何とか。二言目に、私は安産型のお尻だとかのたまったので、危なくその少ない寿命を縮めて新世界に蹴り落とすところだったけれど。

 どうやらお爺さんと魔法使いはそれなりに親しい仲の様で、泊まっていたらしい場所のこともあっさり教えてくれた。

 ただし、最後に来たのは3日程度前・・・今も居るかどうかは行って見ないとわからない。

 というより、情報駄々漏れなんだけれど・・・いいの?


「人気が全く無いのですね」

「深夜ですからねー。皆さんおねむ何でしょう」

「ふむふむ」

「ユメさんはまだ平気ですか?」

「だいじょぶー」


 二人の気が抜ける様な会話が夜闇に響く中、どうやら目的の場所に着いた・・・かな?

 いささか信じられないので、何度も地図とその家とを見比べる。


「ここ・・・ですか?」

「ここ・・・だと思う」

「ぼろぼろー」


 着いた家は辛うじて雨風が凌げるかな・・・?と言える元家らしき2階建てのコンクリの箱。壁にところどころ穴が開いてるし、風は凌げないか。2階に至っては屋根すらも無い。

 それにしても、何でこんなところを選んだんだろ。五十歩百歩とはいえ、もっとマシな家はそこら中にあるのに。まさか現地住民に気を使ってるって事は無いでしょう。

 メリーさんも同じ感想らしく、表情がよろしくない。ちびっ子はとろんとした目でその家を見つめ・・・も、もしかして眠いの?


「ま、まぁ何か理由があるかもしれないですし・・・入ってみますか」


 ランプを手に恐る恐る先導を切って中へと入ってくメリーさん。何があるかわからない、というのが一番怖い。

 ランプで照らされた1階の部屋には、腐った椅子やテーブルに壊れたテレビ、他と比べると綺麗なクローゼットに少しだけ違和感を感じるも、外見と対して変わりは無いわね。つまり生活感皆無。

 2階は・・・正直あまり行きたくない。何でこの家壁はコンクリートの癖に階段は木製なのよ!

 パッキンパッキンと腐りかけた椅子やテーブルをユメが壊して遊んでいる音を背景に、二人で顔を見合わせる。

 無言で交わされる議題はもちろん・・・どちらが先に2階へと上るか。

 メリーさんの目に断固として引かない意思が見えるし、当然ソレは私にもみえているでしょう。つまり議論は平行線。決着をつけるにはアレしかない。

 さっとお互いに飛びのいて距離を取ると、右拳を腰の後ろに隠す様に構える。メリーさんは左手で右手を包み込む構え。


「むー?」


 お互いに緊張が走る中、私たちの様子をちびっ子が不思議そうに見ている。

 後は何かきっかけさえあれば・・・戦いは始まる。


「・・・へっくち」


 ちびっ子がくしゃみをした瞬間、私たちは同時に動いた。溜めていた拳が突き出され、勝負は一瞬で終わる。


「そんな・・・」

「ふっ・・・強敵でした」


 ゆっくりと崩れ落ちる私と、勝ち誇った様子で不思議そうに私を見ているちびっ子の頭を撫でているメリーさん。今この瞬間、明暗が明確に分かれた。

 私が出した手はグー、対するメリーさんは・・・パー。

 つまり、私が上らないといけない。


「ではではがんばって下さいねー」

「コレ・・・ホントに平気だよね?」

「大丈夫ですって!ユメさんもそう思いますよねー?」

「ねー」


 適当なことを言いながら、笑顔で顔を見合わせる二人。畜生・・・登らない奴は気楽でいいな・・・。

 目の前にあるのはいかにもな外見の階段。雨風に晒された木は既に変色して独特な色合いになっていて、コイツはかなり拙いぜ!と私の第六感が告げている。というか、正常な感性の持ち主なら一目見ればわかる。

 でも悲しいけど・・・私たちの追っている奴は正常とは言い難いのよね。

 ここで何時までも怖気づいていても何が変わるわけでもないし、気合を入れて行くことにしよう・・・。

 一歩、月明かりに照らされている階段へと片足を乗せると、とても柔らかい感触。うわ・・・ギシッといった。

 二歩、もう片足を次の階段に乗せる。壊れる気配は無いし・・・意外と平気かも?

 三歩・・・四歩・・・となるべく衝撃を与えないように一歩ずつ登っていく。

 そして五歩目に嫌な予感がして後ろを振り向いた時・・・その瞬間が来た。

 私の命綱である木の板はもう限界とも言える様な切ない音を立て、後ろを振り返った私を地の底へと叩き落とす。

 せめて柔らかいところに落ちますように・・・。

 祈りも空しく、私の身体を衝撃が襲う。


「うわー・・・綺麗に落ちましたね・・・」

「ルカ!?」

「あ・・・ユメさんそっちはあぶな・・・」


 けれども、落ちた私を追撃する影があった。何を考えたのか、ちびっ子が階段をぶち抜き、哀れにも衝撃で動けない私に止めを刺そうと落ちてきた。

 私が何をしたというの・・・。

 ゆっくりと、時間が止まったかのように落ちてくる死神を見つめながら、心で涙を流す。

 そして言葉に出来ない痛みが腹部を襲って、私の意識は途切れた。



□ □ □ □



 あ、今アリスと通じ合えた気がする。


「ルカさーん?生きてますかー?」


 ふふ・・・全く甘えんぼさんなんだから・・・。


「ちょ、ちょっとルカさん!?」


 腕を伸ばしてアリスを抱きしめると、とてもやわっこい感触。ああ・・・至福の瞬間。

 けれども、その至福はすさまじい痛みを伴って消えていった。


「目は覚めましたか?」

「・・・はい」


 痛みで目を覚ますと、数センチ先にメリーさんのニコニコ顔。ヤバイ・・・すっげぇ怖い・・・。

 余りにも見てられないので視線を横にずらすも、あるのはただ闇だけ。

 み、味方は!?味方はいないの!?


「目を覚ましたなら、手を離していただけるとありがたいのですが?」

「ひっ・・・は、はい・・・」


 慌てて手を離すと、どうやら離れ際に鳩尾に一発入れた様で痛みに悶絶した。


「だいじょぶー?」

「だ、だいじょばない・・・」


 鬼が去ってから差し出させたちびっ子の手に捕まって立ち上がってみれば、さっきまで居た部屋じゃ無いみたい?・・・暗くてよく見えないけれど。


「ここは・・・?」

「地下室みたいですねー、どうもここで生活してたみたいです」


 何処からかメリーさんの声がすると、明かりが灯された。

 見えてきたのは割れた皿やまだ綺麗なベットに机。空になった缶詰とかガスボンベの缶等など・・・。

 生活感は溢れてないけれど・・・上よりはマシね。そういえば埃も無い。

 壁にはチョークで地図らしきものが殴り書きされていて、その地図の上のほうに銃痕がある。コレって、もしかするとアレよね?


「ルカさんルカさん、旅をしてたって言ってましたよね?その行き先ってどうやって決めてました?」


 その銃痕を見ながらメリーさんがポツリと聞いてくる。


「・・・分かれ道があれば棒倒し、水の流れに街はある、道の先には何かがある・・・ね」

「どういうことー?」

「つまり適当」


 何も無い天井を見ながらちびっ子に答える。

 つまりここに居た奴は壁に地図を描いて、適当にぶっ放した弾で行き先を決めたわけか。しかも・・・よりにもよって北の方に・・・。


「北・・・ですか」

「さむーいところなのです?」

「さむーいところなのです」


 まぁ何にしても、ココにはもう誰もいないし誰も来ないでしょう。行き先を決めた以上、其処に留まる事は無いのだし。

 用は済んだのでぞろぞろと家から出る。どうやらクローゼットの中に入り口があったみたい。

 大体1時間程度しか篭っていなかったはずなのだけれど、なんだか外の空気がとても新鮮に感じられる。足元が抜ける心配をしなくて良いって・・・すばらしい。

 他の二人も同じ気持ちなのか、思い思いに伸びをしたり空を見上げたりして地上へと出た喜びを表してる。私も釣られて空を見上げると、其処には降ってくるんじゃないかと心配になってくる星空。

 この星空を見るためにこんな廃墟に居たって可能性は・・・否定できないかな。


「ここでなにをしている!」


 そんな気の抜けたことをしていたら、突如罵声とライトを向けられる。・・・お家に帰るまでが遠足なのに、最後の最後で気を抜いた。

 見れば黒い軍服と小銃(アサルトライフル)を構えている男たちが都合四人ほど。残党狩り・・・でもなさそうだし、見回りの連中かな。


「私たち廃墟を巡る旅をしていまして、ここにもあると聞いたので見て回ってたんです」


 笑顔で息をするようにさらりと嘘をつくメリーさん。こういう手腕はさすが。

 相手さんもその笑顔に毒を抜かれたのか、若干緊張を緩め、その後になにやら嘗め回すような目つきで此方を見てくる。


「ボディチェックをする・・・両手を上げて後ろを向け」

「はいはいー」


 大人しく両手を上げて後ろを向けば、無遠慮に私の体をまさぐって来る誰かの手。


「やっ・・・」


 隣でちびっ子の小さい声がした。こいつら、子供でもお構いなしなのか?

 暫らく大人しくしていると調子に乗ったのか、手がコートの中にまで入ってきたけれど、目を閉じて無反応を貫く。まだ我慢できる範囲内だし、あまり事を荒らげたくない。

 そしてその手がコートから服の中へと入ろうかとした瞬間、ちびっ子の後ろに居た男が吹っ飛んだ。

 ・・・限界か。

 閉じていた目を開くと、後ろであっけに取られている男を裏拳で殴り飛ばしてからナイフを抜き、メリーさんの方に居た奴の首を切り裂く。血を吹きながら倒れるそいつの拳銃を抜いておくことも忘れない。

 私たちの動きを見張っていた奴が小銃を構えるけれども、地面から生えてきた触手がそいつを叩き潰した。後に残るは潰れたお肉と骨の塊。

け、結構えげつないのね。


「ご、ごめんな・・・」

「もう大丈夫です。よくがんばりましたね」


 メリーさんがちびっ子の体を抱きしめながら落ち着かせている中、倒れた衝撃と突然の仲間の死にまだ体が付いていけていない男へと歩き寄り、逃げないように踏みつける。ちびっ子に殴られた奴の止めは・・・一応しておこうかな。


「た、たす・・・」


 ちらりと動かない男のほうを見てからそいつの頭へと銃を向けると、何かを言う前に引き金を引いた。

 静かな廃墟に数発の銃声が響き渡る。


「コレからどうする?」

「ここには居られませんし・・・移動してもいいんですが・・・」


 中身の無くなった拳銃を捨ててからメリーさんに聞くと、少し歯切れの悪い返答を残して夜空を見上げる。

 そして、悲しいことに私には彼女の歯切れが悪い理由が何となくわかってしまった。


「彼のことなら気にしないで」

「ですが・・・別れとか色々必要じゃないですか?」

「いいよ。別れ話とか嫌いだし・・・それに」

『…ばい…ばい…ルカ…さん』


 頭にこびり付いたまま離れないあの子の声を思い出しながら、にっこりと微笑む。


「これ以上、ここに留まる必要は無いでしょ?」



□ □ □ □



 ちょこちょこと支度はしていたけれども、いざ出発となると色々買い足さないと行けないものがある。主に食べ物とか。

 そんなこんなで動けないまま、2日が過ぎた。

 目撃者は全員喋れない状態にしたのだけれど、念には念を入れるとか何とか、外出時には和服にならないといけなくなったのがとても辛い・・・。

 メリーさんは笑顔で新しい服を次々と出してくるし・・・。

 服も着替えていざ出発・・・というときにドアがノックされる。外からはルームサービスだか何だかと聞こえてくる。


「ちょっと今手が離せないので、ユメさん出てもらえますかー?」

「はいなー」


 台所に立っているメリーさんがそう言うと、私の着物姿をまじまじと観察していたちびっ子がとてとてとてーとドアへと駆けていく。

 はてさて?ここにルームサービスなんて気の効いたものあったっけ?

 悩んでいる間にもゆっくりとドアが開かれる。隙間から見えたのは・・・小銃。

 私がとっさにちびっ子の元へと駆け寄る間、不幸中の幸いとも言える事態が起きた。

 相手側もまさか子供が出ると思わなかったのか、引き金を引くのを一瞬だけためらった。


「ほぇ・・・?」

「っ!」


 その一瞬の間にちびっ子の体を抱えて横へと飛ぶと、見た目に反して小さい銃声と共に銃弾が撃たれて私の右腕を撃ち抜いていく。

 そのままトイレの扉へと激突していると、メリーさんがドアを蹴り閉めてお札の様な物を貼るのが見える。


「ちびっ子、怪我は無い?」

「ルカ・・・血が・・・」

「私は平気だから落ち着いて・・・ね?」


 少し錯乱気味のちびっ子を抱きしめて落ち着かせると、怪我の有無を確かめる。服が赤く染まっているのは・・・私の血かな?何にしても、怪我は無い様で何より。


「撃たれたんですか?止血しますから、見せてください」


 二度、三度とドアが叩かれる中、メリーさんが撃たれた部分を治療し始める。ドアの外からは開かないとか魔術師だとか騒いでいるのが聞こえてくる。


「結界はどれくらい持ちそう?」

「即席ですから・・・そうは持たないですね」

「正面突破はどう?」

「破られた瞬間に弾以外のものが飛んでくる可能性もありますから、あまり現実的じゃないです」

「・・・あの触手は?」

「あの子達は地面が近くないと呼べないですから・・・少なくともここに居る間は無理ですね」

「そう・・・」


 そんな中を眠り姫を連れて逃げ出さないといけないわけか・・・。良い状況とは言えない。

 治療も終わったようなので立ち上がってコートを着込むと、ビニール紐を箪笥の足に結びつける。途中でほどけられたら洒落にならないので、左手と歯を使ってしっかりと結ぶ。


「何するんですか?」

「ちょっくらドアの向こうの連中に挨拶してくる」

「ダメなのです!」


 悠々と準備をして窓へと向かおうとしたら、ちびっ子に裾を掴まれた。


「ルカは怪我してるのですよ!?そんな危ないこと・・・」

「怪我してるからよ」


 思わず哂いをこぼしてからちびっ子へと向き合うと、彼女は驚いたように目を見開いた。


「もしも耐え切れないで正面突破となったら、私が一番足手まといになるじゃない。だったら、捨て身の役は私がするのが最善でしょ?」

「で、でも・・・」

「いい、ユメ?」


 理屈でわかっていても、感情が納得しない様子のちびっ子と視線を合わせる。


「あなたは私が死ぬとでも思ってるの?」

「・・・思ってない」

「それじゃ、私が少しだけ留守にする間、皆を守れる?」

「・・・うん」

「いい子ね」


 こくん、と頷いたちびっ子を撫でながら立ち上がり、水の入った小瓶をポケットへと入れると、割れた窓ガラスの外へとビニール紐を落とす。 


「そんな訳で少し出るわ。出来る限り早く帰るつもり」

「お帰りの際はお風呂にしますか?ご飯にしますか?それとも・・・?」

「暖かく出迎えてくれると嬉しいかな?」


 そういって笑うと、紐を持って窓から飛び降りる。

 どうやら外にも居るらしく、飛び降りている私を狙って銃声が聞こえてくる。

 減速のためにと思って持っているビニール紐は、摩擦で擦り切れた血で滑って狙ったほどの効果は期待出来そうにない。

 何とか地面に着地してから、木陰へと転がり込むと銃弾が飛び交ってきた。ヒビでも入ったのか、足が熱と痛みを持った自己主張をしてくる。

 まぁ・・・意識さえあれば動くし問題は無いか。

 とにかくここで立ち止まっている訳にはいかないので、銃声が止んだ隙に割れている窓から中へと転がり込む。

 受身も取れずに畳へと落ちれば、口の中に広がるのは鉄の味。

 見れば止血した傷が開いた様で右腕からはじんわりと血が染みてきている。

 好都合なので体を起さずビンを開けると、染みている右腕へと水を流しかける。血を使うのはもっともわかりやすい禁忌の証・・・か。


『・・・遠き日の思い出をこの手に』


 静かに呪文を唱えてから指を鳴らすと、すぐに霧が立ち込めて来て、やがて数センチ先すらもよく見えなくなった。

 私はそれを確認すると、頭痛が酷くなっていく頭を抑えながらゆっくりと立ち上がって歩き始める。


「・・・あはっ♪」


 屋内だと言うのに、昼間だと言うのに・・・霧の中に月が見えて、思わず笑いがこぼれる。

 ・・・いけないいけない。誰も聞いてないとはいえ、淑女たるものそう易々と笑いをこぼしてちゃダメ。

 足を引きずりながら廊下へと出ればそこにも霧は立ち込めていて、足元には少しずつ量が多くなっていく水の流れ。時々何かが跳ねるような音が小さく聞こえてくる。

 転ばないようにゆっくりと、1段1段踏みしめるようにして階段を上っていくと、目的の階へと着いた。

 件の連中は突然現れた霧に警戒を強めている様子だけれど、その程度の警戒じゃ何の意味も無い。

 静かに一人の下まで駆けると、その首目掛けてナイフを振りぬく。返す手で他の奴の背中へと突き刺せばプリンを貫くような柔らかい手ごたえ。そのまま二人とも静かに崩れ落ちた。

 異変に気付いたらしい一人が小銃を構えようとするのを腕を切り落として止め、もう片方のナイフを頭へと振り下ろす。

 後は扉を見張っていた最後の一人の首を後ろから切り落とせば処理はおしまい。

 頭に刺したナイフを回収していると、待ってましたとばかりに水の流れが次々と死体を飲み込んでいく。

 くちゃくちゃきぱきぽきとと死体を咀嚼する音が鳴る中、不意に体を支えきれずに壁へと寄りかかる。走った反動で足と頭が痛い。


「大丈夫だから・・・食べるなら早くね」


 咀嚼を止めて心配そうに此方を向いた人魚へと告げると、月から逃げるように目を閉じる。何も見えない身体に、霧が纏わり付いて来るのが少しだけ心地よい。

 やがて全て終わったのか、目を開くと血溜まりだけが残っていた。

 さてさて・・・どうしようか?

 ぱちんと指を鳴らして霧を晴らすと少し考える。

 目の前には結界で封印されたドア、当然ながら普通に開けようとしても開かない。かといって大声を上げてメリーさんたちに呼びかけるのものも・・・何か嫌だ。そうとなれば・・・。

 うん、強引にこじ開けることにしよう、そうしよう。

 そう決めると目の前の扉を見つめ、隙間へとナイフを差し込む。

 そのまま隙間をなぞる様にして動かせばあら不思議。てこでも動かないと思われた扉が開き始め・・・。

 始めた瞬間、中に居たメイドの誰かさんがドロップキックを入れてくれた。

 当然、暖かい歓迎の言葉が来ると思っていた私は、ぼろきれの如く壁へと叩きつけられて意識を手放しかける。


「わ・・・わっ・・・!メリーさま!メリーさまー!」


 そのまま誰かさんに足を掴まれるとずるずると部屋の中へと引きずり込まれる。傍から見たら殺人を隠そうとしてる状況に見えるに違いない。未遂だけど。


「ありゃりゃー、コレは折れてますねー」

「ず、随分と暖かみのある出迎えね・・・」


 それはもう、暖かすぎて寒くなるくらい。


「ごめんなさい・・・」

「まぁまぁ、ユメさんも悪気があったわけじゃ無いんですからー。・・・それにしても、また随分と無理しましたねー」


 笑いながらも処置を進めていくメリーさん。早いか遅いかは・・・比較する対象を他に知らないからわからない。

 出来れば痛みも和らぐようにして欲しいのだけれど、笑ってスルーされた。


「一通りは終わりましたけど・・・あくまで応急処置なんですから、あんまし派手に暴れちゃダメですよ?」

「りょーかい」

「ではでは、私は荷物を持ってきますから少しお待ちを」

「ほら、いつまでしょげてるの」


 奥でごそごそとし始めるメリーさんを眺めてもしょうがないので、ちびっ子の頭を撫でると立ち上がって数歩歩く。多少はマシになったかな? 


「ルカ、ルカ?」

「んー?」

「・・・怒ってない?」

「・・・怒ってる」

「いひゃい!いひゃいです!」


 びよーんと伸ばしながらメリーさんが来るのを待つ。それにしてもまさか荷物って・・・眠り姫のことじゃないよね?

 そんなことは無かったようで、数秒もするとバックを背負い眠り姫を抱えた割烹着が現れた。改めて見るとすごい組み合わせね。


「ではでは、しゅっぱーつ」


 状況がわかってるのかわかってないのか、メリーさんはのんきな顔で出発の合図を出す

 先頭をちびっ子、中間をメリーさん、殿を足手まといと言う3人パーティで廊下をぞろぞろ歩く。穴は後ろだけれど、奇襲を掛けるには何処かに隠れているか、壁のぼりでもしないと無理ね。

 別室の扉が開いてたのでちらりと見れば、子供も大人も関係なしに死んでいるのが見える。どうも泊まってる人は無差別に襲ったみたい。銃声が小さかったのもそれが理由か・・・。


「無差別ですか・・・どっちが危険なんだか」


 ポツリとメリーさんが呟くのが聞こえる。

 その後は何事も無く1階まで降りられた。来るときも感じたけれど、ここに来ている人数はさほど多く無いみたい。なるべく穏便にしたいのかな。


「待ってください・・・」


 階段の一番下へと着いたとした瞬間、ちびっ子から制止が掛かる。


「居る?」

「二人、こっちに来てます」


 まぁアレだけ目立つことしたんだし、増援も来るか。けれど増援も少ないし、やっぱり大手を振って大々的に来てる訳じゃないみたいね。


「どうする?2階から飛び降りる?」

「そうですねー・・・」

「ユメに任せてください」


 二人して悩んでいると、ちびっ子がにこりと笑って居なくなった。それは文字通り、消えたと言っていいほど。

 慌てて通路から覗くと、一人はすでに倒れており、凍ったように固まっている最後の一人をちびっ子が砕いているのが見える。きらきらと、数秒前まで人だったはずの赤い破片が通路に広がる。


「「・・・」」

「終わりました」

「い、行く?」

「そ、そうですね・・・」


 褒めて褒めてーとばかしに近寄ってくる、ちびっ子の冷たい頭を撫でながらメリーさんに言って歩き始める。も、もしかすると、この子が一番危ないのかもしれない・・・。

 溶けて肉片となった欠片が散らばる通路から、誰かさんが動かぬ体となって転がっている部屋へと入れば、駐車場が開けた窓から見える。何を考えて窓の先を駐車場にしたのかという疑問はあるけどこういうときはありがたい。

 後は車へと乗り込んで逃げるだけ・・・なんだけど。


「居ると思う?」

「居ると思います」

「だよねー」

「むー?」


 絶好の開けた場所に見えるのは、逃げようとして失敗した様子の誰かさんの死体。部屋の中から撃たれたんじゃないのなら、どう見ても待ち伏せされてるよね、コレ。

 中にも死体、外にも死体。連中は素人を巻き込んでまで魔女狩りを進めたいのか。


「ということで、第一回作戦会議を開催しますー」

「わーわー、ぱちぱち」


 出来る限り窓から見えないようにして、メリーさんが作戦会議を始める。


「まずユメさんが車まで行ってドアを開ける・・・出来ますか?」

「出来るー」

「うむうむ。次に私とルカさんが車までダッシュ!完璧な作戦ですね!」


 作戦ですら無かった。

 ところで10秒で終わる会議は会議と呼べるんだろうか?

 まぁ・・・他に案も無いんだけど。


「ではではー、始め!」


 メリーさんが告げた瞬間、ちびっ子の姿が消えた。続くようにして窓から出れば、既にドアに手を掛けて開けようしているのが見える

 走る私たちを守るように触手が壁を作っていく中、やっぱり足の怪我が響いてるのか、メリーさんのほうが前を走っていく。

 私を守っていた触手が居なくなったので、触手連中は眠り姫を守ることに全力みたいね。

 それでも全力で駆けて、あと少しで車に着くと言った所まで何とか来きたところで、大きな銃声と共に私の体を衝撃が襲った。


「ルカ!」


 胸から赤い何かが吹き出て、崩れていく私の体をちびっ子が車の中へと放り込めば、そのまま扉を閉める事もせずに急発進を始めた。


「ユメさん止血を!」

「ルカ!意識を手放しちゃダメなのです!」


 二人の声が何処か遠くに聞こえてくる。

 途切れ途切れになる意識の中で。浮かんだのは、ちびっ子でもアリスでもメリーさんでもなく。何処か寂しげにくすりと笑うアイツの姿だった。

1ヶ月近く間が開きました

お久しぶりです

なるべく早く書くとか言って1週間も掛かるんだね、馬鹿だね


今回お友達が多忙に付き誤字チェックを自前でしたので少し甘いかも?


さてさて、世の中にはあとがきから読む人とあとがきを最後に読む人、あとがきは読まない人の3種類が居ると思います

つまり大事なことは前書きに書けということですね!

つまり考えたネタは前書きにぱなせということですね!

気分転換なのでつまらなくても気にしない


まぁ後は近況報告なので興味の無い人はスルーしてください

さてさて、季節の変わり目は調子を崩すといいますが・・・

中の人は首が回らなくなりました

一時右腕が上がらなくてこいつは拙いぜ!とかのんきに言ってたんですが、今回は首が回らなくなりました

もうね・・・90度も横向けないんだ・・・

身体を回さないと私の視界は前方180度のみで出来ています

回すとパキッとなりますし、こいつは拙いかもしれないぜ!


それが原因かどうか知らないですが、精神状態もあまりよろしくないです

どうでもいいことにイラッ☆とする日々

愚痴る訳にもいかないですし、あまりに酷いのでネット上でも変なことは言わないように気をつける日々


まぁ、何がいいたいかと言うと、次話は遅れると思います

方針は決まってるんですが・・・ネタが・・・出ないんです・・・

めっさ短いのは避けるようにしますので、ゆるりとお待ち頂けたら幸いです


ではでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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